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英国でまた、妻をDignitasに連れて行って自殺させた夫に無罪放免の決定。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-wales-16701034

英国のTony Nicklinsonさんの裁判のニュース、米国でも「ロックト・イン症候群」の患者として報道。
http://yourlife.usatoday.com/health/story/2012-01-23/Briton-with-locked-in-syndrome-wants-right-to-die/52751678/1

ゲイツ財団など巨大民間団体とアグリ・ビジネスとが繋がって、カネにあかせてやりたい放題をやってきた挙句、農業関連の国際機関が資金力も影響力も失い本来果たすべき役割を果たす力を失って、公共機関と民間機関の境目が危うくなっている。この辺で総括してけじめを、というetcグループからの報告書。ざっと20ページ程度に目を通してみたところ、大筋は以下にリンクした2つで書いたような指摘。
http://www.etcgroup.org/upload/publication/pdf_file/ETComm108_GreedRevolution_120117.pdf

【関連エントリー】
「アグリビジネス」の後ろにはワクチン推進と同じ構図が見える(2011/10/5)
“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業“を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AGRAの繋がり(2011/10/27)


そうした批判を受け、ビル・ゲイツが反論。GM農業改革を批判しているのは温暖化の影響を受けるわけでもない先進国の人たちだ、と。:「もうダマ」のGM技術批判への批判がこういう路線だったような?
http://www.foxnews.com/us/2012/01/24/gates-defends-focus-on-high-tech-agriculture/

遺伝子組み換え作物に含まれるバクテリアのDNAに健康リスク? :「もうダマ」もうそうだったし、クローン肉の安全性議論の際にもそういう声が多かったけど、安全性に対する懸念の声に対しては、「科学者なら安全だと分かるのに、科学について無知な連中がやみくもに不安がっている」という批判がされるのだけど、科学者の中からも安全性に疑問を呈する声は上がっている。この記事は「責任ある科学と技術の応用を求める医師と科学者 PSRAST」から。
http://www.saynotogmos.org/scientific_studies.htm

CA州で遺伝子組み換えの魚はそれと表示する法案が提出されたものの通過せず。
http://www.indybay.org/newsitems/2012/01/20/18705119.php

英国で臓器ドナーの増加率が低すぎる、と英国の臓器連盟から指摘。これでは2013年までに50%増加させるとの政府の目標は達成できないぞ、と。移植臓器って、いついつまでにこれだけゲット、と数値目標を掲げるような性格のものだった?
http://www.guardian.co.uk/society/2012/jan/24/organ-donor-rates-charity?CMP=EMCNEWEML1355

ES細胞治療に視力回復の希望? 米国では大きな期待を背負ったES細胞治療の実験が中止されたばかりだけに。
http://www.nytimes.com/2012/01/24/business/stem-cell-study-may-show-advance.html?_r=2&src=tp

【関連エントリー】
米国初のヒト胚幹細胞による脊損治療実験、突然の中止(2011/11/17)


子どもの肥満に影響している新たな環境ホルモンの指摘。Phthalatesなる化学物質。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/240639.php

子どもにもっと身体を動かせと言うなら、ウォーキング、自転車、水泳、運動場遊びにも、もっと怪我予防を、とジョンズ・ホプキンスの研究者ら。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/240613.php

【関連エントリー】
「子どもがひとりで遊べない国 アメリカ」から「メディカル・コントロールの世界」へ(2011/12/20)
「子どもがひとりで遊べない」世界から、人が「能力」と「機能」の集合体でしかない未来へ?(2011/12/21)


自閉症は過剰に診断されているのでは、との疑問。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/240649.php

相変わらず「ビタミンD欠乏症が増えている」とビタミンD売り込みに熱心な人たちがいる。:ビタミンDにスタチンにアスピリン。予防医学の売れ筋スター達。あ、もちろん忘れてはならない、ワクチン。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/240710.php

【関連エントリー】
サプリでさんざん儲けた後で「やっぱりビタミンDの摂り過ぎはよくない」って(2010/11/30)


日本語。中間層支援へ富裕層増税 米大統領が一般教書演説
http://www.nikkei.com/news/article/g=96958A9C9381959FE0E7E2E0E18DE0E7E2E3E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2

