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以下の論文を読んだ。

待ったなしのワクチン政策
世界に恥じない「総合的な戦略」が求められる 
川渕孝一、ポール・タルコット
社会保険旬報NO.2413~2414(2010年2月1日号・11日号)

去年の夏に読んだ朝日新聞のワクチン記事と、ほぼ同じ路線。
あの記事では「米国では」を“印籠”に「日本は遅れているのだから、
もっと子どもにワクチンを打って、早く追いつかなければ」という論旨だった。

こちらの論文は、論旨の展開の都合に応じて、
あるところでは公費投入・法整備による国家施策態勢のフランス、ドイツを例にとり、
あるところでは州ごとの対応になっている米国のデータを引いてきているので、
著者らが「このままでは世界に恥じるぞ」と脅したり
日本では「“世界の常識”が通用しない」と嘆く時の「世界」とは
各国の「ワクチン先進国」部分を寄せ集めた集合体としての「欧米」のようです。

で、それに引き換え、未だに地方自治体に丸投げして任意接種のままにしている日本は
「世界」に比べてはるかに接種率が低くて、そのワクチン政策の遅れは20年にも及ぶ。

この「ワクチン・ギャップ」は早急に埋める必要があるというのが著者らの主張。
「世界」水準に追いつき、子どもの命を守り、医療費を削減するために提案されているのは、

児童手当の一部を割いて(新制度だと「子ども手当て」のこと?)ワクチン用基金を立ち上げ、
(子どもの命を守るのだから国民も同意するだろう……て、します?)
財源を安定的に確保することを含め、副作用の救済制度の整備も含めた法的整備を進め、
さらに保険対象にしたり、税金の控除対象にするなど、考えうるインセンティブをすべて動員して
「国民が必要な時に必要なワクチンを安心して接種できる体制に」しなけりゃならん、と。

去年の朝日の記事から引きずっている、ものすごく素朴な疑問が
またぞろ頭に浮かんできた。例えば、

①「ワクチン・ギャップ」があるから早急に埋めなければ、というけれど、
その「ワクチン・ギャップ」、国民の「健康ギャップ」になってない……のでは?

こちらのデータによると、日本の乳幼児の死亡率は世界でも最低クラスとのこと。
そして日本は確か、長寿の国でもありますよね。

一方、これまで当ブログが拾った情報によると、
「CDCが推奨するワクチンは14種類」「米国政府が推奨するのは17種類」で
川渕氏らによると「予防接種で予防できる疾患は全て接種率を高めて駆逐する」ことを
政策目標としているワクチン先進国・米国は

こちらのNYTのコラム二ストの情報によると、
今年1月にthe New England Journal of Medicineに発表されたランキングで、
米国が一位になったのは医療費の大きさのみ。
乳幼児の死亡率では世界で39位だし、
成人女性の死亡率では43位。
成人男性の死亡率でも42位。

これらのデータ、逆にワクチンの有効性が疑われる、もしくは、
ワクチン接種に代わる保健施策が日本では有効に機能しているというエビデンスでは?

それなのに「ワクチン・ギャップ」をそんなに急いで埋めなければならない根拠って?

②罹患率が欧米では低く抑えられている水痘症、おたふく風邪に
日本人は毎年100万人もかかっていると著者らは嘆いているのだけど、
それらが現在の医療水準で重症化を十分に避けられる病気なのだとすれば、
公費を投入し、政治的に法的整備をし、義務付けをしてまで、
感染患者を是が非でも減らさなければならないほどの事態なのか?

むしろ、現在の医療水準と社会状況からすれば、
同じ公的資金が割けるのだとすれば、無保険問題をはじめとして
子どもの貧困への対応や産科、周産期、小児科医療の充実に投入する方が
「子どもの命を守る」実効がはるかに大きいのでは?

③一番不可解なのは、去年、日本でも新たに認可されたHPVワクチンに関する記述。

著者ら自身、HPVについては
「感染しても必ずがんが発症するわけではない。
80%の女性が感染経験を持つとされるが、
大半は無症状のまま自然消滅する」と書いている。

それなのに、別のところには
「12歳の女児全員に接種した場合、その発症数及び死亡数を約73%減少させるという」とある。

また、このワクチンに関して「感染の蔓延を防ぐ」という表現も。

でも、HPVって、早急にワクチンで手を打たなければ
「感染」が際限なく「蔓延」して、死者がどんどん増える……という話です?

ちなみに、HPVは性行為による感染だということは、この論文には書かれていません。

効果が約20年とされていて、12歳で打っても、効果が切れた後に
性的にアクティブな時期が続くことから効果を疑問視する声があることも書かれていません。

もちろん、英米で副作用死が報告されていることも書かれていません。
(これらの詳細は文末のリンクに)

そもそもHPVへの感染は、発がん率を高くする前段階の条件の1つにすぎなくて、
しかも感染しても、そのほとんどは自然消滅するのだとしたら、
「感染の蔓延」がそのまま「子宮がんの蔓延」と重なるような
イメージ操作が行われること自体が、一種のマヤカシなのでは?

また、この論文によると子宮頚がんによる死者は年間3500人。
ここには書かれていませんが、癌治療の日進月歩を考えれば、
この数は将来的には、さらに減っていくのではないでしょうか。

年間3500人が死亡する(さらに減ると見込まれる)病気を、女児全員に副作用のリスクを冒して
(この人の主張によると「効果と安全性」などの「各論は後回し」にしてでも早急に、
子ども手当ての一部を割いてわざわざファンドを作ってまで)ワクチン接種で予防することの
意義が、なぜ、それほど大きいのか。

それらの疑問を念頭に、もう一度、読み直してみたところ、
どうも、このあたりがヒントかも……と思う一文を見つけた。

上記で引用した「国民が必要な時に必要なワクチンを安心して接種できる体制になるはずだ」に続けて、
以下のように書かれているのです。

そうなれば、今後の日本を支える数少ない成長分野として
ワクチン産業が位置づけられるようになると考えるがいかがだろう。

これ、結論部分。

そういえば、
「今後5年以内に新しいワクチンが次々と開発され使用可能になっても」
このままでは日本で接種が伸びないというくだりがあって、そこは
当ブログで拾った「5年以内に新しいワクチンが次々出てくる」という情報と符合するのですが、
当ブログで拾った情報がどういう文脈のものかというと、


5年以内にワクチンが売り出される可能性があるとして並んでいる病気の顔触れも
なかなか興味深いので、ぜひ、覗いてみてください。

要するに「これからは、ワクチンが儲かりまっせぇ」という話。
ついでながら、同時期に、こんなニュースもありました。


こういうのが「世界」のトレンドであり「世界の常識」なのだとしたら、
この論文が言っている「待ったなし」とは保健施策としてのワクチン政策が「待ったなし」なのではなく
あくまでもビジネス戦略・経済施策としてのワクチン政策が「待ったなし」……という話?

だって「今後の日本を支える数少ない成長分野としてワクチン産業」を位置づけられるってな、
結局、そういうことでしょう?

グローバル化したネオリベ世界で日本が生き残るために、
今後5年以内にかけて到来する“ワクチン黄金時代”に乗り遅れないように、
そのためには日本でもワクチン産業を活性化しなければ、
そして、それを下支えするマーケットを形成しなければ……?

だから、日本の子どもたちに、
ワクチンをもっと打ってもらわなければ……なんですか?

2010.03.05 / Top↑
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