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Mike Slabaughの一族は、代々珍しい遺伝性の胃がんが多い家系だった。おばあちゃんも、お父さんお母さんも、叔父さんも叔母さんも胃がんで死んでいった……。そこで彼と従兄弟たちが、そろって遺伝子診断を受けたところ、従兄弟17人のうち11人までが、おばあちゃんの欠陥遺伝子を受け継いでいることが判明。将来胃がんになる確率は70%。11人は全員が迷うことなく胃の全摘手術を受けた。「慣れるのには時間がかかったけど、胃がんの恐怖におびえながら暮らすくらいなら、何度にも分けて少量ずつ食べることなど何でもない。」と、全員が満足している。

遺伝子診断の技術の進歩で、問題遺伝子を見つけた人が予防的に臓器を摘出するケースが増えている。これまでに、がん予防のために摘出された例があるのは、胃、乳房、子宮、腸、甲状腺。将来は遺伝子診断がコレステロール値を測るように当たり前の検査になると予測する専門家も。
(AP 2006年6月18日)

このニュースを知ってまもなく、28歳のアメリカ人にこの話をしてみたことがあります。彼はあっさりと「それは良いアイディアだ。遺伝子診断で癌の確率が高く出たら、僕も迷わずにとってもらう」と言うので、びっくりしました。彼は数ヵ月後に結婚を控えていたのですが、「(将来うまれる)自分の子どもにも是非やらせたい。それで子どもを守ってやれるのだから」とも言いました。

「でも手術なんて痛いし、子どもじゃなくてもコワイじゃない。病気ならともかく健康なのに……。それに手術そのものにリスクがあるわけだし」と疑問を呈しても、「いや。癌になった場合のリスクを考えたら、手術のリスクなんか小さいもんだ。子どもの幸福を考えてやるのは親の義務だ。その子のためにやってあげるべきだと思う」。

今のアメリカで、親が彼のように「遺伝子診断で遺伝性の胃がんの確立が70%と出たから、がん予防のためにこの子の胃を摘出してほしい」と望んだ場合、それは果たして認められるのでしょうか。このニュースを知った去年は彼の言葉を聞いても、ただ単純にびっくりするだけでそこまで考えなかったのですが、アシュリーの事件を知って以来、障害のない子どもの場合に癌予防を目的とした健康な臓器の摘出が「親の決定権」に含まれているのかどうかが気になります。

私は、子どもが成人して自分の意思で選択できるようになるまで待つべきではないかと思うのですが、癌になる確率が70%とか80%とかの高率とされた場合に、成人するまでに発病したら取り返しが付かないから、と考える親もいるような気もします。その場合、今はまだ健康な状態にある臓器を摘出することが「子どもの最善の利益」と捉えられるのかどうか。

健康な子どもの場合にこのような親の決定権がもしも認められないのであれば、障害のある子どもの場合だけに、それが「子どもの最善の権利」とされるとも思えない気がしますが……。今のところ、子宮摘出についての手続きの違法性だけが問題にされていますが、アシュリーの子宮と乳房芽の摘出は、このような観点からも検討されるべきなのでは?


いずれにしても、アシュリーの両親のような思いつきが起こってくる背景として、このようなアメリカ社会の動向も無関係ではないのでしょう。

(もっとも、特にインターネットに出回っているようなお手軽にオーダーできる類の遺伝子診断は信頼性に問題があるとの指摘もあるようです。)
2007.07.24 / Top↑