家族介護者の介護に関する画期的な判決。
シドニー在住のRose Thieringさん(58)は
07年にバイクの事故で四肢まひになった息子(33)の介護のために
高給の仕事をやめた。
NSW州には交通事故で障害を負った人には
強制的自動車保険(CTP)の保険会社による賠償金や
Lifetime Care and Supportという支援制度があるものの
プロの介護者の介護に対しては支給されることはあっても
家族介護に対しては給付の対象とならないため、
母親が息子の介護に費やした時間と労力に対して
夫妻が補償を求めて訴訟を起こしていた。
11日、NSW最高裁は
母親が介護した時間と労力に対する補償は請求可能だと判断を下した。
夫妻の弁護士が今後、
賠償保険の保険会社かLifetime Careのいずれかに請求することとなる。
この判決により、
Lifetime Careが家族や友人知人による介護を無休のままアテにしてきたことで
自動車強制保険の保険会社が負担を免れていたことが明らかになったが、
同時に、自動車保険の保険金の値上がりも避けられないだろう、と。
Historic court win for carer
The Telegraph, Novebmer 12, 2011
法律や制度の背景が分からないとなんとも言えないところはあるのだけど、
NSW政府のLifetime Care and Supportについては、
どういう委員会なのか、さかのぼって調べていないものの、
今年2月にNSWでの脳損傷者への支援を調査されたグループの報告文書にヒットしたので、
(お世話になっている名川先生のお顔もある!と思ったら名川先生の文章だった)
その文書から該当部分を以下に。
http://jaga.gr.jp/pdf/2010houkoku03.pdf から
プレゼンテーションにおけるポイントの1つにあがったのは、交通事故による外傷性脳損傷者に対する制度の充実と、それと比較して非外傷性などの脳損傷者に対する支援の不十分さである。すなわち、交通事故による外傷性脳損傷者は、賠償保険により経済的な補償を受け、私費によりサービスを購入確保するとともに、Lifetime Care and Support Scheme(LTCS) という包括的支援制度を利用できる(後述)。しかし、そうでない人は結果として低所得者となってしまうとともに、このスキームを利用できないため、全般的な制度利用にとどまる。両者には実に大きな開きがあるように感じられたが、しかし日本の現状は、この非外傷性などの脳損傷者に対する支援レベルと類似しているのではないかとの指摘があった。
⑴ 賠償保険による補償を受け、経済的に余裕がある場合民間の支援サービスを個人で購入し利用する。住居なども個別に確保する。またLifetime Care and Support Scheme(LTCS)によるサービスを利用する。具体的な生活の例としては、Cerebral Palsy Allianceでヒアリングを行った当事者の状況がわかりやすい。
⑵ 賠償保険による補償を受けられないため、Lifetime Care and Support Scheme(LTCS)を利用できず、低所得である場合オーストラリア連邦政府や州の提供する住居を利用する。あるいは、補助を利用してアパートを借りる。公的グループホームは待機者が大変多い。どうしてもみつからなければ高齢者施設を利用せざるを得ない。
これらに家族が関与するかどうかは、経済状態や障害の状態など諸条件によるため一概にはいえないが、経済的な余裕がある場合、主たる介護者はサービス提供者となり、家族は家族としての一般的なかかわりの中で本人と付き合うようになると思われる。ただし、認知障害や強度行動障害などのマネジメントが不十分で、家族が混乱・疲弊する場合は、生活を共にすることが難しくなるようである。
また、ヒアリングによれば、利用できるサービスがない場合は、家族が主たる介護者とならざるを得ないが、これには、低所得者層とした家庭がもっぱら該当するようである。現在はこのような家族の高齢化が進み、今後の支援体制が課題となっているとの説明もあった。BIA NSW のケースマネジメントスタッフなどが主としてかかわるのは、このようなニーズのある人たちであると、質疑応答で説明がされていた。
5 Lifetime Care and Support Scheme(LTCS)
2006年交通事故法(Motor Accidents(Lifetime Care and Support)Act2006)を根拠として創設された支援スキーム(枠組み)である。交通事故により、一定以上の傷害(脊髄損傷、脳機能障害、上下肢欠損、熱傷、永続的視覚障害など)を被った場合、以下のようなサービスを受ける。リハビリテーションは期限を定めて行われるが、その後の福祉的サービスは、ニーズに応じて継続される。
① 医療(歯科・薬剤を含む)
② リハビリテーション
③ 救急移送
④ レスパイトケア
⑤ アテンダントケア(個々のニーズに合わせた介助者)
⑥ 家事支援
⑦ 義肢、補装具、補助具等
⑧ 教育・職業上の訓練
⑨ 住居・施設等の改修
この調査チームの報告書によると、
交通事故で障害を負った人への支援の仕組みと
その他の原因で、例えば脳卒中の後遺症で障害のある人への支援の仕組みとは
根拠法も枠組みも別もので、前者の方が手厚いようなのですが、
この説明の中でも一概には言えないとしながらも
「主たる介護者はサービス提供者となる」という下りがあるのが興味深い。
交通事故による障害への支援の枠組み限定であるにせよ、今回、
家族介護者の介護についてもプロの介護者のように金銭補償が法的に認められたというのは
やっぱり画期的なこと。
これって、本当は、突き詰めていけば、
「おひとりさま」仕様の介護保険制度が理想形で完成された場合には
家族介護に対しても専門職と同じ介護報酬が認められて然り……ということでは???
いや、まぁ、だから、あくまでも
「理想形で」「完成」されたとしたら、の例え話として、
ちらっと頭に浮かんだだけなんだけど……。