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12月18日のエントリー「脅迫状で発達障害の啓発」にて紹介した衝撃的なポスターは、
19日水曜日をもって撤去されたとのこと。

以下のWPの記事によると、
脅迫状を模して作られた広告は
自閉症、過食症、うつ、アスペルガー症候群、強迫神経症とADHDを差出人とする6種類だったそうです。

Child Study Center Cancels Autism Ads
Washington Post, December 20, 2007

例えば自閉症の場合はこんな文言。

息子はもらった。

この子が生涯、自分の身の回りのこともできず
周りの人ともかかわりを持てないようにしてやるぞ。

これは手始めに過ぎない。

自閉症

これら脅迫状の正体は
NY大学のChild Study Centerが
早期の対応を促す啓発のために企画したキャンペーン。

大手広告代理店のBBDOが社会貢献事業として請け負って
12月1日にニューヨークのキオスク200店にポスターや看板を設置、
今後はワシントンDCなど他の4都市に拡大する予定だったものですが、

これらのポスターは障害に対するスティグマと恐怖を撒き散らし、
少しも役に立っていないとする抗議と非難のあまりの多さに、
同センターが回収を決めたもの。

批判した人たちと1月に公開協議を行い、
新たなキャンペーンを再びBBDOの作成で練り直すとのこと。

しかし、「本当に分かっているのかいな」と首を傾げてしまうのは
同センターの創設者でもあるKoplewicz所長の以下のコメント。

問題は、障害を持った子どもたちについての議論ではなく、
広告についての議論ばかりになっていったということ。

障害のステレオタイプを広めようと意図したわけではありません。

むしろ、治療せずに放っておくと障害に子どもを人質にとられますよと、
インパクトの強い暗喩で訴えたいと考えたのです。

この国には医療危機があるのですよ。
精神障害を抱えた子どもが1200万人もいて、
治療を受けていない子どもたちも多い。
彼らには保険もないし、研究対象にもなっていないのです。

それはそうかもしれませんが、
なんだか、なぁ……。

医療モデルでのみ障害の早期発見早期治療を考えると、
こういう発想になるのかなぁ。

記事からは、
インパクトがあって良い案だとする広告代理店の説得に
医療サイドがノセられてしまったという感もなきにしもあらずで、
それもまた、あまりにもお粗末な取り組み姿勢。

最後にKoplewicz所長はこうも言っているのですが、

精神障害については、
一般に考えられているよりもはるかに強いスティグマがあって、
それが当事者らを非常に神経質にしているのでしょう。
もちろん、それも分かります。

いや、あなた、一番肝心なところが分かってませんって。
2007.12.20 / Top↑
前回のエントリーで体外受精の安全性について触れたのを機に
思い出した記事があったので探してみたのですが、

現在行われている体外・試験管受精(IVF)技術には命すら落とす危険があり、
もっと穏やかで安全・低価格の方法が提唱されているにも拘らず、
生殖補助医療が大きなオイシイ市場であることから
医師らの成果優先マッチョな競争原理によって、
それらが浸透しにくい現状が報告されていました。

Taking on the baby gods
Guardian July 4, 2007

記事に報告されているのは
排卵誘発剤を開始して2日目に心臓マヒで死んだ33歳の女性と
卵子を卵巣から採取する処置の最中に問題が起こって死亡した37歳の女性
の2例ですが、後者の夫の言葉が印象的で、

ニナ(妻)が死ぬ確率が1%でもあると病院が教えてくれてさえいれば、
こんなことはしなかった。

子どもが欲しかっただけなのに。どうしてこんなことに?

説明がなかったのかどうかも気になりますが、
彼の言葉は多くの人の感覚を代弁しているのではないでしょうか?
安全な医療だと思うからやるのであって、
命を懸けてまでやりたい人は多くはないでしょう。

ところが現在行われている大量のホルモンによる排卵誘発のやり方では、
1割の女性にovarian hyperstimulation syndrome(卵巣高刺激症候群?)という副作用が起こり、
悪くすれば血栓症につながるとのこと。

また、大量のホルモン投与によって多くの卵子を採取して複数の胚を着床させることで
多胎児が生まれる確率が高くなり、
子どもにも低体重や身体的・知的な問題が生じるリスクが。

実際にはそんなに大量のホルモンを投与しなくても、
2~7個の卵子が採取でき、
体外受精させた後で健康な胚を1つだけ着床させるというやり方が可能で、
この“マイルドIVF”は成功率にも遜色なく、
費用も通常のIVFの半分で、何よりも安全。


