化粧品、シャンプーや石鹸などの、身の廻りのケア製品には
安全性がまったく確認されていない化学物質が大量に使われている、という衝撃の記事。
あ、一応、米国の話です(が……)。
The Environmental Working Groupがネット上で
79000品目以上の製品のデータベースを公開しているが、
そこで使われているのは10500種もの化学物質で、
そのうち企業側が安全性のアセスメントをしたと認めているのは5分の1以下。
発がん性で悪名高いフォルムアルデヒドも、
ダイオキシンも鉛も、ごく身近な製品に含まれているし、
内分泌かく乱物質であるフタルエステルは
CDC(疾病予防管理センター)の調査ではほぼ全員から検出された。
人の体に触れて吸収されていくという点では
これらの製品は食べ物と同じでありながら、
こうしたケア製品が市場に出回る前にはFDAの規制は行われない。
規制しないが、FDAのサイトには
「化粧品会社には自社製品の安全性を実証する責任があります」と書かれている。
消費者が身を守る手段の1つは訴訟だが、
こうした危険な化学物質がすぐに人体に反応を起こすとは限らず、
因果関係が指摘されたり、立証されるには長い時間がかかってしまう。
あとは十分な検査を求めることしかないが、
残虐な動物実験はなくしていこうとの機運は高まっており、
ヨーロッパ・ユニオンは来月から動物で実験した成分の化粧品利用は一切禁じる。
これはこれで逆に動物実験を義務付けている中国でのビジネスとのジレンマもあるが、
シャンプーの安全性確認のために
わざわざ動物に実験を、とまで多くの人は望まないだろう。
動物実験は、それが人間の命を救うことにつながり、
他にそれに代わる手段がどうしてもない場合にのみ、
やむを得ず用いられてしかり、というのが多くの人の気持ちのはずだ。
それなら、人間の体に触れるものについては、
安全と確かめられたものだけを使う、という方針はどうなのだろう。
安全性が不透明な成分を使うことは製造側には利益になっても、
消費者の利益にはならない。
危険性が判明した物質だけでなく、
危険性がまだはっきり分からない物質についても、
FDAが規制できるように制度改正を求めるべきである。
そうでなければ、我々自身が実験動物にされているに等しいが、
でも、我々だって保護を必要とする動物なのだ。
The Cosmetics Wars
NYT, February 5, 2013/02/07
因果関係が分かるまでには時間がかかり、訴訟を起こせる時にはもう遅い、という下りで
カッコ内に以下のように書かれている。
Something is causing increased rates of allergies, autism, attention-deficit hyperactivity disorder, certain cancers and other ailments, and it may take some time before we figure out the causes.
アレルギーや自閉症、ADHD、ある種のガンやその他の病気の増加の原因となっているとしても、それらの原因が判明するには時間がかかる可能性がある。
これ、このブログを始めて間もないころからずっと言ってきた
「ない」研究は「ない」ことが見えなくされている科学のカラクリ……ということなんでは?
それに、
こんなふうに複合的にケミカル&(今後は)バイオ汚染が進んでいくと考えたら、
この先は何が原因で何が起こっているか因果関係も、調べようがなくなっていくんでは……?
それとも
「調べようがない」から「因果関係はない」から「安全だと前提」になっていく……んだろうか?
