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18日のエントリーで NDY の Drake らが言及していた
Fins医師の論文を読みました。

タイトルは「重症脳損傷と臓器提供の勧誘:節制の呼びかけ」
今年3月に米国医師会の倫理ジャーナルに掲載されたものです。

Severe Brain Injury and Organ Solicitation: A Call for Temperance
Joseph J. Fins, MD
Virtual Mentor, AMA Journal of Ethics,
March 2012, volume 14, Number 3:221-226


非常に重大な告発と提言だと思います。

本当は全文翻訳したいのですが、
とりあえず概要を以下に。(……と言いつつ、けっこう訳してしまいました)

私は地元の臓器獲得組織(OPO)の理事を数年前に辞任した。
重症脳損傷の患者からの臓器摘出の状況が納得できなかったからだ。

もともと理事になったくらいだから臓器移植そのものは支持しているが、
臓器を必要とする患者の命を救うことだけが善ではない。
意識障害の患者のことを考える善もあるが、
臓器移植界隈の方針によってそうした患者の利益は危うくなっている。

(話の混乱を避けるため、Fins医師はここで昏睡、脳死、植物状態、最少意識状態を
きちんと定義していますが、省略します)

連邦政府の規定は、
ドナー候補者の死が差し迫ってきたらOPOに届けるよう求めているが、
生命維持の差し控えや中止が問題となる患者の場合は、
その決定が死が差し迫った状態に直結するので、
その決断が検討されている段階から臓器刈り取りの可能性ありとしてOPOに連絡がいく。

OPOの理事として私が承服できなかったのは、
こうした重症の脳損傷の患者があたかももう死ぬことが確実に決まっているかのように捉えられ、
身体も脳もまだ生きている内から臓器ドナーと目されてしまうことだった。

大学の医療センターの倫理コンサルタントとしての立場で
OPOの職員たちがICUの中に居座って(hover)いつでも仕事にかかろうと待ち構えているのを目にもしたし、

熱心なOPO職員の中には、
もう私たちのものですからもらっていきますよ、といった表現すらする者もいた。

hoverという表現を敢えて用いたのは
ヘリコプターがホバリングするように付きまとわれた、というのが
Weill Cornell Medical Collegeに検査にやってきた意識障害のある患者40人の
家族や代理人にインタビューを行った結果、多くの家族の印象だったからだ。

よくあるのは、
まだ治療の初期、患者がICUにいるうちから
代理人や家族に接触し、臓器提供を持ちかける、という場面だ。

患者が助かって、程度はさまざまながら回復した後になっても、これらの家族は
OPO職員のふるまいをハゲタカのよう(predatory behavior)だったと言い嫌悪している。

多くの家族は、彼らは臓器を獲得しようと必死のあまり、
病人はもう予後が決まっているかのように言いなした、という。

死は避けられませんよ、
呼吸器は中止すべきです、
臓器は使える人にあげるべきです、と。

でも、助かった人たちの家族は当時を振り返って、
何故あの人たちは断言できたのだろう、といぶかる。
医学的にも、たぶん倫理的にも間違った行為だったはずなのに、
どうしてあんなことができるんだろう、と。

程度はさまざまにせよ回復した人も多数いるのに、
またNicholas Christakisの研究でも診断は間違うことが多いと分かっているのに、
あの人たちは、どうしてあんなふうに「死にます」と断言できたんだろう、と。

脳損傷がこれほど特殊な問題をはらんでいるのは
脳死概念そのものが、臓器移植医療の出現で臓器獲得のニーズが出てきたために作られた
歴史的、社会的背景があるため。

世界初のバーナード移植とビーチャーによるハーバード基準その他が1968年にできたのは
決して偶然ではないし、ビーチャー自身の功利主義的発言からも、既にその段階で
意識喪失状態と意識のある人を救う義務とが繋げられていたことを伺わせる。

しかし、この2者を繋げることには問題がある。

意識喪失そのものは脳損傷では症状として起こっていることなのに、
一般の終末期では意識喪失が死の前触れとして知られているために
脳損傷の昏睡状態でも代理人がDNR指定をしてしまう。

が、脳損傷の患者での昏睡はむしろ
回復が始まる最初の段階に過ぎない可能性がある。

そうした症例で臓器摘出を早まると、
患者が回復して意識があることを表出できるようになる前に摘出が行われてしまう可能性がある。

もちろん昏睡状態にある患者がすべて回復するわけではないが、
昏睡は必ずしも死の前触れとは限らないし、
いまだ実験段階とはいえ脳画像や脳波を通じた研究も続いており、

このような患者の予後に不透明な部分が残る以上、多くのケースでは
治療を差し控えたり中止することを決める前に、待って様子をみて、
患者が回復し意識があることを表明できるチャンスを作るべきでは。

そこで、控え目な提案をしたい。
臓器提供を勧めるに当たって、時を待ってみる、という自制をしてはどうか。

回復にはリズム、タイミングというものがある。

その後どっちに向かうか分からないのに回復のプロセスを途中で止めてしまうのは
ベートーベンの第9で第4楽章があると知らず、コーラスが始まる前に演奏をやめてしまうようなものだ。

アウトカムが不明なら、
臓器提供を勧めるのは一時見合わせモラトリアムということに。

そして臨床医には患者が昏睡状態からどちらに向かうかを見極めるよう勧めたい。

それがわかって初めて、予後が見えてくる。
それで初めて家族も、生命維持について決断するための情報が得られるはずだ。

待つことは家族や代理人にとっては辛く苦しいだろうが、
それだけ意志決定プロセスでの説明や話し合いの機会も増えて、
そのプロセスが患者と家族中心のものとなる。

そういうプロセスを経た上での臓器提供の決断であれば、
誘導されたものでも強要されたものでもないインフォームされた愛他行為として
ドナーの側にとってもレシピエントの側にとっても明明白白となり、
臓器提供にまつわる罪悪感が軽減される。

