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18日のエントリーD医師の不妊手術許容条件はA療法を否定する
新たに見つけたDiekema医師の論文について梗概を元に書いたところ、
論文のフルテキストを探し出してくださった方があり
全文を読むことが出来ました。
(kさん、本当にありがとうございます)

Involuntary sterilization of persons with mental retardation: an ethical analysis
(精神遅滞者の自らの意思によらない不妊手術:倫理的分析)
Ment Retard Dev Disabil Res Rev. 2003; 9 (1): 21-6 (ISSN: 1080-4013)

Diekema医師が2003年に発表したもの。
Ashleyの両親が子宮摘出を含む“Ashley療法”の要望を出す前の年です。

まず、結論を先にまとめると、

知的障害者の不妊手術は
永続的に意思決定の能力を全く欠いている人について、
一定の条件を満たした場合にしか許されない。
例外的なケースでのみ行われるものである。


論の展開としては、
まず米国における知的障害者への優生手術の歴史を振り返ります。

「白痴が3代続けばもう充分」という有名な文言と共に
施設入所の知的障害女性の不妊手術を認めてその後の優生手術合法化への流れを作った
1927年のBuck v. Bell 判決について、
75年後にヴァージニア州知事が公式に謝罪し、
「州政府が関与すべきでない恥ずべき試みだった」と明言したことに言及。

徐々に生殖権が意識されるようになり、
強制的不妊手術が基本的人権の侵害だと見なされるようになったが、
60年代からは親やガーディアンが不妊手術を求める裁判が相次ぐ。

それに続く近年の特筆すべき変化として、Diekema医師は2点を挙げています。

まず、1つとして、80年代からは、
不妊手術が必ずしも知的障害者本人の負担になる一方ではなく、
むしろ本人の利益になる場合もあることが認識されてきたこと。

もう1点は、手術以外に多様な避妊方法が開発されてきたこと。
ここで挙げられている具体的な避妊方法は
経口避妊薬、皮下注射、パッチ、子宮内常置のホルモン剤投与装置(10年間有効)。
いずれも手術に比べて中止が容易で、侵襲度が低いという利点があり、
しかも効果が確認されている避妊方法は多彩、と強調しています。

注目しておきたいのは、
さらに将来的に新たな避妊法方が開発される可能性も重視されていること。
不妊手術は「実際に必要になる時まで、やってはならない」し、
「如何なる場合でも思春期前にはやってはならない」と後に述べる際にも、その根拠の1つとされます。

このように米国における知的障害者の不妊手術の歴史を振り返った後、
本人の意思決定能力が完全な場合、部分的な場合、まったく欠いている場合の3つに分けて、
考え方を論じ、最後の永続的に意思決定能力を完全に欠いている人についてのみ
一定条件を満たしていれば知的障害者の不妊手術が検討の対象となると主張します。
満たすべき条件は以下の4つ。

不妊手術が差し迫って必要となっていること。

したがって、
性行為を行うことがなかったり、妊娠するはずのない人にやってはいけないし、
実際に不妊手術が必要になるより前にやってはいけないし、もちろん
どんな場合であれ、思春期以前にやってはいけないのです。

②知的障害のある人の不妊手術を求める人は
 それが本人の最善の利益であるという「明白で説得力のあるエビデンス」を
提示しなければならない。

この辺り、イリノイ州の上級裁判所と同じく
証明責任は手術を求める側に要求されています。

さらに、この項目で興味深いのは、
例えば知的障害のある男性が女性を妊娠させる恐れから
人との接触から遠ざけられて行動を抑制されてしまう場合に、
不妊手術をすることで、その心配がなくなり抑制から解放されるかといえば、
依然として性的虐待の可能性がある限り、同じ抑制が続くと考えられる以上、
不妊手術は簡単には正当化できるものではない、との見解を示しています。

(これはそのまま「レイプされたら妊娠するから」との理由による
Ashleyからの子宮摘出を否定するものです)。

③不妊手術を求める側の証明責任の中には、
より侵襲度の低い永続的な他の手段では最善の利益が得られないことの
明白で説得力のあるエビデンスによる証明も含まれる。

④知的障害者本人のために公正で善良な決定を保障すべく、
手続き上のセーフガードがなければならない。
 
ここでセーフガードとしてDiekema医師が具体的に挙げているのは、

・ 「独立した専門家と素人のグループ」による評価が、対象となっている人の
医療、心理、社会、行動、そして遺伝データの全てに渡って行われなければならない。
・いずれの地域にも当該制度があり、裁判所の権限による決定が求められる場合もある。
・上記の条件が満たされた場合には、知的障害者の代理決定者の決定が尊重されなければならないが、
その一方、介護者の利益が知的障害のある人の利益と同じだと想定してかかってはならない


最後に、と彼は5つ目の条件を付け加えています。

その手術の真の性格とその理由について、
知的障害のある本人に対して正直にコミュニケートするあらゆる努力をしなければならない。

ほぉ。
じゃぁ、Ashleyに説明したんですかね。

「こんなふうに、どこをとってみても僕自身の倫理にももとる
本当は許されない手術なんだよ。
だけど、みんなキミのお父さんが怖くてね」とでも?
2008.08.21 / Top↑