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英国の入院患者の4人に1人は退院しようと思えば可能なのに、地域での介護と看護が緊縮財政でカットされる不安から「ベッドふさぎ」をしている、と。:目先だけの予算削減策って、こんなふうに波及的な影響で結局はちっとも削減にならない……ってこと、多い気がする。それにしても前から思うけど「ベッドふさぎ」って、イヤな表現だ。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/dec/29/hospital-patients-discharge-bed-blocking?CMP=EMCNEWEML1355

実際、英国の在宅高齢者支援は削減で、まったく受けられない人、ほとんど受けられない人が増えている、とAge UK。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/dec/28/care-elderly-crisis-charity-warns?CMP=EMCNEWEML1355

英国で「隠れた介護者」発見に、スーパーの店員にも一役買ってもらおう、との動き。:確かにサービスに繋がっていない介護者の発見は大事だとは思うけど、これはやり過ぎでは? 
http://www.guardian.co.uk/society/2011/dec/28/supermarket-staff-trained-identify-hidden-carers?newsfeed=true

ギリシアで食い詰めた親が子どもを棄てるケースが続出している。支援チャリティはこれから増えるぞ、と。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/dec/28/greek-economic-crisis-children-victims?CMP=EMCNEWEML1355

オーストラリアで休暇中のビル・ゲイツがテニスをしてもニュース。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2079456/Anyone-tennis-Bill-Gates-enjoys-relaxing-day-court-festive-break-Down-Under.html?ito=feeds-newsxml

アフリカでミドル・クラスが急拡大。テクノロジーで自信をつけ自国文化にも誇りをもてるように。:でも、その一方で、貧富の格差は絶望的に広がっているんだろうな、と想像。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/dec/25/africas-middle-class-hope-continent?CMP=EMCNEWEML1355

再生可能エネルギーはべつだんコスト高にはならない、との研究結果。
http://www.guardian.co.uk/environment/2011/dec/28/uk-switch-low-carbon-energy?CMP=EMCNEWEML1355

エジプト軍、収監された女性に「処女検査」していたとか。違法判決。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/dec/27/virginity-tests-egypt-protesters-illegal?CMP=EMCNEWEML1355

[WAN的脱原発]シリーズの(10)に大橋由香子さんの「難しいことはわからないけど、母は強い? 『産むのが怖い』この時代に」。8月にもブクマしたから補遺でも拾っているかもしれないけど、ツイッターを機に再読して「弱いもの、小さいものの生命を守るゆえの女の遅い歩みを、差別の対象にしてきた男たちへの不信」という中野耕さんの引用がゴチックに見えた。障害のある子の母となり大学の仕事を手放した私が、今やっとネットという手段でモノを言えるようになると、男たちがあちこちからインネンをつけにやってくる。字面はともかく、そのメッセージはたいてい「医療職でもなければ学者でもない、ただのオバサンがエラソーな口を叩くな」。じゃぁ、その「地位ある男」が、どうして「ただのオバサン」の言うことに脅かされ、逆上し、ムキになるの? 
http://wan.or.jp/reading/?p=3964
2011.12.29 / Top↑
カナダの中でも独自に先進的な動きがあるケベック州では
以下のエントリーで眺めてきたように、去年から
尊厳死に関する特別委員会が州民の意見聴取を行っていました。

カナダ・ケベック州医師会が自殺幇助合法化を提言(2009/7/17)
スコットランド、加・ケベック州で自殺幇助について意見聴取(2010/9/8)


分析・公表しているのが安楽死反対グループなので、
そこのところがちょっと保留ではあるものの、
口頭でまたは文書で寄せられた427の意見の集計結果が報じられており、

安楽死をまあ支持してもいいと考える人と強く支持する人を合わせても34%のみ。

60%は安楽死への道を開くことに反対で、
99%が終末期の緩和ケアの重要性を認識。

Living With Dignityは、非常に重要な指摘をしています。

安楽死に賛成と述べた約3割の回答の中身を詳細に見ていくと、
コミッションにより死に至らせる積極的安楽死と
無益な治療を差し控えるオミッションによる消極的安楽死の区別がついていない人があり、

「支持すると答えた多くの人は、実際には過剰医療に反対しているのです」と
Living With Dignityの会長。

Submissions to Quebec committee overwhelmingly reject euthanasia, assisted suicide
The Interim, December 27, 2011


ずっと当ブログで書いているように
私は日本の終末期医療を巡る議論の一番の問題点もここなんじゃないかと思う。

多くの人が安楽死支持の発言を繰り返しているけれど、

「安楽死・尊厳死を認めましょう」という人が言っていることの中身は
「苦痛を与えるばかりで本人のためにならない過剰医療は止めよう」に思える。

それなら
過剰医療と、個々のケースでの慎重かつ丁寧なアセスメントと意思決定の問題であって、
安楽死の問題ではないのだから、

安易に「安楽死」や「尊厳死」を云々する前に
「過剰医療の問題」をきっちりと事実に基づいて議論するべきでは、と思う。


【関連エントリー】
在宅医療における終末期の胃ろうとセデーション(2010/10/6)
日本の尊厳死合法化議論を巡る4つの疑問(2010/10/28)
朝日新聞の「どうせ治らないなら延命はしませんよね、あなた?(2010/11/5)
「私は余計なことをせずに死なせてほしい(丁寧なケアはしてもらえないのだから)(2011/9/13)
2011.12.29 / Top↑
(前のエントリーの続きです。)


ケアラーへの影響

DSプログラムのサービスを利用した18653人のケアラーの内
5050人(27%)からアンケートによって情報を収集した。
10年以上、週50時間以上介護している高齢女性が中心で
上記のようにマイノリティや多様な障害・病気の人のケアラーを含む。

回答者の80%はこれ以前には数時間を超えるレスパイトの経験がなかったと回答。

NHSサポート・サイトでは介護者役割へのサポートを受けたことがない人が多かった。
健康チェック・サイトでは多くのケアラーが過去半年以内に医療職の診察を受けていたが
今回新たに全人的なアプローチで介護者の心の健康が強調されたことを喜んだ。

(注 health and well-beingをここでは心身の健康と理解・仮訳しました)

休息サイトのサービスでは
「自分自身の生活」を送りやすくなり自信を持てた、
心身の健康のために行動するようになったという報告があり、
3分の1が新たな余暇活動を始めていた。

