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ずいぶん前に書いたので、
てっきりエントリーにしているものとばかり思い込んでいたら
まだだったみたいなので、早速、以下に――。

「バイオ化する社会 『核時代』の生命と身体」 粥川準二

 私が「バイオ化」という言葉を知ったのは、去年「現代思想」2月号で粥川氏による「バイオ化する社会 うつ病とその治療を例として」という記事を読んだ時だった。その言葉には、連載「世界の介護と医療の情報を読む」を通して見えてきた世界のありように私自身が感じる懸念や疑問が、より専門的な視点から見事な的確さで捉えられており、読みながら興奮を覚えた。
本書は、著者が同誌に寄せた4本の論考を大幅に加筆・修正したものに、書き下ろし原稿を加え、さらに関連書籍と映画のガイドを添付したもの。昨年の東北大震災以降、被災地に何度も足を運び、原発事故の影響についても詳細に追い掛けながら考察を深めてきたジャーナリストの視点が、最先端科学研究の発展に伴ってバイオ化する社会と、そこに潜む問題点の分析に、深い奥行きを与えている。
 副題の「核時代」の「核」もまた、原子力の「核」と、分子生物学の研究・操作の対象となる遺伝子のありか、細胞の「核」の2つを意味して重なりあう。それもそのはずだ。著者によれば、ヒトゲノム計画そのものが原爆投下後に生存者の細胞への放射能の影響を調べたことに端を発したものだという。
 著者は冒頭「死なせるか生きるままにしておくという古い権力に代わって、生きさせるか死の中へ廃棄するという権力が現れた」と表現されたミッシェル・フーコーの「生‐権力」という概念を紹介する。生きるべきものと死ぬべきものの間に切れ目を入れて支配する権力だ。それは序章でくっきりと描き出される、東北で津波によって引かれた被害を区切る線、高い放射能が検出される地域を区切る線にも象徴されている。
著者はその後、生殖補助医療技術による「家族のバイオ化」、遺伝子医療と出生前診断による「未来のバイオ化」、幹細胞科学による「資源のバイオ化」その他、先端科学の各領域を経巡りながら、そこで何が起こっているかを詳細に検証していく。そして「富む国々と貧しい国々、その中での富む人々と貧しい人々、男性と女性、健康なものと病む者との間に」線が引かれている一方で、バイオ化する社会が「人々を苦しめる社会的因子、いや社会問題を、単なる生物学的な現象へと矮小化」させ、それらの線が見えにくくなってしまう危険性を浮き彫りにする。
最後に、著者は再びチェルノブイリと福島の原発事故に戻ってくる。最終章「市民のバイオ化」だ。バイオ化された市民とは、社会のバイオ化によって人体が資源化されるにつれ、「資源としての価値を生物学的に測られ、品質管理される」存在であることを自らに引き受けていく我々一般市民の姿に他ならない。
 全体を通じて最も興味深かったのは、科学の発達によって社会にひずみが起こるのではなく、元々あった問題が顕在化させられていくのだ、との視点。そこに社会の「痛点」があることは最初から分かっていたはずなのだ。ヒトクローン胚作製研究が韓国のスキャンダルの後にiPS細胞という代替え案によって凍結されたり、津波や地震が原発を止め、いずれ脱原発に向かったとしても、それらは粘り強い議論と検討による結果ではない、との指摘は重い。
代替え案に飛びつく過ちを繰り返さないために、著者は警告する。「バイオ化する社会の『痛点』から目をそむけてはならない」と。

「介護保険情報」2012年6月号
2012.10.24 / Top↑
シカゴで、子どもがまだ生きているうちから死亡宣告されてしまった親Sheena Lane and Pink Dorseyさんが病院を相手取って提訴。Thaddeus Popeは「心臓死後臓器提供DCDのケースではないが、心機能が自発的に戻ったということはDCDのプロトコルで心停止から摘出までの時間の見直しが必要になるのでは」と。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/dorsey-v-chicago-mercy-hospital-nied.html

英国の大学生たちが企画した自殺幇助合法化のディベートに、カナダで12歳の脳性マヒの娘を殺して慈悲殺を正当化しているRobert Latimerが招かれたことについて(本人がビザの申請手続きをミスって実現しなかった)、ラティマー事件は自殺幇助とは無関係だ、との指摘。:まったく、その通り。自殺幇助と慈悲殺はきちんと区別すべき。
http://blogs.theprovince.com/2012/10/23/naomi-lakritz-latimer-has-no-place-in-assisted-suicide-debate/