94歳の男性が入所した日に殺され、恐らくは入所者の犯行ではないかと疑われている認知症ナーシング・ホームで、5年前に監視カメラの設置が提案されながらプライバシーと尊厳の侵害になるとして計画が却下されていた、と。監視カメラが当たり前にされていきそうな気配。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/call-for-cameras-rejected/2431627.aspx?src=enews


日本。[ケア][社会保障]介護が女性の就業に与える影響についてメモ dojinさんのブログから。
http://d.hatena.ne.jp/dojin/20120124#p1

「世代別の受益と負担」を計量的に推計する世代会計論やその論壇・世間向けバージョンである世代間格差論は、(主に年金をターゲットにしているとはいえ) このような高齢者向けの公的社会保障の縮小が、家族というインフォーマルな領域に与える「負担」の影響や、男性・女性間および所得階層ごとの影響の非対称 性・異質性など、「社会全体」に与える様々な影響やその非対称性・異質性を計量的分析に組み込めていない。(ただし、これは、理論的・技術的に難しいとい うのもあるが、フォーカスが一定の仮定に基づいた「世代間格差」にあるからこそ捨象しているという側面もあるだろう。)

アボカド専門店。大阪に。
http://avocadoya.ocnk.net/
2012.01.25 / Top↑
EUの研究予算500億ユーロを握るイノベーション責任者で
アイルランドのEUコミッショナー、Maire Geoghegan-Quinn氏が
一昨日、EUの自らの事務所でビル・ゲイツと会談。

既にEU政府もEU委員会も
アフリカのサブ・サハラ地域でのHIV、結核、マラリア治療薬の臨床実験への資金提供で
ゲイツ財団と提携しており、

会談の後、Geoghegan-Quinn氏は
「欧州委員会とビル&メリンダゲイツ財団は
多くの研究ゴールと優先順位を共有しており、既に良好に協働している。
今後さらに緊密に協力していけるのが楽しみ」と。

二人はそれら臨床実験だけでなく、
貧困関連病、難病、それから食料の安定(food security)について話し合ったとのこと。

Geoghegan-Quinn meets Bill Gates for talks on aid project
Independent.ie, January 24, 2012


去年、以下のエントリーを書いた際に、私は
「途上国は、先進国がやりたい放題できる人体実験場と化しているのでは?」と書いた。

ゲイツ財団肝いり“HIV感染予防ゼリー”は「新たなタスキギ実験」?(2011/6/24)


この実験はその後、以下のエントリーで報告したように、中止になっているけれど、
このニュースでも別の治験が進行していることが言及されている。

“HIV感染予防ゼリー、”効果確認できず大規模治験が中止に(2011/12/10)


途上国が人体実験場と化しているのでは、との疑惑関連では ↓

ファイザー製薬ナイジェリアの子どももに違法な治験、11人が死亡(2009/2/1)
タスキギだけじゃなかった米の非人道的人体実験、グァテマラでも(2011/6/9)
米の科学者ら、非倫理的だと承知の上でグァテマラの性病実験を実施(2011/8/31)


そこにゲイツ財団の慈善資本主義が絡んでいるのでは、との疑惑関連では ↓

ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの(2011/3/9)
各国政府がワクチンだけで財布を閉じるなど「許されてはならない……」とGuardianがゲイツ財団の代弁(2011/6/17)
公衆衛生でマラリア死8割減のエリトリアから「製薬会社株主ビル・ゲイツのワクチン開発」批判(2011/8/2)


また、昨日の会談で協議されたという food security とは、
ゲイツ財団がモンサントなどアグリ・ビジネスとつるんで進めているGM農業改革のことでは?  ↓

ゲイツ財団がインドで目論んでいるのはワクチン普及だけでなくGM農業改革も(2011/4/16)
「アグリビジネス」の後ろにはワクチン推進と同じ構図が見える(2011/10/5)
“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業“を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AGRAの繋がり(2011/10/27)
2012.01.25 / Top↑
自殺幇助を希望して法の明確化を求めている全身性障害者のTony Nicklinsonさん(57)の裁判が始まる。:以下にリンクしたエントリーにも書いているように、私はこの人が「ロックトイン症候群」と報道されていることに、前から納得がいかない。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/jan/23/locked-in-syndrome-high-court?newsfeed=true

【関連エントリー】
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)


