それともこうした批判は前々から出るところでは出ていたのか、
Guardianのグローバル・ヘルス・ブログが
すばやい反応を見せています。
Guardianと言えば、去年9月に
ゲイツ財団とのパートナーシップ(すなわち資金提供)により
Global Developmentという新たなセクションが設けられており、
(詳細は文末リンクの「ゲイツ財団のメディア・コントロール」のエントリーに)
タイトルからして、このブログはそのセクションに属するものと思われますから
この記事も、そのままゲイツ財団からの反論に等しいものと見てもよいのでは?
それだけに、その口調がなんともタカビーなことに、ふむ……と。
なにしろリード部分から、いきなり
「ロンドンのGAVIへの資金集めカンファが大勝利だったからといって、
資金を提供した人たちが自分はもう貢献したぞとばかりに
自分の財布の上に胡坐をかいていることなど許されてはならない(must not be allowed)。
グローバル・ヘルスの他の領域では
今なお資金が大幅に不足しているのだから」
要するに、この記事の言いたいことはタイトルそのもので
「これでみんながワクチンを打てる。それなら今度は
エイズ治療薬をもっと……てのはどう?」
先週、国連で開かれたエイズ撲滅のための全体会議で
2015年までに1500万人のHIV感染者に治療を受けさせるとの
目標が掲げられたことなどに触れ、
「エイズのない世界はその気にさえなれば可能なのだ。
ゲイツ財団が多額の資金をつぎ込んでいるワクチンがなくとも、
治療法がなくたって、感染拡大は止められる。
予防と生活習慣の改善、教育と、そして薬がもっとあれば可能だ。
……(中略)……
そのために今、必要なのは何か? カネだ。
それが身も蓋もない真実なのである」
ふむ……。そうなのですよ。問題はカネなのですよ。
ワクチンそのものよりも、途上国の子どもたちよりも、実は。
だから、この記事の著者は
「仮に、いくらかの懸念があるとしても……(略)……
それによって13日のカンファでの430億ドル達成の勝利感を曇らせてはならない」と。
で、この「懸念」や「心配」について書かれた、
例のCBS記事を意識しているんだろうなと思われる、このあたりの文章から、
それらの懸念についてのゲイツ財団やGAVIの方々の考えや姿勢が伺えたりする。
そこの部分で挙げられていることを原文忠実に書いてみると、
・最も貧しい子どもたちや最も必要度の高い子どもたちがいて
医療制度が機能せずワクチン接種プログラムがない国々には
GAVIはワクチンを届けることができないと思われる……としても
(「可能性」possibilityではなく「蓋然性」likelihood)
・インドのジェネリック企業に比べると効率的ではあるけれど、
(それらの企業のワクチンの値段を考えると)あまりにも多くのカネが
多国籍製薬企業に落ちていく……との懸念はあるにせよ
・しかし一方で、グラクソ・スミス・クラインがロタ・ウイルス・ワクチンを大幅に値下げし、
メルクもHPVワクチンの値下げを発表したことで、うまくいけば値下げのトレンドが出てくるだろう。
これ、どう考えても、CBS記事に対するゲイツ財団からの反論……というか
内容としては反論できていないので、まぁ抗弁というくらいのものと、
私には読めるのだけど、
それにしても、これって厚顔……? と感じてしまうのは、
この最初のところって、
「医療制度が崩壊した国に届けても実際には子どもたちに接種されない」という批判を否定せず、
「まぁ、そうなるでしょうね」と、しゃらりと認めているわけですよね。
世界中から400億ドルも集めておいて――。
そして、「なんでビッグ・ファーマを儲けさせているんだ?」という批判に対しては
「だってインドのジェネリック企業では、さくさく仕事が進まないじゃん?」と言い訳し、
「それに、ビッグ・ファーマだって値下げの努力は見せているわけだから、さ」と
ここでは問題のすり替え。
カンファの直前にビッグ・ファーマから値下げの発表が相次いだのは、
なるほど、こういう批判を意識して、かわすためのシナリオだったというわけなのですね。
それともう1つ興味深いのは、
ふむ、途上国にはメルク社のHPVワクチンを持っていくわけかぁ……。
先進国ではあまりに強引な売り込みの手口が嫌われ、
副作用も問題視されてライバル社に負けたものだから、
先進国で失ったマーケットを途上国で……?
