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Rajo Deviさんが結婚したのは50年前。現在70歳。
生殖補助医療で11月28日に女児を出産。

最高齢出産の記録更新。

誰の卵子、精子によるものかは今のところ不明。

治療を担当した医師によると
母子共に健康だとのこと。

7月にも、やはり70歳のインド女性がIVFで双子を出産したとのこと。
2006年には66歳のスペイン人女性がやはり双子を出産しています。
(このスペイン女性は写真いりの記事が私も記憶にあります)

今回の担当医Bishnoi医師は
「不妊はもはやタブーでも呪いでもありません。
 科学的に治療できるのですから」


いや、しかし……。

Woman, 70, gives birth after IVF
The Canberra Times, December 9, 2008
2008.12.09 / Top↑
前のエントリーを書いて思い出した話題ですが、

去年11月、NYブルックリンで
精神障害のある18歳の黒人少年Khiel Coppinが
取り囲まれた警官から20発もの銃弾を受けて死亡するという
痛ましい事件が起きました。

当時、精神科で処方されていた抗精神病薬を飲まなくなって不安定になっていた少年は
母親と揉めて極度の興奮状態に陥り手がつけられない状態。
母親が911に通報した際のテープにも背後でわめいている声が入っています。
駆けつけた警官らは、玄関先でシャツの下に隠し持った銃を向けてきたので撃った、と。

しかし、倒れた少年が手にしていたのは黒いヘアブラシでした――。

Man, 18, Is Fatally Shot by Police in Brooklyn
The NY Times, November 13, 2007



ブルックリン、黒人少年……とあって、
警察の対応に人種差別があったのではないかと問題になったのはもちろんながら、
もう1つこの事件で注目されたのがNY市の機動危機チームの存在。

Khielの母親は911に通報する前に
近郊のInterfaith 医療センターから機動危機チームを呼んでいたのでした。
たまたまチームの危機対応カウンセラーが尋ねてきた時に本人が不在だったのだけれど、
もしも会えていたら彼は死なずに済んだかも……。

この事件をきっかけにNY市の機動危機チームを取り上げた以下のNYTimesの記事によると、



現在23のチームがあり、
警察と病院が連携して活動。
費用は全額、市の保険精神衛生局が負担。
メンバーは心理学者、精神科医、看護師、ソーシャルワーカー、中毒の専門家、ピアカウンセラーなど。

患者の地域生活を支援し、病院から地域へ、との理念で作られたもの。
電話を受けるとチームは家に行ってストレス反応を評価し、
必要な場合は外来受診が可能となるまでサポートする。
各種サービスや施設への紹介も投薬も可能。
フォローアップも行う。
強制入院が必要な場合には機動危機チームの判断で
警察の協力を仰ぐこともできる。


NY 市の危機介入チーム一覧はこちら

Kheil Copper事件で呼ばれていたInterfaith 医療センターの情報はこちら
Behavioral Health Services → Emergency Services の中に
Mobile Crisis Team and Emergency Servicesについて説明があります。

精神科医とその他精神医療の専門家が毎日朝9時から夜10時まで
地域の患者と家族に対応。
精神科のERは別立てで毎日24時間対応。

米国とカナダの機動危機チームの実態をまとめた論文がこちらに。
Mobile crisis teams partner police with mental health workers
Anita Dubey,
Cross Currents; Spring 2006; CBCA Reference pg. 14

------ --------

以上は去年Coppin事件を機に調べてみたもので、
当時、同種のチームをインターネットで検索してみたのですが、
地域によって名称も整備状況や形態も様々、整備途上という印象でした。

警察のコールセンターが中心になって病院に繋いでいるところも
精神医療の危機介入が警察や行政の危機管理体制の一環と位置づけられているところもあって
強制入院の権限を持つ機動危機チームが
過剰な公安的危機管理に傾斜する可能性も気にならないではなかったのですが、

日本でも累犯障害者の問題や
障害者自立支援法で精神障害者の退院促進の方針が打ち出されていることを思えば、
地域での危機に対応するための各種専門職の協働体制作りと共に
危機的な状態に陥ってしまった本人と家族への支援、
さらに、そこまで追い詰められないような早期介入の支援システムが必要なのでは?