この情報、コワい。英国人の Dignitas 会員登録が14%も急増。老後の保険として。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/law-and-order/9028651/14-rise-in-British-members-of-Dignitas.html

【関連エントリー】
国別・Dignitasの幇助自殺者、登録会員数一覧(2010/3/1)


マンモグラフィー、実は利益よりも害の方が大きい?
http://www.guardian.co.uk/science/2012/jan/23/breast-cancer-screening-not-justified?CMP=EMCNEWEML1355

豊胸手術など美容整形の広告はもっと規制すべき、と学会医師ら。
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2012/jan/22/ban-advertising-cosmetic-surgery?CMP=EMCNEWEML1355

日本語。270グラムで生まれた赤ちゃんが退院 米
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20120123-00000005-nnn-int

クロアチア、国民投票でEU加盟へ。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/jan/22/croatia-eu-referendum-vote?CMP=EMCNEWEML1355

日本。姉病死 妹は凍死 札幌 妹、今月上旬以降に :妹さんの方に知的障害があった。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/345356.html
生活保護を相談、申請はせず…札幌2遺体
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hokkaido/news/20120123-OYT8T00677.htm?from=tw

日本。禁断の果実? 障害者雇用代行・・・:唖然……。
http://blogs.yahoo.co.jp/uchayamamingkun2000/33874619.html

日本。県「コーディネーター」配置へ:障害者向け相談窓口の担当者不足や専門性の不十分を補うため。けど、そういう問題なのかなぁ?
www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=53256

日本。知的障害者の弁護、日弁連が手引き 接見に医師同席
http://www.asahi.com/national/update/0122/SEB201201210081.html

日本。発達障害の4歳長男を殺害した母親…夫の苦悩:判決の日のニュースでも「夫や親族が近くにおり、追い詰められた状況とは言えない。命を軽視するにもほどがある」という裁判官の単純な思考回路にムチャクチャ不愉快だった。「近くにいるからこそ追い詰められる」のも家族。それにしても、この父親は、なぜ母親が長女を殺そうとした事実を曖昧にしたまま親子3人で出直せると考えるのだろう? そこのところに、母親を追い詰めていった「戸棚の中のドクロ」の匂い?
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120121/trl12012112010000-n1.htm
2012.01.25 / Top↑
今月初め、米国マサチューセッツ州ノーフォークの検認裁判所の判事が
32歳の精神障害者Mary Moe (仮名)への強制中絶と不妊手術を命じる判決を出した。

それについては、専門家らからも
近年聞いたこともない、極端すぎるなど批判が相次いでいたが、
17日、上訴裁判所が不適切だとして破棄したとのこと。

「子どもを産む・産まないを自分で決める決定権は基本的なものであり、
意思決定能力が十分でない人を含めて全ての人に当てはめられなければならない」

「誰もそこまで求めていないし、強制不妊に求められる手続きも一切踏まえていない。
何の根拠もない手続きを勝手に設定したとしか思えない」など、

上訴裁判所の判事は検認裁判所の判断を厳しく非難した。
それにより裁判は家庭裁判所に差し戻されることに。

なお女性は現在、妊娠5カ月。

Mary Moeさんは重症の統合失調症と双極性障害を診断されている。
これまでに2回妊娠したことがあり、最初の妊娠は中絶。
その後、症状の悪化による入院を経て2度目の妊娠。
男児が生まれ、Mary Moeさんの両親が育てている。

去年10月に救急病院を受診した際に妊娠していることが判明。
州のメンタル・ヘルス部局が、両親を代理決定者として強制中絶の許可を求めた。

両親は中絶が娘の最善の利益だと主張。
主治医らからも、精神障害の治療薬が胎児に悪影響を及ぼす、
妊娠継続により本人の治療が困難となる、などの意見書が出された。

本人は自分はカトリック教徒だとして中絶は望まない、と語ると同時に
現在妊娠中であることは否定。診察も拒んだ。
また、かつての中絶について聞かれると情緒的に不安定となった。

裁判所が任命した専門家は
Moeさんに自己決定能力があったとしたら中絶しないことを選択するだろうと判断したが、

検認裁判所の判事はこれを採用せず、
本人に意思決定能力があったとしたら「幻覚に惑わされないことを選」び、
中絶して治療薬を飲むことを望むはずだと判断。

両親を代理決定者に任命して、
「なだめたりすかしたり、それでだめなら策を弄してでも」
Moeさんを病院へ連れて行って人工妊娠中絶手術を行い、その後、
「このような苦しい事態が将来繰り返されないよう」不妊手術を行うよう命じた。