また専門職とのコミュニケーションがよくなった、
ケアラーとしてどんな支援やサービスを受けられるか、よく分かった、の声があり、

レスパイトを利用しなかったケアラーでは心の健康スコアが悪化する傾向があった。

健康チェックは支援を受けたマイノリティの多くに好影響があった。
4分の1が自分の健康に対する見方が変わり、運動量が増えた、と回答。
ほとんどの人がその他のサービスに申し込みをした。
ただし、一部の回答で、健康チェック以外のケアラー支援が
適切に行われていることがまず必要との課題も浮き彫りに。


コスト・パフォーマンス

DSプログラムの目的の一つに
最もコスト・パフォーマンスのよいサービス提供方法を探る、というものがあった。
正確な測定はできないが、研究からはプログラムで導入されたケアラー支援の多くは
医療と福祉領域でのコスト削減に繋がる可能性があるとのエビデンスが得られた。

全国評価とローカル評価から、削減が見込まれるのは

・入院、施設入所の予防
・支援によりケアラー役割の維持が可能
・心身の健康の問題を早期に発見できる
・ケアラーの心身の健康の改善
・連携・協働ができやすくなる
・GPの診療の効率化によるコスト削減(? Efficiency savings in GP practices.)
・ケアラーの再就労または離職防止
・ケアラー間でのインフォーマルな支援ネットワークの構築


政策提言

1. いずれの地域でも地方自治体、NHS組織とボランティア団体とが連携し、効果的な介護者支援を共に開発し提供する努力が必要。

2. サービスの開発には、地域の介護者支援の連携に多様なケアラーを含めることが必要。

3. 広い範囲のケアラーに支援を届け、まだサービスに繋がっていないケアラーに手を届けるためには、地域の関係者の柔軟な連携と、時にはターゲット・グループの特性に応じて臨時の体制を組むことが必要。

4. 地域レベルでの効果的なケアラー・サポートには多様なメニューが含まれ、それが個々のニーズに合わせて変更可能であること。

5. ケアラー・サポートのメニューについては、地方自治体とNHS組織とボランティア・セクターや状況に応じてその他の団体の間での合意が必要。

6. 新たな診断や退院や外来受診時など患者に介護する人が付き添うことの多い場所を中心に、病院が新たな介護者を見つけ出しサポートするメカニズムを定常的に持つこと。

7. 全てのGPに診療を通じてケアラー・サポートのキーマンとなるスタッフを決めるよう奨励すべき。そのキーマンの協力によって介護者を見つけ出し、地域の適切なサービスに繋げ、そして介護していることによってケアラー自身が病院の予約を取りにくかったり治療を受けにくくなることがないよう保証する。

8. 病院、GP診療所、地方自治体、ボランティア・セクターにおいてケアラーと接する全てのスタッフは、介護責任がケアラーの心身の健康におよぼす影響に配慮できるよう研修を積み、ケアラーが心身の健康チェックを受けられるようアドバイスできなければならない。

9. すべての関係機関がスタッフに対して定期的にケアラー支援の啓発研修を行うべきである。
2011.12.29 / Top↑
2008年に「全国介護者戦略」が策定された際に
保健省が作った The National Carers’ Strategy Demonstrator Sites (DS) プログラムを
リーズ大学の介護と労働と平等の国際研究機関(CIRCLE)が検証するべく行った調査研究の報告書。

New Approaches to Supoorting Carers’ Health and Well-being: Evidence from the National Carers’ Strategy Demonstrator Sites programme
Edited by Sue Yeandle and Andrea Wigfield,
Center for International Research on Care, Labour & Equalities
University of Leeds


「全国介護者戦略」については、以下を参照 ↓
英国の介護者支援
英国のNHS検証草案と新・全国介護者戦略

DSプログラムとは、日本でいう「モデル事業」に当たるのではないか、と。
以下、訳語が不統一なままですが、Executive Summaryの内容を。
(ゴチックは Executive Summary の小見出しです)

          ―――――

全英25か所で1年半に渡り、
ケアラーへの新たな革新的サービスを提供したり、あるいは
現行の制度が効果的であれば、それを拡大したり、という試みが行われた。

25か所が3つの重点事業に分かれ、
それぞれに思い切った模索が行われた。

・休息(レスパイト):12か所。
認知症または精神障害のある人のケアラーのために特化した短期レスパイト事業。
在宅での代替ケアの想像力に満ちた利用。
極めて柔軟なアプローチにより個別的な休息の機会を提供。
オンライン予約も。

・健康チェック:6か所。
身体的健康チェックと福祉のチェックを、両者ともに、または単独で実施。
非医療職とボランティア団体スタッフの協働または後者のみを活用してチェックを実施。
自宅でのチェックや、コミュニティ・センターでのチェックも。

・NHSの枠組みでのケアラー・サポート策の改善:7か所。
病院とプライマリー・ケアでの介護者支援策として、
親しくなる(befriending)活動、ピア・サポート活動、スタッフ啓発研修、
情報・記録・紹介手続き・介護者アセスメントへのアクセスの改善。
特にGPや病院、クリニックを通じて未支援のケアラーを見つけ出すことを重視。


パートナーシップと多機関アプローチ

08年の全国介護者戦略のヴィジョンは
それまでの医療とソーシャルケアに大きな変革をもたらすもので、
DSにおいても、新たなサービスを開発することによって
それぞれの機関のスタッフの役割にも、
機関間、機関内での協働関係にも変化をもたらした。

特にボランティア・セクターやアウトリーチ活動の担当者では仕事量が増えたとか、
新規サービス導入への同僚からの抵抗があったなどの報告もあるが、
概ね、チームワークが良好となり、ケアラー支援への意識が高まり、
新たな活動や新たなスキルの開発に繋がるなど、よい影響がもたらされた。

いずれのサイト(モデル事業を引き受けた場所)でも
民間のボランティア・セクター、NHS組織、地方自治体が連携し、
それぞれの役割や責任を担った。

休息のサイトでは地方自治体が主導し、
NHSでの支援サイトではNHS組織が主導、
健康チェックではサイトによって主導するところが異なった。

これまで支援もサービスも受けていないケアラー・グループにアプローチするために
柔軟なインフォーマル支援ネットワークを作ったサイトもあった。

こうした3者の連携は
モニタリング・システムの改善、医療と福祉感の意思疎通ネットワークの改善、
さらにスタッフへの新たなケアラー支援啓発研修に繋がった。

連携の問題点としては、
手続き上の差異を埋める問題、
連携相手の資源へのアクセスの問題、
連携機関の取り組み姿勢の温度差
地元のボランティア団体では登録ケアラーが逃げることへの懸念、
事業参加が将来の資金獲得にマイナス要因となる懸念、
GPの取り組み姿勢の差(? differential engagement among GPs).


