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無料飲料水ボトル: 1万ドル
無料給水ステーション: 1万2000~2万ドル
コーヒー・カップにかぶせる紙製取っ手(スリーブ): 1万~4万5000ドル。
ホテル客室のキーカード: 4万5000~7万ドル。
展示ホールのカーペット: 2000ドル
パンフ用ビニール袋: 1万5000ドル
シャトル・バス: 5万ドル
シャトル・バスの座席ヘッドレスト・カバー: 1万2500ドル



さて、このリスト、いったい何の価格表でしょう?

ちょっとだけ、ヒントです。

無料飲料水ボトル1万ドル也の宣伝文句は
「無料飲料水は毎日、展示ホールで休憩時間に配られます」

キーカード4万5000~7万ドル也の宣伝文句は
「あなたのマーケッティング成功のカギはこれ! 」
ルーム・キーは4日間7000人以上の参加者と行動を共にするのです」

バスのヘッド・レストのカバー1万2500ドル也の宣伝文句は
「閉鎖空間でくつろぐ出席者に製品広告のまたとないチャンス」

もう、お分かりですね。
はい。これらの品物に広告をのっける権利のお値段でした。

で、こうして広告の権利を”販売”したのは、なんと米国不整脈学会。
セールスのマーケティング対象はもちろん製薬会社と医療機器会社。

先週4日間に渡って開催された米国不整脈学会の年次大会の期間中、
会場となったサンフランシスコは空港から街角からホテル客室ベッドサイドまで
それらの広告で埋め尽くされたわけですが、

こんなマネまではやらなかった去年の学会でも
展示ブース使用権と共催イベント費用を含めて
米国不整脈学会には関連企業から500万ドル以上が入ったとか。

除細動機業界に君臨する Medtronic が今年、ブース使用に支払う金額は54万3000ドル。
その他、カンファレンス会場のあちこちの広告とグラントを出すのと合わせて
Medtronicは総額160万ドルを学会に支払った。それ以外にも
学会18人の理事の内8人に講演料や顧問料を支払っている。

同学会が去年、外部から集めた1600万ドルの約半分の出所は
製薬会社とカテーテルや除細動機など医療機器会社だった。

もっとも、不整脈学会はこうして歳入の内訳をウェブで公開しているだけ良心的で
そんなことは一切やっていない学会の方がはるかに多い。

それに、もっとえげつないことをやっている学会もある。

先月開催された米国心臓学会では、
参加者に配られたIDバッジにトレーサーが仕込まれていた。
どんな肩書のどういう医師がどのブースを覗き、どれだけの時間そこにいたかが
リアルタイムで各展示ブースに知らされていた、というわけ。

(まるで自分のところの会員を、学会が企業に売ったみたいだ……と
誰かが記事の中でコメントしていたと思ったんだけど、見つからないので
私が読みながら自分自身の声を幻の活字で見たのかもしれない。)

高血圧治療薬を4種類作っている第一三共は米国血圧学会と仲良しで、
09年には330万ドルを同学会に提供。これは同学会の企業からの寄付総額の7割を占める額だという。

2年前に、米国血圧学会は第一三共とタグを組んで、
製薬会社のセールス担当者を対象とした研修プログラムを作った。
参加費は一人1990ドルで、第一の社員1200人が受講、終了した。
プログラム修了者は名刺に学会公認終了証を入れることができる。

元の学会長の一人は
「いやらしいと思いますね。診療に影響しますよ。患者に向かって
『私は第一三共のセールス・マンですけど、アドバイスさせていただきますね。
大丈夫、米国高血圧学会のお墨付きですから』と言っているようなものでしょう」

この人は2006年に企業からの影響問題で対立して学会長を辞めたという。
現会長は、研修プログラムは科学的に作られているし特定の薬を取り上げるわけでもない、
それにセールスするには知識が必要だ、と言っている。

なお20009年度に第一が同学会に寄付した額は330万ドルで
同学会が企業から得た寄付総額の7割を占める。

もっとも、これは自発的に公開された情報ではなく、
Biedermanスキャンダルを暴いた、例のGrassley議員の調査で出てきたもの。

Grassley議員の調査から出てきたものについては
当ブログでもいくらか追いかけてきていますが、
議員の調査で医療界と企業との金銭関係が社会問題化するにつれ、
大学や研究機関では情報公開や規制強化の動きが進んできたものの
各種学会の対応は遅れている。

しかし、治療ガイドラインを作り、議会へのロビー活動や一般への啓発を担う学会が
関連企業の働きかけのターゲットになるのは当たり前で、

例えば不整脈学会のウェブでの情報公開では、
理事18人の内12人が関連企業から講演料または顧問料を受け取っており、一人は株を所有。

高血圧学会がGrassley議員の求めによって提出した情報では
同学会理事14人の内12人に企業との金銭関係がある。

そういう金銭関係はプロとしての医師の判断に影響しないと関係者は口をそろえるが
Grassley議員は「信じがたい。近親相姦的な関係が多々見られ、気に食わない」

心臓機器メーカー間の競争はとみに激化しているらしく、
製品の使用とマーケティングは本当に適正なのかという疑惑も出ている。

1月に米国医学会誌に発表された調査では
5人に1人以上の患者が科学的な基準にそぐわない心臓除細動装置をつけられていた。

不整脈学会に多くの資金を提供してきた3つの企業には、
自社製品の使用に対して不当なキックバックを医師に払っていた疑いが浮上したり、
患者にメディケアを請求させ会社から返金していた疑いでも法務省の調査が行われている。

Financial Ties Bind Medical Societies to Drug and Device Makers
ProPublica, May 5, 2011


ProPublicaはこの4日後に続編記事を書いています。
次のエントリーに。


【Grassley議員の調査など関連エントリー】
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
今度はラジオの人気ドクターにスキャンダル(2008/11/23)
FDAの科学者ら「認可審査あまりにも杜撰」と内部告発(2009/1/15)
製薬会社がゴーストライターに書かせた論文でエビデンス作り(2009/8/8)

【いわゆる“Biedermanスキャンダル”関連エントリー】
著名小児精神科医にスキャンダル(2008/6/8)
著名精神科医ら製薬会社からのコンサル料を過少報告(2008/10/6)
Biederman医師にさらなる製薬会社との癒着スキャンダル(2008/11/25)
Biederman医師、製薬業界資金の研究から身を引くことに(2009/1/1)
2011.05.11 / Top↑
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