(ちなみに、ゲイツ財団はメルク社の株主さん)
そういうことを考えながら読み返してみると、
このGuardianのグローバル・ヘルス・ブログの記事は、もしかしたら
早くも「ワクチンの10年」の次は「エイズの10年」だよって、
さりげなく指差してメッセージを送る意図で書かれたものなのか……?
この記事のタイトルにあるように、
今回ロンドンで約束された400億ドルで
世界中の子どもたちにワクチンを届ける十分なカネができた以上、
「途上国の子どもにワクチンを」のメッセージの集金力は game over なわけですね。
かくして
ビッグ・ファーマがワクチンを売りさばくための資金だけはめでたく集まったのだから
それらのワクチンが医療制度の崩壊した途上国で盗まれようが倉庫で眠って終わろうが、
株主さんにとっては実はどうでもいいことなのだろうし。
(じゃぁ、どこが「子どもたちの命を救うために」なの?)
「途上国にワクチンを」で形成されるマーケットはこれで安泰。
後は、そのマーケット自体が消費し尽くされるのを待つばかり。
で、次は「世界中のエイズを撲滅しよう」が次なるマーケットの旗印だと
もしやゲイツ財団は示唆しているのか……?
こうして、ゲイツ財団の差配によって
「次のマーケット」が決まり、形成され、
そこに世界中のカネ持ちや各国政府からカネが集められ、
そんなふうに次々にマーケットそのものが消費されていく……ということ?
この記事の最後のセンテンスが、これまた実に象徴的で、えぐい。
「我々に今、必要なことは、ビル・ゲイツがその恐るべき才能と努力と熱意とによって、
資金提供者らの財布のひもをワクチン以外の領域に向けても緩めさせることだ。
資金を提供する各国政府が『もうお終いgame over』と言うことは
許されてはならない(must not be allowed)」
All shall have vaccines – and now how about some more Aaids drugs too?
Sarah Boseley’s Global Health Blog,
Guardian, June 15, 2011
たとえ、一国の政府であっても
ゲイツ慈善グローバル金融ネオリベ資本主義帝国では
帝王の望みに反する行動をとることは「許されてはならない」――。
【関連エントリー】
ゲイツ財団のメディア・コントロール(2010/10/21)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
やっと出た、ワクチンに世界中からかき集められる資金への疑問の声(2011/6/16)
その他「ゲイツ財団」の書庫に多数。
多くのニュースが流れており、当ブログでも補遺で何度も拾ってきました。
これまでの流れを補遺から抜き出してみると(ソースはそれぞれの補遺にリンクしてあります)、
5月30日の補遺
緊縮予算への批判が高まる中、英国のCameron首相が途上国へのワクチン支援の増額を約束。
6月6日
途上国の予防接種普及に向けた資金調達会議がロンドンで開催されるのを前に、製薬会社がワクチンの値下げを発表。
:社会保障の大幅カットで批判を浴びているキャメロン首相が途上国のワクチン支援を増額すると、そういえば発表したばかりでもある。なにやら世界中で、既に出来上がったシナリオ通りに役者が演じているって感じがしない?
13日
2015年までにGAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)が必要とする37億ドルを調達するために開かれた 国際資金提供カンファで、米、英、仏、独、日ほかが協力を約束。オーストラリアも2013年までの3年間にGAVIに2億1000万ドルを提供することを 約束。Bill Gatesも23億ドルを約束。
:これは各国にとって、「ワクチンの10年」という経済と金融の祭りに参加するための通行税みたいなもの? GAVIについては、上記ビルダーバーグ会議関連の最後にリンクした去年6月29日のエントリーに。
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Cameron首相が国内の社会保障サービスや給付を大幅にカットして、多くの高齢者や障害者から非難を浴びながら も、途上国への支援を増額したことについて、Bill Gatesが称賛。
:こうして慈善資本主義に方向づけられていくグローバル経済で生き残るためには、各国政府はなによりも慈善資本王国の帝王サマの歓心を 買い、そこで次々に消費されるマーケットに漏れなく参入させていただくために、たとえ自国民を飢えさせ見殺しにすることになろうとも多額の資金を使って次 なる新たなマーケット作りにも積極的に参加しなければ……って?