早めに細かく有効にお金を使うことで
先行きの大きな出費を抑制できる工夫の余地がまだまだあるのに、
そういう工夫も努力も検討せずに
ただ漠然と「社会的コスト」をまるで呪文のように繰り返しては
人間を切り捨てることによって全ての出費をカットしてしまおうとする声には
十分に警戒しておきたいと思う。

一旦「社会的コスト」を云々することに加担すれば
それは社会保障そのものを否定し、あらゆることが個々人の自己責任とされる社会への
滑り坂に脚を踏み出すことではないのか……という気がするから。
2008.12.09 / Top↑
先日来、
Nebraska州の“安全な隠れ家”法が問題行動のある子どもたちと親への支援不足を炙り出して
話題になっていますが、

早期介入で青少年の犯罪抑止効果を上げているFlorida州の取り組みについて
NY Timesに記事が。



Florida州では
州内28箇所のシェルターで子どもを14日間預かり
親にはレスパイトを、子どもには怒りのマネジメントの講義などを提供するほか、
親と子それぞれにカウンセリングを受けさせる早期介入が功を奏している、という報告。

シェルターの運営はNPO活動の統括グループ Network of Youth and Family Services。
民間の様々な活動を支援・統括しつつ、支援の隙間を埋める活動をしてきた。
運営資金は州の少年司法局から。

刑事犯罪に問われている青少年を対象にすることは法律上出来ないので、
犯罪に手を染めるまで行かないが荒れて家庭や学校の手に負えない子どもたちに対応する。
ちょうどNE州の“安全な隠れ家”法で親に棄てられた子どもたちに重なる。

荒れる子どもたちが収監されたり施設に収容される事態に行き着く前に
早期に介入して支援する方が最終的には安上がりだという考え方の変化が
全米で少しずつ広がり始めており、Floridaを筆頭に同様の取り組みは
Arizona, Connecticut, Illinois そして New York 州でも。

しかし、この取り組みだけでも予算不足で先行き不透明であることに加えて
実際の問題はFL州の青少年向け精神医療の不足の方なのに、
精神科では初期アセスメントだけでも400ドルもするものだから
危機介入で対応し安価なカウンセリングで済ませていると
長期的な効果に疑問を呈する専門家も。

確かに、14日間のクーリング期間で対応できる親子がいる反面、
その間に、もっと根深い問題(親のアル中や子どもの精神疾患)が見えてきて、
もっと密度の濃い対応が必要となるケースもある。
そういう場合のシェルターの活動は
「ニーズを把握する間、傷口からの出血に
とりあえずバンドエイドで止血をしている」ようなものだとNetwork関係者。


そういえば、以前に、
医療と警察が連携して当たる危機介入機動チームについて
ちょっとだけ調べてみたことがありますが、
米国とカナダでは徐々に整備されつつある様子。

(これについては次回エントリーで、もうちょっと詳しく)

ここでもまた危機介入よりも早期介入で医療に繋ぐ方が効果的だとの認識が進み
司法と医療と福祉の協働で早期介入体制が整備されていけば
それが一番安上がりなのかも。

もっと広く障害児・者や高齢者と家族の支援にも
たぶん同じことが言えるはずなのだけど。


【NE州の“安全な隠れ家”法関連エントリー】

2008.12.09 / Top↑
ウェブ上には
安全で効果があり既に一般の医療として通用しているとの謳い文句で
幹細胞治療を提供するクリニックがサイトを連ねているが
それらの治療は決して科学的なエビデンスに裏付けられたものではなく、
安全性に疑問があると
The Journal Cell Stem Cell の12月号に掲載の論文が警告。

この記事によると
近年、脊髄損傷やパーキンソン病、視覚障害など
治療の選択肢が少ない人たちが中国その他へ出かけて
幹細胞治療を行うクリニックを尋ねるケースが増えているとのこと。