【関連エントリー】
母親による障害児殺し起訴同日かつての障害児殺しの父親Latimer保釈(2008/3/7)
Latimer事件についてHendersonが批判(2008/3/10)
重症児の娘殺したLatimer「裁判所は正直に」と(2008/3/23)
2010年10月10日の補遺:完全釈放が認められた、とのニュース。


NZで母親の自殺をほう助したとして実刑判決を受けた南アの科学者Sean Davisonが2冊目の本を出版。
http://penguin.bookslive.co.za/blog/2012/10/23/sean-davison-continues-the-story-of-his-mothers-assisted-suicide-in-after-we-said-goodbye/

英国の女性Jan Morganさんが、脳卒中の退院後に在宅介護を軌道に乗せるまで。高齢者介護の具体がなかなか見えないので興味深い。まだ読めていないけれど。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/oct/23/struggle-decent-care-home-stroke

DSMの功罪 小児の障害が20倍 「注意欠陥障害は過小評価されていると小児科医、小児精神科医、保護者、教師たちに思いこませた製薬会社の力と、それまでは正常と考えられていた子どもたちが注意欠陥障害と診断されたことによるものです」「米国では、一般的な個性で会って病気とみなすべきではない子どもたちが、やたらに過剰診断され、過剰な薬物治療を受けているのです」
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=66961&from=tw

【関連エントリー】
子どもへの抗精神病薬でFDAと専門家委員会が責任なすりあい (2008/11/19)
10年間で精神科薬の処方が倍増(米)(2009/5/7)
「12-18歳全員に定期的うつ病スクリーニングを」と専門家が提言(米)(2009/6/3)
BiedermanスキャンダルでADHDの治療ガイドライン案がボツに(2009/11/23)
米国のティーンの間で処方薬の濫用が広がっている(2009/12/1)
中流の子なら行動療法、メディケアの子は抗精神病薬……?(2009/12/13)
双極性障害で抗精神病薬を処方される2-5歳児が倍増(2010/1/16)
2歳で双極性障害診断され3種類もの薬を処方されたRebeccaちゃん死亡事件・続報(2010/2/22)
欧州でADHD治療薬の安全性調査命じられた調査会社が結束して「不能・不要」と回答(2010/3/7)
拘留施設の子どもらの気分障害、攻撃的行動に抗精神病薬?(米)(2010/10/6)
ADHD治療薬の“スマート・ドラッグ”利用を解禁せよ、とNorman Fost(2010/12/28)
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
ある作家が体験的に推理する「ADHD診断増加のカラクリ」(2012/8/21)


小児科ICUの患者はほぼ全員が適用外の薬の処方を受けている。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251781.php

“新型”出生前診断をめぐって 粥川準二 「バイオ化する社会」の粥川さんがシノドスに。基本的なことをとても分かりやすくまとめてくださっていて、勉強になる。アドレスはコピペ不能なので、検索してください。

こちらも粥川さんで、iPS細胞と放射能問題の社会学的考察 マル激トーク・オン・ディマンド 第601回 「ES細胞にしてもiPS細胞にしても、いずれも人間の体以外の場所で細胞を培養しているという点で倫理面での議論は避けて通れない」「人間が人間の命に関わる分野にどの程度まで足を踏み入れることが許されるのかという原理的な議論ももちろん重要だ。しかし、それと同時に、こうした先端医療技術には、社会の格差の問題が投影される点も見逃してはならない」この辺り、「バイオ化する社会」で指摘されていた「社会の痛点」のこと。:エントリーにしていたつもりだったのに忘れていたみたいなので、「介護保険情報」に書いた「バイオ化する社会」の書評をアップしないと。
http://www.videonews.com/on-demand/601610/002566.php

日本。再生医療実用化、国に責務…臨時国会に推進法案
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121022-00001767-yom-pol

昨日の補遺で拾った、メディケアのルール改正のニュース。集団訴訟の勝利で、実際に慢性病者や障害者に優しいになったみたい?
http://www.nytimes.com/2012/10/24/opinion/a-humane-medicare-rule-change.html

子どもにオーガニック・フードを食べさせることにこだわるのは関心しない、と米小児科学会。:ここはいつかビタミンDサプリを子どもに飲ませろと推奨したことがあるくらいだからなぁ。 ⇒ 子どものビタミンD不足サプリで補えと米小児科学会(2008/10/15)
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251826.php

