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7月5日のエントリー
DNRN報告書:概要で触れただけで終わった
ウィスコンシン州の事例2つを、同報告書P.17から
概要を取りまとめて、以下に。


① グループホームで暮らす13歳の子どもが
風邪の治療を中止されて死んだケース。

その男児には発達障害と身体障害があったが、
ターミナルな状態でも植物状態でもなかった。

風邪をひいたのでGHの職員らが病院に連れて行き、
医師から抗生剤を処方された。

しかし、それを知った両親は
次に風邪をひいたら治療せずに肺炎にして、肺炎の治療はせずに死なせると
子どもの主治医との間で取り決めていると主張。

GH側はそれに従うことを拒否し、抗生剤を飲ませ続けた。

すると両親は子どもをGHから地元の大学病院へ移し
抗生剤だけでなく栄養と水分まで引き上げた。

少年は数日後に死亡。


② 同じ大学病院で
72歳の発達障害のある患者の生命維持治療を拒否するよう
医師が不当に家族に働きかけたことが疑われているケース。

家族からの報告では、
患者は助かってもQOLが非常に低くなるため
生命維持治療はこれ以上用いるべきではないと医師は説明した、とのこと。

その説明を聞いた当初、家族は医師に同意するが、
翌朝になって目を覚ました患者が食べたいと言ったので、
家族の気持ちが変わる。

そこで治療と栄養を再開してくれるよう求めたところ、
当初は医師が抵抗を示したが、後に最終的に意向に沿って治療を再開してくれた。

その後、患者は回復期を送れるようナーシングホームに送られた。



【注】
この報告書での「発達障害」は
日本で自閉症などを意味して使われている発達障害とは異なり、
広義の「発達障害」として使われているように思います。

というか、Ashley事件の議論では
アシュリーの障害像も何度も「発達障害」と形容されていたので
米国の用法としては広義の「発達障害」が一般的なのかもしれません。



【その他の、NDRN報告書関連エントリー】
障害者人権擁護ネットから報告書「“A療法”・強制不妊・生命維持停止は人権侵害(2012/6/20)
障害者の人権を侵害する医療への痛烈な批判: NDRNの報告書「まえがき」(2012/6/22)
障害者への医療の切り捨て実態 7例(米)(2012/6/26)
2012.07.12 / Top↑
障害児・者への“アシュリー療法”、強制不妊、治療の一方的停止と差し控えを中心に
医療における障害者の人権侵害を批判して

米国の障害者人権擁護ネットワークNDRNが5月に出した報告書については、
これまで以下の3つのエントリーを書いてきました。

障害者人権擁護ネットから報告書「“A療法”・強制不妊・生命維持停止は人権侵害(2012/6/20)
障害者の人権を侵害する医療への痛烈な批判: NDRNの報告書「まえがき」(2012/6/22)
障害者への医療の切り捨て実態 7例(米)(2012/6/26)

その後、この報告書に言及し、KittayやAschらの批判へも反論しながら
Ashley療法を擁護する論考も出てきました ⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65280886.html

そこで、改めてNDRNの報告書の内容を
少しずつ取りまとめていこうと思います。

          ―――――――

まず全体の内容構成をspitzibaraの独断で整理すると

① 米国における障害者の人権概念と法整備の歴史
② アシュリー事件のケース・スタディ
(A事件を中心に、強制不妊の歴史と生命維持の差し控えの現状も一緒に検討される)
③ アシュリー事件を巡ってNDRNが立ちあげた当事者委員会の内容
(いわば、子ども病院が立ちあげた成長抑制WGのカウンターパートとして?)
④ 医療決定は最善の利益論ではなく法的デュープロセスを保障すべき、との主張の展開。
⑤ 提言


ここでは、①について簡単に。

米国の障害者の人権擁護がたどってきた歴史が振り返られますが、
その冒頭で触れられているのは医学モデルの差別性。

その象徴として挙げられているのは施設収容と強制不妊施策。

特筆しておきたいデータとして、施設で暮らす障害者は
1990年の171900人から、2009年には92300人へと現象。

医学モデルから社会モデルへの米国政府の最初の包括的な転換点として
1990年の米国障害者法ADAと、その2008年の改正法。

また2008年の国連障害者人権条約(CRPS)。

これらにより、障害の種類や重症度を問わず、
社会が障害者をaccommodateすることが求められているにもかかわらず、
医療現場では障害を理由に人権侵害が行われている、として、

Wisconsinの大学病院(Norman FostはWI大学病院所属……)での
障害を理由にした“無益な治療”判断の事例が2つ紹介されています。(p.17)
その内容はまたいずれ。

このパートの最後の辺りで印象的だったのは以下の下り。

The purpose of this report is to add a critical, but missing, piece of the discussion regarding medical decision making and individuals with disabilities.……(中略)……The presence of a disability has been used to deny access to due process protections in regards to medical decision making in general and in situations where there is a potential or actual conflict of interest between individuals with disabilities and their parents or caregivers.

