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ゲイツ財団が最近、途上国の母子保健に力を入れている。

去年の5月に
早産・死産撲滅に、シアトルこども病院がゲイツ財団、ユニセフ、WHOと乗り出すというニュースから
予防のための研究を進めると言いながら、それと並行して実際には、
こういうことに向かっていくのでは……という予感がしたのだけれど、

その後のニュースをたどると、以下のように

知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではない(2010/3/23):G8での避妊・家族計画論争
ゲイツ財団資金で超音波による男性の避妊法を開発、途上国向け?(2010/5/12)
ゲイツ財団がインドのビハール州政府と「革新的な家族保健」の協力覚書(2010/5/17)
2010年5月29日の補遺:G8での途上国の母子保健関連記事。ここでも「家族計画」に言及。
ゲイツ財団が途上国の「家族計画、母子保健、栄養プログラム」に更に150億ドルを約束(2010/6/8)


「途上国の早産・死産・妊産婦の死亡数を減らすために」という大義名分で、
「そうでなければ命を落とす可能性の高い女性や子ども」にとって“最善の利益”だとして
貧困国の貧困女性には、先進国の女性とは別の基準が適用され、手が打たれていくのでは……という
懸念が私の中で、どんどん色濃くなってきていたところ、

NY TimesコラムニストのNicholas Kristofが書いたOp-Edが目につきました。

Another Pill That Could Cause a Revolution
The NY Times, July 31, 2010


1ドルにも満たない錠剤が
「世界中で、特に途上国で、中絶を革命的に変えつつある」とKristofは言う。

世界中の中絶の5分の4は途上国で行われていて、
消毒の不十分や手技の未熟から年間7万人もが中絶の合併症で命を落としている。

そこで安全で安価で政府が取り締まりにくい選択肢として一躍脚光を浴びているのが
元々は胃潰瘍の薬である misoprostol。

経口中絶薬mifepristone(RU-486)を飲み、その数日後にmisoprostol を飲む堕胎方法は、
欧米で「薬による中絶medical abortion」と呼ばれ、
スコットランドの中絶の7割がこの方法によるとされる。

妊娠初期なら95%の確率で流産する。

前者は中絶目的でしか使われないので手に入りにくい地域が多いが、
後者は胃潰瘍の治療薬なので、禁止されておらず、どこでも手に入る。

最近の研究で
misoprostolだけでも80%から85%の割合で中絶ができることが分かってきて、

その他の選択肢が限られている途上国で、
女性の性と生殖に関する健康(sexual and reproductive health: SRH)にとって大きな光明だ、
というのが、この記事の主旨。

ただし妊娠の後期に入るとどのくらいの効果があるかは未知数。

記事に書かれているリスクとしては
うまく中絶できなかった場合に胎児に障害が発生する可能性があること以外には
「自然発生する流産と同じ」とされているが、

米国では法律によって
mifepristone は、クリニックで(入院して?)飲むことになっているため
中絶の8件に1件しか使われていない。
使用が認められるのは妊娠9週まで。

英国では入院しての使用なら24週まで認められている。

ブラジル他、中絶目的でのmisoprostolを規制しようとする国もあるが、
Kristofは「misoprostolの使用を禁じると、出血多量で死ぬ女性が増えるだけだ」、

「どうせ薬による中絶の禁止なんて実施困難。
だってインドの製薬会社がこの2つの薬を大量に作っては
5ドル以下で世界中のどこにでも発送しているのだから」

更に記事の最後には
「世界中の女性に噂が広がっている以上、
この産科医療改革を政治家が止められるとも思えない」とも。


          -------


この記事で言及されている生殖保健関連のテクノロジー開発NPOで
「すべての人に医学とテクノロジーの発展の果実へのアクセスを」を理念とする
Gynuity Health Projectのサイトを覗いてみると、

やっぱり思った通り、資金提供者リストのトップはMelinda and Gates 財団。

リストにはそのほか、Rockfeller財団の名前もあるし、
最近私が気になっている Planned Parenthood Federationも
Society for Family Planningもあります。

もう1つ、この記事で言及されているのはMarie Stopes Internationalで、
こちらも世界43カ国で家族計画と安全な中絶、母子保健とHIV対策を行う
性と生殖に関する保健(SRH)のNPO。

Aboutを読んで、私が個人的にたいそう興味深いと思ったのは
わざわざ「男児の包皮切除を含むHIV対策」と書かれていること。

先月、ウィーンでのエイズ会議でBill Gatesは
安価なHIV対策として男児の包皮切除でHIV感染率を60%削減できると説きました。

こちらも上記Gynuityと同系列の活動団体と考えていいのではないでしょうか。

ゲイツ財団の周辺では、母子保健と並行して、世界の人口抑制策も動いています。

ビル・ゲイツの音頭で米国の長者たちが各国政府の頭越しに世界人口抑制に取り組もうと合意(2010/6/9)
“優生主義者”ビル・ゲイツ、世界エリートの“陰のサミット”ビルダーバーグ会議に(2010/6/9)


この2つの動きが、実は1つである……ということは本当にあり得ないのか???


内情・実態が国際社会から見えにくい途上国で、
最も弱い立場にある貧困層の女性たちに
一体どういうやり方で経口中絶薬が届けられ、飲まされていくのか……。

そもそもKristofの文章の趣旨そのものが、
2剤併用で「薬による中絶」が行われているけど、
どこでも手に入って政府が規制しにくい片方だけでも
95%の成功率が80%程度まで落ちるるにしても、中絶できないわけじゃないと分かってきたから、
途上国の場合は、単剤で成功率80%でも、いいんじゃない? という話。

統計の問題としてだけ考えれば、
元々死亡率が高い女性のグループが対象だから
リスクが大きくなっても、その増大幅も、死亡率の高さに吸収されるかのように錯覚するけど、

特定の薬のリスクはあくまでもその薬のリスクとして検討されるべきものであり、
Kristofの論理に潜んでいる上記のような錯覚が共有されるとしたら、それは
途上国の女性の命を値引きしているからに他ならないのでは?


ちなみに、日本では経口中絶薬は未承認ですが、
個人輸入する人があることから、2004年に厚労省から警告が出されており、

以下のような記述があります。

欧米では、医師のみが処方できる医薬品とされています。腟からの出血や重大な感染症等の可能性が知られており、医師による投与後の経過観察や、緊急時には医療機関を受診できることが必要とされています。欧米でも医師の処方せんなしで薬局で購入することはできません。




ろくに医療が受けられないために妊産婦の死亡率が高い途上国で、

この「革命的な」経口中絶薬が
医師が診断しインフォームとコンセントを取った上で
妊娠初期の妊婦さんにのみ慎重に処方され、
医師による経過観察がちゃんと行われ、
緊急時の受診体制も整えられた環境下で
女性たちが飲むことになる……とは、

私にはどうしても思えない。
2010.08.03 / Top↑
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