この記事を読んで、ぞっとするのは、
どの医療の分野でも薬の投与量には一定の推奨基準というものが定められているのに、
この排卵誘発剤だけはその基準リストに含まれておらず、
全く医師の裁量に任されているという事実。
(もちろん沢山使えば使うほど、
採取できる卵子の数が増える、成功率が上がる……)

生殖補助医療の世界は男性医師優位の世界であり、
患者の体をペトリ皿や保育器と同じ実験機材としか捉えず、
治療の成績を上げること、それによってクリニックの評価を上げることだけに血道をあげる
マッチョな男性医師らを呼び習わす“baby god”という言葉さえあるのだということ。

医師らの言葉をいくつか以下に。

現在の英国における根本的な問題というのは、
たいていの患者は自費で治療を受けるわけだから、
彼らにベストな成功率を出してあげる責任を我々としては感じること。

一回失敗すれば、それだけ患者の信頼を損なう。
患者というのは、なるべく短期間で妊娠したいのだから。

要するに、商売なんだから、
生みたいという客には生ませてあげる、
それで女性の体がダメージを受けようと
生まれてくる子どもにもリスクがあろうと、
ここでは生ませた数だけが問題、ということですね。

もちろん“客”の方にも考えるべきことがありそうですが、
以下の発言は、いったいどうなんでしょう?

IVFを行う医師が患者の望みをかなえてあげる腕もずいぶん上がってきたから、
そろそろ安全性にも、もう少し注意を払い始めてもいいだろう。

え……? と絶句してしまった。

だって、この発想、順番がカンペキ逆では?
2007.12.20 / Top↑
これまで


の2回のエントリーに分けて
英国議会で検討されている“救済者兄弟”の問題を紹介してきましたが、

このように生殖補助技術がどんどん発達し、
“救済者兄弟”を初めとする“デザイナーベイビー”まで既成事実化する中、

生殖補助技術は本当に安全なのかと
その足元に疑問を投げかけるニュースが
11月25日のMedical News Todayにありました。

「試験管受精は危険なのか?」
Is The Test Tube Conception Dangerous?

体外受精では
異なった遺伝子情報を処理するメカニズムに狂いが生じて遺伝子刷り込みの病気が起こる確率が
通常の妊娠によって生まれた子どもに起こる確率よりも高い
というロシアの調査結果が紹介されており、

その原因として
遺伝子刷り込みが受精時の外的要因に反応することや
ホルモンの刺激によって自然な妊娠では成熟しない異常な卵子が成熟してしまうなど、
手法そのものの特異性に影響されるのではないか、と。

生殖補助技術と遺伝子刷り込みの関係については
専門家の意見も分かれており。
体外受精児そのものが極めて珍しいのだから、それで人工授精を否定することはないとする人もいれば、
遺伝子刷り込みの異常は氷山の一角に過ぎないと生殖補助技術に反対する人もあり、

この問題はきちんと調べて、
体外受精をいかなる点においても安全なものにする必要がある、と。


          ――――――――――――


生命の誕生というのは非常に繊細で複雑なメカニズムなのだから、
そこに人工的に手を加えるということは、
当然のことながら異常が起こる確率も高くなるだろうと感じるのは、
極めて常識的な感覚だと思うのですね。

生殖補助に関して様々な技術(代理母も含めて)が進むに連れて、
そうした技術を使ったがゆえに障害を負った子どもも実は生まれているのではないかと
私はずうっと気になっているのですが、
そういう話は本当にないのか表に出てこないのか、
なにしろあまり聞かない。

例えば臓器移植に関する調査研究のほとんどが
ドナーについてではなくレシピアントについて行われるように
生殖補助医療に関する調査研究の多くも成果に関するものであり、
リスクを巡る調査研究はあまり行われていない……
ということはないのでしょうか??

そして、いわゆる「科学的事実」には
「科学的に実証されないことは存在しない」つまり
「調査研究の対象とされない限り、それは存在しない」という
改めて考えてみたらアホみたいな盲点があるようにも思われるので、

生殖補助技術のリスクが云々されることがないのも、
ただ単に「誰もきちんと調査していないから」
というだけなのではないか……とずっと気になっていました。

この記事によると、
このたびロシアの研究者が調べたのは
「遺伝子刷り込み病という生殖補助技術の安全性リスクのほんの一面」について、
ちょいと調べてみた、というに過ぎないようなので、

これはやはり、
「体外受精と着床前遺伝子診断で“救済者兄弟”を作ることを認めましょう」
などと議会で議論するより以前に、
安全性に関する調査を徹底的に行ってほしいもの。
2007.12.20 / Top↑