祖父母が子育てを担っているケースが増えているが、最近の子育てにまつわる安全基準について祖父母は疎い、という問題を小児科学会が指摘。うつぶせ寝とかカーシートとか、ベビーベッドの安全な使用方法とか。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251783.php

里親がゲイでも、子どもには影響はない。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251766.php

英国で一人の16歳以下の少女を長期に渡って繰り返しレイプしたとして9人の男性を起訴。
http://www.guardian.co.uk/uk/2012/oct/23/nine-men-charged-child-exploitation-rochdale

地震予知失敗で禁固6年 伊の学者ら7人実刑判決
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2204V_S2A021C1CR8000/
2012.10.24 / Top↑
16日の英フィナンシャル・タイムズ社説を翻訳掲載した
22日の日経記事で、

ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者2人のうちの一人、
アルビン・ロス氏について、以下のように書かれている。

何より有名なのは、ロス氏が腎臓交換の仕組みを設計したチームの一員ということだ。腎不全患者と臓器を提供する意志があるドナーがいても腎臓が生物学的に 適合しない場合、ロス氏の仕組みは同じような状況にあるペアを見つけ出す。患者全員に適合する臓器を見つけるのに必要なだけペアを探すこともできる。


世界をよくするノーベル経済学賞(社説)
(2012年10月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本経済新聞 2012年10月22日(月)



ってことは、つまり、
当ブログが拾った以下の話題の、
あの「腎臓ペア交換」の考案者だったということか……。

「腎臓がほしければ、他人にあげられる腎臓と物々交換で」時代が始まろうとしている?(2010/6/30)


このシステムについては、その後、私は「介護保険情報」の連載で紹介した際に、
以下のように書いたことがある。

(チェーン移植で妻に腎臓をもらい、自分の腎臓を提供した男性)ラルフさんはいう。「大切な娘さんが亡くなって妻に命をくれました。それなのに私が『万が一ということもあるから私の腎臓はこのまま持っておきます』というのは、余りにも身勝手というものでしょう」。
しかし、このような物言いが「腎臓がほしければ他人にあげられる腎臓と物々交換で」というに等しい登録制度と合い並ぶ時、そこに“家族愛”を盾に取った暗黙の臓器提供の強要が制度化されていく懸念はないのだろうか。
「介護保険情報」2010年8月号「世界の介護と医療の情報を読む」


そういえば、
生理学医学部門の選考委員会があるカロリンスカ研究所って、
たしか、子宮の移植研究を必死にやっているところだったっけ ↓

2年以内に世界初の子宮移植ができる、と英国の研究者(2009/10/23)
英国女性が娘に子宮提供を決断、OK出ればスウェーデンで移植手術(2011/6/14)
2012年9月27日の補遺:母から娘へ移植2例。

またC型肝炎のDNAワクチンを開発中 ⇒20104月21日の補遺
2012.10.24 / Top↑
ドバイで、四肢マヒ患者Ghulam Mohammedさんに一方的「蘇生不要」DNR指定をし、その後、自分で生命維持装置を切って死ぬまで誰も手を出さないよう監督したオーストリア人の医師EugenAdelsmayrが、殺人罪で無期懲役刑を言い渡されている。ただし事件が起きたのは2009年2月のことで、本人は既に帰国。:またこのニュースを「慈悲殺」という言葉を使って報道するメディアに絶句する。
http://www.news24.com/World/News/Court-sentences-doctor-to-life-in-prison-20121021
http://www.thenational.ae/news/uae-news/health/dubai-doctor-sentenced-to-life-for-mercy-killing

ミシガン州がthe Medical Good-Faith Provision Actにより、18歳までの患者の治療をめぐり無益な治療方針のある病院は求めに応じて患者や家族にそのコピーを渡すことを義務付け。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/michigan-legislation-to-require.html

英国で丁寧な看取りのプロトコルであるはずのLCPが機械的な鎮静と脱水に繋がっていると指摘されている問題で、メディアにはLCPそのものへの誤解があふれているとして、本来のLCPについてのコンセンサス・ステートメントが9月に出されていた。:パスそのものが悪いわけじゃない。それが機械的に運用されていくことで現場スタッフが思考停止に陥ることの問題。そこには社会に「高齢者や重症障害者の命は丁寧な治療にも、救命にも値しない」という価値意識が共有され広がっていることが関係している。それが本当の問題。
http://ja.scribd.com/doc/110654494/Consensus-Statement-Liverpool-Care-Pathway-for-the-Dying-Patient