【関連エントリー】
大統領がんパネルが「化学物質はやっぱりヤバい」(米)(2010/5/10)
安全性がまったく確認されていない化学物質が大量に使われている、という衝撃の記事。
あ、一応、米国の話です(が……)。
The Environmental Working Groupがネット上で
79000品目以上の製品のデータベースを公開しているが、
そこで使われているのは10500種もの化学物質で、
そのうち企業側が安全性のアセスメントをしたと認めているのは5分の1以下。
発がん性で悪名高いフォルムアルデヒドも、
ダイオキシンも鉛も、ごく身近な製品に含まれているし、
内分泌かく乱物質であるフタルエステルは
CDC(疾病予防管理センター)の調査ではほぼ全員から検出された。
人の体に触れて吸収されていくという点では
これらの製品は食べ物と同じでありながら、
こうしたケア製品が市場に出回る前にはFDAの規制は行われない。
規制しないが、FDAのサイトには
「化粧品会社には自社製品の安全性を実証する責任があります」と書かれている。
消費者が身を守る手段の1つは訴訟だが、
こうした危険な化学物質がすぐに人体に反応を起こすとは限らず、
因果関係が指摘されたり、立証されるには長い時間がかかってしまう。
あとは十分な検査を求めることしかないが、
残虐な動物実験はなくしていこうとの機運は高まっており、
ヨーロッパ・ユニオンは来月から動物で実験した成分の化粧品利用は一切禁じる。
これはこれで逆に動物実験を義務付けている中国でのビジネスとのジレンマもあるが、
シャンプーの安全性確認のために
わざわざ動物に実験を、とまで多くの人は望まないだろう。
動物実験は、それが人間の命を救うことにつながり、
他にそれに代わる手段がどうしてもない場合にのみ、
やむを得ず用いられてしかり、というのが多くの人の気持ちのはずだ。
それなら、人間の体に触れるものについては、
安全と確かめられたものだけを使う、という方針はどうなのだろう。
安全性が不透明な成分を使うことは製造側には利益になっても、
消費者の利益にはならない。
危険性が判明した物質だけでなく、
危険性がまだはっきり分からない物質についても、
FDAが規制できるように制度改正を求めるべきである。
そうでなければ、我々自身が実験動物にされているに等しいが、
でも、我々だって保護を必要とする動物なのだ。
The Cosmetics Wars
NYT, February 5, 2013/02/07
因果関係が分かるまでには時間がかかり、訴訟を起こせる時にはもう遅い、という下りで
カッコ内に以下のように書かれている。
Something is causing increased rates of allergies, autism, attention-deficit hyperactivity disorder, certain cancers and other ailments, and it may take some time before we figure out the causes.
アレルギーや自閉症、ADHD、ある種のガンやその他の病気の増加の原因となっているとしても、それらの原因が判明するには時間がかかる可能性がある。
これ、このブログを始めて間もないころからずっと言ってきた
「ない」研究は「ない」ことが見えなくされている科学のカラクリ……ということなんでは?
それに、
こんなふうに複合的にケミカル&(今後は)バイオ汚染が進んでいくと考えたら、
この先は何が原因で何が起こっているか因果関係も、調べようがなくなっていくんでは……?
それとも
「調べようがない」から「因果関係はない」から「安全だと前提」になっていく……んだろうか?
【関連エントリー】
大統領がんパネルが「化学物質はやっぱりヤバい」(米)(2010/5/10)
2013.02.12 / Top↑
NICE(国立医療技術評価機構)が現在作成中の改定ガイドラインにより、
英国NHSにおける乳がん戦略は予防重視にシフトし、
家族歴や遺伝子情報から乳がん発症リスクが高・中等度とされる女性に対して
NHSで予防薬の投与が行われるよう提言されることに。
現在、イングランドとウェールズの30歳以上の女性のうち
家族の既往歴と、人によっては遺伝子変異情報から、
2%が乳がん発症に中等度のリスク、
1%が高リスクとされる。
新ガイドラインで予防薬投与の対象となるのは50万人で、
薬は既に治療薬として使われている tamoxifen と、
骨粗鬆症の治療薬として使われている raloxifeneの2剤。
更年期の前か後かによって、種類、期間とも使い分ける。
2剤とも、米国では
すでに乳がん予防薬としてFDAが認可している、とのこと。
また記事によると、
NICEの新ガイドラインはハイリスクの女性には
予防的両側乳房切除術も選択肢として認める可能性がある、とも。
500,000 women to be offered breast cancer drugs
The Guardian, January 15, 2013
【がん予防医療の関連エントリー】
今度は乳がん予防のワクチンだと(2008/9/15)
“乳がん遺伝子ゼロ”保証つき赤ちゃん英国で生まれる(2009/1/10)
「現代医学は健康な高齢者を患者にしている」(2009/3/8)
「40過ぎたらガン予防で毎日アスピリンを飲みましょう」って(2009/4/30)