研究者らがインターネット上のそうしたクリニックのサイトを調べたところ、
幹細胞治療が有効として挙げられていたのは
多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄損傷、脳卒中と心臓麻痺。

しかし、これまでの研究で有望とはされているものの
今の段階でこれらの病気に明確な治療効果のエビデンスがあるわけではない、と。


ちなみに、国際幹細胞学会は同じジャーナルの同じ号で
幹細胞研究のガイドラインを発表。

限定的なケースではわずかの数の重病患者に対して
公式の研究外で治療を行うことは認めているものの
その際にはその治療に利益の絡んでいない専門家のグループが承認することなど
一定のスタンダードを作るように勧告しているとのこと。
2008.12.08 / Top↑
2007年初頭の“Ashley療法”論争の時から
米国でAshleyのような重症児への介護支援がどの程度整備されているものか
ずっと知りたいと思っていたのですが、
11月の末にWPに以下の記事があり、
ある程度の目安になるかと思われます。

Caught by a Change in Health Care
The Washington Post, November 27, 2008

記事そのものは
連邦政府の官僚ですら職員向け医療保険の給付条件が変わって
これまで受けられていた医療サービスを受けられなくなっている実態を報じたものですが、

ここで取材されているJohn Rogers氏の11歳の娘Shelbyさんは脊髄性筋萎縮症。
彼女の在宅生活への支援のあり方を見ると、
ちょっと日本では考えられないほどの充実振りなのです。

車椅子生活で、寝ている間も含めて24時間介護を必要とするShelbyさんの自室には
次のものが整備されています。

自室のベッド周りに
鼻に装着する呼吸器
脈と酸素レベルのモニター
咳を助ける装置
天井には電動リフト
壁には移動補助の吊りベルト(スリング)

そして、毎日朝7時から夜7時まで12時間の看護サービス。
毎日看護師が派遣されて12時間、付きっ切りで看護・介護に当たってくれるというものです。

こちら外部からの看護サービスについては
連邦政府の職員向け医療保険で賄われていたもので、
このサービスを保険会社が打ち切ったことが記事のテーマ。

記事の書き方からすれば
医療・介護機器はメディケアで支給されているように思われます。

もちろんメディケアについては州によって条件が違っているし
それなりの自己負担も生じているのでしょうが
Shelbyさんのケースはある程度Ashleyのケースを考える参考になります。


Microsoftの役員と思われるAshleyの父親には
娘の健康上の必要のない(elective)外科手術までカバーしてくれるほど
充実した被用者医療保険があったわけだから、
(これ自体、並みの被用者保険ではないことの証左でもありますが)
上記Shelbyさんの例を基準にすれば毎日何時間かの看護サービスは
保険で賄われると考えてもいいのではないでしょうか。

また、天井の電動リフトや壁のスリングも同様に整備できる可能性が高い。

父親のブログに掲載されたAshleyの写真を見ると、
ベッドでの座位保持や車椅子のシーティングが完璧に行われていたり、
庭のブランコの1つがAshley用に改造されていたりと
Ashleyの家庭生活にOTまたはPTが直接的に関与していることは明らかです。
それも、もしかしたら父親の医療保険の対象なのかもしれません。
(もちろん自腹で専門職を何人でも雇える財力の持ち主でしょうが)

担当医らが
「リフトは人間的でないから、いつまでも親がトランスファーできるように」
「家族以外の人間の手を借りると家庭内の力動が変わるから親がそれを望まなかった」
などと述べていることから考えても、
家族が望んでも介護機器が手に入らないとか
家族が望んでも介護・看護サービスが受けられないといった
日本の我々がつい前提としてしまうような状況ではなく、
望めば上記記事のShelbyさんと同等か、恐らくはもっと充実したサービスだって
メディケアと医療保険で受けることができる状況のはず。

多くの人がAshley事件を介護支援の不足との関係で考えてきましたが、
Ashleyのケースに関して言えば、それは的外れなのではないでしょうか。

この特定のケースについては、むしろ、
個人的には十分な介護支援を調達できる親が
敢えてこうしたドラスティックな手段を考案、実行したことそのものに
時代の文化を象徴する事件の特異さがあるのでは──?