今回の上訴裁判所の逆転判決は多くの専門家やアドボケイトに歓迎されているが、

こうしたケースでの同意問題を研究してきたYeshiva大学の Daniel Pollackは
「我々が知っている以上に、こうした命令は出されているのでは」

かつてに比べれば精神障害者の自己決定権は尊重されるようになってきたとはいえ
事案の微妙さのため、これまでの裁判記録は公開されていない。

Court strikes decision for mentally ill woman’s abortion
Boston Globe, January 18, 2012


この判決を受けて、
生命倫理学者のArt CaplanがMSNBCに
「不妊も強制中絶も答えではない」とのタイトルで賛意の論考を寄せている。

興味深いのは
上訴裁判所の差し戻し判断そのものは妥当だと考えつつも、
その理由は間違っている、と述べていること。

NC州が過去の強制不妊施策の補償に踏み切ったばかりであることに触れて、
強制不妊の濫用の歴史の重さを語り、問われるべき本質的な問いは実は
Moeのような人は強制不妊でなければセックスを禁じられるのか、だとCaplanはいう。

しかしセックスをさせないことは不可能である。

不妊手術に同意することもできないのならば、
精神障害から回復して自己決定できるようになるまでの間、
永続的な避妊が行われるべきだろう、と。

中絶についても
重症の人に意思決定能力があった場合の望みや意思を推し量ることは無意味。

既に娘が生んだ子どもを一人育てている貧しい両親が
これ以上娘の心配をしたくないという気持ちも、
これ以上娘が産む子どもを引き受けたくないという気持ちも分かるが、
それで両親に決定権が与えられるというものでもないし、
中絶が解決策だとも思わない。

Moeの治療薬と胎児への影響の問題は、薬を減らす、またはやめればよい、
Moeも両親も子どもを育てられないなら養子に出すことが最善だろう。

Mary Moeがまた妊娠するようなことは確かに本人の最善の利益ではない。
Moe自身の意思が不明なまま胎児を殺すことは胎児の最善の利益ではない。
このケースには考えるべきことが多々あるが、
その解決策を強制不妊や本人同意のない妊娠中絶に求めるべきではない。

Sterilization, forced abortion are never the answer, bioethicist says
MSNBC, January 20, 2012


ちなみに、去年の秋に世界医師会から以下のような見解が出されています。
(それまでの当ブログの関連エントリーもこの中にリンクしました)

世界医師会が「強制不妊は医療の誤用。医療倫理違反、人権侵害」(2011/9/12)

一方、続報を追い切れていませんが、
去年、英国でも以下のような裁判がありました ↓
英国で知的障害女性に強制不妊手術か、保護裁判所が今日にも判決(2011/2/15)


英国の裁判のことを考えてみても、
Mary Moeさんの事件で私が一番気になるのは
当初の裁判を起こしたのが州の保健当局だという点――。

NC州のように過去の反省、謝罪と被害者への補償に向かう動きがある一方で、

米国のAshley事件、オーストラリアのAngela事件などを振り返ると
知的障害児・者への強制不妊手術には、一種、政治的と呼びたいような
過去への回帰の動きがあるのでは?

その動きには、どこか、
世界中に野火のように広がっていく「死の自己決定権」運動に似た
大きな政治的な意図が匂っているような気がする。

そういえばマサチューセッツ州といえばハーバード大学を擁し、
科学とテクノで簡単解決バンザイ文化の強いところでもある。

ワシントン州にゲイツ財団とつながりの深いワシントン大学があるように。


【NC州の補償問題関連エントリー】
NC州で、かつての強制不妊事業の犠牲者への補償に向け知事命令(2011/3/21)
NC州の強制不妊事業の犠牲者への補償調査委員会から中間報告書(2011/8/15)

2011年12月10日の補遺

ノース・カロライナ州の1933-1977年の優生施策の推定7600人への補償問題。人数ではヴァージニアやカリフォルニアの方が多いが、ソーシャルワーカーにまで選別の権限を与えたのはNC州のみ。犠牲者の多くは貧困層やマイノリティの若い女性や知的障害者。
http://www.nytimes.com/2011/12/10/us/redress-weighed-for-forced-sterilizations-in-north-carolina.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=tha23