何よりも、マーケットがドナー側を侵食している昨今、
我々はそうしたスタンダードの確立に向けて努力しなければならない。



ここで指摘されている
「外見的には同じことが起こっているように見えても、
脳損傷の患者の昏睡は、終末期の患者が意識を喪失するのとは別もの。
終末期の患者では死の前触れだが、脳損傷の患者では回復の第一段階の可能性がある」は
非常に重要な指摘と思います。

そして、この論文について生命倫理学者たちは口を開かず黙殺している、と
Not Dead Yetの Comelam と Drake は冒頭でリンクした記事で批判していたのでした。
2012.07.20 / Top↑
今朝の朝日新聞に、
人体組織が闇で売買されている問題が大きく取り上げられていましたが、

2005年段階で既に英語圏では
米国発・世界規模のおぞましいスキャンダルが報じられていたので
「介護保険情報」の連載で書いた記事を紹介した09年7月30日の過去エントリー、
バイオ企業と結託した葬儀屋が遺体から人体組織を取りたい放題を以下に再掲――。

(元エントリーには、足を切断した後で骨盤にパイプを取り付けられた遺体のレントゲン写真を
検察が提示しているUSAToday記事からの写真があります)

             -------


2006年、米国で大きなスキャンダルになった事件。

私が英語ニュースをチェックし始めたのは2006年6月のことでした。
USA Todayのこの記事に気づいたのは、その直後。まだ何も知らなかったので、
この奇妙なレントゲン写真は、一生、鮮明に記憶に残るほどに衝撃的なものでした。

ニューヨークの検察局が、ある事件の記者会見で公開している、
この珍妙なレントゲン写真、一体なんだと思いますか?

バイオ企業と結託した葬儀屋がホールの裏でこっそり脚を切り取り、
その代用でパイプにズボンをはかせて棺に入れていた遺体のレントゲン写真――。

一味にこっそり臓器や組織を抜き取られた遺体が何百もあったというのです。

私は、この異様な写真に目を奪われて、この事件を調べることによって初めて、
世界って実はこんなにも怖い場所になっていたのか……と
ものすごい衝撃とともに発見したような気がします。

このブログを始めたのは、その半年後のAshley事件があってからなので
この事件のことは、うっかりアップしていませんでしたが、
こちらの事件で思い出していたところにたんたんさんのコメントのおかげで
そうだ、この事件もアップしなきゃ、と、その重大性を改めて考えたので、

「介護保険情報」誌2008年6月号に、
まだドキドキしながら書かせてもらった連載第2回目の一部を以下に。

葬儀場で遺体から
人体組織を採りたい放題

最近は自宅での葬儀など滅多になくて、荘厳なセレモニー・ホールを備えた葬儀場で執り行われることが多くなった。あの葬儀場の奥に実は解剖室があって、そこで遺体が密かに切り刻まれていて………などと真顔でいったら、「まさか」と一笑に付されることだろう。しかし、まるで出来の悪いB級ホラーのようなこの話。まぎれもなく現実に起こった事件なのだ。

一連の報道によると、主な舞台はニューヨーク。主犯は、かつてコカインの使用で医師免許を返上した経歴を持つ元口腔外科医である。当時のコネを生かして、その後バイオ企業を設立した元口腔外科医は、葬儀屋と共謀のうえ、葬儀場奥の「解剖室」で親族に無断で遺体から組織を採取していた。

去年の秋に事件が発覚するまで犯行は約5年間にわたり、被害にあった遺体は何百にも及ぶという。採ったのは皮膚、骨、腱、心臓の弁などなど………。心臓死前後に採らなければ使い物にならない臓器と違って、こうした人体組織は死後48時間以内の採取でよいらしい。一体分の組織から7000ドルもの利益を得ていたという報道もある。

事件の発覚で、埋葬された遺体を掘り起こしてみたら、下半身が跡形もなく採り去られたものまで出てきた。棺に入れてもバレないように、脚の代わりの配管パイプがネジで骨盤に取り付けられていたという。検察当局は主犯を含む4人の起訴を発表する記者会見で、この遺体のレントゲン写真を公開している(USATODAY 6月12日)。なんとも奇妙かつ不気味な写真である。

そして問題を深刻にしているのが、元口腔外科医らは親族の同意書を偽造しただけでなく、組織の安全性のスクリーニングを行わなかったことだ。年齢と死因を都合よく偽った書類をつけて、安全が疑わしい人体組織を加工会社に持ち込んだのである。それらの組織から加工された医療製品は、今のところアメリカ国内とカナダに流通したものと見られている。

FDA(食品医薬品局)は事件報道を受けて、汚染の可能性のある医療製品の回収を命じたが、膝や歯のありふれた外科的治療も含め、治療に使用された場合には、梅毒のほか、HIVや肝炎に感染する恐れまである。

カナダでは被害に遭った患者が3月に集団訴訟を起こした(canada.com 3月23日)。また、汚染した医療製品が流入していないとされるオーストラリアでも、疑わしい治療を受けた患者に関係機関が個別に確認をとったり(THE AUSTRALIAN 6月6日)、ニュージーランドでも医師が個人的に購入した商品に不安の声が上がる(ニュージーランドのニュースサイト stuff.com6月23日)など、事件発覚から1年半経って、波紋はなお広がっている。

それにしても、この事件のことを調べていて、あるキーワードで検索をかけたところ、ヒットした中に弁護士事務所のホームページが並んでいたのには、びっくりした。こぞって事件の概要を詳細に語り、「もしもあなたが被害に遭っていたら、訴訟はぜひとも当方で。ご相談、ご連絡はこちらまで」などと呼びかけている。全貌が手軽に分かりやすいので、事件に興味のある方には、むしろこちらの弁護士事務所のサイトをお勧めしたいくらいだ。

そういえば、こういう弁護士のことを英語では ambulance chaser という。「霊柩車の追っかけ」が起こした醜悪事件に、「救急車の追っかけ」が、ヨダレを垂らして群がっていく──。それも、どこやらアメリカン・ホラーではなかろうか。

「介護保険情報」2006年8月号
「世界の介護と医療の情報を読む」 ② 児玉真美
 P.82-83
2012.07.20 / Top↑
昨日以下のエントリーで
HCR掲載のBill Peaceのエッセイを紹介しましたが、

あのBill Peaceが病院で「死の自己決定」を教唆されていた!


