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英国の空港近くのホテルで自閉症の息子を殺した母親の事件についてエントリーを書いたばかりなのだけど、'''スペインのリゾートホテルでも子ども2人(1歳と5歳)を連れてチェックインした英国人の母親が、部屋で2人を殺した'''として逮捕されている。母親の方に精神的な問題か?:記事タイトルを見た時には、英国で起きた事件のことかと思った。スペインでの事件の詳細はまだ不明。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article7129818.ece
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/may/18/mother-arrested-over-childrens-deaths

Lancetと米国ワシントン大学のIHMEが共催で、5月24日に、途上国における周産期の母子死亡率に関するシンポを開く。:Lancetはゲイツ財団の提携誌。
http://maternalmortalitydaily.wordpress.com/2010/05/18/the-lancet-and-the-institute-for-health-metrics-and-evaluation-ihme-invite-you-to-a-symposium-on-measuring-the-progress-on-maternal-and-child-mortality/

[http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/59957952.html リッチな英国人女性のDignitas死]で、息子が求めている母親の死に関する情報提供をDignitasが拒んでいる。
http://www.express.co.uk/posts/view/175388/Son-s-fury-as-assisted-suicide-group-refuses-to-release-file

初めて父親になったばかりの男性も産後ウツを経験している。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8687189.stm
2010.05.19 / Top↑
アイルランドの火山噴火の影響でごった返す英国Cardiff国際空港近くのホテルで
48歳の母親Yvonne Freaneyさんが11歳の息子Glen君を殺害。

16日日曜日に逮捕、翌日起訴された。

Glen君は重度の自閉症だった。
心配した家族からの連絡を受け、捜索していた警察が日曜日に発見した際、
母親はホテルの部屋で死んだ息子の手を握っていたという。

母子は2人でチェックインしており、
Glen君は先週木曜日から日曜日までの間に殺害されたものとみられる。

夫はもと英国空軍の職員。

Mother charged with murdering autistic boy, 11, at airport hotel
The Times, May 18, 2010

動機や殺害方法については書かれていません。

他の記事もあるのでしょうが、ちょっと気が進まないので、
とりあえず、この記事のみで。

どうも、Glen君が車いす使用だったとか、コミュニケーションエイドを使っていたとか
当初は、そういう情報が流れたようですが、警察が否定しています。


英国といえば、
先頃のGilderdale判決を巡る情緒的かつ煽情的なメディアの論調が
自殺幇助の議論をあっという間に慈悲殺容認論へと変質させていくのを目撃したばかり。

その後、DPPの自殺幇助起訴ガイドラインは
慈悲殺と自殺幇助を明確に区別しましたが、

どのように扱われていくのか、非常に気がかりな事件です。



【Gilderdale事件】

Gilderdale事件:「慈悲殺」を「自殺幇助」希望の代理決定として正当化する論理(2008/4/18)
慢性疲労症候群の娘を看護師の母親がモルヒネで殺したGilderdale事件(2010/1/19)
Gilderdale事件から、自殺幇助議論の落とし穴について(2010/1/22)
Gilderdale事件で母親に執行猶予(2010/1/26)
Gilderdale事件:こんな「無私で献身的な」母親は訴追すべきではなかった、と判事(2010/1/26)
『Gilderdale事件はダブル・スタンダードの1例』とME患者(2010/1/29)

【Gosling氏の慈悲殺告白】

BBCの司会者が番組で“慈悲殺”を告白(2010/2/16)
番組で恋人の“慈悲殺”を告白したBBCのキャスター、逮捕される(2010/2/17)
TVで“慈悲殺”告白のGosling氏、続報(2010/2/18)
2010.05.19 / Top↑
ベルギーの人口の6割が住むフランダースで07年に行われた
尊厳死・自殺幇助の実態調査の結果については去年9月に
以下のエントリーでもニュース記事を紹介していますが、

幇助自殺死が急増し全死者数の2%にも(ベルギー)

様々な国で自殺幇助合法化の議論が進んでいることから
この調査についての詳細な報告がカナダ医師会ジャーナルに掲載されました。

以下から全文が読めます。
詳細なデータが表に整理されています。

Physician-assisted deaths under the euthanasia law in Belgium: a population-based survey
Kenneth Chambaere PhD. et.al.
CMAJ, May 17, 2010


「考察」部分のみ、ざっと以下に。

安楽死が合法となって5年目に当たる2007年の
6月から11月までの間に、ベルギーのフランダースで
安楽死、自殺幇助、患者の明確な要望なしに致死薬が使用されたケースについて
医師にアンケート調査を行ったところ、