ケアラーを見つけ、関わりを作り、活動に参加させていくこと

25のサイトで支援を受けたのは総勢18653人のケアラー。
休息サイトで5655人、健康チェック・サイトで5441人、HHSサポート・サイトで7557人。
その他、28899人のケアラ―と接触したがサービスは受けなかった。

その多くは高齢女性。
民族マイノリティのコミュニティのケアラーや、
認知症、精神障害、慢性・ターミナルな病気、知的障害、薬物乱用の人のケアラーとも
うまく関わりを持つことができた。

当初はGPその他の医療職と繋がることが難しかったが、
特にNHSサポートと健康チェックでは、NHSスタッフとの連携が
うまくケアラーを探しだして関わりを持つカギとなった。

特に多くのケアラーを見つけて関わることができたサイトは
ターゲットとするケアラー・グループに応じてやり方を変えていた。

これまで支援サービスを利用したことがない人を対象にするパンフなどには
「ケアラー・介護者」という文言は使わない方がよい、と考えるスタッフが多かった。

ケアラーとの関わりを作るのに重要なのは連携とネットワーク。
ヤング・ケアラーでは学校、大学、ユース・センターとの連携アプローチが有効だったし、
民族マイノリティではボランティア・セクターのアウトリーチがよかった。

ケアラーとの関わりを作るには、
ウェブや広告、ポスター、パンフよりも、直接会って信頼関係を作る方がよかった。

全てのサイトが支援サービスの企画にケアラーを参加させ、
中にはプロジェクトの展開方法やサービス評価に参加してもらったサイトもあった。

ケアラーが参加することによって
福祉や医療の専門家にはない視点がもたらされて、
それまでは考慮されることのなかった問題が指摘された。

DSプログラムの大事な「遺産」として
ケアラーの参加をさらに発展させようとするサイトも。

(次のエントリーに続く。)
2011.12.29 / Top↑
まず、アシュリー事件のリサーチを通じて去年までに見えてきた
シアトルこども病院・ワシントン大学とゲイツ財団の関係について、以下にまとめました ↓

シアトルこども病院・ワシントン大学とゲイツ財団の密接な関係:グローバルな功利主義・優生主義医療の動き(2011/2/9)


ワクチン関連では、接種への強制が広がろうとしている↓
米国で「ワクチン打たないなら診てやらない」と医師ら(2011/7/6)
「ワクチン打たないなら診てやらない」の続報(米)(2011/9/27)
ゲイツ財団(の連携機関)が途上国の子どもに銃を突きつけワクチン接種](2011/7/29)
WA州が法改正でワクチン免除の条件を厳格化(2011/9/28)


ワクチン関連では日本でも今年はいろいろあった ↓
日本の「ワクチン産業ビジョンの要点」の怪(2011/3/8)
5月18日の補遺 (ゲイツ財団から武田製薬に大物が)
日本も13日のカンファでGAVIに8億3000万円を約束(2011/6/17)
子宮頸がんワクチンでの失神は「ドキドキするから」?(2011/8/5)
日本でもガーダシル導入へ、厚労省当該部会の議論の怪 1(2011/8/5)
JICA、ゲイツ財団とパキスタンのポリオ撲滅で“戦略的パートナーシップ”(2011/8/20)
やっぱり不思議な「ワクチン債」、ますます怪しい「途上国へワクチンを」(2011/9/4)


しかし、今年は批判の声もあり、「慈善」の背景がいよいよ見えてきた ↓
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの(2011/3/9)
ゲイツ財団はやっぱりビッグ・ファーマの株主さん(2011/3/28)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
やっと出た、ワクチンに世界中からかき集められる資金への疑問の声(2011/6/16)
公衆衛生でマラリア死8割減のエリトリアから「製薬会社株主ビル・ゲイツのワクチン開発」批判(2011/8/2)
ゲイツ財団、ビッグ・ファーマ・ノバルティス役員の引き抜きへ(2011/9/12)


さらに今年、ゲイツ財団はモンサントと手を組んだ ↓
ゲイツ財団がインドで目論んでいるのはワクチン普及だけでなくGM農業改革も(2011/4/16)
「アグリビジネス」の後ろにはワクチン推進と同じ構図が見える(2011/10/5)
“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業“を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AGRAの繋がり(2011/10/27)
TPP進める経済界のトップ、やっぱりぐるっと廻って“ゲイツつながり”(2011/10/27)


その他、ゲイツ財団が今年、興味を示したのは例えば、

途上国向け、水を使わない衛生的トイレの開発。
途上国向け、栄養を強化したバナナの開発。
相変わらず途上国向け、革新的避妊法の開発 ↓
注目集めるインド発・男性向け避妊法、「女性にも」とゲイツ財団(2011/6/3)

教育のIT改革・生徒のパフォーマンスによる教師の評価・競争原理の導入
ゲイツ財団の米国公教育コントロール 1(2011/5/2)
ゲイツ財団の米国公教育コントロール 2(2011/5/2)

次世代原発の開発。
日本の原発事故を機にエネルギー問題について発言が続き、
中国政府と次世代原発の開発で連携を約束。
ゲイツ氏自身が立ち上げに関与した次世代原発開発ベンチャー
Terra Powerの営業活動?
2011.12.29 / Top↑
Ashley事件に関するこれまでのリサーチを取りまとめて
「アシュリー事件:メディカル・コントロールと新・優生思想の時代」という本を上梓しました。

Ashley事件には、2011年の後半は情報がまったく引っかかってきませんでしたが、
それが実際に何の動きも起きていないということなのか、
何かが準備されているということなのか、
水面下に潜ったということなのか……。

WPASとの合意がいったん切れる来年5月が要注意ではないか、と
私はちょっと警戒しているのですが。

まさにその懸念を深めるような妙な抗弁が4月に
シアトルこども病院の弁護士から出てきました。

子ども病院弁護士が「治療で儲かる病院には利益の相反があり裁判所に命令求められない」と大タワケ(2011/4/27)