このエッセイは公開で意見が募集されて
へースティング・センターのブログを通じてPeace自身もそこに参加するとのこと。

最初の反応として、
Not Dead YetのDiane Coleman とStephen Drakeとが
7月11日付で論考を寄せています。

Comfort Care as Denial of Personhood


大まかな論旨は

生命倫理の界隈の人や昨今の終末期に関する議論を知っている人なら、
Peaceのエッセイを読んで、さほど驚くとも思えないし、
これに類する話が他にもいっぱいあることくらいは想像がつくだろうけれど、

Peaceのエッセイで最も驚くべきは
それが生命倫理学のジャーナルに発表されて、
一般も参加できる議論が行われていることである。

これまで生命倫理学者は
専門家の議論に一般人が加わることはないと言わんばかりに場を閉ざしてきたし、

3年前に四肢マヒの女性Terrie Lincoln(19)があわや安楽死させられそうになったけれど
その後、回復して今では母親となっている事件でも、

へースティング・センターの理事でもある神経科医のJoseph Fins医師が
脳損傷の患者から治療が不当に引き上げられているとか、
臓器提供への圧力までかかっている、と
去年から今年にかけて発言を続けたことについても、

また今年5月のNDRNによる
障害者への一方的な治療の差し控え途中の実態報告と批判についても、
(この報告書についてはエントリーがすでにかなりあります)

生命倫理学は反応しないままできている。

2007年からペンシルベニア州で
重症障害者の肺炎の際の救命治療差し控えを親が求めている訴訟についても
あのArt Caplanですら、おひざ元の出来事だというのにコメントしない。

そうした現状があるだけに、
Peaceのエッセイが生命倫理のジャーナルで議論になること自体が珍しいことなのだ。

Peaceに死の自己決定を教唆した医師は、
もしかしたら去年NY州で施行された緩和ケア情報法のことを知っていたのではないか。

命の危機にひんしている患者には医師は終末期医療の選択肢について説明する義務があると
定めたこの法律が議会を通過したのはPeaceが入院していた2010年のことだった。

しかし、あなたはターミナルだとか、重症の障害を負うことになるかもしれないと聞かされて
不安を抱えたまま危機的な病状で生きようと闘っている病人に、タイミングもなにも配慮せず
こんなふうに無神経に終末期の選択肢の話を持ち出すことが医師の義務だというなら、

そんな法律には障害者コミュニティは反対する。

緩和ケアの選択肢について説明するにも柔軟にタイミングを選び、
患者と家族には多職種でのチームとしてアプローチし、
身体的サポートのみならず心理的なサポートも行うことを重視するよう
この法律は書きかえられるべきである。


Terri Lincolnのケースとは、

3年前に交通事故で意識不明となった19歳の女性について
医師は、重症障害を負うくらいなら人工呼吸器を外すよう親に繰り返し勧めた。

Terriさんが意識を回復してからも、医師らは苦しまずに死なせてあげると説得を試みたが、
Terriさんと家族は抵抗し続けた。

10年たった現在、Terriさんには娘がいて、
電動車いすを使い、毎日の介護サービスを利用して幸せに暮らしている。


ペンシルベニアのケースとは、

グループホームで暮らす男性が
肺炎から一時的に人工呼吸器をつけることになった際、
両親が人工呼吸器の取り外しを求めて提訴。

裁判所はこれを却下し、
男性は肺炎で命を落とすことなくグループホームに戻った。

ところが彼の両親はさらに州の最高裁に上訴し、
もしも次に同じような事態が起こった場合には治療を差し控えてほしいと訴えた。

2010年の判決で、最高裁もこれを却下。


Dr. Finsの去年の発言については
ColemanとDrakeがリンクしているNYTの記事を
当ブログでも以下のエントリーで紹介していました。

睡眠薬による「植物状態」からの「覚醒」続報(2011/12/7)


ICUの患者や家族に対して、
あまりにも剥き出しに臓器提供へのプレッシャーをかけるやり方が納得できないので
自分は臓器獲得組織の理事を辞任せざるをえない、

助かった患者の家族からも、
生命維持を中止して臓器提供しろと圧力があった、との報告を複数受けている、
などのFins医師の発言については

もう一つのリンク先を読んだ上で、
改めてエントリーを立てたいと思います。
2012.07.20 / Top↑
アシュリー事件に関して2007年当初から一貫して「アシュリーは私だ」と言い
重症障害者だけの問題ではない、障害者みんなの問題だと
批判を続けている障害当事者のWilliam Peaceが

辱そうを感染させて長い間寝たきりとなって
自宅で訪問看護や介護を受けていたことは去年、
彼自身のブログで読んで知っていたのですが、

一昨年その治療で入院した際に
ま夜中にやってきた医師から治療を放棄して死ぬよう、教唆を受けていたとは……。

Peaceはその場で「治療はしてほしいし自分は生きたい」と強く答えたものの、
その時の恐怖も、その後の恐怖もあまりに大きくて、これまで誰にも
その経験について語ることができなかったと言います。

今回、Hastings Center Reportに発表したエッセイで
その詳細を明かし、これは自分だけに起こった例外事例ではなく、
障害者はずっと病院を敵意に満ちた危険な場所だと感じてきたし、
障害者を正常からの逸脱としか見なさない医師らは
障害のある患者のいうことには耳を傾けないというのも
障害者がみんな感じてきた不安でもある。

自分に「治療を拒否するなら苦しまずに死なせてあげる」とほのめかした医師を含め、
こうした医療職の障害者への無理解・無神経な扱いは、
医療が障害者の生を価値なきものとみなし、
障害のある生を生きるよりは死の方がマシだとの
価値意識が根深いことの証である、