そして、やはり何より気になるのは
そのような事件の特異さが十分に認識されないまま
介護支援の不足の問題に一般化されてしまえば
前例となるべきではない事件が前例を作ってしまうこと。

“Ashley療法”論争から2年──。

その間に
障害児・者にかかる社会的コストを云々し
社会に支援を整備するのではなく、
むしろ当人たちを切り捨てて問題を解決しようとする声が
どんどん大きくなっているだけに。

あの事件は結局、後から振り返ったら、
「障害児には健常児と同じ尊厳を認める必要はない」との認識に
一定の市民権を与えてしまうきっかけを作った事件……ということになるのかも。
2008.12.08 / Top↑
患者は75歳の脳死の女性。

韓国の法律では殺人行為に当たるため、
家族からの呼吸器取り外し希望を病院が拒否し
家族が裁判所に訴え出ていたもの。

裁判長は
「生命維持装置が身体的・精神的な苦痛の原因となり、
人間としての尊厳と人格を傷つける場合には
患者は医師に取り外しを求めることができる」

「患者のhopelessな状態と、余命と年齢を考えると、
呼吸器を取り外して自然な死を迎えたいと患者が望んだであろうとみなすことができる」
と病院に取り外しを命じた。

ただし、認められる条件として
医療による効果がなく、本人が治療停止を望んだことが推定される場合のみ、とした。

世論は賛否分かれている。

韓国では2004年に脳死者の生命維持装置を取り外した親族が
殺人罪に問われ、
医師も殺人幇助で起訴されている。

去年は脳死の息子の人工呼吸器を外した罪で
父親が4年間の執行猶予を受けた。

2008.12.07 / Top↑
長い間英国で論争を巻き起こしていた問題ですが、

犯罪捜査の過程で警察が採取した容疑者らのDNAサンプルと指紋が
その人の容疑が晴れた後にも警察のデータベースに保存されており、
英国政府と警察は犯罪防止に必要な措置だと主張してきました。

それに対して人権擁護団体からの批判が相次いだり、
実際に容疑者とされた人たちから
自分のサンプルの削除を求める裁判が起こされたりしていましたが、

12月4日に欧州人権裁判所は17人の裁判官の全員一致で
無罪の人のDNAと指紋サンプルがデータベースに残されるのは人権侵害であると判断、
英国の警察に1600万人分のデータの削除を命じたとのこと。


DNA database ‘breach of rights’
The BBC, December 4, 2008


国民に関するデータの扱いについては


このところのニュースでは英国政府の姿勢に
ひどくビッグ・ブラザー的なものを感じていたので
これはちょっと歯止めになりそうかな、と。

特に裁判官らが以下のように述べているのは
単に警察データベースの問題を超えて
あまりにも既成事実先行で進められていく科学と技術の開発についても
非常に重要な指摘なのではないでしょうか。

刑事裁判制度における現代科学技術の利用と、それがもたらす利益は
プライベートな生活という重要な利害とのバランスが取られなければならない。

新たなテクノロジーの開発においてパイオニアとしての役割を担う国はいずれも
両者の間に正しいバランスをとる特別な責任を負っているのだ。
2008.12.06 / Top↑
2歳半の息子を持つ母親は
そんな検査があると知った瞬間に
「どこで受けられるの? それ、いくら?」と聞いたそうな。

Colorado州Boulderで Atlas Sports Geneticsという会社がやっているDNA検査。
149ドル。

ACTN3という遺伝子を調べることで
短距離とかフットボールなどスピードとパワーの競技に向いているか
長距離などの耐久スポーツに向いているか
その子が生まれつき持っている運動能力の傾向が分かる……とのことで。

ACTN3でそんなことは分からないし、
こんな商売は“ガマの油売り”まがいの行為だと
批判する遺伝子治療の専門家もいるのだけれど、

大学の奨学金獲得やプロのスポーツ選手としての成功を夢見る親たちに
たいそう好評なのだとか。

冒頭の母親は
「そんなテストを受けたら
子どもが限られたスポーツしかせず
 経験の種類が狭められてしまうと考える人もいるかもしれないけど、
その子に適したことをやらせるのはいいことだと、やっぱり思いますよ。
その検査のお陰で親のフラストレーションはずいぶん減りますしね」