その他、2011年前半までに引っかかってきた情報は
やはり大半が事件をめぐる論文や発表などアカデミックなリアクション。

米小児科学会関連雑誌に成長抑制WGの論文巡るコメンタリー(2011/3/2)
A事件は「ネオリベ型の力の行使で、医療により不具にしたケース」(2011/4/24)
HCRの成長抑制論文にBill Peace, Clair Royらが反論の書簡(2011/9/2)

スコットランド国立劇場の“Girl X”、Facebookde“A療法”論争(2011/2/1)


特筆事項として、今年は
A療法を最も鋭く批判したAlicia Ouelletteがその批判を生命倫理に拡大した著書
“Bioethics and Disability”を上梓。

なかなか読み終えることができずにいますが、
これまでのエントリーは

Alicia Quelletteの新刊「生命倫理と障害: 障害者に配慮ある生命倫理を目指して」(2011/6/22)
エリザベス・ブーヴィア事件:Quellette「生命倫理と障害」から(2011/8/9)
Sidney Miller事件: 障害新生児の救命と親の選択権(2011/8/16)
Ouellette「生命倫理と障害」概要(2011/8/17)
Ouelletteの「生命倫理と障害」:G事件と“無益な治療”論について(2011/12/17)ここから3本。
Ouellette「生命倫理と障害」:人工内耳と“Ashley療法”について(2011/12/19)ここから2本。
2011.12.29 / Top↑
② 上野先生は高齢者の「家族介護者」だけをイメージして話を進めていきながら、
障害者運動の当事者主権の考え方から学べと説いているように思え、
ここでもまた、障害児・者の家族介護者、つまり主として親(特に母親)は
置き去りにされているんじゃなかろうか。

この本の著者が見ているのは
育児と、高齢者介護と、自立した障害者だけなのでは……という気がする。

「育児ロボットを考えつく人はいないけど介護ロボットは考えつく人がいる」と
何度か繰り返されていたり(これについてはこちらのエントリーの後半で書いた)
「動物の世界に育児行動はあっても、高齢者介護はない」(P.105)など、

上野先生もまた、障害児・者の母親によるケアを
どちらかと言えば介護よりも育児寄りにイメージしている……?

そのためなのか、
子どもが何歳までが「育児」で、何歳から「介護」なのか、
または障害児の親によるケアは、どの部分が育児で、どの部分が介護なのか、と
私たち重症児の親が考え続けてきた問いは、ここには見あたらないし、

高齢者の「家族介護」以上に「ジェンダーまみれ」になっているはずの
障害児・者の家族介護者、例えば以下の記事で取り上げられているような母親たちは、
この本の中の、どこにも、いない……という気がした。

「介護の代わりいない」2割 重症心身障害者の家族に不安。岐阜県の調査(12月21日)


やっぱり「ケアの社会学」って、
“名誉男”として生きてくることのできたフェミニストの学者さんが
自らの高齢期を前に、もっぱら「介護される人」の側に自己同視して
団塊の世代が要介護者となる時代にあるべき介護保険の形を考えている本……?

もともとフェミニズムに怨念を抱える私が何より気に入らなかったのは、
介護は出来れば引き受けたくない負担だと書いたのは最首悟だけだ、と書かれていること。
父親だから書けても、母親には言えなくされていることがあるんじゃないだろうか。

岐阜の調査の記事に出てくるような母親は、
言えなくされている自分に気付くことすらできなくされているんじゃないのだろうか。

私の母親仲間の一人は「口が裂けても言えない」と言った。
「自分が寝たきりにでもならない限り許してもらえない」と言った人もいる。

私たち障害のある子どもを持つ母親は、
一体だれに”許して”もらわなければならないというの?

その”だれか”をこそ、
フェミニズムは糾弾してきたのではなかったの?

私たち母親は、ここでもまた置き去りにされている――。

そして、
今なお得られない”だれか”の”許し”に縛られた母親の”愛”に絡めとられてしまっている
重症心身障害のある私たちの子どもたちも「当事者主権」から置き去りにされている――。

             ――――――

私自身は、
障害・障害者に関わる問題を云々する時の「当事者」は
あくまでも障害のある本人だけだと考えているし、

つい「当事者」としての意識でモノを言いそうになる自分は
自分は親でしかないことを何度でも繰り返し自覚しなければならないとも思っている。

障害のある子どもの親は、
特に赤ん坊の頃から障害のある子どもとして育ててきた親は、
子育ての最初から何年もの長い間、「当事者」として専門家に対応することを迫られ、
世間に対しても、我が子を背中にかばい自分が向かっていく姿勢になることが多く、
どうしても「当事者」としての意識を持って生きざるを得ないだけに、
そうか、自分は「当事者」ではないのだ……と自ら気付くことは難しい。

それだけに、ある段階から後は、それに何らかの形で気付かせてもらい、
自覚しておく意識的な努力をすることが必要なのだと思う。

だから、障害や障害者の問題については「当事者」は本人だけだし
親は「当事者」ではなく、あくまでも「障害のある子どもを持つ親」として
何事かを語ろうとする際には、その違いを意識しておかなければならないと思うのだけれど、

こと、ケアの問題については
ケアされる人もケアする人も両方が等しく「当事者」ではないのか、と思う。

両者の間に力の不均衡と、利益の相克・支配―被支配の関係の危うさを孕みつつも、
両者はともに等しく、ケアの「当事者」ではないのだろうか。



【関連エントリー】
“溜め”から家族介護を考えてみる(2008/6/5)
子どものケア、何歳から「子育て」ではなく「介護」?(2008/10/18)
障害のある子の子育ては潜在的な家族の問題を顕在化させる(2008/10/20)
介護を巡るダブルスタンダード・美意識(2008/10/27)
障害のある子どもの子育て、介護一般、支援について、これまで書いてきたこと(2010/3/15)
日本のケアラー実態調査(2011/6/14)

成長抑制を巡って障害学や障害者運動の人たちに問うてみたいこと(2009/1/28)
親の立場から、障害学や障害者運動の人たちにお願いしてみたいこと(2010/3/12)


これもまた、知識不足から全然理解できていないと思うけど、この本でも
著者が子育てと高齢者介護だけを念頭に論を展開しているように思えることが不満だった ↓

「ケアの絆―自立神話を超えて」を読む(2010/1/12)
2011.12.29 / Top↑
まず、前置きとして、
某日某所で聞いた介護者支援関連のシンポジウムで印象的だった場面を3つ。