障害学はこの点で多くの仕事を成してきたのだから、
医療の専門職が本当に頭が良いなら障害者の発言から学ぼうとするはずなのに、と
エッセイを結んでいます。

冒頭、小説のような筆致で生々しく描かれる医師の教唆場面の概要とは

長い入院の挙句、感染した傷の状態が悪化し、そこへMRSAの感染まで重なって、高熱を出し、意識も朦朧として、おう吐し続けていたPeaceは、それでも17歳で半身まひになって以来ずっと医療と付き合ってきた者として、今の状態は悪いにせよ命がどうこうという事態ではないことは分かっていたという。

夜中の2時、これまで見たことのない医師が看護師を伴って入ってきた。

看護師に薬を取りに行かせて2人きりになると、その医師はまず、自分の病状の深刻さを分かっているか、と聞いた。分かっていると答えると、

これから半年、もしかしたら1年以上もあなたは寝たきりになる、もしかしたら傷がこのまま治らない可能性も高い。そうなったら、あなたは二度と車いすには乗れないし、仕事もできない、生涯に渡って全介助の生活になる。医療費もかさんで、あなたは破産しますよ。治癒する前に保険は切れるし、このタイプの傷ができた人はたいていナーシング・ホーム行きになります。

強力な抗生剤を使っているので、臓器がやられる可能性があり、腎臓とか肝臓はいつ機能不全になっても不思議はない。傷が解放性だし、深くて元の感染が酷いから、そこへMRSA感染となると命が危ういし、マヒのある人がこういう事態になると多くは死にます。

そう語った後で、医師は抗生剤の投与はあなたの意志によるものであり、あなたの意志のみによるものです、あなたには薬の投与をやめる権利があります。命を救うための抗生剤をやめる権利もあります。もしも現在の治療の続行を望まないなら、苦痛を取り除いてあげます、と言った。

ここでPeaceは次のように書いている。

Although not explicitly stated, the message was loud and clear. I can help you die peacefully. Clearly death was preferable to nursing home care, unemployment, bankruptcy, and a life-time in bed.

はっきりと言葉にしなくとも、メッセージは明らかだった。穏やかに死なせてあげますよ。だって、ナーシング・ホームに入って、失業し破産して、一生寝たきりになるくらいなら、死んだ方がマシでしょう、と。


Comfort Care as Denial of Personhood
William Peace
The Hastings Center Report 42, no.4 (2012):14-17, DIE 10.1002/hast.38


ちなみに、このエッセイ、タイトルは「人格の否定としての緩和ケア」。

Bill Peaceのエッセイの趣旨は、
現在少しずつエントリーにしているNDRNの報告書の趣旨とも
また1年がかりで読んだアリシア・ウ―レットの「生命倫理と障害」の主張とも同じ。

ちなみに、Bill Peaceが障害者に対する医療の偏見を象徴する事例として挙げているのは
Larry MacAfee事件、David Rivlin事件、Dan Crews事件と Christine Symanski事件。

このうちLarry MacAfee事件は
ウ―レットの「生命倫理と障害」第6章でとりあげられており、
当ブログでも以下のエントリーでとりまとめています ↓
(そこで類似事件としてRivlin事件が触れられています)
Oulette「生命倫理と障害」第6章:Larry MacAfeeのケース(2012/3/31)


またSymanskiさんについては
今年2月17日の補遺でThaddeus Popeの記事を拾っていました↓
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64761787.html



【その他関連エントリー】
医療職の無知が障害者を殺す?(2008/4/23)
「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失



              ―――――――――


ちょっと偶然が重なったので、余計に気になることとして、

Peaceに治療拒否を教唆した医師は hospitalist と説明されています。

実は hospitalist については先月、
米国の介護者支援の文脈で知ったばかりでした。

導入は90年代だったようですが、
最近になって急速に普及してきた総合医のことで、
医療が高度に専門分化し多職種の関与で複雑化する中、
入院患者の入院中の医療をコーディネートし、
退院までをトータルにサポートするというのがコンセプトのようなのですが、

私が出会ったのは家族介護者に向かって
医療職との望ましい協働のために、というアドバイスのページで、

最近の病院はとにかく早期退院だから、介護者はそれを十分に念頭において
医療職と適切なコミュニケーションを図ることが重要だと強調する
その内容から受けた印象では上記のコンセプトは建前に過ぎず、
医療資源の効率的な使用と病院の利益のために
特に重症患者の早期退院に向けて尽力する職種、という感じも。

そのページはこちら ↓
What Is a Hospitalist? A Guide for Family Caregivers
Next Step in Care
Family Caregiver & Health Care Professionals Working Together


これについてまた改めて取りまとめたいと思っていますが、
日本でもホスピタリスト導入に向けた動きがあるようです。

Peaceのエッセイから推測するに
早期退院に向けて尽力する、だけではないみたい……?
2012.07.20 / Top↑
7月11日の補遺で拾って以降、ずっと関連情報を補遺に取り上げているオランダの安楽死の実態調査データについて、BioEdgeもLifeNewsと同じような指摘をしている。Lancetのリリースは一部のデータだけを取り上げて「すべり坂は起きていない」という絵を描いて見せているが、論文のデータを詳細に検討すると、致死薬を使う代わりに長期の重鎮静で死を早めているケースが増加していたり、そこでは明示的な患者の意志表示の有無が怪しかったり、公式に報告される安楽死の件数そのものはまだまだ少なかったり、むしろ懸念材料が見えてくる、と。:やっぱり10年のベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)と同じ。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10158

豪クイーンズランドの病院ICUの医師が、あまりにも残酷な人工呼吸器停止で問題に。意識のある83歳の女性患者のところへきて家族の前でいきなり「選択肢は3つです。1つはあなたの人工呼吸器を外します、あなたはすぐに死にます。次に、部屋と同じ濃度にします。あなたは意識不明になって死にます。3つ目はこのままにしておくとあなたの臓器はダメになって3日か4日で死にます。ご家族とお話しください」といって去っていった。そしてその晩のうちに勝手に人工呼吸器のスイッチを切り、患者が苦しんでいるのに気付いたナースがスイッチを入れたが間に合わず死亡。相次ぐクレームを受け医療委員会が調査したが、ICUで働かないことを条件に医師免許は剥奪せず。医師が医師を調査する委員会では機能していない、との批判も。
http://www.abc.net.au/news/2012-07-10/doctor-accused-of-ended-patients-lives-prematurely/4122522