発がんリスクが半減する薬だって言うのに、なんで飲まないの?(2009/12/16)
「私とは、私の遺伝子なのか?」(2012/4/4)
【乳房切除の関連エントリー】
A事件に「小児乳房切除の倫理」Dr,Sobsey再び(2008/7/22)
小児へのRisperdalの適応外処方で乳房切除術を受ける少年たち(2009/5/28)
遺伝子変異あれば乳房摘出、卵巣摘出が当たり前の“予防医療”に?(2010/9/3)
【骨粗鬆症の関連エントリー】
骨減少症も「作られた病気」?……WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)
更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)
ビッグ・ファーマが当てこむ8つの“でっちあげ病”(2010/4/17)
【グローバル強欲ひとでなしネオリベ金融資本主義の関連エントリー】
巨大ファーマがかつてのゼネコンなのだとしたら……(2009/9/29)
「必要を創り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
事業仕分の科学研究予算問題から考えること(2010/12/12)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
国家的権威から市場主義的権威による超国家企業の政治制度へ(2012/1/25)
英国NHSにおける乳がん戦略は予防重視にシフトし、
家族歴や遺伝子情報から乳がん発症リスクが高・中等度とされる女性に対して
NHSで予防薬の投与が行われるよう提言されることに。
現在、イングランドとウェールズの30歳以上の女性のうち
家族の既往歴と、人によっては遺伝子変異情報から、
2%が乳がん発症に中等度のリスク、
1%が高リスクとされる。
新ガイドラインで予防薬投与の対象となるのは50万人で、
薬は既に治療薬として使われている tamoxifen と、
骨粗鬆症の治療薬として使われている raloxifeneの2剤。
更年期の前か後かによって、種類、期間とも使い分ける。
2剤とも、米国では
すでに乳がん予防薬としてFDAが認可している、とのこと。
また記事によると、
NICEの新ガイドラインはハイリスクの女性には
予防的両側乳房切除術も選択肢として認める可能性がある、とも。
500,000 women to be offered breast cancer drugs
The Guardian, January 15, 2013
【がん予防医療の関連エントリー】
今度は乳がん予防のワクチンだと(2008/9/15)
“乳がん遺伝子ゼロ”保証つき赤ちゃん英国で生まれる(2009/1/10)
「現代医学は健康な高齢者を患者にしている」(2009/3/8)
「40過ぎたらガン予防で毎日アスピリンを飲みましょう」って(2009/4/30)
発がんリスクが半減する薬だって言うのに、なんで飲まないの?(2009/12/16)
「私とは、私の遺伝子なのか?」(2012/4/4)
【乳房切除の関連エントリー】
A事件に「小児乳房切除の倫理」Dr,Sobsey再び(2008/7/22)
小児へのRisperdalの適応外処方で乳房切除術を受ける少年たち(2009/5/28)
遺伝子変異あれば乳房摘出、卵巣摘出が当たり前の“予防医療”に?(2010/9/3)
【骨粗鬆症の関連エントリー】
骨減少症も「作られた病気」?……WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)
更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)
ビッグ・ファーマが当てこむ8つの“でっちあげ病”(2010/4/17)
【グローバル強欲ひとでなしネオリベ金融資本主義の関連エントリー】
巨大ファーマがかつてのゼネコンなのだとしたら……(2009/9/29)
「必要を創り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
事業仕分の科学研究予算問題から考えること(2010/12/12)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
国家的権威から市場主義的権威による超国家企業の政治制度へ(2012/1/25)
2013.01.22 / Top↑
昨年、臓器不足解消に向けて
16歳以上の全員にドナーになる意思確認をするよう制度改正が行われたばかりのドイツで
国内47か所の全移植センターに医療委員会の調査が入る深刻な事態となっている。
現在のところまでに明らかになっているのは
少なくとも4つの権威ある大学病院で
待機リスト順位を上げてEurotransplantから臓器を獲得する目的で
患者データの不正操作が組織的に行われていた、という事実。
例えば患者の血液に尿を混ぜたり、
別の患者の血液サンプルを使ったり、
人工透析データを改ざんしたりして、
容体が実際以上に悪化しているように見せていた。
また、調査が入ると外科医らは、
患者の透析記録が書かれたカルテを隠すなどして
医療委員会の調査を妨害。
これまでに判明しているのは少なくとも103ケースだが
これから調査が進むとさらにたくさん出てくるだろうと医療委員会は言っている。
