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ステロイド剤の誤用・濫用はもはやスポーツ界だけの問題ではなく、
広く社会に行き渡って、保健医療の問題となっているにも関わらず、
保健行政には副作用のデータがきちんと上がっていない、として、

薬物によってはスポーツでパフォーマンス向上の効果があるとのエビデンスと
副作用についての情報、
社会に誤用・濫用が広がっている実態を考察して、
ステロイドの濫用が長期的に社会にもたらす影響について論じた論文がLancetに。

副作用についてはAAS(anabolic androgenic steroids)の神経精神的副作用、
特に暴力行動に重点をおいて神経生理との相関について論じたとのこと。

アブストラクトは以下に。

Use of doping agents, particularly anabolic steroids, in sports and society
By Folke Sjoqvist, Mats Garie, Anders Rane
The Lancet(2008;371:1872-1882)



ちなみに、上記エントリーでステロイド解禁を説いている3人は、
いずれも去年の“Ashley療法”論争に擁護派として登場した人たちです。
“Ashley療法”がこうした極端な論客(上記2人はトランスヒューマニスト)によって擁護されたことは
もっと知られるべきではないかと私は考えています。

彼らに言わせると、ステロイドの副作用なんて、
サッカーのヘディングやボクシングやその他スポーツの競技中に怪我をするリスクに比べれば
なにほどのものでもないのだそうです。
2008.06.10 / Top↑
カナダの作家 Craig Davidsonのステロイド体験記の中から、
個人的に非常に気になった点をいくつか。

①冒頭、彼が「油っぽい尿」のような液体が入った注射器をかざして逡巡する場面で、
この液体が2種類のステロイドであることが書かれているのですが、
その1つの Equipoiseという薬物は
「通常は肉牛に注射される獣医科の薬物」と書かれています。
1頭当たりから取れる肉の量を増やすためにステロイドが使われている、
ということですね。

ということは、アメリカ産の牛肉を食べると、
必然的にステロイドを体内に取り込んでいるということになるのでは?

②そろそろ肉体的にも精神的にもステロイド生活に疲れてきたある晩、
Davidsonがたまたま目にするテレビ番組があります。
ニュースになった事件を元にドラマを作る、という番組で、
病的な肥満に陥った男性が自分の肥満はあるスナックが原因だとして
スナックの会社を訴える物語をその晩はやっていました。
そのスナックの主原料である果糖濃度の高いコーンシロップには
脳に満腹感を伝えるホルモン、レプチンを抑える働きがある、というのです。

食べても食べても満腹感がなくて、いくらでも食べられる菓子が売られていた、と。

食品を製造する会社が営利のためにこんなことをするのだとしたら……。
背筋が冷えます。

③ステロイドを使う場合にどうしても避けがたい副作用として
胸が乳房のように膨らんでくる、と書かれています。
長期に使うボディ・ビルダーの中には
あまりに大きくなりすぎて外科手術で切除するしかなくなる場合もある、と。

Ashley事件でも、父親のブログに乳房芽の切除の正当化として
同じようなケースが引き合いに出されていました。
背の低い男の子に成長ホルモン療法をする時にやはり胸が膨らんで
外科手術で切除する場合がある、と。

Davidsonの体験談のこの部分を読んで、
改めてAshleyの父親の正当化は前提がおかしいと思うのは、
ボディ・ビルダーにせよ男児の成長ホルモン療法にせよ、
「起こるべきでないこと」が起こってしまっているのを外科的に切除するという話であって、
胸が膨らむのが女性の自然であり、もともと「起こるべきこと」であるAshleyと重ねてしまうのは
筋が違う、全然正当化になっていない。

いわゆる”Ashley療法”は technical fix だという批判を浴びましたが、
「強くなりたければステロイドを使えばいいし、胸が膨らめば手術すればいい」とばかりに
薬物とテクノロジーで何でもお手軽に解決してしまう時代だからこその
また、恐らくは父親がそうした動きの最先端に関与する人物だからこその思い付き。
Ashley事件については、こうした社会の動向の中に据えて考えるべきでしょう。
2008.06.10 / Top↑
これから書く小説のために
違法ステロイドの1サイクル16週間で肉体改造を試みたカナダの作家が
Guardianの日曜版Observerに体験談を書いているのだけど、
これがまるで一遍の短編小説のような抜群の面白さだった。