2012.01.25 / Top↑
第5章「生殖年齢」でOuelletteが取り上げているのは
生殖補助医療をめぐる架空のケース。

架空のケースにしたのは、
生殖補助医療に伴う深刻な倫理問題をここでは一旦置いて
障害者の子育て能力を巡る医療サイドの偏見に議論を焦点化するため。

Bob&Julie Egan夫妻は大学で知り合って卒業後に結婚。

Julieは未熟児網膜症で目が見えない。
学生時代から杖と盲導犬を使って自立生活を送る優秀な学生だったが、
当時から時々うつ病の症状が悪化すると第三世代といわれる抗ウツ薬を飲んでいた。

何年かの結婚生活の後に子どもを作ろうとしたがかなわず、
生殖補助クリニックの予約を取ったところでBobが事故で脊損に。
何カ月かの治療とリハビリを経て電動車いすと改造車を使いこなせるようになる。

セックスは可能で精子も作られているが
障害のために射精ができないので、

新たな暮らし方が定着してきたところで
2人は改めて生殖補助医療を受けようと希望し、
かつてのクリニックを受診する。

しかし、数日後、2人はクリニックの医師から治療を断られてしまう。

その理由は、2人の障害を考えると、
生まれてくる子どもを安全に育てられると思えない、というものだった。

医師は既に弁護士に相談しており、
弁護士は以下の理由で断っても違法ではないと判断した。

① 医師と患者の関係は自発的かつ個人的なもので
法的に禁じられた理由以外であれば、医師には
その関係を選ばない自己決定権が認められている、という。

② 「直接的脅威」ディフェンスが当てはまる。
他者の健康や安全が脅かされる場合には
医師にADA違反の行為を認められている。


ウ―レットによれば、
この架空のケースを巡っては、生命倫理学も障害者運動も、
障害を理由に人工授精を認めないのは倫理的にも法的にも問題がある、
という基本認識では一致している、という。

しかし、問題は医療現場に根強い「障害者は良い親になれない」との偏見で、
この点が障害者運動からの強い批判にさらされているところ。

一つには、どのカップルに人工授精を認めるかの判断基準が全く統一されておらず、
それぞれの医師によって主観的に決められている現状がある。

そこに障害のある人は十分な子育て能力を持たないとの偏見が入り込んでいる。

その一方で、医療職にも障害者差別を禁じたADAには
例外規定や曖昧な表現があって、そこから障害者への別扱いを容認する余地が生まれ、
実際に医療職がADA違反を問われることはほとんどない。

そのため、医療における障害者差別が
医師の自己決定権の範囲に置かれてしまっているのが実情で、

生殖補助医療学会の倫理学会はガイドラインで慎重な判断を呼び掛けてはいるが
生殖補助医療ではその他の領域以上に法や倫理規定への遵守意識が希薄。

実際、法的にも、その偏見は根強く、
障害者は良い親になれないとの偏見によって親権を奪われるケースは多い。

カリフォルニア州のWilliam Carneyの裁判では
トライアル裁判所の判事は「身障のため、子どもにしてやれるのは
お話しして勉強を教えることくらい。どこかへ連れて行ったり、
一緒に野球や釣りをしてくれる親の方が子どもには良い」と述べたが、

最高裁で障害者運動の側は
子育ては身体的なケア以上のものだと親子の関係を広く捉えて
「子育ての本質は、人格形成期を通じて、それ以後にも、子どもに
親として倫理的、情緒的、知的指導を行うこと」と反論した。

障害者運動が、障害者にも、子育て能力を巡る予見なしに
障害のない人と同じ体外受精へのアクセスが保証されるべきだと主張してきた一方、

生命倫理は同じ懸念をもちつつ、
子どもと不妊の親と医療職それぞれの利益をどのように考えるかを議論してきた。

生殖補助医療学会の倫理委の結論は、大まかに言えば
障害者の子育て能力について根拠のない偏見や疑いに基づいての治療拒否を不可とし、
根拠を持って判断するなら治療拒否は医師の自己決定権のうち、というもの。