14日
英国首相は昨日これでBill Gatesからおほめの言葉をいただいていたのだけど、途上国のワクチンに8億1400万ポンドを出すと明言したことで国内で非難を浴びている。本人が 「国内で厳しい予算削減を敢行している時だから論議を呼ぶ」と認めつつも「途上国の8000万の子どもにワクチンを打ち140万のいのちを救うことには人 道上の意味がある」と。
:人道上というよりも、英国が「ワクチンの10年」祭りに取り残されないために、経済・産業施策上の生き残り策なのよ、だから、国 内の社会保障はカットできても、こっちはカットできないんだ……とは、やっぱり言えないかぁ。
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日本で、ワクチン同時接種で死亡する子どもが8人になったにも関わらず「因果関係は不明」と言い続けなければならないことのカラクリも、英国首相の事情と同じなんだろうか?
ゲイツ財団の音頭で世界中からかき集められる途上国へのワクチン資金については
ネガティブなコメントがメディアに登場することはほとんどないのですが、
昨日のCBSに、面白い記事がありました。
冒頭、13日のサミットで400億ドルを集め、
提供者らの偉業をほめたたえるBill Gatesのスピーチを紹介。
英国やオーストラリアからの巨額の資金提供について触れた後で、
「こうしたキャンペーンに疑義をはさむ人もいる」として
以下のコメントを紹介しています。
まずは国境なき医師団のワクチン専門家 Daniel Berman医師は
命を救うためにこれほど多くの資金が約束されることは心躍ることではあるが
もとは何100万もの人々が納めた税金であり、それが本当に適切に使われるのかどうか疑問だ、として
「なんだって、我々はこうしてビッグ・ファーマに儲けさせてやっているんですか?
我々に言わせれば、利益の相反があることは歴然としているし、
こんなの、企業の利益でしかない」
また、医療制度そのものが崩壊している国にワクチンを届けても、
倉庫で眠っておしまいだと指摘する専門家もいる。
ロンドンのCity大学の公衆衛生の専門家 Sophie Harman医師は
「肺炎や下痢などのグローバル・ヘルスへの対応として
ワクチンへの投資が奇跡の解決策ではないという事実は知っておくべき。
医療のインフラ整備にきちんと資金を回さない限り、
ワクチンにいくら資金を投入しても、それは無駄になるばかり」と。
またこの記事は、
2009年にLancetに報告された調査で
途上国の多くがワクチン接種率を実際よりも高く申告していたことが判明したことに触れ、
これらの国が実際には申告の半分の子どもにも接種していないと
指摘する研究者もいる、と。
Vaccine summit raises $4 billion, but will it be wasted?
