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これまでにいろいろなエントリーで述べてきましたが、この事件に関して病院サイドから公表された情報の中に、アシュリーのケースを検討した倫理委員会についての情報はほとんどありません。たとえば倫理委員会の委員の人数はどうだったのか。委員の構成はどうだったのか。実際の議論はどのように展開したのか。反対意見は出なかったのか。病院は明らかにしていません。

病院から出てくるのは、周辺的な倫理委員会についての情報ばかりです。たとえば、シアトル子ども病院に恒常的に設置されている倫理委員会の職務規定はWPASの調査報告書に添付されています。報告書には、同病院の成長抑制/不妊手術検討サブ委員会の規定も添付されていますが、これは2005年4月(アシュリーの手術は2004年7月)に設置されたものです。医師らが書いた論文にも、当時準備中であった(上記サブ委員会は既にあったはずなのに)という検討組織のメンバーが列記されています。しかし惑わされぬよう気をつけなければならないのですが、これらはいずれも、2004年5月5日に召集されアシュリーのケースを検討した倫理委員会とは別物なのです。

別物であるにも関わらず、これらの情報は常にあたかもアシュリーの件を検討した委員会の情報であるかのように装って、もしくは読者が勝手にそのように誤解して読む可能性のある紛らわしさとともに提示されています。WPASの調査報告書には、2004年5月5日の当該倫理委の記録が添付されていますが、この記録にも委員のメンバー構成や人数については述べられていません。

病院サイドは当該倫理委の詳細については未だに明かしていないのです。話が当該倫理委に及びそうになると、何故かするりと話を摩り替えて誤魔化し、そのまま口をぬぐっているのです。

それは何故でしょう。

アシュリーのケースを検討した倫理委員会には、なにか公表できない事情があるのでしょうか。

2007.06.26 / Top↑
 既に紹介したように、親の要望を倫理委員会に諮った理由について、論文では、成長抑制療法はunconventional でありcontroversial だと思われたので倫理委員会にかけたと書かれています。

 ところが、両親のブログで倫理委が開かれたいきさつを書いた部分は微妙にニュアンスが異なっています。

Since the “Ashley Treatment” was new and unusual, Dr.Gunther scheduled us to present our case to the ethics committee at Seattle Children’s Hospital, which we did on May 5th 2004.

”アシュリー療法“が新しく珍しいものなので、我々がシアトル子ども病院の倫理委員会に対して present our case するようにGunther医師がスケジュールを組み、2004年5月5日に我々はそれを行いました。

まず、両親が要望している医療処置についての認識が違っています。論文執筆者のunconventional やcontroversial と表現する意識に比べて、new and unusual とは、ほほえましいほどに無邪気な言葉の選択ではないでしょうか。前回のエントリーで紹介したthis pioneering treatmentに見られる考案者の自負がここにも感じられます。自ら命名した名称をわざわざ使って「“アシュリー療法”が新しく珍しいものなので……」という口調には、誇らしげな響きすらあるようです。

しかし、倫理委が開かれたいきさつを巡る両者の発言には、療法についての認識以上に重要なニュアンスの違いがあるのです。

両親のブログの表現では、2004年5月5日の倫理委は両親に自分たちの意図を説明する機会を設けるために、それを目的としてセッティングされたものだったように聞こえないでしょうか。

この件を検討した倫理委員会は5月5日の1度しか開かれていないことに注目してください。すでに委員だけの倫理委が開かれていて、その会議の場で「これは親のいうことも聞いてみなければ」という意見が委員の間から出たので、それで両親が説明に招かれた……という段階を経たいきさつではありません。1回きりの倫理委が、両親のプレゼンで始まるように、会合が開かれる前からセッティングされていたのです。しかもブログの文章から読む限り、それは自分たちが直接説明をするためにGunther医師がセッティングした機会だと両親は理解していたようです。
2007.06.26 / Top↑