4病院の上級医師や移植医は調査の間、停職に。
それらのケースで贈収賄が絡んでいるかは今のところ不明だが、
他にも背景として
多くの移植センターがある一方で移植臓器は世界的に不足しており、医師らには
成功事例を作り、資金獲得のため病院の評価を上げるプレッシャーがかかっていた、とも。
4病院の1つの医師は、
肝臓を一つ移植するごとにボーナスを受け取れるよう契約内容に盛り込んでいたといわれ、
こうした報酬システムには、医療関係者の間から以前より批判が出ていたところ。
当初は散発的な事例だと思われていた不正が、
国内の移植センターに広がる組織的な不正スキャンダルの様相を呈してきたことで
臓器移植に対するドイツ国民の信頼が失われ、ドナー希望者が激減しているという。
死後提供は20%から40%減少したとのこと。
Mass donor organ fraud shakes Germany
The Guardian, January 9, 2013
【2011年の関連エントリー】
「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」と、Savulescuの相方が(2011/3/2)
WHOが「人為的DCDによる臓器提供を検討しよう」と(2011/7/19)
UNOSが「心臓は動いていても“循環死後提供”で」「脊損やALSの人は特定ドナー候補に」(2011/9/26)
「DCDで生命維持停止直後に脳波が変動」するから「丁寧なドナー・ケアのために麻酔を」という米国医療の“倫理”(2011/11/24)
「丁寧なドナー・ケア」は医療職の抵抗感をなくしてDCDをさらに推進するため?(2011/11/24)
これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
【2012年の関連エントリー】
「重症障害者は雑草と同じだから殺しても構わない」と、生命倫理学者らが「死亡提供ルール」撤廃を説く(2012/1/28)
米国の小児科医らが「ドナーは死んでいない。DCDプロトコルは一時中止に」(2012/1/28)
英国医師会が“臓器不足”解消に向け「臓器のためだけの延命を」(2012/2/13)
「臓器提供の機会確保のための人工呼吸、義務付けよ」とWilkinson(2012/2/22)
臓器マーケットの拡大で、貧困層への搾取が横行(バングラデシュ)(2012/3/15)
闇の腎臓売買、1時間に1個のペースで(2012/5/28)
経済危機で臓器の闇市、アジアからヨーロッパへ拡大(2012/6/10)
脳損傷の昏睡は終末期の意識喪失とは別: 臓器提供の勧誘は自制を(2012/7/20)
「病院職員に脳死判定への圧力がかかっている」と元移植コーディネーターが提訴(米)(2012/9/30)
16歳以上の全員にドナーになる意思確認をするよう制度改正が行われたばかりのドイツで
国内47か所の全移植センターに医療委員会の調査が入る深刻な事態となっている。
現在のところまでに明らかになっているのは
少なくとも4つの権威ある大学病院で
待機リスト順位を上げてEurotransplantから臓器を獲得する目的で
患者データの不正操作が組織的に行われていた、という事実。
例えば患者の血液に尿を混ぜたり、
別の患者の血液サンプルを使ったり、
人工透析データを改ざんしたりして、
容体が実際以上に悪化しているように見せていた。
また、調査が入ると外科医らは、
患者の透析記録が書かれたカルテを隠すなどして
医療委員会の調査を妨害。
これまでに判明しているのは少なくとも103ケースだが
これから調査が進むとさらにたくさん出てくるだろうと医療委員会は言っている。
4病院の上級医師や移植医は調査の間、停職に。
それらのケースで贈収賄が絡んでいるかは今のところ不明だが、
他にも背景として
多くの移植センターがある一方で移植臓器は世界的に不足しており、医師らには
成功事例を作り、資金獲得のため病院の評価を上げるプレッシャーがかかっていた、とも。
4病院の1つの医師は、
肝臓を一つ移植するごとにボーナスを受け取れるよう契約内容に盛り込んでいたといわれ、
こうした報酬システムには、医療関係者の間から以前より批判が出ていたところ。
当初は散発的な事例だと思われていた不正が、
国内の移植センターに広がる組織的な不正スキャンダルの様相を呈してきたことで
臓器移植に対するドイツ国民の信頼が失われ、ドナー希望者が激減しているという。
死後提供は20%から40%減少したとのこと。
Mass donor organ fraud shakes Germany
The Guardian, January 9, 2013
【2011年の関連エントリー】
「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」と、Savulescuの相方が(2011/3/2)
WHOが「人為的DCDによる臓器提供を検討しよう」と(2011/7/19)
UNOSが「心臓は動いていても“循環死後提供”で」「脊損やALSの人は特定ドナー候補に」(2011/9/26)
「DCDで生命維持停止直後に脳波が変動」するから「丁寧なドナー・ケアのために麻酔を」という米国医療の“倫理”(2011/11/24)
「丁寧なドナー・ケア」は医療職の抵抗感をなくしてDCDをさらに推進するため?(2011/11/24)
これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
【2012年の関連エントリー】
「重症障害者は雑草と同じだから殺しても構わない」と、生命倫理学者らが「死亡提供ルール」撤廃を説く(2012/1/28)
米国の小児科医らが「ドナーは死んでいない。DCDプロトコルは一時中止に」(2012/1/28)
英国医師会が“臓器不足”解消に向け「臓器のためだけの延命を」(2012/2/13)
「臓器提供の機会確保のための人工呼吸、義務付けよ」とWilkinson(2012/2/22)
臓器マーケットの拡大で、貧困層への搾取が横行(バングラデシュ)(2012/3/15)
闇の腎臓売買、1時間に1個のペースで(2012/5/28)
経済危機で臓器の闇市、アジアからヨーロッパへ拡大(2012/6/10)
脳損傷の昏睡は終末期の意識喪失とは別: 臓器提供の勧誘は自制を(2012/7/20)
「病院職員に脳死判定への圧力がかかっている」と元移植コーディネーターが提訴(米)(2012/9/30)
2013.01.14 / Top↑
オピオイド鎮痛剤の過剰処方の問題については、
以下の記事を始め、いろいろと拾ってきていますが、
“オピオイド鎮痛剤問題”の裏側(米)(2012/10/20)
続報といってもよい記事が大晦日のWPにありました。
Rising painkiller addiction shows damage from drugmakers’ role in shaping medical opinion
WP, December 31, 2012
上記10月のエントリーで拾ったProPublicaの記事の主なポイントが
オピオイド鎮痛剤の処方拡大のロビー活動を行ってきたAmerican Pain Associationの背後に
いかに製薬会社の資金力・影響力が働いているか、という点にあったのに対して、
今回のWP記事のポイントは、
OxyContinの製薬会社Purdueや販売会社などがいかに論文で治験データを隠ぺい・操作し、
FDAの諮問機関にいかにそれら企業と金銭繋がりのある研究者が含まれて、
「オピオイド鎮痛剤の依存リスクは非常に小さい」との通説が形成されていったか、
それによって、いかにガンや急性疼痛から慢性痛への処方拡大が誘導されてきたか、
そして、現在いかに多くの患者が依存に苦しみ、時に命まで落としているか、という点。
ざっと、事実関係を中心に以下に。
連邦政府の統計によると
処方鎮痛剤への依存症は実はコカインやヘロインへの依存患者よりも既に多く、
全米でほとんど200万人。
オピオイド鎮痛剤の処方数は過去20年間で3倍に急増している。
この記事は、その増加を後押ししたのは
a massive effort by pharmaceutical companies to shape medical opinion and practice
(医学的見解と医療実践に手を加えて形成しようとの製薬会社による多大な努力)
だったと書く。
例えば、年間20人が薬物のオーバードースで命を落としていて
一時は人口8万人の地域にピル・ミルが9軒も林立し
昨年は住民一人当たりにつき100回分以上のオピオイド鎮痛剤が処方・販売されたというポーツマスでは
保健師がこの状況を「ファーマゲドン」だ、と。
(「ピル・ミル」とは、カネ儲けのために処方麻薬でショーバイする医師や診療所のこと。
「ピル・ミル訴訟」についてはこちらのエントリーに)
もともと90年代までは
医師らはオピオイド鎮痛剤の処方には慎重で、
ガン患者と急性疼痛の患者以外にはほとんど処方されていなかったが、
少しずつ規制が緩和されていき、
1995年のPerdueによるOxiContin発売で一気に処方が急増。
2000年代に入るとオーバードースや依存症者の報告も急増した。
2003年にNew England Journal of Medicineに発表された論文は
依存リスクを最小限と報告したが、
この論文の主著者はその後
オピオイド鎮痛剤処方のあり方を先頭に立って批判しているとのこと。
また上記を始め、当時の「離脱症状はまれで依存リスクは小さい」との知見形成に影響した論文を
WPが調査したところ、
16の治験のうち、5つはPurdueの資金によるもので、2つはPurdueの職員との共著、
2つはPurdue以外のオピオイド鎮痛剤の製薬会社の資金によるものだった。
発表後、Purdueが離脱症状を否定する根拠として繰り返し使った論文では
離脱症状が疑われるケースを削除したデータがPurdue側から研究者に渡され、
研究者らはPurdueから受け取ったデータを分析しただけだったとか。
その論文では、100人中離脱症状があったのは2名と報告されたが、
内部文書によると11人が起こしていた。
(現在はだいたい50%が依存を起こすと理解されている、と専門家)
FDAが2002年に諮問したパネルでは
10人の外部委員のうち5人がPurdueとの金銭関係がある研究者だった。
そのうちの一人はその後オピオイド鎮痛剤の「宣教師」役を演じた後悔を語って
次のように発言している。
「プライマリーケアの聴衆が……オピオイドを使いやすくなるような説明を創ろうと……」
「主な目的はオピオイドのスティグマを解消することだったので、
我々はしばしばエビデンスはなおざりにして……」