ピーター・シンガーのJerusalem Postのインタビューについて、BioEdgeが取り上げていて、その最後の部分で、Singerが最近最も関心を寄せているのがグローバルな貧困の問題で、慈善によって解消までは無理にしても大きく軽減できると語っているのが印象的。去年のMaraachli“無益な治療”事件でPeter Singerが「同じゼニ出すなら、途上国の多数を救え」(2011/3/22)と、ワクチンに触れていたことを思い出す。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10155

ゲイツ財団がGM農業研究に巨額のグラントを決めたことに批判が出ている。
http://www.independent.co.uk/environment/green-living/anger-after-bill-gates-gives-6m-to-british-lab-to-develop-gm-crops-7945448.html

【関連エントリー】
“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業”を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AFRAの繋がり(2011/10/27)
TPP進める経済界のトップ、やっぱりぐるっと廻って“ゲイツつながり”(2011/10/27)
EU政府も欧州委員会もアフリカでの新薬開発実験でゲイツ財団のパートナー(2012/1/25)

英国政府から資金提供を受けて行われる科学研究については2014年までに全ての文献がオンラインで公開されることに。
http://www.guardian.co.uk/science/2012/jul/15/free-access-british-scientific-research?CMP=EMCNEWEML1355

英国で不況の影響から中高年男性の自殺が増えている。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/jul/15/suicide-rise-older-men?CMP=EMCNEWEML1355

英国の介護者支援制度の強化を含めた社会ケアシステム改革案関連。
http://www.oxfordtimes.co.uk/news/9817379.MP_welcomes_care_reform/
2012.07.20 / Top↑
生殖補助ツーリズムのメッカとなっているインドで
2010年、15歳の時から3度目の卵子提供の直後、
腹痛を訴えたSushma Pandyさん(17)が、2日後の8月10日に死亡。

Pandyさんが卵子を提供したのは
世界的にも有名なクリニック、the Rotunda Center。

Pandyさんの両親は娘の卵子提供については知らなかったと言い、
ガーディアンと自称してクリニックにつきそった女性はそのまま姿を消しているし、
どうやら男性2人も関わっていたり、クリニックには偽造書類が提出されていたなど
不可解なことが多いにも拘らず、

今に至るまで誰も逮捕起訴されていない。

卵子提供は25000ルピーになるので
Pandyさんは3回で75000ルピーを手にしたはずだが、
そのカネも消えてしまった模様。

インドのIVFクリニックが無規制で野放しになっている問題が
改めて浮き彫りに。

Eggsploitationというドキュメンタリーを作成したプロデューサーは
「Sushma Pandy に起こったことは世界中の女性に毎日起こっていることです。
生殖補助産業は健康リスクの深刻さを知っているのに、単に儲けが減るというだけで
監督にも長期的調査にも規制にも反対している」

17-year-old Indian girl dies after egg donation(2012/7/14)


【関連エントリー】
インドの生殖医療ツーリズム(2008/8/12)
インドの70歳女性、体外受精で初産(2008/12/9)
グローバル化が進む“代理母ツーリズム”(2011/1/29)
2012.07.20 / Top↑
先月のカナダBC州最高裁からPAS禁止に違憲判決で、連邦政府が上訴を決定。
http://www.torontosun.com/2012/07/13/feds-to-appeal-assisted-suicide-ruling
http://www.vancouversun.com/news/Federal+government+will+appeal+assistedsuicide+ruling+justice/6930370/story.html

Ashley事件を一貫して批判し続けてきた障害当事者のBill Peaceが、HCRに去年の彼自身の重症の辱そうを巡る医療体験(これについてはPeaceは自分のブログにリアルタイムで書いていた)から、障害者への緩和ケアへの誘導・教唆の実態についてエッセイを書いている。また、へースティング・センターのブログには、それを受けてNot Dead Yet のDiane ColemanとStephen Drakeとが論考を寄せている。Peace自身が「辱そうがひどいから治療してもQOLは元に戻れない」という理由で緩和ケアへとやんわりと、しかし執拗に誘導を試みられていたというのは、私にとってもショック。まだちゃんと読めていないけど、これは必読。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hast.38/abstract
http://www.thehastingscenter.org/Bioethicsforum/Post.aspx?id=5913&blogid=140

12日の補遺で拾った「携帯会社がFBIや警察に利用者情報を渡している」記事の続報。ProPublicaとNYT. 「電話じゃない、追跡装置だよ」と。
http://www.propublica.org/article/thats-no-phone.-thats-my-tracker

メリンダ・ゲイツの「途上国に避妊と家族計画を」キャンペーンについてLATimes記事。メリンダさんと英国のキャメロン首相が、国際会議の期間中に活動家と話している写真あり。そういえば英国政府はワクチンでもゲイツ財団のキャンペーンへの最大の協力者だった(去年の「途上国へのワクチン費用400億ドル国際会議」の舞台もロンドン) ⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/63465244.html
http://www.latimes.com/news/opinion/opinion-la/la-ol-gates-contraception-vatican-20120713,0,335589.story
2012.07.20 / Top↑
NDRN報告書のP. 21より、
知的障害者への強制不妊を人権擁護団体の介入が阻止したケースの概要を。

2008年の事件。

2008年に母親が産婦人科医を訪れ、
知的障害のある娘カルメン(22)は生理が重く、生理痛もひどく
頻繁に尿路感染を起こす、自分でケアできない不衛生が原因で
腎臓に感染が起きて、既に片方の腎臓は摘出しているし、

腎臓でかかっている娘の主治医は
今度尿路感染を起こしたら命の危険があると言っている、との理由で不妊手術を希望。

産婦人科医はカルメンを診察する前から、
部分的な子宮摘出手術に同意した。

The North Dakota Protection & Advocacy Project(ND P&A)が
カルメンの母親と産婦人科医と話したが、
カルメンの人権について納得してもらうことはできなかった。