根拠が確かな理由の例としては
「未制御の精神病、子供または配偶者への虐待、薬物濫用」

障害者サイドは、
仮に障害のために親として十分に機能することができないとしても、
家族や友人、その他の支援ネットワークによって補うことは可能だと訴えている。

              ―――――

ウ―レットの考察。

生命倫理はなぜ先端技術と終末期医療にばかり興味を持って、
その途上での障害者のリプロダクティブ・ヘルスや子育てを議論しないのか。

障害のある女性が上がりにくい診察台の問題は対応するつもりがあれば解決も可能なのに
それがいつまでも放置されることの背景に、この生命倫理のプライオリティの問題がある。

生命倫理が障害者との対話を始めることによって、
これらのバリアを排除することを通じて両者の信頼関係を築いてはどうか。

その他の問題に比べれば、
障害者への強制不妊の問題では両者は一致している点が多いのも、
終末期医療やアシュリー療法に比べれば、強制不妊については
両者とも長らく議論し、その中から相手側への理解が進んできたからであろう。

医療サイドに障害者への偏見があるなら、
医療の現場に足がかりのある臨床倫理学者にこそ
医学教育や研修内容に障害者問題を含める工夫をし、
医学教育に障害者問題の専門家を連れてくるなど
その偏見を解く役割があるはずだ。

そして、
ただ診察台に上がれないというだけで
婦人科の検診を拒まれてきた障害のある女性たちの声に耳を傾け、
まずはこうした解決可能な小さな問題から一緒に取り組みつつ、
両者の対話を進め、信頼関係を築いていってはどうか。

I know how powerfully my interactions and the friendships I’ve developed with people with disabilities have changed my understanding of disability over the course of this project.

この本を書くに当たって障害のある人たちとの間に作ってきた相互関係と友人関係が、私の障害に対する理解をどれほど強力に変えてきたか、私は知っている。
(p.234)


2012.01.25 / Top↑
アフリカ向けのワクチン資金670万ドルが盗まれたり不正使用されている、とGAVI。:この手のニュースは前にもあった。どこかで拾っているはずなのだけど、すぐには見つけられなかった。
http://www.bloomberg.com/news/2012-01-19/gates-backed-vaccine-fund-says-money-stolen-misused-in-africa.html

Lancetの論説。Global health in 2012: development to sustainability.
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960081-6/fulltext?elsca1=ETOC-LANCET&elsca2=email&elsca3=segment

連立政権樹立から、NHSでの治療を18週以上待っている患者が43%も増加。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/jan/19/patients-missing-nhs-waiting-time-target?CMP=EMCNEWEML1355

NYT. 自閉症の定義が変わり、各種支援の対象から外れる人が出る?
New Definition of Autism Will Exclude Many, Study Suggests: Changes to the way autism is diagnosed may make it harder for many people who would no longer meet the criteria to get health, educational and social services, researchers say.

ナーシング・ホームで抗ウツ薬を飲んでいる認知症患者は転倒リスクが上がる。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/240492.php

レオナード・コーエンがニュー・アルバム “Old Ideas”。
http://www.guardian.co.uk/music/2012/jan/19/leonard-cohen?CMP=EMCNEWEML1355
2012.01.25 / Top↑
第5章の導入部分については、こちらのエントリーに既報 ↓
Ouellette「生命倫理と障害」第5章: 「アリソン・ラッパーの像」(2012/1/17)

Oulletteが「生命倫理と障害」の第5章(生殖年齢)で取り上げているケースは
1985年カリフォルニア州のValerieの裁判。

過去の優生思想による強制不妊の歴史への反省から
それまで障害者への強制不妊が全面的に禁止されてきた方針は、却って、
憲法の第14条修正などで保障されたプライバシーと自由の権利を侵害するとして、

条件により容認へと変わる転換点となった裁判。

Valerieは当時29歳。ダウン症でIQは30。
母親と母親の再婚相手と幼時から一緒に暮らしており、
両親はなるべく本人に自由で広い社会生活を送らせたいと願っているが
性的な関心が強いValerieが場所や相手を構わず男性に性的行為を仕掛けていくので
両親の目の届くところから外へ出しにくく、

