Gunther医師とDiekema医師の論文が掲載された Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine 2006年10月号には、なんとも皮肉な取り合わせの以下の論文も掲載されています。
“Tall Girls: the Social Shaping of a Medical Therapy”
Joyce M. Lee, MD, MPH ; Joel D. Howell, MD, PhD
40年代から始まった背の高い女児へのエストロゲン療法は70年代にピークを迎え、77年には学会が開かれるほどの領域となった。背景にあったのは、家庭に入り子どもを生むのが女性の仕事とする社会通念であり、多くの親が療法を望んだ理由は、social attractiveness 。しかし、その後、副作用、特に発がん性の指摘や、ジェンダー意識を巡る社会変化とともに廃れた。文献も、当初の治療法や副作用抑制法についての内容から、徐々に「背が高い」の定義や療法の必要性そのものを問う内容へと変化。3.6 センチから7.1センチの身長抑制効果があるともされるが、反作用として軽いものでは吐き気、頭痛、体重増加、出血(Gunther, Diekema論文で、子宮摘出の理由の摩り替えに利用されたのがこの点でした)から、重大なものとなる可能性がある反作用として、軽度の高血圧、良性の乳房の病気、卵巣脳腫、治療後の無月経、まれに血栓症。治療を受けた少女たちには悪性のものはなかったが、エストロゲンに発ガン性がある可能性について、いくつもの研究で触れられている。
一方、現在は低身長の男児への成長ホルモン投与が盛んで、この療法を受ける男児は女児の2倍。2003年にはFDAも認可し、かつての背の高い少女に行われたホルモン療法の21世紀版となっている。「背の低い男と背の高い女」の結びつきは、社会にとってこれほどまでに offensive to tasteらしい。ただし、効果はいずれの療法もプラス・マイナス2~3インチ程度。
「以上の例から、医学の進歩は常に特定の社会的文脈の中で適用され、その文脈の中では、臨床医の医療行為の決定にも、理想とされるジェンダー間の関係が科学的研究と同程度に重視される可能性があることがわかる」と結論。
(この”Tall Girls”という論文については、1月15日にLos Angeles Times がアシュリー療法と関連付けて、”Estrogen’s history as a growth limiter”という記事を掲載しています。)
両親のブログでは、Gunther 医師に成長抑制という案を相談し、ホルモン大量投与でそれが可能とわかった事情を書いた際に、かつて背の高い少女に行われたホルモン療法には「長期的な副作用はなかった」と書いています。ホルモン大量投与の副作用について、両親がどのような説明を受けていたか、気になります。
また、こちらの論文が指摘している“背の低い男”と“背の高い女”の組み合わせへの社会の嫌悪感とは、そのまま“成熟した女性の体”と“乳幼児レベルの知能”の組み合わせへの嫌悪感にも当てはまるのかもしれません。
“成熟した女性の体”と“乳幼児レベルの知能”の組み合わせを「グロテスク」だと放言したGeorge Dvorskyという人がいて、その発言が両親のブログに引用されていることは、周知の通りです。シンポでも何度かその引用箇所が取り上げられていました。
(ところが驚くことに、Dvorsky本人は1月27日に自分のブログSentient Developmentsで、自分は仏教徒として過ちから学ぶ人間だと前置きし、このグロテスク発言にある「心と体はつりあうべき」という発想を翻しています。今では、いろんな体にいろんな心が釣り合い得るという考え方の方がよいと思うのだとか。ただ、アシュリーに行われたことへの支持は、QOLや本人・介護者の利益や権利などの見地から変わらないそうです。)