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長引く経済不況で、米国の公教育は予算不足が続き、
そこでEli Broad, Casey Wasserman, Bill & Melinda Gates 財団など
民間からの資金に頼ることになっているらしい。

LA Times の調査によると、
LA地域の教育行政上級職20人の給与が税金からではなく
これら民間の慈善家によって支払われることになるのだとか。

その中の一人、
LA統合スクール・ディストリクトの教育長に就任したJohn Deasy氏は
なんとゲイツ財団の元幹部職員だとのこと。

もちろんDeasy氏本人は
資金提供者の意向に関わりなく
自分が意思決定を行うと言ってはいるけれど、
果たしてそういう具合に行くものか、
教育改革を慈善家のゼニにゆだねることにリスクはないのか、と
LA Timesの社説が問題提起している。

実際、教育に資金を提供する慈善家たちは小規模校がお好みで、
Bill Gates氏はかつて10億ドルを提供して
学校の500人規模への小規模校化を説いたことがあった。
そのため米国の都市部を中心に小規模校がトレンドとなり、
スクール・ディストリクトはこぞって小さな学校を作り、
学校の運営費用はかさんでいった。

しかしゲイツ財団がその後独自に調査を行ってみると
小規模化は生徒の成績向上に結び付いていないという結果が出てしまう。

するとゲイツ氏はとたんに小規模化プロジェクトに興味を失い、
それよりも教師の評価制度を変えようと言い始める。

その評価システムとは、
教室で授業を観察・評価するだけではなく、
生徒の成績をコンピューター管理して、それによって
教師ごとに担当生徒の成績がどれだけアップしたかを割り出して
それぞれの教師の評価に反映させるというもの。

しかし、そこには教師の評価そのものよりも
むしろ評価システムの導入に対して資金を出そうとの狙いもあるのでは?

慈善家たちは自分の出したカネが自分の思う目的に使われることを望むが、
教育官僚の仕事は彼らの意向に応えることではなく、納税者に応えることである。

教育改革のコントロールを
教育行政が安易に慈善家に渡してしまっていいのか……? と。

LAUSD: Public education and private money may prove a mixed bag
The LA Times, Editorial, May 1, 2011



この社説の疑念は、
当ブログが「ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫でかねて提起してきたものと
まったく同じ方向のものだけど、

ここでは教育のことだけが語られているために
問題の真の大きさが捉えられていないと思う。

ゲイツ財団のカネがコントロールを及ぼしているのは
米国の公教育だけではなく、

世界中の科学とテクノロジー研究、
グローバル・ヘルスの資金分配、農業政策、外交施策、そしてメディア……。

そういえば、米国の国際開発支援を担当するUSAIDのトップも元ゲイツ財団の職員。
(詳細は上記「農業政策」リンクのエントリーに)

カネを出すだけではなく、
その出したカネの使い道の意思決定を握る機関に財団の職員まで送りこむのは
財団の常とう手段なのかもしれない。

でも、それが多くの人が考えているほど単純な「慈善」ではないことは、

例えば
ワクチン大好きなゲイツ氏が実はビッグ・ファーマの株主さんだったり、

彼が最近しきりに途上国に導入させようとしている5価ワクチンの
製造販売元のメルク社のワクチン部門の責任者には
前CDCのセンター長が天下りしているという構図が、
まるでUSAIDのトップが元ゲイツ財団の職員だという事実の陰画のように思えるように

また例えば、
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪 などを考えてみれば、
なにがしかの疑問が頭に浮かんでこないだろうか。

例えば、
「慈善」と「慈善資本主義」とは、
もしかしたら似て非なるものではないのではないか……とか

もしかしたら、それは実は「慈善帝国主義」なのではないか……などの疑問が――。


【追記】
以下、同じテーマのNewsweekの記事。
非常に長い記事なので最初のページしか読んでいませんが、

Newsweekが、Center for Public Integrityと共に行った調査で
ここ数年の億万長者たちの教育への投資がさほどの効果を上げていないとの
結果を出している様子。

記事冒頭、この10年間の教育改革に資金を提供したCEOたちについて
「教育政策に特に何らバックグラウンドを持たないままやってきた富裕なCEOたち」と
書かれていることがだいたいの記事のトーンをうかがわせている。

Back to School for the Billionaires
Newsweek, May 1, 2011


Center for Public Integrity という機関があるんですね。
Public Integrity……公共の統合性。

科学とテクノの発達で世界経済と金融の構造が変わったことで
ごくわずかな人に富がドラスティックに集中し、それと同時に
各国は過酷な国際競争に投資を迫られて経済的に疲弊する中、
公共サービスを守るためには行政機関が富裕な個人や民間財団の資金に頼らざるを得ない状況が
あちらでもこちらでも――各国規模でもグローバルな規模でも――発現している。

それは国家という装置が機能不全を起こして公共としての統合性を失い、
世界のスーパーリッチの資金と思惑とに
否応なく依存・奉仕させられていく……ということでは?
2011.05.02 / Top↑
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