CBS, June 14, 2011
この記事が触れているLancet論文については、
当ブログでも以下のエントリーでとりあげています。
「貧困国はワクチン接種した子どもの数を水増ししている」とIHME論文(2008/12/13)
それから、Harman医師の懸念を裏付けするように、最近、
途上国で大量のワクチンが行方不明になっているとのニュースも出てきています。
こちらは4月21日の補遺で拾っていて ↓
ゲイツ財団が力を入れている途上国でのマラリア撲滅運動で、2009年から2011年にかけてアフリカを中心にした11カ国でマラリア・ワクチンが盗難に遭い、どこかに消え去ったことが判明。消えたのは、250万ドル相当の大量のワクチン。
:世界中のカネもちからカネを集めて、そのカネでワクチンを大量に買うことができれば、そのワクチンを作っている会社の株主さんはそこまででも全然OKなのかもしれない。
なによりも、国境なき医師団のワクチンの専門家というのは
実際に現地のワクチン事情を肌身で見聞・体験している人ですよね。
その人が「なんでビッグ・ファーマを儲けさせているんだ?」と言い、
このキャンペーンには利益の相反がある、と指摘している言葉には
ものすごい説得力があるという気が私にはしますが。
【関連エントリー】
ゲイツ財団はやっぱりビッグ・ファーマの株主さん(2011/3/28)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
ど~だぁ~ぁ! とばかりにゴージャスなゲイツ財団新本部のオープニングが行われ、
約1000人がお祝いに駆け付けた。
Melinda Gates氏は
「このようなプロジェクトを仕事にするには、まずはゴールを決めることから。
それはすなわち、私たちの仕事がバングラデシュであれボストンであれ
ボツワナやナイジェリアであれ、私たちの拠点はここだということ」
Chronicle of Philanthropy紙の編集長 Stacy Palmer氏は
「非常に多様な方法でゲイツ財団は各国政府に影響を及ぼしている。
各国政府だけでなく企業や、実際世界中の誰もが影響を受けている。
単にお金を寄付することに留まらない影響を財団は及ぼしている」
議論されるべき問題そのものを規定し、
議論の枠組みを形作ることによって、
財団はこれまでの民間組織の可能性について
考え方をまるきり変えてしまった。
「それはいいことです。
それだけ多くの人を巻き込んでいるわけだから。
ただ、財団の問題意識が気に入らない人にとっては
ノーチェックで物事が行われていくことだと映るし
それに懸念を覚える人も沢山います」
そこから話は現在米国でゲイツ氏が力を入れている
公教育改革に移っていき、
教育の失敗の責任を何でもかんでも教師に追わせようとしているとか、
教師が説明責任ばかり考えて仕事をしなければならなくなったら、教育はできない、など
生徒の成績で教師のパフォーマンスを評価しようとの
Gates氏の考え方に対する批判に話が移ったり、
財団のCEOの
批判があるのは了解しているが
我々の役割は大事な問題にスポットライトを当てることで
グラントのすべてが成果を出していなくとも、
社会に貢献するためにはリスクをとることも必要だ、と
全然批判の論点に応えていないコメントが引っ張られてきたり、
グラントを受けて財団のために働く機関や研究者らからも
財団のやり方に一貫性がないとか一方的だとの批判が出ていると指摘したり、
イマイチ、何が言いたいのか趣旨のはっきりしない記事だと思ったら、
最後の最後に、以下の一行が付け加えられていた。
NPRも、Gates財団から資金提供を受けている組織の一つです。
As Gates Foundation Grows, Critics Question Methods
NPR, June 3, 2011
なんだ、NPRよ、おまえもか……。
それにしても、
財団が巻き込んでいる人の数の問題ではなく、
まして財団のグラントが成果を出しているかどうかという問題ですらなく、
ただ世界中にばらまけるだけのゼニを持っているというだけで、
ひと組の夫婦にそれだけの影響力が集中していて、
彼らの個人的な価値観やその時々の考えによって
こんなにも多くの各国や世界規模での施策が左右されていくことの是非の問題だと思うのだけど。
【関連エントリー】
ゲイツ財団のメディア・コントロール(2010/10/21)
ゲイツ財団の米国公教育コントロール 1(2011/5/2)
ゲイツ財団の米国公教育コントロール 2(2011/5/2)
これまでコンドームと精管切除しかなかったのだけれど、
インドの一匹狼科学者が発明した新たな避妊術 RISUG が注目を集めているらしい。
精管に一種のポリマーを注入することによって
精液はこれまで通りに生成・射精されるが、
精子は化学的にダメージを受けるというもの。
精管切除術のように性欲や勃起機能に影響することなく
避妊の目的を達成することができる。
効果は約10年で、
精管切除術と違って可逆的な処置でもある。
現在インドで治験のフェーズⅢまで進んでおり、
インドでは2年以内に認可されるのではないかと言われ、
発明者 Sujoy Guha氏のもとには世界中から問い合わせが来ている。
The Revolutionary New Birth Control Method for Men
WIRED Magazine, May 2011
で、こういう話になると、
この人の名前が出てこないわけはないのであって、
やっぱり……