【関連エントリー】
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的手今日問題 続報(2012/7/12)


今日のWPの医療と健康欄はなにやら密度が高い ↓

オランダで妻を安楽死させた人の体験談がWPに。タイトル「安楽死は私の妻にとって正しい決断だった」
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/euthanasia-was-the-right-decision-for-my-wife/2012/10/22/1b355e96-0bd5-11e2-a310-2363842b7057_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

上の記事と並んで、米国で若年層の患者も入所介護が必要になると高齢者と一緒にナーシング・ホームに入れられてしまう問題の解決の難しさについて。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/moving-people-out-of-nursing-homes-proves-to-be-difficult-despite-federal-funding/2012/10/22/74748e3a-e30f-11e1-ae7f-d2a13e249eb2_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

さらに続いて、米国の医師の給与格差問題。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/disparity-in-pay-divides-doctors/2012/10/22/675233a8-f1e0-11e1-a612-3cfc842a6d89_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

それにさらに続いて、オバマ医療制度改革で保険会社に対して病気の子どもの医療保険を断れないよう規制強化が狙われたが、実際は逆効果となり、子どもの保険を売らない会社が増加中。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/as-many-insurers-drop-child-only-policies-states-try-to-intervene/2012/10/22/da3f739e-16d9-11e2-8792-cf5305eddf60_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

そこからさらに続いて、米国の精神障害者が適切な介入を受けられないままホームレスに転落している問題。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/readers-respond-to-paul-gionfriddos-article-on-the-homeless-mentally-ill/2012/10/22/427cedaa-187f-11e2-9855-71f2b202721b_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

これはNYT。慢性病や障害のある人が在宅医療、ナーシング・ホーム入所、外来治療を受けやすくなる可能性? :タイトルだけからいい話に見えても読んでみないと、こんな弱者切り捨ての時代に??? と先に眉にツバつけてしまうんだけど。ことにWPで上のような記事が並んでいるのを見た後は、なおのこと。
Settlement Eases Rules for Some Medicare Patients: Tens of thousands of people with chronic conditions and disabilities may find it easier to qualify for home health care, nursing home stays and outpatient therapy.

米AARPの介護者実態調査2012
http://www.multivu.com/mnr/54343-genworth-aarp-members-caregiving-service-help-and-advice

英国の認知症患者への向精神薬過剰投与問題。: 関連エントリーはこちらのエントリーの末尾にリンク一覧 ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65665583.html
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251684.php
http://www.medicalnewstoday.com/articles/251758.php

インフルエンザの死亡リスクを軽減するためには学校でのワクチン集団接種を。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251778.php

映画「モンサントの不自然な食べ物」予告編。YouTube. :モンサントについても関連エントリーはあれこれあるけど、とりあえずこれ ⇒“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業”を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AGRAの繋がり(2011/10/27)
http://www.youtube.com/watch?v=PO7RmRVZs6A

児童期の貧困は遺伝子や免疫システムにも影響。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251739.php

豪のギラード首相に対する野党党首による女性差別発言問題、どんどん醜悪になって「子どもを育てたことがないからだ」、ついに謝罪へ。Guardian記事へのコメント、なんと320件。:そういえばこの前、滋賀県の女性知事のダム建設中止に反発した県議が「失礼ながら、知事はこの政策でマスタベーションをしておられるのでは」と発言をするのを聞いて、不愉快この上なかった。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/oct/23/julia-gillard-misogynist-sexism-baby
http://www.news24.com/World/News/Opposition-apologises-to-childless-Gillard-20121023
2012.10.24 / Top↑
前のエントリーの続きです。

岩尾氏の講演内容を掲載した記事では、

Ⅱ. スイスのExitやDignitasなどの自殺幇助機関について
以下のように書かれている。

……スイスには看取りの家があり、外国から来た人の自殺も看取ってくれる。
 その実態を視察してきた。看取りの家はまったく普通の家である。……(中略)……このような施設を運営しているのは、それなりのしっかりした考えを持った人だろうと思う。
(No.2509, p.21)


