ドイツ医師会はずっとドイツの医師は自殺幇助に反対だと言って、ガイドラインでも禁じてきたが、見てみろ、3割もの医師がターミナルな患者は死なせてもいいと考えているじゃないか、4人に1人は積極的安楽死だってありだと答えているんだぞ(「そんなにも多くの医師が患者を殺すことを考えているとはショックだ」と医師会会長)、医師会のガイドラインの方が実態に合っていないぞ、医師会だって意見は割れているじゃないか、国民だってマジョリティは自殺幇助を支持しているし、政治家だってそうだ。医師の考え方がやっと国民に追いついたということだろう、今のガイドラインは変えるべきだろ、 倫理観なんて人それぞれだろ、医師と患者本人で決めたっていいじゃないか、だいたい今だって消極的安楽死だの栄養と水分の停止だの、実際にはやってるじゃないか、今のガイドラインは憲法で保障された個人の自己決定権に反しているぞ、Oregonを見てみろ、合法化したって、すべり坂なんて起こっていないぞ、だいたい医療倫理と法律の間にギャップがあんだよ、ギャップが……みたいな。良いカッコしようと勢い込んだ時の古館さんみたい。それにしても、「憲法で保障された自己決定権」がそこまで絶対視されてくるか……。
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,707438,00.html
不況で、これまで25の州が高齢者と障害者の在宅ケアのカットに踏み切っている。具体的には受給資格の所得制限を下げるなど。しかし在宅ケア・サービスは施設入所を遅らせることができるため、長期的に見れば州にとっても節約になるはずなのだけれど。:冒頭でとりあげられているのはOregon州の障害者。 Oregonは尊厳死法があって、http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/44588937.html抗がん剤はダメだけど自殺幇助ならメディケア支給しますよ、というところだからなぁ。
http://www.nytimes.com/2010/07/21/us/21aging.html?_r=1&th&emc=th
Biedermanスキャンダルを始め、ここ数年の研究者と製薬会社とのスキャンダルを受けてHarvard大学が医大の中でも異例の厳しさの方針を打ち出し、医師らに企業からの物品・金銭の授受を規制することに。アカデミズムと医学の価値を守るべく、アカデミアと企業の協働のあり方のモデルを作る、と。
http://www.bloomberg.com/news/2010-07-21/harvard-doctors-to-shun-industry-gifts-meals-under-new-conflicts-policy.html
http://www.boston.com/news/education/higher/articles/2010/07/21/harvard_puts_tighter_limits_on_medical_faculty/
19日付で英国老人医学会から
医師による自殺幇助に関する意見声明が出されています。
一番こういうことを言ってほしかったところから、
非常に的確な声が上がった感じ。
また先週、ずっと考えていた問題(詳細は文末にリンク)に
簡潔ながら核心をついた、頼もしい答えをもらった気持ちになったので、
全文をざっと日本語にしてみました。
自殺を斡旋したり幇助したり、または容易にすることは、医師やその他医療職の役割ではない。最近出されたDPPのガイドラインでも、医療職が関与した場合は起訴ファクターに含められている。患者や患者のアドボケイトに生命を終わらせるように求められ、それに応じるとしたら、老人医療の専門家は法律的義務、専門医としての義務を果たすことができない。
英国の死亡年齢の中間値は80歳を超えており、英国老人医学会の会員は多くの死にゆく患者をケアする中で、患者との間で安楽死についての会話の増加を経験している。多くの場合、「このまま死なせてもらうわけにはいきませんか」という言葉で出てくる。多くの人が安楽死を望む背景には、望みもしないのに負担の大きな治療をされて死を引き伸ばされることへの不安がある。しかし、こうした不安は、医師と患者の間の信頼関係の中で、患者の希望に細やかに耳を傾けることによって、軽減できるものである。
進行性の病気や障害のある人がだんだん自立できなくなり、尊厳を失っていくことに苦しみ、不安を感じることは理解できるが、英国老人医学会は意図的な殺人は正当化されるものではないと考える。むしろ、老人専門医こそ、複合的で進行性の障害のある人々に包括的にアセスメントを行い、前向きなアプローチの計画を立てるスキルを持ち、個々の患者の福祉の改善に大きく資するものである。当学会の会員は緩和ケア医療と緊密な連携関係にあり、終末期の苦痛の軽減に大きく貢献している。
仮に自殺幇助が合法化されれば、弱者の生命が脅かされ、中には自分が他者への負担にならないように自分の命を諦めるようプレッシャーを受ける人も出ることになる。合法化はまた医師の倫理綱領を甚だしく損なうだけでなく、治療する者としての医師の役割とも相容れない。