そこでND P&Aは代理人裁判所へこの問題を持ち込み、
審理では自らがカルメンの代理人となった。

ND P&Aが証人として呼んだのは
カルメンの介護サービスを提供している事業所の看護師で、

カルメンのケアの記録からは
生理は重くはないし、異常なほどの生理痛もないし、尿路感染もなく、
プロの介護を受けて生理のケアが不衛生になることもないし、
腎臓の専門医から不妊手術を進められている事実もない、
本人は産婦人科医の診察を恐れており、
不妊手術は嫌だと言っている、と証言。

裁判所は手術を禁じた。


これを読んで、私が思い浮かべるのはやはり
2010年3月のオーストラリアのAngela事件。
(詳細は文末にリンク)

一見すると、
生理が異常なほど重くて、貧血やけいれん発作を引き起こしていて
それが命にかかわるほどになっていると読めるのですが、

よくよく読むと、
けいれん発作も貧血も現在は収まっていて
書かれているような「健康問題」も「命の危険」もどこにも存在しない。

でも、それが存在するかのように
マヤカシと隠ぺいのトリックを駆使して書かれている。

何がそう「読める」んであり「書かれている」のか、というと、
他ならぬ判事による判決文だから、びっくりで、

それが何よりもこの事件の最大のミステリー。

だからAngela事件は
上記のカルメンのケースとはまったく次元の違うタチの話ではあるのだけれど、

そこに共通しているのは、

知的障害者や重症児・者の強制不妊手術を受け入れやすい文化が
医療を中心に、社会の中にまずあって、

その文化は強制不妊が人権侵害だとの意識自体が低いために、

「健康問題」とか「本人のため」という正当化を持ちだされると
個別の事実関係に即して丁寧にそれを検討するプロセスをすっ飛ばして
簡単に説得されてしまう人たちがいる、という点。

これはアシュリー事件での
生理が始まってもいない段階から「生理痛を予防する」とか
「万が一レイプされた時の妊娠予防」などという正当化論に
簡単に説得されてしまう人が少なくなかったことにも通じていく。


もう一つ、頭に浮かぶ英国の事件がこちら ↓
英国で知的障害女性に強制不妊手術か、保護裁判所が今日にも判決(2011/2/15)

ちなみに世界医師会からは去年、以下のような見解が出ています ↓
世界医師会が「強制不妊は医療の誤用、医療倫理違反、人権侵害」(2011/9/12)



【Angela事件関連エントリー】
豪で11歳重症児の子宮摘出、裁判所が認める(2010/3/10)
Angela事件(豪):事実関係の整理(2010/3/10)
Angela事件の判決文を読む 1(2010/3/11)
Angela事件の判決文を読む 2(2010/3/11)
重症児の子宮摘出承認でダウン症協会前会長・上院議員が検察に行動を求める(豪)(2010/3/13)

Angela事件の判決文は、Ashley論文(06)と同じ戦略で書かれている 1(2010/3/17)
Angela事件の判決文は、Ashley論文(06)と同じ戦略で書かれている 2(2010/3/17)
2012.07.20 / Top↑
Lancetに途上国で周産期の妊婦の死亡率を下げるには避妊・家族計画が有効、という論文。コメントもその大半はメリンダ・ゲイツが発言したばかりの内容を後押しするものがずらり。避妊が女性のエンパワメントだとか命を救うとか、貧困や人口成長の解決策だとか。:Lancetってあまりにも分かり安くって、時々思わず笑ってしまう。もともとグローバル・ヘルスとHPVワクチンの話題が大好きみたいだけど、早産や未熟児にかかるコストや予防方法の研究に男児の包皮切除の病気予防エビデンス、今度はメリンダさんが英国政府と国際会議を共催して途上国で避妊と家族計画を推進するとぶち上げたタイミングを計ったように、これ……。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960478-4/fulltext?elsca1=ETOC-LANCET&elsca2=email&elsca3=

【関連エントリー】
Lancet誌はゲイツ財団に買収された?(2008/4/13)
Lancet誌とIHMEのコラボとは?(2008/4/25)
Lancet誌に新プロジェクト IHMEとのコラボで(2008/7/1)

早産・死産撲滅に、シアトルこども病院がゲイツ財団、ユニセフ、WHOと乗り出す(2009/5/14)
未熟児を産ませず、生まれても救命しないための科学的エビデンス作りが進んでいる(2009/6/10)
Lancet最新号はゲイツ特集か:HIV二死産にHPVワクチン、それからこれはコワいぞ「グローバル治験条件緩和」(2011/5/9)


Guardianがカトリック教徒であるメリンダ・ゲイツの避妊キャンペーンを「ヴァチカンとの闘い」と捉えて書いている。昨日からタイトルは書きかえられたけど。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/jul/11/melinda-gates-challenges-vatican-contraception?CMP=EMCNEWEML1355

新生児死亡率の人種間格差。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/247695.php

同じ薬を薬局で買うと1錠35セントなのに、医師が処方すると3ドル25セントになるマージンの不思議。60セントの薬が3ドル33セントになるのも(これ、ソーマという筋弛緩剤。ソーマといえばハクスリーの「すばらしき新世界」に出てくるハッピー・ピルなんだけど、そういう名前の薬が実在するんだぁー)。で、こういう差額が保険会社につけ回されて医療費を押し上げている。
http://www.nytimes.com/2012/07/12/business/some-physicians-making-millions-selling-drugs.html?_r=2&nl=todaysheadlines&emc=edit_th_20120712

オランダの安楽死実態調査論文を受け、LifeNewsサイトに、「オランダの医師は重鎮静で自殺幇助を誤魔化している」との批判。論文本文を読むと、Lancetのリリースには扱われていないデータから様々に複雑な実態が見えてくる、と。
http://www.lifenews.com/2012/07/11/dutch-doctors-use-deep-sedation-to-hide-assisted-suicides/