具体的な事実を何も知らないまま「ステロイドで肉体改造」というと
ただ薬を飲んだり注射を打ってトレーニングするだけのようにイメージしてしまうけれど、
実態はぜんぜん、そんな単純なものではなかったようです。

全編を翻訳してみたいくらいなのだけど、そうもいかないので、
ざっとかいつまんで、以下に。

From Mr. Average …to superman
Craig Davidson
Observer, May 18, 2008

“物語”はDavidsonが針の太い注射器を手に、
いよいよ第一回目を打つべく覚悟を決めようと逡巡している場面から。

注射器の中身は「脂っぽい尿みたい」に見えるが、
通常は肉牛に注射されているEquipose, 1ccと
彼くらいの男性が普通なら1週間かけて生成する10倍量に当たるTestosteron Cypionate 2cc。
これを腰の後ろの辺りに打つことになっているのだが、
腰の辺りは神経が集まっているのに加えて、
間違って静脈に打ってしまうと一発で心臓マヒだと思えば決心にも時間がかかる。

これは紆余曲折を経てやっと入手した違法ステロイドだ。
最初はインターネットでそれらしいサイトを探して偽薬をつかまされた。
その後いろんな人からの情報を経て、闇ルートで手に入れたもの。
ルートについては「暗号アドレスのEメールとテルアビブへの送金」しか明かせない。

「ステロイドで肉体改造」といえば
薬物を一種類だけ摂取するのだと思い込んでいたが、
それはとんでもない思い違いで、
筋肉量を増やす、筋肉を硬くする、筋肉の保水量を下げる、と
目的別にそれぞれ薬剤が違って3種類。
それに加えて副作用を抑えるための薬物も必要となるため、
結局、Davidsonのステロイド・サイクルは6種類の薬物を使用することに。
これでもまだ穏やかな方で、プロのボディ・ビルダーなら15、6種類は軽く使うとのこと。

注射を始めて3、4日で。
乳首がかゆくなり、鏡で“ぎょっ”となるほど胸が膨らんでくる。
これは避けがたいテストステロンの副作用の1つ。
長期にやると女性の乳房のようになるので外科手術で取り除くことになる。

抜け毛もひどい。家中が抜け毛だらけだ。
不眠にも苦しむ。

そんなある晩、彼はステロイドの最もよく知られた副作用、睾丸萎縮に襲われる。
くる、と知ってはいたが、まさか、こんなふうに“きゅうっ”と一度に縮むとは。
まるで「これにて閉店」と宣言されかのような衝撃。
数日間でサイズは半分になり、まるで熟れてぱんぱんのブドウみたいな情けない姿。
男らしい体を作ろうとして男性性の象徴が衰えるということの「皮肉」。
まさか、この先、生殖能力まで失っちゃったのでは……?

さらに、よほどの場合にだけ起こる副作用だと聞いていたのに、
信じられないことに額まで突出してくる。
ひどくなると、これも手術で取り除くしかなくなるが、
ほんのわずかの間に、まさか骨まで取り返しのつかない変形を遂げたのでは……?

そのうち注射の失敗も起こる。
神経に当たると飛び上がるほど痛いし、
間違って血管を刺すと大量の出血を見るし、
なぜか薬剤が皮下で大きなグリグリになり、痛くて横向きにも寝られない。

副作用以外に苦痛なのは細かく決められた食事制限で、
1日ツナを6缶(本来は25缶食べろという指示)とバナナ、卵の白身、茹でた鶏の胸肉、
それにサプリメントとしてプロテイン・シェイク5~6杯に大量のプロテイン粉。
それを毎日ただ機械的に口に詰め込む。まるで儀式のように。
ステロイドのサイクルをこなしていこうとすると、
注射も食事もすべてがひたすら続ける儀式のようになるのだ。