「今では依存症や本人の意図しないオーバードース死が多発し、
ここまで影響が広がってしまって、私のような人間が推進した処方拡大が
部分的にはこうした出来事を引き起こしたと思うと、まったく恐ろしいです」
------
前にも書きましたが、
これまで向精神薬や骨減少症や心臓ステントなどを巡って当ブログが拾ってきたスキャンダルと
まったく同じ構図がここでも繰り返されている――。
読めば読むだけ、それが確認されるばかり――。
例えば、最近の糖尿病治療薬Avandiaのスキャンダルでは
製薬会社資金での治験が増えて論文の治験データの信憑性が揺らぎ
医学研究そのものが崩壊の危機に瀕している、と
New England Journal of Medicine の編集長自らが認めている ↓
製薬会社資金に信頼性を失っていく治験データ……Avandiaスキャンダル(2012/11/30)
【追記】
今日のNYTにも OxiContin関連のニュースあり、
近くOxiContin と Opana のジェネリック薬が発売されるにあたり、
濫用防止のため砕きにくく溶けにくくするなど錠剤の工夫を求められてきたPurdueなどが
同様の工夫が十分でないと主張してジェネリックの発売を阻止しようとしていたが失敗したらしい。
「儲けのためじゃなく、国民の安全のためだ」と主張していたらしいけれど、
上のWP記事を読んだ後でそれを言われても……。
http://www.nytimes.com/2013/01/02/health/drug-makers-losing-a-bid-to-foil-generic-painkillers.html?_r=0
【いわゆる“Biedermanスキャンダル”関連エントリー】
著名小児精神科医にスキャンダル(2008/6/8)
著名精神科医ら製薬会社からのコンサル料を過少報告(2008/10/6)
Biederman医師にさらなる製薬会社との癒着スキャンダル(2008/11/25)
Biederman医師、製薬業界資金の研究から身を引くことに(2009/1/1)
【その他、08年のGrassley議員の調査関連】
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
今度はラジオの人気ドクターにスキャンダル(2008/11/23)
最近のものでは例えば、↓
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
ジェネリックを売らせないビッグ・ファーマの「あの手この手」が医療費に上乗せられていく(2011/11/15)
あと、この問題を一貫して調査し報道しているProPublicaのシリーズの一つがこちら。↓
(ここにも鎮痛剤関連のスキャンダルが出てきています)
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)
【骨減少症関連エントリー】
骨減少症も“作られた”病気?……WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)
更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)
ビッグ・ファーマが当てこむ8つの“でっちあげ病”(2010/4/17)
【米不整脈学会、高血圧学会を巡るスキャンダル関連エントリー】これもGrassley議員の調査で明らかに
学会が関連企業相手にショーバイする米国の医療界(2011/5/11)
1つの病院で141人に無用な心臓ステント、500人に入れた医師も(2011/5/15)
以下の記事を始め、いろいろと拾ってきていますが、
“オピオイド鎮痛剤問題”の裏側(米)(2012/10/20)
続報といってもよい記事が大晦日のWPにありました。
Rising painkiller addiction shows damage from drugmakers’ role in shaping medical opinion
WP, December 31, 2012
上記10月のエントリーで拾ったProPublicaの記事の主なポイントが
オピオイド鎮痛剤の処方拡大のロビー活動を行ってきたAmerican Pain Associationの背後に
いかに製薬会社の資金力・影響力が働いているか、という点にあったのに対して、
今回のWP記事のポイントは、
OxyContinの製薬会社Purdueや販売会社などがいかに論文で治験データを隠ぺい・操作し、
FDAの諮問機関にいかにそれら企業と金銭繋がりのある研究者が含まれて、
「オピオイド鎮痛剤の依存リスクは非常に小さい」との通説が形成されていったか、
それによって、いかにガンや急性疼痛から慢性痛への処方拡大が誘導されてきたか、
そして、現在いかに多くの患者が依存に苦しみ、時に命まで落としているか、という点。
ざっと、事実関係を中心に以下に。
連邦政府の統計によると
処方鎮痛剤への依存症は実はコカインやヘロインへの依存患者よりも既に多く、
全米でほとんど200万人。
オピオイド鎮痛剤の処方数は過去20年間で3倍に急増している。
この記事は、その増加を後押ししたのは
a massive effort by pharmaceutical companies to shape medical opinion and practice