スイスで「外国から来た人の自殺」を引き受けているのはDignitasのみなので、
岩尾氏はDignitasのことも含めて「看取りの家」と称していることになるのだけれど、
(岩尾氏が視察したのがDignitasだったのか、その他の幇助機関だったのかは不明)

これが語りのままだとすると、
さしもの日本尊厳死協会理事長も、
Dignitasを運営しているルドウィグ・ミネリのことについては
「しっかりした考えを持った人だ」とはさすがに断言しかねたのだろうか。
強気の発言が続く中で、ここだけは「だろうと思う」とちょっと弱気。

なにしろDignitasについては、
商業的な利益目的でやっている、
自殺希望者への扱いが悪い、
終末期でない人や精神障害者、まったく健康な人まで幇助している、
などの批判が多々、挙げられている。

ミネリは確かに「しっかりした考え」を持っていて、それは
死を望むならば誰でも無条件に自己決定が尊重されるべきだ、というもの。

以下のインタビューから彼の発言を抜いてみると、
Dignitasの内部をGuardianが独占取材(2009/11/19)

ターミナルな病状の人だけでなく死にたい人なら誰でも死ぬ権利があるべきであり、
自分は彼らの死にたい気持ちについて道徳的にどうこう評価することはしない。
道徳といっても、宗教によって多様なのだから道徳は論じない。
自己決定という無神論原則でやっている。


実際に、これまで以下のような事例が報道されてきた。

【23歳の元ラグビー選手Daniel James事件】
Dignitasの自殺幇助で英国警察が捜査へ0(2008/10/17)
息子をDignitasで自殺させた両親、不問に(英)(2008/12/10)
23歳ラグビー選手のDignitas死で、GPの「守秘義務」が論争に(2011/5/26)

【著名指揮者Edward Downes夫妻事件】
英国の著名指揮者夫妻がDignitasで揃って自殺(2009/7/14)

【その他】
「病気の夫と一緒に死にたい」健康な妻の自殺をDignitasが検討中(2009/4/2)
これまでにDignitasで自殺した英国人114人の病名リスト(2009/6/22)
Dignitasで英国人がまた自殺、今度は「老いて衰えるのが怖いから」(2011/4/3)

【その他、Minelli関連】
MinelliはDignitasでボロ儲けしている?(2010/6/25)
DignitasのMinelliが「求められれば健康な人の自殺幇助も」と、またBBCで(2010/7/3)
DignitasのMinelliが「病人だけじゃなく家族にも致死薬を出そうぜい」(2010/10/19)


また、Dignitasは、
自殺者の遺骨をチューリッヒ湖に投棄していたことも明らかになっている。

チューリッヒ湖の底に大量の骨壷、Dignitasが投棄か(2010/4/28)
2010年5月13日の補遺の住民投票関連ニュースに骨壷引き上げ作業の映像
「Dignitasで死んだ人の遺灰がどこでどうなっていようと別に」とDr. Death(2011/5/15)


もう一つ、岩尾氏の発言で気になったのは、
Ⅲ.以下の積極的安楽死と消極的安楽死の定義。

 安楽死には2種類ある。第3者が薬物・毒物を投与して死期を早める積極的な安楽死と、自殺ができる薬を処方する(医師による自殺幇助、服用するのは患者自身)消極的な安楽死だ。最近では臨死介助という言葉に置き換えられるが、このような方法も安楽死の一つと言われる。
(No.2509, p.19)


私の理解では
積極的安楽死は上記の通りで、
commission(すること)によって死をもたらすことだけれど、

消極的安楽死は延命治療の差し控えや中止など 
omission(しないこと)によって死をもたらすこと、と捉えてきたし、

日本での現在の議論でも、以下に見られるように、
だいたいそういう定義が一般的になっていると思う。

例えば、ウィキペディアはこちら ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E6%A5%BD%E6%AD%BB

立命館大学大学院生存学サイト arsviの「安楽死」の定義などについては ↓
http://www.arsvi.com/d/et.htm#l1

富山大学の秋葉悦子氏の「積極的安楽死と消極的安楽死の法的評価」↓
http://pe-med.umin.ac.jp/colloquium4-1.html


つまり、積極的であれ消極的であれ、安楽死は「死なせること」であり、
「自ら死ぬ」自殺を幇助することとは違う。

ところが岩尾氏は
消極的安楽死とは自殺幇助のことであると一般的なものとは異なった定義を示し、
さらに、その自殺幇助を「臨死介助」という言葉に置き換えてみせる。

こうして岩尾氏が言う「安楽死」には
われわれが普通に考えている積極的安楽死と消極的安楽死に加えて自殺幇助までが
含まれてしまっている。

なにやら妙な言葉の操作が行われているような気味の悪さを感じるのは
私だけ???


