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11日に米のNIUCで治療停止による死亡例が増加のエントリーで紹介した
米国小児科学会誌のJulie Weiner やJohn Lantosらの論文で
NICUで生命維持治療の停止や差し控えによる死亡例が増えている、
特に超未熟児で差し控えが増えている、という調査結果と、それを
治療の無益性に対する理解と穏やかな死を迎えさせてあげようとの姿勢の広がりだと
評価する結論について、

また、その論文をプロ・ライフの論者であるWesley Smithが持ち上げていることについても、

なんとなく、しっくりこないものを感じつつ、
とりあえず他のことに集中していた事情もあって突き詰めて考えずにいたのですが、

その「なんとなく、しっくりこない」感じを
明確な問題として指摘してくれる記事がありました。

こんなの連邦法違反である、放置されてはならない、と。

NEW STUDE REVEALS THAT TREATMENT BEING WITHHELD FROM PRETERM INFANTS IN VIOLATION OF FEDERAL LAW
National Right to Life News Today, July 13, 2011


まず、11日の記事では出てこなかったデータをこの記事から補足しておくと、

治療停止の件数だけでなく、
DNR指定にされる新生児の数も増加している。

10年間にNICUで死亡した乳児の内
45%に大きな先天性の損傷があった。
そのうち17%が超未熟児。
35%は先天性の損傷のない超未熟児だった。

死亡乳児の61.6%が治療中止の後に死亡したもので、
20.8%は治療差し控えの後に死亡。

後者は10年間に毎年1.03%ずつ増加しており、
超重症児では10年前の10%以下から30%以上にまで増加している。

この記事の著者 Jennifer Popik医師が「これは違反だ」としている法律は
1984年の児童虐待防止法のベビー・ドゥ修正条項。

82年にインディアナ州で生まれたダウン症の乳児に食道の欠損があり、
両親はダウン症を理由に、その手術を拒否した事件を機に、修正条項が設けられた。

(この記事には書かれていませんが、
当時のレーガン大統領の強権的運用姿勢に問題があったため、
この修正条項には反発も多いという話もどこかで読んだ記憶があります)

この条項は、3つの条件に当てはまる乳児以外には
栄養や治療の差し控えを認めていないし、
児のQOLは差し控えの理由として認めないと明記しており、

児童虐待防止プログラムへの連邦政府の助成金も
障害のある子どもが通常の医療を拒否される場合には児童虐待として
法的措置を取ることを州に保障させる目的のものだ、

したがって今回の論文で明らかになったのは
連邦法が無視されているというのに誰も処罰されていない事実であり、

論文は医学的無益性と安楽な死への認識が高まったと結論しているが、
これらは法に照らせば児童虐待であり、このまま許されてはならない、
……というのがPopik医師の記事の主旨。

          ――――――

Popik医師の記事を読んで、一つ疑問に思ったのは、
2009年に米国小児学会倫理委が「栄養と水分差し控え」ガイドラインを出して
一定の状態にある子どもについては、まさにそのQOLの低さを理由にして
また大人で認められていることを子どもに認めないのは「年齢差別」だという理由からも
栄養と水分の中止と差し控えを倫理的だとしていること。

なぜPopik医師は、このガイドラインに触れていないのだろう……?


それから、もう1つ、
1984年の児童虐待防止法の改正条項については
「栄養と水分の差し控え」ガイドラインでも触れられていることから
こちらのエントリーで当該規定についてまとめていますが、

Popik医師が書いていることと内容がちょっとズレているのが気になります。

で、手元にある上記ガイドラインを引っ張り出して確認してみました。
以下に当該個所を抜き出してみます。

The CAPTA stipulates that medical treatment need not be provided “other than appropriate nutrition, hydration, and medication” when, in the physicians’ reasonable judgment, any of 3 circumstances apply: (1) the infant is chronically and irreversibly comatose; (2) the provision of such treatment would merely prolong dying, not be effective in ameliorating or correcting all of the infant’s life-threatening conditions or would be “futile” in terms of the infant’s survival; or (3) the treatment would be “virtually futile” and “inhumane.”




Popik医師が
「3つの条件に当てはまれば栄養の差し控えも認められる」と理解しているのに対して、

ガイドラインの解釈によると
3つの条件に当てはまれば「適切な栄養と水分と薬以外には」治療を提供しなくてもよい、
つまり、どんな状態の子どもにも適切な栄養と水分と薬だけは提供せよ、と
規定されていることになるので、

いよいよ
3つの条件に当てはまらない乳児から栄養と水分が差し控えられるのは
CAPTA違反だということになるはずなのですが、

そして、超未熟児だというだけでは、
さらに超未熟児であり先天性の欠損があるというだけでは
必ずしも3つの条件に当てはまるとは言えない、とも思うのですが、

私が去年から非常に強く引っかかっているのは
Diekema医師が委員長として書いた、このガイドラインの
上記引用箇所に続く、以下の下り。

Although this language seems to advocate for the provision of appropriate fluids and nutrition in most cases, the AAP argues that medically provided nutrition and hydration are “appropriate” when they serve the interests of the child – in other words, when they are expected to offer a level of benefit to the child that exceeds the potential burden to the child. That purpose of this paper is to define the appropriate use of medically provided fluids and nutrition, and in that sense, the CAPTA seems consistent with the guidelines provided in this report.

この(CAPTAの)文言からすれば、ほとんどのケースで適切な水分と栄養の提供が求められているように思われるが、AAPとしては、栄養と水分の医学的提供が「適切」なのはそれらが子どもの利益にかなう場合だと考える。つまり、栄養と水分が子どもに負担となる可能性よりも高いレベルの利益が予測される場合に、栄養と水分の提供は「適切」なのである。この論文の目的は、医学的な栄養と水分の適切な提供方法を定義することであり、その意味ではCAPTAはこの論文が提示するガイドラインと一致している。




つまり、
「適切な栄養と水分と薬だけは差し控えてはならない」とCAPTAは規定しているが
自分たちは、その「適切」を定義したのである、と。

そして、そこでは
一定の重症障害のある子どもの場合には「適切ではない」と判断されるので
「適切ではない栄養と水分」だから「差し控えてもCAPTA違反ではない」と
Diekemaは言っているわけですね。

いかにもDiekemaならではの詭弁であり、

また、生命倫理学者に求められている能力や役割がどういうものであるかが
いかにも鮮やかに感じられる一節でもありそうです。

WeinerやLantosらが
この小児科学会のガイドラインの立場をとって結論しているのかどうか……。
それがとても気になってきました。



ガイドラインについては ↓

米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」2009年論文 1/5:概要
米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」2009年論文 2/5:前置き部分
米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」2009年論文 3/5:差し控えが適当である例
米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」2009年論文 4/5:倫理的な検討
米小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」2009年論文 5/5:法律的な検討
2011.07.14 / Top↑
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