「子どものため」という言い訳で
実はやっぱり親自身のため……。

New genetic test asks which sport a child was born to play
The International Herald Tribune, November 29, 2008


自分がどんな潜在能力を持ち、何に向いているかなんて、
その子ども自身の体と心が一番よく分かっている。

親が余計な情報を仕入れて
自分の頭と理屈で子どもを思い通りに支配しようとせずに
目の前の子どもが何に興味を持ち、
何をやりがたっているのかを受け止めて
そこに手を添えてやれば
その子がもって生まれた能力は一番生かされるはずだし、

それが昔から、どんな子どもであれ
子どもを育てはぐくむことにおいては
当たり前の常識というものだろうと私は思うのだけれど。
2008.12.05 / Top↑
Lancetが英国小児科学会とのコラボで行う児童虐待シリーズとして
1年かけてまとめられた一連の論文を発表。

それらが指摘するところによると、
高所得国の児童10人に1人が何らかの虐待を受けている、
このところ英国民に衝撃を与えているBaby Pのケースのように
児童福祉にリスクが把握されているものは氷山の一角に過ぎない、と。

4-16%の子どもが身体的虐待を受けており、
5-15%の女児、1-5%の男児が狭義の性的虐待(性器挿入)
広義の性的虐待だと女児の15%、男児の5%に及ぶ。
精神的な虐待を受けているのは10%で
ネグレクトを受けていると思われるものは15%と推測される。

この問題の広範な広がりと複雑さが再認識された形で、
Baby P事件に関する報告書が指摘する児童保護行政の問題点について早急な対応が必要と。

One in 10 children suffer abuse, say experts
The Guardian, December 3, 2008

この記事を見て、そのうち元論文の所在を探してみようと思っていたところ
AFCPさんがブックマークしてくださっていました。
(AFCPさん、ありがとうございます)

Child Maltreatment
The Lancet, December 2, 2008


Lancetに論文を寄せた専門家が
この問題について科学的な検証を行っていく必要を説いていることを思えば、
なんの根拠もない素人の感想で申し訳ないのですが、

「科学とテクノロジーで何でも、命までも思い通りにできる」
「どんな子どもを持ちたいか、親が選ぶことができる」という文化の浸透が
子どもをまるで親の所有物のような存在に変えていきはしないか、

また、その一方で
大人たち自身がゆったりと人生と向かい合って生きていくことが出来にくい世の中へと
世界が急速に変貌していることも無関係ではないんじゃないか、

慎重な議論を待たずに積み重ねられる「やった者勝ち」の既成事実の勢いと
強者に都合のよい科学的な根拠だけが出てくる分かりやすいコスト効率議論とによって
弱肉強食化する世界の力関係が
親と子、大人と子どもの関係にも
そのまま反映されているのではないか、

児童虐待も含めて一つ一つの問題に対処する方法を考えることも必要だろうけれど、
もう一方で、それらの問題をもっと大きな図の中で捉えて、
効率と競争と力が席巻する世の中の動きそのものに対して、
一旦この辺りで踏みとどまって慎重に考えてみることが
実は真の問題解決のためには必要なんじゃないだろうか、と。
2008.12.05 / Top↑
ルクセンブルク大公国
安楽死法案が議会を通過しても
自分の良心にもとるので署名はしない、
法として成立させないとHenri大公が言いだし、

それなら大公の法的権限を制約するよう憲法を改正すると
Junker首相が応じるという騒ぎが起きています。

ルクセンブルクで大公が議会の決定を否定するのは史上初めてのことだとか。

2008.12.04 / Top↑
以前のエントリーで紹介した話題の続報。

オーストラリアの田舎町の医師不足を助けるためにやってきて、
そのまま永住したいとのドイツ人医師の希望を
ダウン症の息子が財政負担になるとの理由で
オーストラリア移民局は却下しましたが、