(医学的見解と医療実践に手を加えて形成しようとの製薬会社による多大な努力)
だったと書く。
例えば、年間20人が薬物のオーバードースで命を落としていて
一時は人口8万人の地域にピル・ミルが9軒も林立し
昨年は住民一人当たりにつき100回分以上のオピオイド鎮痛剤が処方・販売されたというポーツマスでは
保健師がこの状況を「ファーマゲドン」だ、と。
(「ピル・ミル」とは、カネ儲けのために処方麻薬でショーバイする医師や診療所のこと。
「ピル・ミル訴訟」についてはこちらのエントリーに)
もともと90年代までは
医師らはオピオイド鎮痛剤の処方には慎重で、
ガン患者と急性疼痛の患者以外にはほとんど処方されていなかったが、
少しずつ規制が緩和されていき、
1995年のPerdueによるOxiContin発売で一気に処方が急増。
2000年代に入るとオーバードースや依存症者の報告も急増した。
2003年にNew England Journal of Medicineに発表された論文は
依存リスクを最小限と報告したが、
この論文の主著者はその後
オピオイド鎮痛剤処方のあり方を先頭に立って批判しているとのこと。
また上記を始め、当時の「離脱症状はまれで依存リスクは小さい」との知見形成に影響した論文を
WPが調査したところ、
16の治験のうち、5つはPurdueの資金によるもので、2つはPurdueの職員との共著、
2つはPurdue以外のオピオイド鎮痛剤の製薬会社の資金によるものだった。
発表後、Purdueが離脱症状を否定する根拠として繰り返し使った論文では
離脱症状が疑われるケースを削除したデータがPurdue側から研究者に渡され、
研究者らはPurdueから受け取ったデータを分析しただけだったとか。
その論文では、100人中離脱症状があったのは2名と報告されたが、
内部文書によると11人が起こしていた。
(現在はだいたい50%が依存を起こすと理解されている、と専門家)
FDAが2002年に諮問したパネルでは
10人の外部委員のうち5人がPurdueとの金銭関係がある研究者だった。
そのうちの一人はその後オピオイド鎮痛剤の「宣教師」役を演じた後悔を語って
次のように発言している。
「プライマリーケアの聴衆が……オピオイドを使いやすくなるような説明を創ろうと……」
「主な目的はオピオイドのスティグマを解消することだったので、
我々はしばしばエビデンスはなおざりにして……」
「今では依存症や本人の意図しないオーバードース死が多発し、
ここまで影響が広がってしまって、私のような人間が推進した処方拡大が
部分的にはこうした出来事を引き起こしたと思うと、まったく恐ろしいです」
------
前にも書きましたが、
これまで向精神薬や骨減少症や心臓ステントなどを巡って当ブログが拾ってきたスキャンダルと
まったく同じ構図がここでも繰り返されている――。
読めば読むだけ、それが確認されるばかり――。
例えば、最近の糖尿病治療薬Avandiaのスキャンダルでは
製薬会社資金での治験が増えて論文の治験データの信憑性が揺らぎ
医学研究そのものが崩壊の危機に瀕している、と
New England Journal of Medicine の編集長自らが認めている ↓
製薬会社資金に信頼性を失っていく治験データ……Avandiaスキャンダル(2012/11/30)
【追記】
今日のNYTにも OxiContin関連のニュースあり、
近くOxiContin と Opana のジェネリック薬が発売されるにあたり、
濫用防止のため砕きにくく溶けにくくするなど錠剤の工夫を求められてきたPurdueなどが
同様の工夫が十分でないと主張してジェネリックの発売を阻止しようとしていたが失敗したらしい。
「儲けのためじゃなく、国民の安全のためだ」と主張していたらしいけれど、
上のWP記事を読んだ後でそれを言われても……。
http://www.nytimes.com/2013/01/02/health/drug-makers-losing-a-bid-to-foil-generic-painkillers.html?_r=0
【いわゆる“Biedermanスキャンダル”関連エントリー】
著名小児精神科医にスキャンダル(2008/6/8)
著名精神科医ら製薬会社からのコンサル料を過少報告(2008/10/6)
Biederman医師にさらなる製薬会社との癒着スキャンダル(2008/11/25)
Biederman医師、製薬業界資金の研究から身を引くことに(2009/1/1)
【その他、08年のGrassley議員の調査関連】
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
今度はラジオの人気ドクターにスキャンダル(2008/11/23)
最近のものでは例えば、↓
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
ジェネリックを売らせないビッグ・ファーマの「あの手この手」が医療費に上乗せられていく(2011/11/15)
あと、この問題を一貫して調査し報道しているProPublicaのシリーズの一つがこちら。↓
(ここにも鎮痛剤関連のスキャンダルが出てきています)
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)
【骨減少症関連エントリー】