① 何年か前には介護者支援の必要を訴えると
「要介護の本人が一番の弱者なんだから、介護する方がそんなことを言うべきではない」
と批判され聞いてもらえないのが常だったが、ようやく日本でも
介護者支援の必要が認識されてきた、という発言があった。

これは現在でも、
障害のある子をもつ親である私が介護者支援とか介護者の権利について語ると、
そういう反応を受けることはあるもんなぁ……と思いつつ聞いた。
「まず本人、介護者はその後」「親のくせに」などの感覚は、たぶん今だに根強い。

② あるパネリストが「“介護する権利”と同様に
“介護しない権利”も認められなければ」と発言したところ
即座に隣のパネリストが「そんなことを言ったら家族の愛はどうなる?」と反論する、
という場面があった。どちらも女性。

これって「夫婦別姓を認めろ」「そんなことをしたら家族が崩壊する」と
同じなんじゃないのかなぁ……と思いながら聞いた。

パネリストの女性では「介護しない権利」支持派が4人 vs 反対派が2人だった。

③ その後、男性介護者の問題に議論が移った際に、
男性は女性とは本来的に違っているので男性介護者に特化した支援が必要と考える人と
違うのは育てられ方や働き方によって社会的に作られてきたのだから
働き方を見直して男女同じ育て方をしようと主張する人とに
くっきりと分かれた。その分かれ方はちょうど上の4対2の逆転になっていたのも、
「2」の方々がそこで急にパワフルに発言し始めたのも、
2人とも「男女が違うことは科学的に証明されている」と主張するのも
なかなか興味深かった。

ちなみに、この問題について私の考えはこちら ↓
「大人なら誰でも基本的な家事・育児・介護ができる社会」というコスト削減策(2009/5/25)


――そういう体験をした直後に読み始めたので、

上野千鶴子先生の「ケアの社会学-当事者主権の福祉社会へ」の冒頭、6ページ目にして
ケアの人権アプローチを採用するとして以下の4つの権利が挙げられているのを見た時には
あー、なるほど「強制されない権利」ね、と納得すると同時に、
「ほらー、やっぱりー、これを見てみろ―」という気分だった。

(1) ケアする権利
(2) ケアされる権利
(3) ケアすることを強制されない権利
(4) (不適切な)ケアされることを強制されない権利


その後の本文によると、これは誰かしら外国の学者さんが提唱した3つに
上野先生が4を追加し、修正版に改良したものだとか。

とはいえ、私はこんな本を読みこなせるほどの教養はないので
正直なところ、ほとんどの部分ちゃんと理解できたとは思わないし、

後半はほとんどつまみ読みだったし、
(鷹巣町の“その後”と、外山義ユニットケア研究批判は面白かった)

加えて私にはミュウの幼児期からの
「フェミニズムは障害児の母親を置き去りにしてきたじゃないか」という
根深い怨念があるから、最初からナナメに読んでいるのかもしれない。

なので、ここでは一つだけ、
介護する者の立場で考えてきた、介護する者とされる者の関係についてのみ
読みながら、ずっと漠然と引きずっていた疑問のいくつかを、
これから私自身が考えるための整理・メモとして、書いてみる。

① 上野先生は、ケアされる側のニーズを一次的ニーズ、
ケアする側のニーズを二次的・派生的ニーズとし、それに基づいて
ケアされる側を一義的なニーズの帰属先、
従って「当事者」とはケアされる者のこと、とする。

その理由としては、
ケアされる側のニーズはケア関係から離れてもなくならないが、
ケアする側のニーズは、ケア関係に留まることによって初めて生じる二次的ニーズ。

ケアする側とケアされる側には圧倒的な力の不均衡があり、
ケアする側のニーズはケア関係から退出すればなくなる性格のものであるのに対して
ケアされる側は命にかかわるのでケア関係から退出することはできないという
不平等が存在する。

一応、上野先生は、家族介護が事実上の強制労働となっている場合には
家族は例外として「当事者」としての正当化ができないわけではないと書きつつ、
しかしそれであっても一次ニーズと二次ニーズとは区別すべきだ、と説く。

その根拠は
現状では本人と家族の利益の相反の中で家族の利益やニーズの方が優先されているから
「家族は愛の名において、障害当事者の自立生活に立ちはだかった」から。
家族は「おまえのために」を装いつつ自分自身の利害をニーズとして優先してきたから。

ここで上野先生は
家族介護者を例外的に「当事者」に一旦は含めつつ、
両者の間の不平等、家族介護では介護する者のニーズが優先されてきたことを理由に、
介護される者のニーズの方が優先だと説いて、
再び家族介護者を「当事者」から締め出しているように、私には見える。

一次的ニーズと二次的・派生的ニーズの違いを区別することは理解できるし、
介護する者と介護される者との間には利益の相克と支配・被支配の関係リスクがあることは
Ashley事件から当ブログでずっと考えてきたことそのものだから了解している。

私に分からないのは、上野先生が
それら2つを両者のニーズの「優先順位」の問題に横滑りさせているように思えること。

ニーズの生じ方・性格が違うこと、両者の利益や権利に相克があることは
常に意識されているべきだと私も思うし、
介護する側のニーズが優先されてきた問題も重大だと思うけれど、
だからといって、それは、そのまま「だから介護される人のニーズが
介護する人のニーズよりも優先」と直線的に言えることではないと思う。

介護される人と介護する人のニーズは「優先順位」や「後先」で考えるようなものではなく、
あくまでも個々のケースごとに固有の状況の中で
両者ともに合わせ考えられるべきものなんじゃないのだろうか。

長年、寝たきりの我が子をずっと在宅でケアしてきて、
介護負担を含む諸々の事情からウツ病になった親や、
ヘルニアになって日常生活にも不自由している親が
病院受診さえままならず介護を続けているとしたら、
その親のニーズはどこまでが二次的ニーズで、どこからが一次的ニーズなんだろう?