208件が報告され、
安楽死と自殺幇助は調査期間のフランダースでの死亡件数全体の2%だった。

その大半は80歳未満で、在宅死のがん患者。
使用薬物はバルビツレートまたは筋弛緩剤の単剤、またはその組み合わせ。

最も多い理由として挙げられたのは、
痛みやその他の症状がひどいこと、改善の見込みがないこと、患者の希望。

患者からの明確な要望なしに致死薬が使われたケースは
調査期間中のフランダースの死亡件数のうち、1.8%で、
ほとんどは80歳以上の患者で、病院での死亡。
また大半のケースで昏睡や認知症のため患者は決定に関与していない。
医師が決断した理由としては、親族への配慮と不必要な延命。

患者からの明確な要望がない自殺幇助のケースでは
その他のケースよりもターミナルな病気の治療期間が短く、
最後の一週間に治癒を目的に治療したケースが多く、
延命中止で死が早められたと思われる期間が短く、
また、オピオイド(モルヒネ用の麻薬)だけが使われていたケースが多かった。

安楽死と自殺幇助は比較的若い患者の自宅死であるという結果は
これまでの研究の結果と一致している。

本人の明確な希望なしに致死薬が使われたケースの多くが
80歳以上で昏睡や認知症のある高齢者の病院での死だという結果は、
本人の明確な希望なしに致死薬が使われる危険のある「弱者」とされる患者像と重なっている。
したがって、このような患者を保護するための配慮が必要である。

しかし、これらの結果からは
安楽死と自殺幇助のケースでは死が予測し得る癌患者で、
診断から時間をかけて死を決意するケースが多いのに対して、

本人の明確な希望なしに致死薬が使われたケースでは
慢性病として推移してきたものが何らかの要因で急変して意思疎通ができなくなり、
治療の甲斐なく、予想外の終末期に至ったために
家族との間で医師が決断することになった場合が多いと思われる。

その決断には結果的に利益の衝突があった可能性もある。
そうした可能性を避けるためには、意思疎通が不能になった場合を想定して、
あらかじめ家族と本人も含めてケアプランを立てておく必要がある。

また、オピオイドなどの使い方から、
本人の明確な要望なしに致死薬が使われたケースとは、実際には
緩和ケアとして使われたもので、特に死を早めたわけではないが、
結果的に死を早めたと捉えられている可能性もある。
この点は、介護者に対する情報提供が見直されるべきである。

本人の明確な要望なしに致死薬が使われる割合はフランダースの方が
尊厳死を合法化している他の国よりも高いが、

その一方、98年には3.2%だったことからすれば、07年の1.8%とは、
ベルギーで尊厳死合法化後に減少したことを示している。

オランダでは合法化を挟んでも、0.7%から0.4%の変化なので
ベルギーのフランダースの方がオランダよりも減少幅が大きい。

尊厳死合法化によって減少したとはいえ、
本人の明確な希望なしに致死薬が用いられるケースを減らすべく、
より努力が必要である。




読んで、とりあえず思ったこと。

① 「患者本人から明確な要望がない死の幇助」という表現はおかしい、と思う。
本人からの明確な要望がないなら、それは「幇助」じゃないのでは?

② うっかりすると、見落としそうな個所ですが、
本人の明確な要望なしに医師が決断した理由が
「親族への配慮」と「不必要な延命」。

「考察」は、かなり後の方で
「結果的に利益の衝突のある決定になった」という表現で
さらっと触れているだけで、深入りしていませんが、

「親族への配慮」と「不必要な延命」とは、
それぞれに全く無関係な2つの別々の理由なのか、
それとも、どちらかがどちらかに影響する可能性があるのか、
また「不必要」とはどういうものか、また誰が決めるのか、など、
ここには、もっとネチネチと考えてみるべきことがあるはずだという気がする。

③ その他、上に整理した以外の「結果」の個所で、

本人の明確な希望なしに致死薬が使われたケースで
医師が本人と相談することなしに決めた理由として
「本人の最善の利益だから」というものが17%もあることが目を引いた。

また、家族と相談した割合は安楽死・自殺幇助のケースと変らないが
介護者と相談したという割合は低くなっている。

ここのところからも、
誰がどういう基準で決めるか分からない「不必要な延命」と
「利益の衝突」をはらんだ「親族への配慮」というのが匂い立ってくる感じ。

④私はベルギーの法律の内容を知らないので、モヤモヤしているだけなのだけど、
この調査が安楽死を合法化した法律の下での尊厳死・自殺幇助の実態調査であり、
その法律がOregonやWashingtonの尊厳死法のように「死の自己決定権」に基づいているのだとしたら、

本人の明確な要望がなくて医師が決定する致死薬の使用がなぜ assisted deathとして合法なのか、
いまいち、そこのところの理屈がわかりません。

「さらに減らすように努力が必要」と結論付ける以前の問題として、
それは当該法律の元では違法とされるべき行為ではないのか、と不思議なのですが、
別の法律やガイドライン等によって免罪されているということなのでしょうか。
2010.05.19 / Top↑