そのうち、前立腺まで肥大して、排尿困難が辛くてならない。
この苦痛を和らげるには、1日4回のマスタベーションしか手がない。
幸いテストステロンのおかげで何にでもすぐムラムラだからいいのだが、
半分サイズの睾丸から出てくるものは、
いかにも無理やり搾り出された少量が申し訳なさそうな風情だ。

起きて、食べて、出して、ジム、食べて、出して、食べて、ジム、食べて、出して、食べて、寝る。

その合間に、まるでジャンキーのように儀式めいた動作を重ねて注射を打つ
それは辛く苦しい毎日──。

そんなに辛いのに、なぜ止めなかったかと問われれば、
その訳は恐らくステロイドにハマる誰しもと同じで
ただ1つ、“効果”があるからだ。

30歳にして少々鍛えてもどうしようもない衰えを感じていた彼の体は
突然、限界知らずの肉体に生まれ変わった。
最初にびっくりしたのはベンチ・プレス。
それまで限界だった片方85ポンドのダンベルが、まるでウォーミング・アップだし、
今まで考えたこともない重さを軽々と上げられる。
体も爆発的にぐんぐんと大きくがっしりと変貌を遂げていく。

それまでジムでわざとらしく、はぁ、ふう、と声を上げる連中を
なんて子どもじみた奴らだと軽蔑していたのに、
いつのまにやら自分が
「はっ。ふっ。ふがあああああああ! ぇぃぃぃぃやあああああっ!」
見て、見て! ほら、オレ!この体、見てぇぇぇ! 

愚かしく哀れなオレ――。でも止められなかった。
本当はジムで鏡に映る自分の体の陰影が日ごとに濃くなるのを見ても、
豊胸手術で膨らませた女の胸を同じだと、どこかで分かっていたのに。

そのうち、太もものぐりぐりが化膿する。
注射器で吸い出してみたら、出てきたのは真っ黒な血。

12週で16キロほども体重が増え、究極の筋肉マンが誕生していたが
同時に体のあちこちにガタも出始めていた。
無理して伸ばしすぎた関節はワークアウトの後で音を立てる。
全身が燃え尽きてゴワゴワ、怖いほど老いぼれ果ててしまった感じ。

やっと16週のサイクルが終わった。
ある朝、目覚めると、何もかもがまるで違っていた。
モンクなしに体が快適なのだ。こんな爽快な気分は4ヶ月ぶり。
睾丸もやっと戻ってきた(おかえり!)。
しかし体重は1晩で6キロも落ちた。
あれだけ立派だった筋肉も消えて、脚なんか、まるで長患いをした人みたいだ。
鏡に映る自分の姿がガイコツに見える。
ジムに行っても、ダンベルを持ち上げることすらやっとの有様で、
この数ヶ月熱い視線を送っていた皆がせせら笑っているのを感じる。
ほうれん草をなくしたポパイ。所詮はニセモノなのだ、俺は。

体の痛みが取れないので医者へ行くと、椎間板ヘルニアになっていた。
前立腺肥大も要治療。ヒザには水が。
肝臓の検査値がとんでもないことになっている。

いったい、あの16週間はなんだったのだろう。
残ったのは1キロちょっと体重が増えたけれど、どこかぶよぶよした体と
そして妙な自己嫌悪感だけ。

最悪なのは、睾丸は元の大きさに戻っても、
この先結婚して本当に子どもが持てるのかという不安に付きまとわれていること。

祖父は、父は、叔父ら、家族の男たちは
貧しく、手にマメを作って、工場で働き、固い土を耕して、耐え続けた。
自分は何を耐え続けただろう? 
かつての男たちがそうしてあがなった体を自分は受け継いでいる。
でも、自分は彼らからもらった体にふさわしくないという気がする。

医者から電話がかかってくる。その後に出た血液検査の結果について。

「Davidsonさん……もしかして漢方薬とか、飲まれてます?
……ボディ・ビルディングのサプリとか?」

覚悟を決めて合法なステロイドの名前を挙げ、「使った」と告白する。

「Davidsonさん」 沈黙。大きく息を吸う音。「2度と、絶対にそんなことはしないように」

こちらに何も言わせず、医者は電話を切った。
2008.06.10 / Top↑