うつ病になった時点で、
その人にはうつ病患者としての一次的ニーズが発生していると思うのだけど、
介護負担が発症に関わっていたら、その人のうつ病患者としてのニーズは二次的なものでしかないのか。

逆に、障害のある親の子どもはヤング・ケアラーになる可能性があり、
親への支援と同時にヤング・ケアラーとして子への支援も必要だという問題が
日本ではあまり意識されていないことが私はちょっと気になっているのだけれど、
「ヤング・ケアラーとしての子への支援」の必要を認識し、それを訴えることは
「障害のある親への子育て支援」の必要を否定することになるのだろうか。
それらを共に必要なものとして説くことはできないのだろうか。

私としては、それらは「まずこちらが満たされて後に、次にこっちね」とか
「こちらの方が重要性が上で、その次にこっち」といった優先順位の問題ではなく、

両者のニーズの性格の違いや、両者の間にある力の不均衡や
これまで介護する者のニーズが優先されがちだったことは十分に意識しつつ、
あくまでも個々のケースごとに固有の状況や事情の中で、
両者のニーズ共にすべてが同時に平らに並べられ、
共に十分に考慮されて問題解決の方策が探られるべきもの、では、と思うのだけど……。
2011.12.29 / Top↑
【科学とテクノで簡単解決】
「耳の形でイジメられると可哀そうだから」と7歳少女に整形手術で“イジメ予防”(2011/4/16)


【最先端医療】
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脳画像が「責任」判断の証拠として採用される米国の法廷……「そんなの無理、無理」とガザニガ(2011/11/3)
米国初のヒト胚幹細胞による脊損治療実験、突然の中止(2011/11/17)


【生殖補助医療】
グローバル化が進む“代理母ツーリズム”(2011/1/29)
亡き夫の精子は妻の“財産”(豪)(2011/5/24)
ナイジェリアの“赤ちゃん工場”摘発(2011/6/2)
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「死んだ娘の卵子を採取・冷凍したい」裁判所が認める(イスラエル)(2011/8/11)
依頼者が代理母にメールで「離婚したから引き取れない」、生まれた双子は養子に(2011/9/17)


【ビッグ・ファーマ・医療機器会社】
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
学会が関連企業相手にショーバイする米国の医療界(2011/5/11)
1つの病院で141人に無用な心臓ステント、500人に入れた医師も(2011/5/15)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
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ジェネリック薬を売らせないビッグ・ファーマの「あの手この手」が医療費に上乗せられていく(2011/11/15)


【治験スキャンダル】
マーケティングだから被験者が死んでもスル―される「タネまき治験」(2011/8/12)
タスキギだけじゃなかった米の非人道的人体実験、グァテマラでも(2011/6/9)
米の科学者ら、非倫理的だと承知の上でグァテマラの性病実験を実施(2011/8/31)
“HIV感染予防ゼリー、”効果確認できず大規模治験が中止に(2011/12/10)


【ワクチン】
米国で「ワクチン打たないなら診てやらない」と医師ら(2011/7/6)
日本初、HPVワクチン接種後に14歳の中学生が死亡(2011/9/21)
HPVワクチン、男児にも定期接種が望ましい、とCDC(2011/10/26)
ガーダシルは「子宮頸がんだけじゃなく性器イボも予防」と英国政府がサーバリクスから乗り換え(2011/11/25)
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【日本】
初の子ども脳死移植「少年」は自己死ではなく自殺だった!?(2011/4/22)
「脳死・臓器移植Q&A50 ドナーの立場で“いのち”を考える」メモ(2011/11/3)


【中国の死刑囚からの摘出問題】
A・Caplanが、死刑囚の臓器に依存する中国の移植医療ボイコットを呼びかけ(前)(2011/10/12)
A・Caplanが、死刑囚の臓器に依存する中国の移植医療ボイコットを呼びかけ(後)(2011/10/12)
「囚人を臓器ドナーに」は実施面からも倫理面からもダメ、とCaplan論文(2011/10/14)
政治犯から生きたまま臓器を摘出する「新疆プロトコル」(2011/12/13)


【闇売買】
イスラエルの貧困層から米国の富裕層へ、腎臓を闇売買(2011/10/29)
ウクライナで広がる闇の臓器売買(2011/10/29)
エジプトでアフリカ難民から生きたまま臓器を採って闇売買(2011/11/7)


【過激化する臓器不足解消策】
「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」と、Savulescuの相方が(2011/3/2)
「執行後に全身の臓器すべて提供させて」とOR州の死刑囚(2011/3/6)
Harris「臓器不足排除が最優先」の売買容認論は「わたしを離さないで」にあと一歩(2011/4/8)
「HIV感染者の臓器を移植に」と米国の移植関係者(2011/4/13)
映画「ジェニンの心」:イスラエル兵に殺されたパレスチナの少年の臓器をイスラエルの子どもに移植(2011/4/14)
ドナー家族をレシピエントと対面させて祝福セレモニー:NYドナー・ネットワーク(2011/5/21)
WHOが「人為的DCDによる臓器提供を検討しよう」と(2011/7/19)
UNOSが「心臓は動いていても“循環死後提供”で」「脊損やALSの人は特定ドナー候補に」(2011/9/26)
「DCDで生命維持停止直後に脳波が変動」するから「丁寧なドナー・ケアのために麻酔を」という米国医療の“倫理”(2011/11/24)
「丁寧なドナー・ケア」は医療職の抵抗感をなくしてDCDをさらに推進するため?(2011/11/24)


【資料】
これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
臓器移植を受けた人では発がんリスクが2倍(JAMA)(2011/11/3)
2011.12.29 / Top↑
主要な“無益な治療”訴訟はやはり今年もカナダで起きていて、

【Maraachli事件】
1歳児の「無益な治療」で両親が敗訴(カナダ)(2011/2/24)
2011年3月1日の補遺(2011/3/1)
2011年3月5日の補遺(2011/3/5)
呼吸器外し命じられたカナダのJoseph君、セントルイスの病院へ(2011/3/15)
A事件繋がりのRebecca DresserがMaraachli事件で「コスト懸念で類似の訴訟はこれから増える」(2011/3/17)
Peter SingerがMaraachli事件で「同じゼニ出すなら、途上国の多数を救え」(2011/3/22)
Joseph Maraachliくん、気管切開し自宅に戻る(2011/4/30)
Joseph Maraachli君、死去(2011/9/29)

【Ras(z)ouli事件】
「“治療停止”も“治療”だから同意は必要」とOntario上位裁判所(2011/5/17)
「患者に選択や同意させてて医療がやってられるか」Razouli裁判続報(2011/5/19)
カナダのRasouli事件、最高裁へ(2011/12/23)


