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先週、以下のエントリーで紹介したケベックの法案について、

ケベックの法案は「医療的自殺幇助」という名の安楽死合法化法案(2013/6/14)

私がこのエントリーで指摘した通りの言葉のマジックを指摘する記事が
19日のGlove and Mailに出ていますが、

そちらの記事に法案の詳細があり、
それによると想像以上にラディカルな内容になっているようです。


まず冒頭の一文は、実に爽快。

なるほど。飼っているのはアヒルなのに、自分のペットはイヌだと称するわけですね。アパートでアヒルを買うのは法律で禁じられているから。法律を破ったら捕まりますからね。


大まかに言えば、この記事はこの法案について、

安楽死をmedical aid in dying (MAD)と称することによって、
安楽死でも自殺幇助でもなく「医療の一端である」と言い抜けることを狙っている、

というのも、安楽死や自殺幇助は連邦刑法に関わる事項だけれど、
医療については州政府の決定事項であり、州の医療法改正の問題に過ぎないから。

実際に、ケベック州の医療法では医療行為の定義が拡大されて
医師が「終末期を尊重する同法の下で、
終末期の患者がmedical aid in dyingを受けられるよう薬物などを投与すること」が
含まれているとのこと。

しかし、この法案ではMADをきっちり定義しておらず、
せいぜい以下のように書いて施設の医師、視界、薬剤師の委員会にゆだねられている。

……in accordance with the clinical standards established by the professional orders concerned, to adopt clinical protocols applicable to terminal palliative sedation and medical aid in dying.


これを正しく日本語にできる自信は私にないのだけれど、
最後のところで terminal palliative sedation と MAD と2つが並べてあるのには
重要な意味があって、

この法案 Bill 52は
終末期の患者に「素早い安楽死」と「ゆっくりの安楽死」を選択させるんだそうな。

もちろん、MADが素早い方。鎮静(sedation)がゆっくりの方。

しかし、この記事の著者は指摘する。
terminal palliative sedationという紛らわしい表現は一体なんだ、と。

【法案の問題その①】

terminal sedation とは、
死を引き起こす目的を持った鎮静であり、つまり実質は安楽死。

palliative sedation とは、
苦痛緩和の目的で行われる鎮静。

安楽死推進派は両者を区別することはできないと主張するが、
著者はきっぱりと言い切る。

「もしも患者の症状が鎮静を行わずにコントロール可能であったり、
患者が死に瀕していないのに栄養と水分が差し控えられていれば特に、
そういう場合の鎮静は明らかに安楽死である」

オランダでは terminal sedation は安楽死と定義されていないために
致死薬の注射のように報告する義務が課せられておらず、
こちらの安楽死が増えている、といわれるが、
ケベックの法案が通れば同じことが起こることになる。

これと同じことがベルギーの調査報告でも指摘されていたと思う ↓
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)


【問題その②】

法案は administer medical aid という表現を用いており、
「医師は自分でこのようなaid in dyingを行い、
死亡するまで患者をケアしなければならない」とは書かれているが
MADにいわゆる医師による自殺幇助PASが含まれるのかどうかが
法案の文言では明らかでない。

ケベック議会の法務委員会は自殺幇助を否定したといい、
それは自殺という枠組みにすると「医療行為」としにくいことに加えて、
自殺企図のある人への医療職の適切な対応は命を救う方向であるという一般の考え方や
カナダの最高裁が自殺幇助の犯罪性は憲法に則しているとの判決(Rodorigeuez)などが
影響しているのでは、というのが著者の読み。


【法案の問題③】

MADが認められる「終末期」の患者の要件として、

…… suffer from an incurable serious illness; suffer from an advanced state of irreversible decline in capability; and suffer from constant and unbearable physical of psychological pain which cannot be relieved in a manner the person deems tolerable.

不治の重病があること; 不可逆的に能力が低下する状態が進行していること; 本人が許容できる方法では軽減することのできない継続的で耐え難い身体的または心理的な苦痛があること

つまり終末期の人でなくてもよく、
身体的な病気がなく精神障害であってもよく、
多くの障害者、高齢者、病者、弱者は当てはまることになる。

しかもMADは
「入所施設、介護施設」でも個人宅でも行ってよいこととされている。

Quebec is trying to legalize euthanasia by calling it something else. It’s still wrong
The Globe and Mail, June 19, 2013


Terminal sedation と palliative sedation の区別については
ハリケーン・カトリーナの安楽死事件を思い出す。

苦痛を感じてもいなければ意識を失っていたわけでもなく、
まして死を自己決定したわけでもない人達に
非難させられないからという理由で「死ぬまで鎮静剤を」投与するよう
看護師に支持した医師は、事件後にフィンズ記者の取材で、
緩和の鎮静にだって死を早める効果があり、鎮静を安楽死というなら
医師は日常的にそういうことをやっているのだ、と釈明した。

ハリケーン・カトリーナ:メモリアル病院での“安楽死”事件 1/5: 概要(2010/10/25)
ハリケーン・カトリーナ:メモリアル病院での“安楽死”事件 2/5: Day 1 とDay 2(2010/10/25)
ハリケーン・カトリーナ:メモリアル病院での“安楽死”事件 3/5 : Day 3(2010/10/25)
ハリケーン・カトリーナ:メモリアル病院での“安楽死”事件 4/5 : Day 4(2010/10/25)
ハリケーン・カトリーナ:メモリアル病院での“安楽死”事件 5/5 : その後・考察(2010/10/25)


なお、この前、某MLで教えていただいた
日本緩和医療学会の「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」はこちら ↓
http://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/2010/index.php

その他、関連エントリーは ↓
在宅医療における終末期の胃ろうとセデーション(2010/10/6)


また、鎮静を含めた、英国のLCPの機会的適用問題については ↓
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的適用問題 続報(2012/7/12)
LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)
2013.06.24 / Top↑
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