本報告書の目的は、医学的意思決定と障害者を巡って、決定的に重要でありながら欠落している議論を補うことにある。……(中略)…… 医学的意思決定一般において、障害者と親や介護者との間に利益の相克やその可能性がある状況においてすら、障害があるということが、デュー・プロセスによる保護から外す正当化に使われてきた。


まさしく、アシュリー事件の大きな問題点の1つ――。
2012.07.05 / Top↑
“アシュリー療法”を巡るシアトルこども病院とWPASの合意の期限にあたる5月に
WPAS(現DRW)が加盟する全国的障害者人権擁護ネットワーク 
National Disability Rights Networkが出した報告書について
6月20日の以下のエントリーで取り上げました。

障害者人権擁護ネットから報告書「“A療法”・強制不妊・生命維持停止は人権侵害(2012/6/20)


現在、半分くらいまで読んだところなのですが、

まず冒頭の「まえがき」にあたるNDRNのトップの書簡に
強く胸を揺さぶられたので、

以下に全文を仮訳してみました。


今この時にも米国のどこかで親や代理人が医師と椅子を並べて、ターミナルでもない人の生命維持治療の差し控えや、子どもの生殖器や乳房芽の切除や、ホルモン療法による成長抑制について相談している。後者は、この療法を受けた最初の子どもとされる女児の名前にちなんでアシュリー療法と一般に呼ばれているが、我々の社会が障害のある人々を価値なきものとみなし、その人権を侵害してきた数々の出来事のつらなりの先に、最も新しく追加された、最も恥ずべき事例である。

こうした相談が行われるのは、そこで問題にされている人がほとんど価値のない存在だとみなされているからに他ならない。彼らはただ障害を持って生まれたというだけの理由で、十全な人間ではないものとみなされ、自由やプライバシーの権利も、望まない侵害を受けない権利(right to be left alone)からも無縁とされてしまうのだ。

医師と親とが一緒になって、意識状態やQOLについての想定だけを根拠に、子どもから臓器を摘出し成長を抑制することを決めてしまうなど、考えただけでもショッキングで醜悪である。障害者がどれほど「お荷物」として想定されているか、驚くほどくっきりと描き出している事例がオレゴンにある。出生前診断が見逃したためにダウン症候群の子どもが生まれたと訴える両親に、陪審員が300万ドルの支払いを認めたのだ。その子どもの出生は「ロングフル・バース」と称された。こんなことが米国で起こり、今も起こっているという現実は、米国人として我々が持っているはずのコアな価値観に照らせば、汚辱である。それが自分で声を上げることのできない人たちの身に起こっているのだから、なおのこと汚辱である。こうした野蛮な実態に光を当て、それを支持しつつ21世紀を進もうとする医療界を批判すべく、NDRNは当報告書“Devaluing People with Disabilities: Medical Procedures that Violate Civil Rights. 障害のある人への軽視:市民権を侵害する医療”を刊行した。

これまで30年以上に渡って障害者の人権を専門とする弁護士として、またそのアドボケイトとして活動してくる中で、私はもう障害者に対するありとあらゆる形態の差別と有害行為を見てきたと思うことも多いが、残念なことに、その私ですら驚き衝撃をうけるほどの行いを人間はさらにやってのける。

多くの人がアシュリー療法は医療ではなく優生思想だと考える一方で、医療界では医師も医療倫理学者も病院側も、そして時には障害のある子どもの親までもが、この子たちは知的障害が重く理解する能力がないから、何の害もなされていないと主張する。そうして市民権を侵害する医療決定を正当化してしまうのである。

人は誰も、市民権と人権と生まれながらにしての尊厳と共にこの世に生を受ける。障害があっても、その事実は変わらない。それなのに、障害のある人は日々、完全な一人の人間であると認めてもらうための闘いを強いられている。