Ⅳ.家族からの圧力を受けたり、家族への配慮で死ぬことを選択する人があっても
それで構わない、と岩尾氏は考えているらしい。

この個所には絶句してしまってコメントする言葉が出ないので、
とりあえず引用のみにしておく。

 それから、自己決定権というが、家族に迷惑がかかるから呼吸器をつけないといった意見がある。家族からの圧力ではないかというのだが、しかし、そのように決めたことこそ自己決定であり、第三者が自分の価値を押し付ける話ではない。本人がそれでいいと言ったら、それは自己決定なのである。
(No. 2510 p.30)



【関連エントリー】
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」1(2008/3/2)
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」2(2008/3/3)
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」3(2008/3/3)
尊厳死協会の世界連盟(2008/3/13)
死ぬ権利協会世界連合がFENについて声明を発表(2009/3/10)
立岩真也氏の「死の変わりに失われるもの」から、改めて「分かっている」の証明不能は「分からない」の証明ではないことについて(2009/12/17)
日本尊厳死協会・井形理事長の「ダンディな死」発言(2010/3/2)

なお、10月16日に行われた日本宗教連盟による
第6回宗教と生命倫理シンポ「いま、尊厳死法制化を問う」については ↓
http://www.arsvi.com/d/et-2012.htm
2012.10.24 / Top↑
「社会保険旬報」のNo.2509(2012.10.1)、No.2510(2010/10/11)に、
「尊厳死のあり方 ―― リビングウィルの法制化」と題して
医療経済フォーラム・ジャパン主催の第59回定例研修会(8月24日)で
日本尊厳死協会理事長の岩尾聰一郎氏が講演した内容が掲載されている。

その中で
私には不可解な個所がいくつかあるので、そのうちの4点について。
(もっとも、記事はあくまでも講演内容を記者が取りまとめたものなので、
細部には実際の発言内容との齟齬がある可能性も否定はできませんが)

なお、論点ごとの詳細は関連エントリーをリンクしておりますが、

英国に関する大筋での事実関係は
昨日のエントリーで取りまとめたBBCの記事でも確認できますので、ご参照ください。


Ⅰ. まず、英国について触れられている以下の個所。

多発性硬化症のパーディさんは、「自分が意識がなくなったときには、自分を介助して死ぬようにしてくれ」と言って、誰かが手伝ったときにその人が訴追されないことを確認する裁判を起こした。
 そのときに裁判所は、訴追には法務総裁の同意が必要だが、どういう場合に訴追されるのかされないのかはっきりせよという判決が出た(09年)。それから3年かかって「臨死介助に関する委員会(The Commission on Assisted Dying)」が今年1月に最終報告を出し、次のように適格基準を示した。
(1) 18歳以上
(2) 「終末期の病状」=12か月以内に患者が死を迎える見込みがあり、段階的に進行する不可逆な状態
(3) 「自発的な選択」=任意性と強制されないこと
(4) 「当事者の意思決定能力に関する評価(精神的能力)は必要不可欠」
(No.2509, p.20)


最初にひとつ訂正しておきたいこととして
Debbie Purdyさんが裁判所に訴えたのは
「意識がなくなった時には自殺幇助を」ではなく、

「病気が進行したら、いずれスイスのDignitasへ行って死ぬことを考えている。
その時に夫が私に付き添って行っても、帰国後に訴追されない保証が欲しい」だった。

高等裁は、
自殺幇助が違法行為である以上、彼女が求めているのは法改正に等しく、
それは裁判所ではなく議会の仕事だとして、パーディさんの訴えを却下。

その後、彼女の上訴を受けて、最高裁が
Director of Public Prosecution(DPP)に対して起訴するしないの基準の明確化を求めた。
そして出されたのが10年2月のDPPのガイドラインだった。

