日本の厚生労働省医薬品局は平成19年3月から
「ワクチン産業ビジョン推進委員会」なるものを開催しており、
第6回の委員会は明後日10日に開催される。
これ知って、最初に頭に浮かんだ疑問は
なんで“ワクチン・ビジョン”じゃなくて“ワクチン産業ビジョン”なんだろう?
諸々の資料は第1回目に配られていて、こちらから読める。
で、その中から「ワクチン産業ビジョンの要点」という文書を読んでみると、
「3. 感染症対策を支え、社会的期待に応える産業としていくうえでの課題」の中に
3つの課題が挙げられていて、あとの2つに目が引かれた。
(2)現在のワクチン市場は小さくても、ワクチン市場の将来性を見通しつつ、
戦略的に新開発に投資できる体力のある産業への構造転換を図ること。
(3)国民の理解を得て、ワクチン市場を安定した成長の見込めるものとしていくことを通じた
国内製造体制の確保。
官僚語で書かれているので、
それを我々の日常の日本語に翻訳してみると、
(2)現在の日本ではワクチンを打つ人はそれほど多くないが、
これからは「ワクチンの10年」と言われ
国際的にワクチン市場はオイシイことになっているので
日本も乗り遅れないよう、早くからちゃんと新開発に投資して
長期に渡って利益を上げ続けられるワクチン産業を創出しないと。
(3)そのためには、ワクチンが大切、ワクチンで病気予防をしなければならないと
徹底的なキャンペーンを行って国民をその気にさせ、接種する人をどんどん増やし
日本国内でのワクチン市場を継続的に拡大していく必要がある。
だってマーケットが広がってこその、製造体制確保だし、
打ってくれる人あっての産業創出なんだから。
さらに「7.ワクチンの普及啓発」のところには、
次のように書かれている。
ワクチンの意義や重要性についての正確で分かりやすい情報が、
国民に広く提供されるなどの普及啓発活動に加え、
有用性を総合的に評価する医療経済学的な調査分析を推進し、
国民がワクチンの意義を理解する上で活用できるよう関係者が協力。
わわわっと、頭に疑問が浮かぶのだけど、
・「ワクチンの意義や重要性」というのは、
あくまでも個々のワクチンについてのみ云々できるものでは?
・ワクチンの「有用性」を「医療経済学的な調査分析」って、
これもまた大事なのは、個々のワクチンの「有用性」についての「医学的調査分析」では?
・個別ではなくワクチン一般の「有用性」を「総合的に評価」って、
その「総合的に」というのは、いったいどういう意味?
その「総合」の中には、例えば具体的に何が入るの?
・こういうものを読むと、
ああ、あのHPVワクチンを巡るすさまじいほどのキャンペーンは、
なるほど、こういうところと直結して繰り出されていたのかぁ……と得心もするけれど、
その一方、この前コメントで教えてもらった感染症の専門家のブログ記事で
こんなことが指摘されていたのを思い出した ↓
接種記録をどうするか、前後の疫学データ収集をどうするか、という
各国が念入りに準備をして導入にそなえたことは、
考えついていないか無視の状況。
このワクチンの効果評価は長期においかけるコホートデータになるので、
接種前からの登録・長期間のフォローアップが必要なんですが。
Registration Programがないですよ!
接種した人達が誰か、分母がわからないと、そもそも効果評価できないですよ!
つまり、これ、
HPVワクチンを一人でも多くの子どもに打たせることには極めて熱心だけど、
その一方で、HPVワクチンの「有用性」について「医学的に」調査分析するつもりは
まるっきり、ないってことでは……?
個々のワクチンの「有用性」を「医学的に」調査分析するつもりはないんだけど、
ワクチンというもの一般の「有用性」を「総合的に評価」するための
「医療経済学的な」調査分析を「推進して」、その結果を「活用」して
「国民にワクチンの意義を理解」させようって、
ものすごく、ヘンな話じゃないです、それ――?
結局、やっぱり、こういう話なんじゃないのかなぁ…… ↓
「健康ギャップ」なくても「ワクチン・ギャップ」埋めないと「世界に恥じ」る……と説くワクチン論文(2010/3/5)
つい数日前に、この論文の著者で、医療経済学者の川添孝一氏が
フジテレビの朝の番組に出て、規制仕分けについて解説しておられたような……。
(最後だけ見たので名前は確認していません。顔から「おや?」と思っただけ)
管総理の肝いり「医療産業創出」の話も出ており、
そこには医療ツーリズムだけじゃなくて
もちろんワクチン産業も含まれているのだろうなぁ……と
私は思ったものでしたが。
先月「現代思想」で“バイオ化”について読んでから漠然と頭の中をぐるぐるしていたことが、
その後のmghさんとのやりとりを経て、だんだんと形を成してきて、
さらに、その直後のmyuさんとのやり取りで、やっと言葉になったので、
その辺りのことを抜粋・整理・補足して、以下に。
ここ数十年の世界経済や金融での大きく急速な構造変化が起きていること、それが、
製薬業界・医療機器業界を中心にした科学とテクノロジーの分野の諸々を
否応なく経済と金融の領域の問題にしてしまっていることなどが、
ずっと医療の中にいて、すべてを医療の中の問題、医療の専決事項として眺め考えてきた
現場の医師の多くには、捉えきれていない……という面があるんじゃないんでしょうか。
そこに、myuさんが言われる「感情的なもの」が影響して、
外部から指摘されても反発が先立つために、
個々の事実を冷静に確認する必要に目が向きにくい、
ということもあるだろうし。
そこに政治的な動きがある気配は察しても、
もはや「薬屋さんとのお付き合いは昔から難しい」といった
個々の医師のモラルの次元をはるかに超えた事態が出来している、
その事態の深刻さまで見えている人が、案外に少ないんじゃないのかな。
その政治的な動きの背景には製薬会社だけでなく、その株主、
グローバル金融資本主義でどんどん強欲になっていく
スーパーリッチたちの思惑までが繋がっているのだと考えれば、
すでに医師に提供されるエビデンスそのものに関わる問題に
なっている可能性だって、ないとも言いきれない。
ビーダーマン・スキャンダルが警告しているのも、
結局はそういう医療のエビデンスまで金融資本主義に巻き込まれてしまっている
構造的な問題なのではないかと私は考えるので、
臨床のエビデンスが揺らぐとなれば
本当は臨床現場のお医者さんたちが一番怒ってもいいはずなのに……と、
いつも思うんですよね。
その点で、 臨床現場のお医者さんたちの性善説というか、楽天性というか、
そこのところにmyuさんの言われる「感情的に心地よいゾーン」が
働いているような気がしたり。
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