米国の検死制度の怠慢と機能不全を暴いているProPublicaのシリーズ最新記事。2004年に腎臓結石の手術で入院中、鎮痛剤を出された直後に心臓マヒで死んでいるのが発見された男性(61)。病院側は男性の心臓を今だに保管していて、妻に返そうとしない。検死が行われるのは病院死の5%のみで、遺族側には死因が分からないままというケースが少なくない。
http://www.propublica.org/article/cardiac-arrest-hospital-refuses-to-give-widow-her-husbands-heart

前から指摘されている問題だけど、高齢者施設に無資格だったり、前科のある可能性がある人までが介護者として雇われている。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/247688.php

英国で28回もバスに乗車拒否されたという車いすユーザーの抗議を受け、障害者問題担当大臣が公共交通機関に障害者への対応改善を指示。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/jul/11/row-wheelchairs-buses-minister-attitude?CMP=EMCNEWEML1355

アイルランドに10歳未満のヤング・ケアラーが2000人という調査結果。
http://corkindependent.com/stories/item/10403/2012-28/Over-2000-carers-under-10

日本。尊厳死法案、「仕切り直し、一から議論を」-障害者団体、終末期の定義を疑問視
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/37662.html

日本。自閉症の小6男児にいじめ…「死にたい」と転校 小学校側は当初認めず
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120713/crm12071312070018-n1.htm

日本語。自由であり続けるために20代で捨てるべき50のこと(サンクチュアリ出版)のまとめ
http://bukupe.com/summary/5359
2012.07.20 / Top↑
その後、報告書中盤で書かれているのは
① 障害当事者らによる専門家委員会について
② これら無用な医療介入による人権侵害に関する考察

①NDRNとDRWとは、この報告書のために
2012年春に5つのそれぞれ別の専門家委員会を開催している。

開催地は4つの委員会がシアトルとワシントンDCで、
一つは会議電話によるもの。

だいたいの会議は2時間半で行った。

メンバーの障害像は
コミュニケーションに障害のある人や重症障害者を含め、多様。

議論されたのは、A療法のほか、より広く、
障害のある人への医療、医療職や医療の意志決定と障害者など。

ここでのA事件についての批判は
おおむねこれまでに出てきたものと同じですが、
いくつか特に目を引かれた点を挙げておくと、

・車いすやその他の自助具があれば障害者も社会に貢献する生活が送れることを
両親も学ぶべき。

・将来的にアシュリーが自分にはどうして乳房がないのか悩んだ時に
親は何と説明するのか。

(このあたり、アシュリーの障害像について発言者自身が十分な理解に至らないまま
自分の障害を基準に考えていると感じられる点がちょっと気になるところ)

・テクノロジーが進めば、アシュリーだって意志疎通ができたり動けるようになったり
子どもを産み育てることだって可能になるかもしれない。

(報告書を通じて、
支援テクノロジーへの過剰な期待が感じられる点も、ちょっと気になりました)

・医師は日頃から障害のある患者のいうことに耳を傾けようとしない。

・医師はこちらの理解力の程度を勝手に決め付ける。

・医師は障害者を実験に使う。

・医師は自分では障害者のことを分かっていると考えているが
実際には障害者が生活するナマの姿を見たこともない。

・医学教育の中に、障害について学ぶ内容が必要。


②無用な医療介入による人権侵害に関する考察

ここでも概ね07年のWPASの分析と同じく、
米国の憲法、リハビリテーション法やADAなどの連邦法、州法などの制限によれば
これらの介入は違法であるとし、

それにも関わらず、医療機関や倫理委、審査委員会、裁判所までが
最善の利益論で認めてしまっている実態を非難するとともに、

差別撤廃に向けた、これらの法の精神を尊重する重要性を説き、

連邦法が定めているのはあくまでも最小限の保護だとして、
州法や市の条例によって障害者への保護強化のために法的措置を訴えている。

ただ、具体的に求めているのが
意志決定プロセスに障害者による代理と敵対的審理を義務付けるセーフガードの保障なのか
A療法、強制不妊や一方的な治療の差し控えと中止への直接的な法規制なのかについては、ちょっと曖昧。

私には前者のように読めるのですが、それならその主張は
07年段階の「裁判所の命令なしには違法。これは乳房芽切除でも成長抑制でも同じ」という立場とは
どのように整合するのか

(もっとも07年の報告書にも
「実際に裁判所の判断を仰いだとしたら却下されたかどうかは分からない」とも書かれていました)

それとも本来は違法であるはずのA療法が
まともな手続きなしに一般化されている現実を後追いせざるを得ないために
こういう書き方になっているということなのか?

全体の構成を含め、どうも、あちこちで、
イマイチ論理的にすっきり判然とせぬ報告書ではあります。


【NDRN報告書関連エントリー】
障害者人権擁護ネットから報告書「“A療法”・強制不妊・生命維持停止は人権侵害(2012/6/20)
障害者の人権を侵害する医療への痛烈な批判: NDRNの報告書「まえがき」(2012/6/22)
障害者への医療の切り捨て実態 7例(米)(2012/6/26)
DNRN報告書:概要(2012/7/7)
DNRN報告書:WI州の障害者への医療切り捨て実態 2例(2012/7/9)
2012.07.20 / Top↑
NDRNの報告書の“アシュリー療法”に関する個所から。

アシュリー事件のケース・スタディとして
06年のGunther&Diekema論文から今年3月に出てきたTom とEricaのケースまでの流れに沿って、
両親と担当医らの正当化論、それからシアトルこども病院が立ちあげた成長抑制WGの結論などを概観し、
07年のWPASの調査報告書とだいたい同じ批判が示されています。

特に目を引くのは、正当化論をいくつか引用した後の以下の下り。

これらの文章には、自分たちの考え方がアシュリーの市民権に反するのではないかとちょっとでも考えてみる意識が完全に欠落している。
(p.20)

それからTom やEricaのケースに見られるように
その後も“アシュリー療法”が続けられていることについて、

アシュリー療法がその後も行われているのは、障害者コミュニティの人々を価値のおとった存在とみなす医学モデルの偏った姿勢の証である。
(p.23)