なるほど我々は米国障害者法(ADA)など、多くのすばらしい進展を遂げてきた。しかし、アシュリー療法などが容認されてしまう時、いや、提唱されてしまうだけでも、それは障害のある人々には何の価値も権利も尊厳もない世界に向かって傾斜する、すべり坂である。

Curt Decker
Executive Director
National Disability Rights Network
(ゴチックはspitzibara)


言及されているオレゴンのケースは、今年3月の出来事。
関連情報は、ざっと以下に ↓

http://www.droregon.org/the-dro-blog/oregons-wrongful-birth-case
http://www.oregonlive.com/portland/index.ssf/2012/03/jury_rules_in_portland-area_co.html
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2113342/Deborah-Ariel-Levy-Portland-couple-wins-case-Legacy-Heath-wrongful-birth-daughter-born-Down-syndrome.html



【ロングフル・バース訴訟関連】
「出生前診断やらないとロングフル・バース訴訟で負けますよ」と加医師会(2008/11/8)
ロングフル・バース訴訟がテーマ、Picoultの近刊を読む(2009/8/10)
Picoult作品のモデル、NH州のロングフル・バース訴訟(2009/8/11)
2012.06.26 / Top↑
障害児・者への“アシュリー療法”、強制不妊、生命維持停止について
市民権、人権侵害である、と批判する大部の報告書が、
National Disability Rights Network から5月に出ていました。

タイトルは 
Devaluing People with Disabilities
Medical Procedures that Violate Civil Rights

著者は
David Carlson
Cindy Smith
Nachama Wilker

資金はNIDRR(the National Institute on Disability and Rehabilitation Research)

報告書本体はこちら ↓
http://www.ndrn.org/images/Documents/Resources/Publications/Reports/Devaluing_People_with_Disabilities.pdf


Ashley療法だけでなく“無益な治療”論の観点からも
これは非常に重要な文書。

読んで、おいおいにエントリーにしていこうと思いますが、
とりあえず書いておきたいことは2点で、

① 今年5月は、07年のWPASとこども病院の合意の最初の期限であり、
その期限切れの時期にタイミングを合わせて、この報告書が出されている、ということ。

この点について、私がずっと懸念してきたことは以下に ↓

シアトルこども病院は、5年の合意期限が切れるのを待っている?(2010/11/8)

実際に、以下のような動きが起きている ↓
論争から5年、アシュリー父ついに動く(2010/3/16)
豪でアシュリー事件の賛否を問うアンケートが仕掛けられている?(2012/5/15)


② 大いに引っかかるのが、
この報告書のファースト・オーサーのDavid Carlson。

この人は07年に
このネットワークの一つであるWPAS(現DRW)が調査報告書を書いた時にも
ファースト・オーサーだった人。

07年5月のワシントン大のシンポにも登場したけれど、

その後、シアトルこども病院が、
明らかに初めに結論ありきとしか思えない成長抑制ワーキング・グループを立ち上げた時に、
そのメンバーに入った。

9年1月に同病院がこのWGの結論を正当化するためのシンポを開いた段階でも
Carlsonはまだメンバーに残っていた。

ところが、WGの結論(一定の条件付きで成長抑制を妥当とする)がついに
へースティング・センター・レポートに掲載された際には
メンバーの一覧の中にCarlsonの名前はなく、
20人いると論文中で書かれているメンバーが実際には19人しかいなかった。

その欠員1名について論文は報告していないし、
Carlson自身もメンバーから抜けたことについて説明していない。
(少なくとも私はそんな説明には行き当たっていない)。


WPASの調査報告書が
当初の目的を途中であきらめてしまっていることを含め
David Carlsonという人の行動そのものが、当ブログでは
Ashley事件をめぐるミステリーの一つです。

その詳細は以下のエントリーに ↓
なぜWPASのCarlson弁護士はWGメンバーから消えたのか?(2010/12/6)
2012.06.26 / Top↑
去年の秋に上梓した拙著
「アシュリー事件:メディカル・コントロールと新・優生思想の時代」(生活書院)について

刊行後に気付いた訂正や追加説明は、トップページの書庫
「拙著『アシュリー事件』について」書庫を新設し、注のテキストデータをアップしました に
取りまとめておりますが、

さらにまた一つ大きなミスに気付きましたので
追加訂正させていただきます。


P.154 の小見出し「エイミー・タンらの論文」は「ナオミ・タンらの論文」の誤りです。


お詫びし、訂正いたします。
2012.06.19 / Top↑