RISUGを女性の卵管用にも使えるように研究してほしいと、
去年、Gates財団から Guha氏に10万ドルのグラントの提供があった。
Male Contraceptive: Injection Will Sterilize Men for Ten Years, Supported by Bill Gates
Benzinga, June 2, 2011
そういえばゲイツ財団は超音波による男性の避妊法開発にもカネを出しているし ↓
ゲイツ財団資金で超音波による男性の避妊法を開発、途上国向け?(2010/5/12)
インドで「革新的な家族保健」にもカネを出している ↓
ゲイツ財団がインドのビハール州政府と「革新的な家族保健」の協力覚書(2010/5/17)
その他、関連すると思われるエントリーはこちら ↓
知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではない(2010/3/23):G8での避妊・家族計画論争
2010年5月29日の補遺:G8での途上国の母子保健関連記事。ここでも「家族計画」に言及。
ゲイツ財団が途上国の「家族計画、母子保健、栄養プログラム」に更に150億ドルを約束(2010/6/8)
「途上国の女性に安価な薬で簡単中絶“革命”を」の陰には、やっぱりゲイツ財団(2010/8/3)
HIV、HPVワクチン、stillbirth(死産)、グローバルヘルス……て、
なに、これ、ほとんどBill Gatesの関心事ばっかりじゃん????
Lancet, Vol 377 NO.9777 May 07, 2011
① HIVについては論文が2本。。詳細は省略。
② 死産撲滅キャンペーン
ゲイツ財団がシアトルこども病院などと一緒にGAPPSという組織を作り
グローバル・ヘルスにおける死産・早産撲滅に大々的に乗り出したのは
以下のエントリーで紹介したように2007年、“A療法”論争が起こった年のこと。
早産・死産撲滅に、シアトルこども病院がゲイツ財団、ユニセフ、WHOと乗り出す(2009/5/14)
それを知って、ふと気づいてみれば、
米国小児科雑誌の2009年6月号は、すでに、まるで世界中で
未熟児を産ませず、生まれても救命しないための科学的エビデンス作りが進んでいるかのようなコンテンツ。
もちろん、それは、その雑誌のその号に限ったことじゃない。
GAPPSの動きについては
もともと遺伝子診断による障害予防に熱心なメンバーの集まりだから、
死産・早産撲滅キャンペーンが「命を救おう」と言いながら
実は優生思想を復活させていきつつあるのでは、と私は個人的に疑っているし、
実際、以下のような動きも拾っている ↓
「途上国の女性に安価な薬で簡単中絶“革命”を」の陰には、やっぱりゲイツ財団(2010/8/3)
そんな中、今回のLancetの動きというのは、4月14日に立ち上げられた「死産シリーズ」。
Lancetの死産シリーズのサマリーはこちら。
いつのまにか「撲滅2点セット」から早産が消えて死産だけになっているのも、
ちょっと、あざとい感じがなきにしもあらずだし、
Stillbirths: missing from the family and from family healthというコメンタリーの
アブストラクト部分を読むと、死産が女性を差別の的にすることを重要視しており、
こういう話の進め方は、彼らが狙っている早産撲滅という名の障害予防にそのまま
地滑りさせることができそうだなぁ……とも。
シリーズの目玉らしい「死産:2020年への展望」という文書の著者を見てみると、
やっぱりゲイツ財団と上記の GAPPS が入っている。さらに、非常に興味深いことに、
ここにもオーストラリアのクイーンズランド大学が絡んできている。
なぁ~るほど~。
③ HPV(ヒト・パピローマ子宮頸がんウイルス)ワクチンについては論説3本の内の1本。
Financing HPV vaccination in developing countries
The Lancet
その概要は、ざっと
HPVワクチンが市場に出回って5年。2010年段階で33カ国が全国レベルの接種プログラムを持っている。
途上国、特にアフリカ諸国はこのような普及に至っていない中、ルワンダがアフリカで最初の子宮がん予防プログラムに乗り出したのはグッド・ニュースだ。12歳から15歳の女児へのHPVワクチン接種と35歳から45歳の女性のHPV感染検査の2本立て。それぞれMerck社とQiagen社が3年間で200万人分のGardasilと25万回分の検査を提供したことで可能となった。その後もMerck社はルワンダに格安価格でHPVワクチンを提供すると約束しているが、それをルワンダ政府が支払うには外部からの資金援助が必要となるだろう。
ルワンダのワクチン接種率が上がれば、それはサブ・サハラ地域各国へのモデルとなりうるが、いずれにせよ問題はそのための資金確保である。製薬会社との値引き交渉もありうる。GAVIを始めとする多くの国際組織が女性の貴重な命を救うために尽力している。HPVワクチンの登場は子宮頸がん予防の新たな時代の幕開けだったが、資金的なメカニズムがなくては資源の乏しい国々がせっかくのHPVワクチンの恩恵も実現することができない。(ゴチックはspitzibara)
読んで、まず頭に浮かんだ感想は
・緊急度が高いとも思えないし対象者の人口に占める割合が高いわけでもないワクチンが
市場に出てたった5年で世界中にこれだけ広まる、その速度と強引さは、やっぱり異様なのでは?
