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WPASの報告書を読んで、誤解を招くのではないかと非常に気になった箇所がありましたので、注記しておきます。

誤解を招きそうな紛らわしい書き方があるのは、「Ⅲ事実」の「B.アシュリーの両親は“アシュリー療法”に関して子ども病院倫理委員会に意見と勧告を求めた」という項目。“アシュリー療法”が一連の処置の新しくユニークな適用法であり、特に確立された方針がないことから両親と医師らは子ども病院の倫理委員会に意見と勧告を求めたという下りに続いて、次のような一文があります。

 子ども病院の倫理委員会は医療倫理のトレーニングを受けた(専門的サービスの?)提供者と地域の人、さらに子ども病院の弁護士1名から成る多職種構成である。この委員会は、倫理上の懸念が起こりそうな処置や医療についてガイダンスを求めている臨床家と家族に対して、拘束力を持たない勧告を行う。

注意を要するのは、ここで触れられているのはシアトル子ども病院の恒常的に設置された倫理委員会のことに過ぎないということ。この部分、「Exhibit Hを参照」との脚注がついていますが、Exhibit Hとは子ども病院の倫理委の職務規定です。つまり、ここで述べられていることは子ども病院の恒常的な倫理委(継続的に任命され、1年毎に見直し)についての話であり、いわば一般論。特にアシュリーのケースを検討した2004年5月5日の倫理委の席にいたメンバーとは限りません。

「倫理委のメンバーは実は18人とも」で既に見てきたように、アシュリーのケースを検討した倫理委のメンバーについては、ワシントン大学とシアトル子ども病院の職員のみで構成されていたとの証言があり、Exhibit Hの子ども病院の倫理委のメンバーがアシュリーのケースを検討したという単純な話とは違っているように思えます。

しかし報告書のこの部分では、上記で引用した記述に「2004年に、子ども病院の倫理委員会が開かれ」、アシュリー療法という過激な介入が本人のQOLに寄与するかどうかの判断をしたといった意味のセンテンスが続くので、流れだけを不用意に読むと、2004年のアシュリーの症例を検討した委員会が上記引用と同じメンバーによって行われたかのように感じられてしまいそうです。

当該倫理委の記録がExhibit Lとして添付されていますが、ここにも倫理委のメンバーについては人数も職種も書かれていません。(こちらの記録に関する疑問については、また回を改めて整理しまが、このエントリーのテーマに関わるかもしれない点として、タイトルに Special CHRMC Ethics Committee Meeting/Consultation とあり、この Special が何を意味するのか、ひっかかります。)

明示しておきたいのですが、WPASの調査報告書では、アシュリーのケースを検討した2004年5月5日の倫理委のメンバーについては、まったく明らかにされていません。

誤解を招きそうな上記引用の記述には、「医師らの論文にはマヤカシがある その4」で指摘した、論文の倫理委についてのトリックに似通った紛らわしさが感じられるのが、気になるところです。



当該倫理委のメンバーについては、シンポでも何度か話題になった場面はありました。minxさんのシンポの報告によると、Alice Dregerさんからの障害学の視点を持った人が委員会に入っていないとの指摘に対して、同倫理委の委員長だったWoodrum医師が「障害者コミュニティの代表は入っている」と述べたとのこと。ただし、彼はそれが具体的にどういう立場の人かは述べていません。また、そういう人が「病院の倫理委に入っている」ということと、「5月5日のアシュリーの件に関する倫理委の席にそういう人が入っていた」という事実とは異なるはずですが、彼はいずれのことを意味していたのか……。
私の記憶では、午前の場面でもWoodrum医師は当該倫理委には弁護士も含まれていたと述べていました。
しかし、彼は倫理委のメンバーに言及したその2つのいずれの場面でも、当該倫理委の具体的な人数や構成について、それ以上に詳しく述べようとはしませんでした。

また、「親のブログがなかったら隠蔽は成功していた?」と 「倫理委のメンバーは実は18人とも」とで書いたように、両親のブログのカン違いから多くの人が思い込んでいた「倫理委のメンバーは40人」との誤解を、病院側はシンポで数が正面から問題とされるまで、4ヶ月以上も放置し訂正しようとはしませんでした。

その問題の場面、Dregerさんが「だって40人もいたんでしょう?」と質問者に切り返した際には、しばし誰もすぐには答えようとせず、病院サイドの困惑が感じられました。しばらくしてCarter医師が「40人に見えたんだよ」と言ったわけですが、不思議だったのは、そのCarter医師の発言の後、誰もそれに次いで発言しないまま、この場面がうやむやになってしまったこと。多くの人が信じていた「40人いた」を否定したのだから、普通に考えたら、「40人に見えただけ。実際の人数はこうだった」という話が出てもいいはずです。会場からの質問者もまだ答えてもらっていなかったのに、質問そのものがうやむやに立ち消えとなりました。なにか非常に奇妙な間の悪さが漂う場面でした。あれ以上、この話題に触れたくなかったのではないでしょうか。

これまで眺めてきた、

①論文では倫理委の構成メンバーについて巧妙な誘導トリックを仕掛けていた。
②両親の誤解から広く流布した40人という誤解を病院サイドは敢えて指摘・訂正しなかった。
③上記のシンポでの倫理委のメンバーを巡る各場面。

の3点から考えて、病院サイドは倫理委のメンバー構成については明かしたくないようです。しかし一方で、この事件の核心が倫理委員会であることは、多くの人が感じていることでしょう。2004年5月5日の倫理委の席にどのような人がいて、どのような議論が行われたのか、それこそがこの事件の核心のはずです。(この点については、「重大な疑惑」の書庫にあるエントリーを参照してください。)

それなのに、この調査報告書では、アシュリーのケースを検討した2004年5月5日の倫理委のメンバー構成はもちろん、議論の内容についても、ほとんど触れられていません。

WPASは調査において、そこに踏み込まなかったのでしょうか。


(6月1日からDisability Rights Washingtonに名称が変更されていますが、報告書は5月8日付のものなので、ここでは、とりあえずWPASのままとしました。)
2007.06.05 / Top↑