その後、国民からの非難の声を受けて移民大臣が介入。
決定が覆って、医師一家は永住権を獲得したとのこと。

その移民大臣いわく、
「Moeller医師とご一家がお住まいの地域に大変貴重な貢献をしておられることは
私には明白でしたからね」

「Moeller医師は地域に大いに必要とされるサービスを提供しておられるし
ご一家も地域にとても馴染んでおられる。
地域の人たちからの支持もある」

「ご一家がオーストラリアを自分の国にと選んでくださって嬉しい」



しかし……なんだか、なぁ……

当初このニュースを知った時に
原則論を離れた世論とメディアの感情論で
こういう話の捻じ曲がり方になるのではないかという点が私には一番気がかりでした。

「医師のこれまでの貢献に対して恩知らずだ」とか
「ダウン症はそんなに手間も金もかからない障害で、社会貢献だってできるのに」
という目の前の批判を、とりあえずはかわすための、
大臣にすれば“例外”決定のつもりなのかもしれませんが、

たちまちオーストラリアに医師不足の問題があるからOK。
親が医師だったからOK。
障害がダウン症だったからOK。

オーストラリアは、この決定をもって障害児のいる移民については
その障害の種類や程度と
親が社会にどれだけ貢献できるかという点との
コスト・ベネフィット計算によって
受け入れを検討するというルールを敷いたことになりはしないでしょうか。

「地域の人々からの支持」に触れられていることも気になります。
地域へのコストは財政負担だけではないし、
地域住民に大小様々な迷惑(これも一種の負担でありコストですね)をかけそうな障害なら
認められる可能性が低くなるということでは?


国連障害者権利条約の監督委員会の関係者から
家族の障害を理由に永住希望を却下したことそのものが
国連障害者権利条約を批准した国でありながら
障害者を差別するものだとの批判が出ていたのですが、

そこでは、どんな障害であれ、どんな親であれ、
障害が永住権拒否の理由になることが差別であると指摘されていたわけで、

これでは決定が覆ったために、
むしろ余計に差別的な判断となったのでは……?
2008.12.04 / Top↑
オーストラリア首都特別区で
刑法訴訟制度が崩壊の危機に瀕している。

人手不足、予算不足のため、
検察の上級職員はほとんど準備をする時間がないまま大きな裁判を執り行っているし
その一方で新人は不十分な研修のまま重大事案を扱っているのが現状で
その結果、重大犯罪の被告が相次いで無罪になっている……

早急な対策が採られなければ
来年早々にも刑事裁判は機能を失う──。

Criminal Justice system in crisis
The Canberra Times, December 3, 2008


その崩壊の様が
現在の日本の医療の崩壊の様と重なって、

医療の次に崩壊するのは司法だと
このニュースに予言されたような気がした……。
2008.12.03 / Top↑
もう、ずいぶん前から英国メディアが毎日のように報道しているのが
虐待を行政が把握していながら救えなかったBaby P 事件。

当時1歳半のBaby Pが亡くなったのは去年8月なのですが、
母親とその恋人、下宿人の3人からの虐待は
Baby P に「サンドバッグにされた赤ちゃん」という別名を与えたほど凄まじく、
亡くなった時には全身のあちこちに骨折があったとのこと。

しかも、その後の調査で、
亡くなる1年以上も前から病院への受診もあり、母親が逮捕されてもいて
医療関係者、地方自治体の児童福祉関係者は虐待の事実を知っていたにもかかわらず
保護手続きをとらずに母親の手元に戻していたなど
関係者の不手際、怠慢が次々に明るみに出ています。

最近では、医療・福祉関係者の本人との接触は60回にも及んでいた事実が判明。
救うチャンスがそれだけあったのに、なぜ救えなかったのか、と非難の声が大きくなり、
どうやら、この事件、英国児童福祉史の汚点となりそうな気配です。

昨日、いよいよ最終報告書が発表され、
地方自治体の児童保護業務の機能不全ぶりが指弾されています。

ここ数日のうちに
Baby Pを診察しながら数箇所に及ぶ骨折を調べようともせずに帰したとして
医師が業務停止処分を受けたり、
自治体の関係幹部らが辞任したり停職処分を受けたりと
処分が相次いでいるところ。