骨減少症も“作られた”病気?……WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)
更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)
ビッグ・ファーマが当てこむ8つの“でっちあげ病”(2010/4/17)
【米不整脈学会、高血圧学会を巡るスキャンダル関連エントリー】これもGrassley議員の調査で明らかに
学会が関連企業相手にショーバイする米国の医療界(2011/5/11)
1つの病院で141人に無用な心臓ステント、500人に入れた医師も(2011/5/15)
2013.01.14 / Top↑
この4月に地域住民のウェルビーイングと保健衛生の責任が
NHSから地方自治体に移されることを受け、
保守系のWestminsterの自治体 と、
地方自治体情報ユニットというシンクタンクが
A Dose of Localism: the Role of Councils in Public Healthという報告書を刊行。
福祉の受給者で肥満している人にGP(一般医)からエクササイズを指示(処方)させ、
スマートカードなどの新興テクノロジーを使って
個々の受給者のエクササイズ施設の利用状況をモニターし、
十分な努力が認められなければ給付を差し止める権限を
地方自治体に認めるよう提言。
すでに地方自治体によっては
GPに水泳やヨガ、ジムやウォーキング・クラブなどを「処方」させていることもあるとか。
Obese and unhealthy people could face benefit cuts
The Guardian, January 3, 2013/01/04
記事タイトルからは、
「肥満である」ということと「健康でない」ということが等価に扱われている印象も。
この記事にはコメントが多数寄せられていて、
ざっと見で目についたのは
「福祉の世話になっておきながら
肥え太って家でダラダラしてんじゃねーよ」みたいトーンのものと、
「運動しろと言うからには、受給者の施設利用は当然タダにしてくれるんだろうね」という
こちらは至極まっとうな疑問。
【追記】
今夜のニュースにはこんなのも。
労働党は福祉受給者に甘いという与党からの批判をかわすべく、
2年以上失業状態にある25歳以上の成人は
政府が与える仕事に6カ月以上つかなければならないとするプランを
影の福祉相 Ed Ballsが提案。
(頭の部分しか読んでいないので細部は?)
http://www.guardian.co.uk/politics/2013/jan/04/ed-balls-welfare-work-scheme?CMP=EMCNEWEML1355
【追追記】
追記のついでに、
このエントリーをアップした後に頭に浮かんだこととして、
貧しいからこそ、栄養価の高い食事が取れなくて
高カロリー高脂肪食で肥満になる、ということだってある……と思うんだけど、
それが本人が痩せる努力をしていない自己責任となり、ペナルティの対象になるのかぁ……と。
NHSから地方自治体に移されることを受け、
保守系のWestminsterの自治体 と、
地方自治体情報ユニットというシンクタンクが
A Dose of Localism: the Role of Councils in Public Healthという報告書を刊行。
福祉の受給者で肥満している人にGP(一般医)からエクササイズを指示(処方)させ、
スマートカードなどの新興テクノロジーを使って
個々の受給者のエクササイズ施設の利用状況をモニターし、
十分な努力が認められなければ給付を差し止める権限を
地方自治体に認めるよう提言。
すでに地方自治体によっては
GPに水泳やヨガ、ジムやウォーキング・クラブなどを「処方」させていることもあるとか。
Obese and unhealthy people could face benefit cuts
The Guardian, January 3, 2013/01/04
記事タイトルからは、
「肥満である」ということと「健康でない」ということが等価に扱われている印象も。
この記事にはコメントが多数寄せられていて、
ざっと見で目についたのは
「福祉の世話になっておきながら
肥え太って家でダラダラしてんじゃねーよ」みたいトーンのものと、
「運動しろと言うからには、受給者の施設利用は当然タダにしてくれるんだろうね」という
こちらは至極まっとうな疑問。
【追記】
今夜のニュースにはこんなのも。
労働党は福祉受給者に甘いという与党からの批判をかわすべく、
2年以上失業状態にある25歳以上の成人は
政府が与える仕事に6カ月以上つかなければならないとするプランを
影の福祉相 Ed Ballsが提案。
(頭の部分しか読んでいないので細部は?)
http://www.guardian.co.uk/politics/2013/jan/04/ed-balls-welfare-work-scheme?CMP=EMCNEWEML1355
【追追記】
追記のついでに、
このエントリーをアップした後に頭に浮かんだこととして、
貧しいからこそ、栄養価の高い食事が取れなくて
高カロリー高脂肪食で肥満になる、ということだってある……と思うんだけど、
それが本人が痩せる努力をしていない自己責任となり、ペナルティの対象になるのかぁ……と。
2013.01.14 / Top↑