【米国の動き】
NJ州、テキサス式“無益な治療法”は採らず(2011/6/23)
TX州の「無益な治療」法改正法案、死す(2011/5/25)
テキサス州で14歳の脳腫瘍患者めぐり、新たな“無益な治療”事件(2011/7/3)
米のNICUで治療停止による死亡例が増加(2011/7/11)

米国では移民がターゲットになる事件が目立ってきている ↓
延命停止に不同意の家族からは決定権はく奪、病院推薦の代理人が同意(2011/3/6)
家族から代理権をはく奪して中止された移民女性の栄養、法律家らの提訴で再開(2011/3/13)
「医療費を払えないなら呼吸器依存の移民は自国に帰って」とアリゾナ州の病院(2011/9/30)


【英国の動き】
ロンドンの保護裁判所、植物状態女性の栄養と水分停止を認める:Tony Bland判決(1993)基準に(2011/8/4)

英国では特に一方的なDNR指定が問題化してきている ↓
肺炎の脳性まひ男性に、家族に知らせずDNR指定(英)(2011/8/3)
「本人にも家族にも知らせず“蘇生無用”」はやめて一律のガイドライン作れ、と英国で訴訟(2011/9/15)
高齢者の入院時にカルテに「蘇生無用」ルーティーンで(英)(2011/10/18)
高齢者には食事介助も水分補給もナースコールもなし、カルテには家族も知らない「蘇生無用」……英国の医療(2011/11/14)


その他、今年問題になったこととして ↓

【植物状態・脳死からの“回復”例の報告】
またも“脳死”からの回復事例(豪)(2011/5/13):この段階までの回復事例を取りまとめたリンク一覧あり
NZで「無益な治療」論による生命維持停止からの回復例(2011/7/17)
臓器摘出直前に“脳死”診断が覆ったケース(2011/7/25)
睡眠薬で植物状態から回復する事例が相次いでいる:脳細胞は「死んで」いない?(2011/8/31)
アリゾナで、またも“脳死”からの回復事例(2011/12/24)


【注目議論】
Savulescuらが、今度はICUにおける一方的な「無益な治療」停止の正当化(2011/2/9)
Savulescuが今度は「“無益な治療”論なんてマヤカシやめて配給医療に」(2011/9/15)

トリソミー13の新生児に心臓手術を認めた倫理委の検討過程 1(2011/11/20)
トリソミー13の新生児に心臓手術を認めた倫理委の検討過程 2(2011/11/20)
利益がまったくない心肺蘇生を親が諦めないケースでの倫理委の検討過程(2011/11/20)

Truogの「無益な治療」講演(2011年11月10日)前(2011/12/15)
Truogの「無益な治療」講演(2011年11月10日)後(2011/12/15)


【資料】
Thaddeus Mason Popeの「無益な治療」訴訟一覧(2011/5/22)
2011.12.29 / Top↑
安楽死・自殺幇助関連では、

まず、一番ショッキングな話題は、
去年Savulescuの「臓器提供安楽死」論文で言及された
「安楽死後臓器提供」がベルギーで行われた事実が確認されたことと、
オランダで進行した認知症の女性に積極的安楽死が行われたこと ↓

ベルギーの医師らが「安楽死後臓器提供」を学会発表、既にプロトコルまで(2011/1/26)
ベルギーの「安楽死後臓器提供」、やっぱり「無益な治療」論がチラついている?(2011/2/7)
「IC出せない男児包皮切除はダメ」でも「IC出せない障害新生児も認知症患者も殺してOK」というオランダの医療倫理(2011/11/12)

その他、↓

【カナダ】
今年ここが一番、合法化圧力が高まった気がする。

カナダの法学者「自殺幇助合法化は緩和ケアが平等に保障されてから」(2011/2/5)
カナダで自殺幇助合法化を求め市民団体が訴訟(2011/4/27)
カナダ王立協会胃の終末期医療専門家委員会が「自殺幇助を合法化せよ」(2011/11/16)
カナダ王立協会報告書、自殺幇助は「自己決定」で一方的“無益な治療”停止には「教育」のダブルスタンダード(2011/11/17)


【米国】
動きが目立っていたのは、来年の合法化住民投票に向けてキャンペーン展開中のMA州。
その他、補遺などから推測すると、合法化への圧力が目立っているのは
CA州、HI州。WI州もあったような。WA州からは「尊厳死法拡大を」の声。

MA州で自殺幇助合法化めぐり住民投票を求める動き(2011/8/25)
MA州医師会が自殺幇助合法化反対を確認(2011/12/6)

そんな中、こんな州もあった ↓
Idaho州、自殺幇助を法で明確に禁じる(2011.4.8)
VT州、自殺幇助合法化せず、公費による皆保険制度創設へ(2011/5/10)

それからDr. DeathことKevorkian医師が死去。
K医師、98年に自殺幇助した障害者の腎臓を摘出し「早い者勝ちだよ」と記者会見(2011/4/1)
Kevorkian医師、デトロイトの病院で死去(2011/6/4)
Kevorkian医師の“患者”の6割はターミナルではなかった?(2011/6/6)


【英国】
Dignitas関連やガイドラインで不起訴になる事件も議論も続いているけれど、
とくに大きな動きがあったというよりも、ジワジワと既成事実化されている感じ。
それを象徴するのが以下のニュース?

中高の授業でDr. Deathが自殺装置を披露する「教育ビデオ」(英)(2011/4/17)


【スイス】
ここ数年検討されてきた“自殺ツーリズム”規制は、住民投票の結果、断念 ↓
スイス政府、“自殺ツーリズム”規制を断念(2011/7/1)

他に、精神障害者への自殺幇助容認議論(08年に合法判決あったのだけど)↓
双極性障害者の自殺希望に欧州人権裁判所「自殺する権利より、生きる権利」(2011/1/28)
スイスで精神障害者への自殺幇助容認議論(2011/3/1)


【フランス】
フランス上院が自殺幇助合法化法案を否決(2011/1/27)


【ドイツ】
ドイツ医師会、自殺幇助に関するルール緩和し、判断を個々の医師にゆだねる(2011/2/20)


【関連エントリー】
2009年を振り返る:英国の自殺幇助合法化議論(2009/12/26)
2009年を振り返る:英国以外の国の自殺幇助議論(2009/12/26)
2010年のまとめ:安楽死・自殺幇助関連のデータ・資料(2010/12/27)


2011.12.29 / Top↑
ビル・ゲイツ、今度は途上国のために栄養を強化したバナナの開発に。
http://www.gizmodo.com.au/2011/12/bill-gates-modifying-bananas-for-the-third-world/