またこの事件の衝撃的な事実が解明されるにつれ、
全国で児童保護の申請が急増したり、
自治体が積極的な介入を始めたり、
何かあったら責任を問われると我が身を脅かされた各地の行政関係者が
しきりに動き始めているようです。



Three suspended over Baby P case
The BBC, December 1, 2008


Devastating report reveals Baby P failings
The Guardian, December 2, 2008


事件の年表はこちら

Timesのスライドはこちら


【追記:補遺からコピペ】

2009年5月13日
Baby P 事件の調査報告書がケアの質コミッションから出ている。関与した医療・福祉の専門家の誰か1人でも「ここまでやったら義務は果たしたぞ」というラインをちょっと超えていれば、Baby P は今生きていたかも知れぬ、と。(米国のIDEAをちょろっと読んだ時に感じたことがある。結局すべてが「やるべきことはやりましたよ」とアリバイ作りの書類仕事・手続き整備に過ぎないのじゃないか……と)
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/child_health/article6276087.ece?&EMC-Bltn=OIZFNA

5月23日
英国のBaby P事件で、母親と恋人、家主が収監された。恋人はPeter君の死と2歳の女児レイプの罪で12年の懲役。母親と家主については、社会への危険とみなされなくなるまでということで今のところ未定期。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/london/8055340.stm

8月11日
英国史上最悪の児童虐待 Baby Peter事件で、殺人罪に問われた母親と恋人、同居していた恋人の弟の名前が公表された。:何で今頃わざわざ? と思わないでもないけど、改めてこの長い記事で事件の概要を読むと、この恋人の男性の嗜虐性と狡猾さは普通じゃない。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article6790819.ece?&EMC-Bltn=OLSD7B
2008.12.03 / Top↑
スイスでは14年前に医療機関がヘロインを出せるようにしたところ
中毒患者による犯罪が6割も減ったとのこと。

そこで、政府はヘロイン中毒者を犯罪者として取り締まるのではなくて
患者として医療機関でヘロインを与えながら治療しようと考えた。
ただし、そうなると国民全員が経費を負担する健康保険の対象となるため
直接民主主義の国民投票で意思を確認したところ、
1400万ポンドを要する、この政府案に賛同した人が69%という結果に。

もともとスイスは欧州の他国に比べてヘロインに対して寛容であり、
国内23箇所のヘロインセンターで看護師の監督の下にヘロインを打っているのだけれど、
公園で堂々と打っている姿が目撃されたり
エイズや肝炎の増加で国民から問題視する声が上がっていた。

センターの医師によれば
センターに通い始めて2,3年で脱ヘロインのプログラムに移行できる人が3分の1、
残り3分の1は安価なメタドン治療に切り替えていける。

この医師はスイスではヘロインを医療化したのに
中毒患者には醜い病気だというイメージが付きまとって
それが新たな中毒者が治療から漏れる原因となっている、と。

しかし、右派の政治家からは予防と法による取締りにもっと予算を割くべきだという意見、
薬物に反対する親の組織からは
ヘロインは毒物である、中毒を治すために毒を与えるのか、との批判も。

欧米諸国は概ね批判的だが
デンマーク議会は同様のプログラムに予算をつけた。

ただし、スイス政府はマリファナの合法化については、
合法化すれば他国からマリファナ目当ての連中がやってきて
ドラッグ・ツーリズムを招く、として慎重姿勢。


この問題については
Roger Boyesという人が同じくTimesで好意的に論評しており、
そのタイトルは「スイス人がまた我々の先を行った - 今度は薬物更正で」。


スイスと言えば当ブログでも何度も取り上げてきた
自殺幇助クリニック Dignitas に世界中から幇助自殺希望者が訪れている国、

Boyes氏のタイトルの「また」とは
自殺幇助で既に「先を行っている」という意味なのでしょう。


(自殺幇助関連エントリーは「尊厳死」の書庫に)
2008.12.02 / Top↑