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前のエントリーでNYTimes掲載のステロイド解禁論と
その中でのNorman Fostのコメントを取り上げたついでに、
それとは別に、かなり前から机の上に置いて眺め暮らしていた
Fost のステロイド解禁論の特集記事があるので。


今年1月15日、Norman Fostがニューヨークで行われたドラッグ解禁ディベートに出た日の記事です。
ディベイトへの参戦は、やはりAshley事件で擁護の論文を書いたTHニストのJurian Savulescuと一緒でした。

記事内容としては、
「米国で最も孤独な男」とか「Wisconsinの変人」などとメディアに揶揄されつつ
1983年の早くからステロイド解禁を訴え続けてきた解禁論の最先鋒
Norman Fostの歩みと主張を紹介し、
彼に同調する科学者や医師が増えてきたと最近の変化を伝えるもの。

ここで展開される解禁論そのものは
これまでの関連エントリーで紹介してきたのと同じですが、
1つだけ目新しかったのは
Fost自身は頭痛薬すらなるべく飲まないようにしていると書かれていたこと。

つまり
「ステロイドの副作用については科学的に実証されていない(だから副作用はないと思え?)」と言いつつ
自分自身は薬物の副作用リスクにはとても敏感・慎重で、
要は「どうせ他人事」のステロイド解禁論だということですね。
(医師なんですけどね、この人。)

その他、この記事のFost発言を読んで、
特にAshley事件との関連で「おや?」と思った点として、

①Fostは「治療と強化の境界について」考え始めたのは
米国の水泳選手が金メダルを剥奪された72年のミュンヘン・オリンピックからだと語っています。

去年のシアトル子ども病院生命倫理カンファの講演でも
背の低い男児にホルモン障害があれば成長ホルモン使用が「治療」として認められるが
普通に背の低い男児に成長ホルモンを使おうとすれば「強化」だからダメだというのはおかしい、と
Fostが強く説いて、聴衆がちょっと引いてしまったような場面もありました。

この考え方において、
Fostは非常にトランスヒューマニスティックな医師だと言えるでしょう。

しかも、ずいぶん前から、治療と強化の境目をなくして
強化のためにも医療技術を利用すべきだと彼は考えていたわけです。

②しかし、その一方、上記の記事の中でFostは
青少年へのステロイド投与には断固として反対だと述べています。
その理由は「成長を抑制するから」。

「ステロイドの専門家」であるNorman Fostは
ホルモン剤の成長抑制効果についても、もちろん誰よりも詳しいわけですね。

だたし、彼は「ホルモンが成長を抑制する」がゆえにこそ
若年のスポーツ選手に対しては厳格な検査を行うべきだと、ここで主張しています。
子どもにステロイドを与えるような輩には「公正な裁判の後で絞首刑」だとまで
厳しい言葉で糾弾しているのです。

それで、よくも6歳のAshleyに行われたホルモン大量投与による成長抑制を擁護できたものだなと
最初に記事を読んだときには呆れたのですが、

その後、この記事を机の上に置いて眺め暮らしながら
よくよくNorman Fostという人物の言動を振り返ってみると、
彼は重症障害新生児の治療は無益だからやめろと説いているし、
“Ashley療法”論争での発言にも障害児への蔑視が大変露骨です。

重症障害児をもともと人として認めていないのですから
健常な子どもに使ってはいけないはずのホルモン剤を大量投与しても
別に構わないと考えるのでしょう。

それにしても……上記2点から考えると、

Diekema医師の恩師でありメンターでもあるNorman Fost医師
ホルモン剤が子どもの成長のコントロールに有効だということを
誰よりも前から、誰よりも知悉・意識していた──。

そして「治療」以外の目的で「ホルモン治療」を行うことについて
恐らく誰よりも抵抗感のない人物だった──。


私にはAshley父のブログを初めて読んだ時から疑問があって、それは、
「いくら頭のいい人でも医療の素人である父親が自分の力だけで独自に
これだけぶっとんだ医療技術の応用を、しかも3点セットで思いつけるものだろうか」
というもの。

「最終的に考えをまとめたのは父親だったとしても、
少なくとも彼はどこかで“Ashley療法”のアイディアの種を拾ったはず。
それは一体どこだったのか」という疑問です。

その後、メディアに登場して擁護した人たちの顔ぶれの奇妙から
「トランスヒューマニスティックな文化または、そういう考えの人物との接点が
父親にはあるのではないか」という推測をしていたところです。