ピルは身体に合わなかったし、
その他の方法を試そうにも本人が受診を嫌がるので、
医師から卵管結紮を勧められた、

それにより、家の外で自由に行動させてやることができ
本人のQOL向上に資する、として、両親が許可を求めたもの。


Valerie本人を代理する弁護士が任命され、
その弁護士が問題にしたのは「もっと侵襲度の低い方法で」という点と、
もう1つが「そもそもカリフォルニア州の裁判所に不妊手術を認める権限があるのか」。

前述のように、「自己決定能力を欠いた発達障害者への」不妊手術を
当時のカリフォルニア州法は全面的に禁止していたため、
カリフォルニア州の裁判所には認める権限がないこととなり、

そこでValerieの両親は
「重症障害者の不妊手術を禁じる州法は違憲」として同州最高裁に上訴。

Valerieには、可能な限り豊かで実りある人生を送る自身の利益を守るべく
子どもを産む・産まない、産まない場合の避妊方法についての決断を
両親に代理決定してもらう憲法上の権利があるかどうか、が焦点となった。

憲法が結婚と生殖の自由・権利を認めている以上、
障害のある女性にも障害のない女性と同じく
望まない妊娠をせずに満足のいく充実した人生を送る権利があり、
州法によって不妊手術が全面禁止されるならば
自分の状態に応じた唯一の安全な避妊方法を奪われる人が生じる、として、

最高裁は、全面禁止は憲法違反と判断した。

3人の裁判官が反対意見を述べたが、その理由としては以下の2点。

・Valerieの両親の不妊手術の理由こそ、かつての強制不妊の背景にあった価値観だった。
・全面禁止によってこそ自己決定できない人の利益の保護は可能。

ただし、Valerieの両親の要望は
より侵襲度の低い方法では目的が達成できないとのエビデンスが十分ではないこと、
Valerieが実際に妊娠する可能性のエビデンスが十分ではないこと、
などの理由で却下された。

      ・・・

全面禁止ではなく個別判断で、との方針転換そのものは
生命倫理学からも障害者運動からも、共に支持された、とウ―レットは言う。

両者に意見の相違があったのは、
本人以外の誰がどのような状況下で決定することができるのか、という点だけれど、

厳しいセーフガードを必要とする姿勢は
障害者アドボケイトだけでなく生命倫理学者の間でも共通している、として、
生命倫理学者Diekema、Cantor、障害学の学者 Fields、3人の議論を引用している。

Deikemaの論文についてはこちらに ↓
知的障害者不妊手術に関するD医師の公式見解(2008/8/21)

Diekemaはお馴染みAshley事件の担当医だったわけなのだけど、
A事件の正当化とは全く矛盾する彼の慎重論を知らん顔で引っ張ってくるあたり、
ウ―レットもなかなかやるんである。

Cantorの議論は、
望まない治療を拒否する権利と同じ、以下の3つの利益基準を適用し、

① 自己決定という利益
② 幸福における利益(治療決定の影響を全体的に捉える)
③ 身体の統合性を維持する利益(無用な身体の侵襲を受けない自由)

代理決定者がこの3つを十分に考慮するなら
不妊手術を選択肢にすることで障害者の尊厳の侵害が回避される、と説き、

本人利益のみを代理する法的代理人を置くことと、
独立した病院内倫理委で検討することを条件としている。

Martha Fieldは裁判所の判断を必須としつつ、
さらに「裁判官にも偏見や欠陥がある」と述べて
裁判所の審理にも厳格な基準を設けるべきだと主張。

(オーストラリアのAngela事件を思うと、これは重要な指摘だと思う)

特に、本人の最善の利益判断においては
家族や社会の利益ではなく、本人だけの利益に限定する必要を強調している。


この後ウ―レットが書いていることが、私には非常に気にかかる。

Ashleyのケースがトップニュースになるまでは、生命倫理学者らもFieldsやその他の障害の専門家と同じく、不妊手術の最善の利益検討では介護者の利益ではなく本人の利益だけを問題とするとの意見だったように思えた。アシュリー事件でのパラダイム・シフトは、今のところ、まだ強制不妊のケースでの生命倫理分析に影響してはいない。



そのAshley事件でのシフトを起こしたのは、Diekema自身――。

彼がA事件以降、強制不妊の問題だけでなく障害児・者の切り捨てに向けて
それまでの慎重姿勢からスタンスを大きくシフトさせていることを考えると、

ウ―レットがここで書いている「まだ」という一言は、決して小さくはない。
2012.01.25 / Top↑