・ルワンダって、民族紛争から悲惨な大虐殺のあと大統領選挙がつい最近まですったもんだしていた国。
そういう政情不安状態の国への支援として、HPVワクチンの普及が何故それほど急務なのか?
・それから、上記Lancetの論説の主張を、当ブログの4月16日のエントリーの
「慈善てな、いろんな衣をまとってやってくるんだよ」という記事の指摘と合わせ読むと興味深い ↓
ゲイツ財団が作らせ支援しているthe Advance Market Commitment(AMC)なる組織が買い上げ、慈善と称して様々な国に届けているワクチンはグラクソとかファイザーなどビッグ・ファーマの製品で、しかも欧米市場で売れまくって既にコストが回収できたワクチンなのだという。慈善の名目で、インドなどの政府は自己負担分を体よく吐きださせられているだけ
そういえばMerckのHPVワクチン、Gardasilは
先進国ではライバルGlaxoSmithKlineのCervarixに負けたんだった。
先進国では思うように売れない商品を3年分無償提供して、
その後は割引するとはいえ、途上国に押しつけて買わせるわけですね。
もちろん、その国に十分な支払い能力がないのは分かっているから
「ワクチンで途上国の子どもたちの命を救おう」を掛け声に世界中から資金を集めて
そのカネで買わせる。そしてMerckはGlaxoに負けた分を回収できる。
株価も上がる。Bill Gatesを含め株主さんたちも儲かる。
でもって、そういうふうに考えた時に、背筋がぞお~っとするほどコワいのは、こちらの1本↓
④「臨床実験:そろそろ分別あるグローバルなガイドラインを」
Clinical research: time for sensible global guidelines
アブストラクトでは
「融通のきかない官僚主義が臨床実験のスピードを遅らせ、コストを上げる一方なので、
その悪影響が貧乏な途上国に波及しつつある。そこで……」
ここでも途上国に新薬開発の恩恵が届くためには、との「おためごかし」路線で
臨床実験の条件緩和が説かれているのだろうことは容易に想像される。
しかし、先進国のビッグ・ファーマが、外からは何が起こっているか分かりにくい途上国で
医療アクセスの乏しさと教育レベルの低さに付け込み非人道的な臨床実験を行っていることも事実。
詳細はこちらのエントリーで紹介したThe Body Huntersという本に書かれている。
現在どこかが版権を抑えて翻訳作業進行中とのことだから近く日本語でも読めるようになるはず。
「ナイロビの蜂」という映画もあったし、
当ブログが独自に拾った、こんなニュースもある ↓
ファイザー製薬ナイジェリアの子どもに違法な治験、11人が死亡(2009/2/1)
ゲイツ財団の資金で開発期待されるマラリア・ワクチンの治験も
現在、鋭意アフリカ各地で行われているわけですね。HIVワクチンの治験もね。
今だって、アフリカの子どもたちが治験で副作用被害を受けても、
先進国の親たちのように訴訟が起こせるわけではないだろうに……。