【Purdyさん関連エントリー】
MS女性、自殺幇助に法の明確化求める(2008/6/27)
親族の自殺協力に裁判所は法の明確化を拒む(2008/10/29)
自殺幇助希望のMS女性が求めた法の明確化、裁判所が却下(2009/2/20)
Debby PurdyさんのBBCインタビュー(2009/6/2)
自殺法改正案提出 Falconer議員 Timesに(2009/6/3)
MSの教育学者がヘリウム自殺、協力者を逮捕(英)(2009/6/26)
作家 Terry Pratchett ”自殺幇助法案”を支持(2009/7/1)
英国医師会、自殺幇助に関する法改正案支持動議を否決(2009/7/2)
英国上院、自殺幇助に関する改正法案を否決(2009/7/8)
Purdyさんの訴え認め、最高裁が自殺幇助で法の明確化を求める(2009/7/31)
Purdy判決受け、医師らも身を守るために方の明確化を求める(2009/8/15)
法曹関係者らの自殺幇助ガイダンス批判にDebbie Purdyさんが反論(2009/11/17)
Debbie Purdyさんが本を出版(2010/3/22) 

【ガイドライン関連エントリー】
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 1(2010/3/8)
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 2(2010/3/8)
英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴(2010/3/26)
警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15)


私はこのDPPを「公訴局長」と訳してきたけれど、
それが岩尾氏の言う「法務総裁」と同じなのかどうかはわからない。
それは訳語の問題にすぎず、とりあえず大した問題ではないと思うのだけれど、

私が疑問を感じるのは、

① パーディ裁判の判決は
DPPに対して起訴判断の明確化を求めたものであり、
DPPはそれを受けて9年秋にガイドラインの暫定案を、
翌10年2月には最終ガイドラインを出した。

つまり、パーディ裁判の判決を受けた動きは
10年2月のガイドラインで終結を見た。

ところが岩尾氏の発言では、
DPPのガイドラインについてまったく触れられておらず、
パーディ裁判の判決を受けた「臨死介助に関する委員会」が3年もかかって報告を出して、
「適格基準をしめした」かのように聞こえる。

② DPPのガイドラインでは
 自殺幇助を受けた人についての「適格基準」が暫定案の段階では設けられていたが、
 最終のガイドラインからは外されて、どのような人であるかは問わないこととされている。

したがって、パーディ裁判によって
自殺幇助を受けられる人の「適格基準」が示されたかのように
岩尾氏が語っているのは事実誤認であり、ミスリーディングだと思う。


③ 岩尾氏がここで言及している
The Commission on Assisted Dyingが立ち上げられたのは2010年11月。

立ちあがった当時のメディア報道では
あたかも上院議会にそうした委員会が設けられたかのような印象だったけれど、実際には、
アルツハイマー病で、自殺幇助合法化を求めて熱心に活動している
作家のPratchette氏から資金が提供され、

2009年の自殺幇助合法化法案の提出者であったFalconer上院議員を委員長に、
「合法化支持の立場に偏っている」「公正ではない」と批判の多いメンバーを集めた、
昨日のBBCの記事が言う independentな、いわば私的な委員会。

(そもそも Assisted Dying という表現そのものを、
安楽死・自殺幇助合法化推進の立場の人でなければ使わないはず)

つまり、この委員会の報告は
パーディ訴訟とはまったく無関係だし、
その報告書の「適格基準」にも法的意味があるわけではない。

次のエントリーで、スイスに関する個所その他について。
2012.10.24 / Top↑
BBCが、スイスのDignitasで英国人が自殺するようになってからの10年間の
自殺幇助合法化問題をめぐる動きをとりまとめている。

Assisted suicide: 10 years of dying at Dignitas
BBC, October 21, 2012


内容としては、これまで当ブログが追いかけてきた通りなのだけど、

注目情報は、

Next year a bill on assisted dying will be tabled in the House of Lords
来年、幇助死に関する法案が上院議会に提出されることになっている。


英国のメディアは意図的になのか無意識になのか、この問題では用語の選択にあまりにも不注意で、
それ自体がすべり坂の証でもあり、またもしや、すべり坂を意図して敢えてぐずぐずにした議論か、と
私は以前から懸念しているのだけれど、

ここでも assisted dying という文言が用いられている。

自殺という言葉を含んで assisted suicide (自殺幇助 幇助自殺)という場合には、
あくまでも決定的な行為を本人が行う自殺の幇助行為しか含まないが、

assisted dying (死の幇助 幇助死)という場合には、
そこに安楽死や慈悲殺までが含められる幅の広さがある。
(ちなみに「慈悲殺」は法律用語ではなく法的には「殺人」)