Norman Fost――。Ashley事件を考えるに当たって、どうにも気になる人物です。

(ここ最近のDiekema医師の小児科生命倫理分野での華々しい活躍ぶりも
 彼が米国小児科生命倫理界のボスであるFostの愛弟子だという事実を思えば、
 ただAshley事件で名前が売れたからという単純な理由ではないかも……。)
2008.08.20 / Top↑
北京オリンピックを機に、
ステロイド解禁論がまたぞろ出てきているようで、NYTimesにも。

Let the Games Be Doped
By John Tierney
The New York Times, August 11, 2008

解禁論者の主張は大体いつも同じなのですが、ここでもまた、

現在のドーピング検査は不正確、不完全で
そのためにヤリクチの巧妙な選手ほど罰せられずに通っている。

ドラッグの方も次々に開発されて検査技術が追いついていない。
(ものすごい勢いで走り続けるマイティ・マウスを作った、あの薬物なども
 このオリンピックで使われるかもしれないという予測もあったとか?)

それにバイオで遺伝子レベルでの操作が可能になると
これはもう検知可能範囲を超えた無法地帯である。

よって、いっそのことドーピングを解禁・合法化した方が
アクセスが平等になり、ズルをする選手がいなくなって
より安全で信頼性のあるスポーツを取り戻すことが出来る……という主張……

……なのかな、と、この記事もざっくり読むとそう思えるのですが、

しかし、

記事をずっと読んでいくと、
あるところで、くいっと論旨がひねられて別のところに向かう感じがあります。

その転換点に登場するのが例のNorman Fost

「(Alzado選手の脳腫瘍は)ステロイドよりもビールの飲みすぎが原因だったといった方が
まだしも科学的な根拠があるでしょう。
アナボリック・ステロイドは死に至るとか不可逆なダメージを起こすとか
よく言われていますが医学的な根拠はありません。
フットボールや野球を普通にやる以上にリスクが大きいと考える理由はありません」。

(「スポーツがもともと危険なのだから薬物のリスクなど小さい」は一貫してFostの持論
 小児科医であるばかりか、FDAの臨床実験審査委員会の委員長でもある方なのですけど。)

このFostの発言を転換点として、その後
この記事はだいたい以下の論旨となります。

「栄光と引き換えにリスクを侵す」ことを社会は冒険家たちに認めてきたではないか、
オリンピック選手というのは世界中で最も高度な肉体機能を持った人間であり、
そういう人間が人体のパフォーマンスの限界を押し上げて見せてくれることによって
普通の人間の体が老化に抗うヒントが見出せるはず。
ドラッグであれDNA操作であれ、なんでもありのウルトラスポーツというのがあったら
そこでは一体何が起こるのか、みんな見てみたいと思わないか?

だって、ほら、人間の身体って改良可能なんだからさ。

この人たち、他人の身体をなんだと思っているんだろう?

要はトランスヒューマニストたちが、
アスリートの鍛え抜かれた身体を
人体改造実験のマウスとして使いたいってことなのでは――?


2008.08.20 / Top↑
今回のオリンピックで8冠を達成した米国のMichael Phelps選手が
子どもの頃に落ち着きがなく集中力もなく、
ADHDと診断されて9歳から2年間リタリンを飲んでいたという話は
すでに日本語でもあちこちに出回っている話のようで、

これもまた、そうしたストーリーのひとつなのですが、



最後のところでちょっとびっくりしたのが、
現在、中学校の校長先生であるPhelpsのお母さんは去年の夏から
コンサータの製造元、Ortho-McNeil-JanssenのHPに起用され、
ADHD Momsというコーナーに寄せられるADHD児の子育てについての質問に
専門家と一緒に答える相談役に抜擢されたんだとか。

ADHD Momsに関するOrtho-McNeilのプレスリリースはこちら

      ―――――――


この話に気持ちの引っかかりを覚えたのは、
その前に、こちらの英国ニュースがらみの体験があったからかも。


英国で家族性高コレステロール血症の可能性のある10歳までの子ども全員に
スクリーニングを行い、遺伝性の高コレステロール血症だと分かったら
スタチンを飲ませることにするんだというニュース。

10歳から飲ませるというのが気になったのですが、
私は家族性高コレステロール血症については何も知らないので
日本語で勉強しようと思って検索したら、
製薬会社が主催している患者会というのに真っ先にヒット。

それ自体にもちょっと驚いたのだけれど、
もちろん他にも厚労省が関与したり医師がHPで書いている解説サイトもあって、
そうした解説をいくつか読んでいると、

データや情報が違っているわけではないのだけれど、
トーンがずいぶん違うのに、びっくりした。

明らかに製薬会社の患者会の患者向け解説の方が、
はるかに重症で深刻な病気のようなトーンで書かれている……ような気がする。

気の、せい――?
2008.08.20 / Top↑