ビル・ゲイツが立ち上げに関与した次世代原発ベンチャー Terra Powerに長者さんたちの資金が集まっている。ゲイツ財団は中国政府と次世代原発開発で連携を確認したばかり。
http://www.businessweek.com/news/2011-12-23/billionaire-ambani-invests-in-gates-funded-nuclear-company.html

米国人の3分の2がどこかのチャリティに寄付をしている。その総額は2250億ドルに達し、その4分の1はクリスマス・シーズンに集中しているとか。で、今年あらわになった1% vs 99%という区分で仕分けしてみると、スーパーリッチの慈善で出てくる金額は99%が出している金額に及ばないって、それって、どーゆーことよ? ……という記事なんではないかと思う。タイトルと最初の数行から想像すると。
http://indypendent.org/2011/12/24/occupy-giving-why-do-1-give-less-rest-us

「慢性疲労症候群にウイルスが関与」とした論文をScience誌が削除。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/study-linking-virus-to-chronic-fatigue-syndrome-retracted-amid-controversy/2011/12/22/gIQADvc6BP_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

米国の鎮痛剤の過剰投与による死者は場所によっては覚せい剤による死者よりも上回っている。ここにも大物研究者とビッグ・ファーマの癒着の構図。2本目の記事の冒頭で名前が挙がっているのはDr. Scott FishmanとDr. Perry Fine。
http://www.propublica.org/article/the-champion-of-painkillers
http://www.propublica.org/article/two-leaders-in-pain-treatment-have-long-ties-to-drug-industry

23日にNZでまた大きな地震が起きている。:日本への影響が気になる。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/dec/23/new-zealand-earthquake-christchurch?CMP=EMCNEWEML1355

フランスベッド、横移動できる車いす「サイドウェイ」
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C9381949EE0E0E294E38DE0E0E3E0E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
2011.12.29 / Top↑
21歳のアリゾナ大学の学生 Sam Schmidさん。

10月19日に事故で意識不明となり、
脳死と診断されて家族も臓器提供に同意した後で、
生命維持装置取り外しの直前に、突然、指示に従うようになった。

最初は指を動かす程度だったが、みるみる回復して
現在は歩行器を使って歩き、ゆっくりながら話すことができる。

医師は仰天している、と。

‘Brain dead’ student wakes from coma
Azfamily.com, December 23, 2011


仰天している、というけど、
それは自分たちが誤診していたということなんでは……?

今年はなんだか植物状態や脳死からの回復事例のニュースが
あれこれと目についたのが印象的だった。

一応、5月に以下のエントリーにこれまでの関連をまとめましたが、

またも“脳死”からの回復事例(豪)(2011/5/13)

その後もニュースはあったので、それらも含めて近く「2011年のまとめ」エントリーを立てます。


【25日追記】
上記は昨夜、時間的な余裕がないまま1つの記事だけで書いたのですが、
もうちょっと複雑な経過ではないかとのご指摘と
以下の追加情報をある方からいただきました。

まず訂正しておきたいこととして、上記の記事に書かれている
「脳死と診断されて臓器提供に家族が同意した」というのは事実ではないようです。
脳死と診断されてはいませんでした。

以下の記事にある母親の証言では、
臓器提供をはっきりと求めた人は誰もいなかったがQOLのことを暗にほのめかされたので、
「いずれ決断しなければならないのだろうと思っていた」という状況だったようです。

それから、Schmidさんがヘリで大きな病院に運ばれた際に手術をしたのは
今年、銃撃されて奇跡の回復を遂げたと話題になったギフォーズ議員の
手術を執刀したドクターの指導教官だったというSpetzler医師。

このSpetzler医師が、
いよいよ生命維持装置を切ろうという時になって、
なんとなく予感があったので、もう一回だけMRIを撮ってみよう、と言いだして、
それで脳死になっていなければ一週間だけ生命維持を続行しましょう、と家族に提案。

S医師には、本人の状態からすれば、どうにも希望はないように見えるものの
当初のMRIで何も致命的なものがなかったことが、引っかかっていたようです。
それが「もう一度MRIを撮ってみよう」という思いつきにつながった。
そしてMRIを撮った日の内に、Schmidさんは指示に従って指を動かして見せた。

手術の時に動脈瘤をクリップしたのが功を奏したのではないか、と言い、
Schmidさんは完全に回復するだろう、と。


ちょっと気になるのは、
「脳死」だとはっきり診断されてもいなかったし、
臓器提供の話もはっきりとは出ていなかった、それでも、
生命維持装置のスイッチを切ろうという話が出ていたこと。

この点について、Spetzler医師は
自分以外の人たちがこの患者から生命維持を中止することを考えたのは
それはそれで「理にかなった」ことだったと語っており、
ここでは脳死・臓器移植よりも“無益な治療”判断の方を思わせます。

というか、むしろ、脳死診断や臓器提供への働き掛けと無益な治療判断とが
すべて現場の医療者それぞれの姿勢によって渾然としたグレー・ゾーンになっている、
という可能性がうかがわれるのかも……?

そうしたことも考えるにつけ、Spetzler医師の以下の発言が印象的です。

Ever the scientist, Spetzler wasn't willing to speculate what a comatose patient hears. But he admits, "There are so many things we don't understand about the brain and what happens at the time someone is near death."

科学者としては、昏睡状態にある患者の耳に何が聞こえているか推測でものを言いたくないと言いつつも、「脳についても、人が死に瀕している時に何が起こっているかということについても、我々にはわからないことが沢山ある」

2011.12.29 / Top↑
当ブログで追いかけてきたRasouli“無益な治療”事件で、

2011年6月の「治療の停止も治療である以上、同意は必要」との上訴裁判所の判決に対して
医師らの上訴が認められ、最高裁へ――。

お馴染み「無益な治療ブログ」のThaddeus Popeは
「世界で最も重大な意味を持つ無益な治療の司法判断になるのでは」と。

Rasouli Case Will Be Heard by Supreme Court of Canada
Medical Futility Blog, December 22, 2011/12/23


【関連エントリー】
「“治療停止”も“治療”だから同意は必要」とOntario上位裁判所(2011/5/17)
「患者に選択や同意させてて医療がやってられるか」Razouli裁判続報(2011/5/19)

(さらにいくつかの補遺に続報あります)
2011.12.29 / Top↑