また、今年3月にGuardian に寄せられたコメントを引いて、
「社会における能力主義」が指摘されている。
その引用の最後の一文は、

A療法が倫理的に許容されるのは、障害のある人は人間ではないと本気で考える枠組みにおいてのみである。
(p.26)


報告書は、その後、2007年以降の論争で出てきた
様々な障害者団体からの批判の論点を挙げ、さらに
無益な治療の一方的な差し控えや停止の実例を報告した後に、

「障害のある人々の視点(2012)」という項目に至り、
その冒頭で以下のように書いている。

今日に至るまで刊行された文献の多くは、重症障害のある子どもに代わって意思決定を行うのは親と介護者が最もふさわしいと説いてきたが、NDRNとDRWとしては、医療の意志決定に関しては障害者の立場を代理するのは障害のある人々の方がふさわしいと考える。
(p.33)


この後で、シアトルこども病院が07年にWPASとの間で
倫理委のメンバーに障害者を加えると合意したことに触れ、
その後、実際に障害者をメンバーに加えた、と書いている。

“アシュリー療法”その他の医学的には無用の医療介入のセーフガードとして
特に親や代理人、介護者の希望と当人の権利との間に相克がある場合には
障害の種類や重症度を問わず、本人の意見が反映されるデュー・プロセスが必要だと主張し、

障害者といえど考えは様々なので
倫理委に障害者を加えるだけでは十分ではないという指摘もあるが、

……一人ひとりの障害者がそれぞれ違うとはいえ、デュー・プロセスによる保護によって市民権と人権を守られる権利は誰にも等しい。


ここら辺りで個人的にちょっと引っかかるのは
「障害のある人の代理決定を行うのは親や介護者よりも
障害者の方がふさわしいのだ」とまで言ってしまうのは、どうなのか、という点。

その後の部分を読むと、実際に主張しているのはそこまでのことではなく、
自分で意志表示をし自分の権利を主張できない人の場合に
親や介護者が本人の権利を侵害する可能性があるなら特に、
本人だけの利益の代弁者による敵対的審理をデュー・プロセスとして補償し、
その役割に障害者を当てよ、という主張に過ぎないように思えるのだけれど、

冒頭で書かれていることとの間にギャップがあるので、紛らわしい。

私は後半の部分の主張には賛成だけど、
冒頭のように「医療について決めるのは親よりも障害者の方がふさわしい」とまで言われると
一律に言えることではないと、抵抗がある。
2012.07.20 / Top↑
ニュー・メキシコ州で医師と患者による自殺幇助訴訟。これはたぶん4月12日の補遺で拾ったニュースの続報。
http://www.healthpolicysolutions.org/2012/07/11/doctors-patient-challenge-new-mexico-assisted-suicide-ban/

昨日の補遺で拾ったオランダの安楽死に関する論文に、英米のメディアが「PAS合法化しても“すべり坂”は起きない」とのエビデンスだ、と。:オランダで緩和ケアが崩壊し、25歳以上の重症脳障害を治療する医療機関がなくなり、「宅配安楽死」制度ができてしまっている実態って、そういうデータからは見えない“すべり坂”なんでは、と私は思うのだけど。
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/9390411/Legalising-assisted-dying-doesnt-lead-to-more-opting-for-death-Lancet.html
http://health.usnews.com/health-news/news/articles/2012/07/11/dutch-euthanasia-rates-unchanged-after-legalization

ちなみに、ベルギーの実態調査データは10年に出ている。この時、ネットでは「本人の明示的な意思表示なしに致死薬が使われている」「看護師が安楽死に関与している」など、データの詳細から“すべり坂”がむしろ疑われるデータと捉える向きが多かったのに、その直後の日本の某シンポで若手研究者がこの論文から「件数割合」のデータだけを引用して、「ベルギーでは“すべり坂”は起きていない」と発表したのに、ぶったまげたことがあった。
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)

モンタナ州の自殺幇助を違法とする法案がどうなったのか確認できていなかったのだけど、あの法律は結局のところ成立しなかったみたい?
http://www.montanansagainstassistedsuicide.org/2012/07/position-statement-no-20-must-be.html

メリンダ・ゲイツさんの「途上国で避妊を」キャンペーンと英国政府と共催の国際会議関連。ゲイツ財団は今後の8年間で10億ドルを提供。でもなぜかSeattle Timesの記事の方には、途上国の貧困問題解決のために人口抑制が必要、という話は全く出てこない。
http://www.cbsnews.com/8301-504763_162-57470508-10391704/melinda-gates-promotes-birth-control-as-an-important-part-of-family-planning/
http://seattletimes.nwsource.com/html/localnews/2018659038_gates12m.html

上記の動きに、これで貧困が解決するわけがない、メリンダさんがやろうとしているのは自分の基準にそぐわない貧乏な人たちを減らすことに過ぎない、このキャンペーンは途上国の女性の利益にはならず、Planned Parenthoodのような組織を利するだけ、との批判。
http://www.onenewsnow.com/Culture/Default.aspx?id=1628854

片やビル・ゲイツ氏は、教育施策に関するフォーラムで基調講演を行い「教師は生徒に評価させるのが一番」と。
http://blogs.edweek.org/edweek/state_edwatch/2012/07/bill_gates_praises_common_core_cautions_about_bonus_pay.html

09年から10年にかけての豚インフルエンザ騒ぎで使われたH1N1ワクチンに、ギラン・バレ症候群のリスクを3倍に高める副作用の可能性。調査対象となった地域での死亡リスクは2500人に1人。
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/9389139/H1N1-vaccine-linked-to-potentially-fatal-nervous-system-condition-study.html

英国政府の後ろ向きの介護制度改革に、「去年のDillnot報告はどこへ行った?」と高齢者の憤り。
http://www.telegraph.co.uk/health/elderhealth/9393742/Elderly-betrayed-over-care-funding-reform.html

米国で携帯電話会社がFBIや警察などの求めに応じて、利用者のデータを渡した、と。去年だけでもデータを求められた回数は130万回。ProPublicaとNYT。
http://www.propublica.org/article/how-many-millions-of-cellphone-are-police-watching
2012.07.20 / Top↑