だいじょうぶ、終末期の苦痛については、
医師と患者の信頼関係の中で個別に十分ケアできるのだから、と。
だから、本当の問題は、
人生の一回性の中で死んでいく患者を全人的に支えることができるかどうか、
以下にすれば、それが可能になるかという「医療の質」の問題で、
「死の質」の問題ではないだろう……というのが、
当ブログの先週とりあえずの結論だった。
Physician-Assisted Suicide – BGS Position Statement
British Geriatrics Society, July 19, 2010
医療現場で、「このまま死なせてもらえんものですか」と
口にする患者さんたちが増えている、というのは
予想はできたことながら、非常に気になる情報。
その背景には、ここに書かれているように、
無益な治療で苦しみながら死のプロセスを長引かされたくない、という不安も
もちろんあるでしょうが、
こう波状攻撃的に、次々と「死の自己決定権」を訴える人たちが事件や訴訟を起こし、
そのいちいちにメディアが偏向報道を行っていれば、
無駄な医療費を使ったり、家族に介護で迷惑をかけるような状態には尊厳がなく、
それよりも、自ら死を選んで、美しく死んでいく権利を主張しましょう、と
せっせと説かれていることの洗脳効果が何よりも大きいのでは?
【先週考えていた「死の質」調査に関するエントリー】
「死の質」は英国が1位だという調査(2010/7/15)
「死の質」は果たして「生の質」の対極にある概念なのか(2010/7/15)
「死の質」について、もうちょっと(2010/7/16)
「ターミナル」診断に対する医療職の意識調査:“生の質”も“死の質”も本当はただ“医療の質”の問題では?(2010/7/17)
http://www.guardian.co.uk/world/2010/jul/19/bill-clinton-gates-aids-conference?intcmp=239
たぶん、上記ニュースの関連。女性が性交前に使うことでHIV感染を予防できるジェルが開発されて、国連もWHOも歓迎している。これもまた途上国向け。:な~んか、被害に遭うのも女性なんだけど、対策のターゲットにされるのも女性……という気がしないでもなくて。直接的な関連があるのかないのか、面倒なので突きつめて考えてはいないけど、“Ashley療法”の論理でも、胸が大きかったら介護者からレイプされるから乳房切除だとか、レイプされても妊娠しないように子宮摘出だとか……それに対して「性的虐待の責めが潜在的被害者であるAshleyに負わされている」という批判が出ていたのを思い出した。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/jul/19/aids-infection-risk-women-halved-gel-study
いわゆる“試験管ベビー”では癌の発生率が高い、早産の可能性や出生時の呼吸障害の可能性も高い。しかし癌の高率については、不妊で生殖補助医療を必要とした親の遺伝子上の問題ではないか、と研究者。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/19/AR2010071900031.html?wpisrc=nl_cuzhead
職業倫理に反する行為のあった看護師を各州が全国データベースにちゃんと登録しておらず、州を移動することで職についている。患者の安全は? ProPublicaの調査報道。シリーズの1。
http://www.propublica.org/article/states-fail-to-report-disciplined-caregivers-to-federal-database
乳がんの初期だとの生体検査には間違いが多い、という調査結果。冒頭、摘出手術の後で間違いだと分かった人の話。
http://www.nytimes.com/2010/07/20/health/20cancer.html?th&emc=th
PETだとか脊髄液の分析だとか、アルツハイマー病を早期に診断すると言われて昨今あれこれ登場している新たな診断法はお勧めしない、とNational Institute on Aging とアルツハイマー病協会。
http://www.nytimes.com/2010/07/20/opinion/20pimplikar.html?th&emc=th
米国の親の53%が自宅でできる子どもの遺伝子検査に興味を示している、という調査。:親による新手の虐待が用意されている感じがしないでもない。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/195152.php
Obamaの新たな医療制度に向け、保険会社が患者の選択肢を狭めて保険料を下げた商品を売り出している。
http://www.nytimes.com/2010/07/18/business/18choice.html?_r=2&th&emc=th