また、日本の議論にもそういう言い変えが少しずつ混じり込んできているようなのだけど、
さらに消極的安楽死(延命の差し控えや中止)までをそこに含めることもあり、
そうなると一体何の話をしているのか曖昧なまま議論が進められてしまうリスクが大きい。

ちなみに、
英国上院、自殺幇助に関する改正法案を否決(2009/7/8)


それから、もう一つの注目情報は、

France and Spain are currently considering a reform of their laws.
フランスとスペインが現在法改正を検討中。


フランスとスペインと聞くと、どちらも、
例の「救済者兄弟」が既に生まれている数少ない国のうち2つだな……と連想する。

          ―――――

それはともかく、
この記事から事実関係のみを再確認的に拾って整理しつつ、
当ブログの関連エントリーをリンクしてみる。

(いずれも関連エントリーが多数あるため、なるべく見つけられる限り直近で
その他のリンク一覧を含むエントリーを挙げました)


英国人が初めてスイスのDignitasで自殺したのは1998年。
末期がんの男性だった。妻と息子と娘に付き添われて死んだ。

その後、現在までにスイスで自殺した英国人の人数は182人。
2002年から平均して毎年18人の英国人がスイスで自殺している。
付き添っていった家族で起訴された者はいない。

スイスDignitasで幇助自殺とげた英国人100人に(2008/10/3)
Dignitasに登録の英国人800人(2009/6/1)
これまでにDignitasで自殺した英国人114人の病名リスト(2009/6/22)
Dignitasで英国人がまた自殺、今度は「老いて衰えるのが怖いから」(2011/4/3):その他関連は末尾にリンク一覧


Dignitasで自殺した著名人としては、
Anne Turner医師、Peter Smedley、Jackie Meacock。

また、その10年間に起きた主な訴訟としては
Diane Pretty, Debbie Purdy, Tony Nicklinson の訴訟がある。

ダイアン・プリティ事件 (arsviサイト)
Debbie Purdyさんが本を出版(2010/3/22): 関連は末尾にリンク一覧
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23): 関連は冒頭にリンク一覧


Purdy 訴訟を受けてできたのが10年2月のDPP(公訴局長)のガイドライン。

が、このガイドラインは
あくまでも近親者による自殺幇助の起訴をめぐる判断基準を示したものにすぎず、
自殺幇助はあくまでも1961年の自殺法で14年以下の懲役刑とされる違法行為である。

警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15): 関連は末尾にリンク一覧


英国医師会、PG学会、緩和医療学会は法改正に反対の立場。
2006年の英国医師会の調査では7割が法改正に反対。

英国医師会、自殺幇助に関する法改正支持動議を否決(2009/7/2)
英国介護学会が自殺幇助について反対から中立へスタンスを転換(2009/7/25)
英国の医療教育機関が自殺幇助合法化反対を確認(2010/7/7)


政府は2008年に終末期戦略を刊行し、
終末期医療に関して患者の選択肢を広げることを目指した。

Peter Sanders医師が率いるCare Not Killingなど反対運動が展開される中、
作家のTerry PratchettがDignitasで自殺する英国人男性に密着して
BBCのドキュメンタリーを作るなど、
自殺幇助合法化キャンペーンも活発に展開されている。

「PAS合法化なら年1000人が死ぬことに」と、英シンクタンクが報告書(2010/10/26)
BBC、人気作家がALS患者のDignitas死に寄り沿うドキュメンタリ―を作成(2011/4/15)
6月にホテル王のDignitas死場面をBBCが放送(2011/7/30)


また、Pratchettが資金を提供して立ちあげた独立の委員会
the Commission on Assisted Dying (幇助死に関する委員会)から、
終末期のケアの保障と弱者保護のセーフガードを前提に
患者には死をめぐる自己決定が認められるべきだとの報告が出されている。

英国Falconer委員会「自殺幇助合法化せよ」提言へ(2012/1/2)


ちなみに、BBCは露骨な合法化ロビー報道で批判されて久しい ↓
「BBCは公金を使って安楽死を推進している」と議員らが批判(2010/2/5)



【関連のまとめエントリー】
英国における自殺幇助関連の動き: エントリー一覧(2009/6/1)
2009年を振り返る:英国の自殺幇助合法化議論(2009/12/26)
2010年のまとめ:安楽死・自殺幇助関連のデータ・資料(2010/12/27)
2011年のまとめ:安楽死・自殺幇助合法化関連(2011/12/26)
2012.10.24 / Top↑