映画の予告映像は、こちらの日本語サイトで見ることができます。
このサイトの説明によると、
手話を駆使して人間と会話することで世界的に有名になった
チンパンジーのニムの生涯をまとめたドキュメンタリー。
映画の公開に当たって、実験の詳細を振り返る記事がSalonにありました。
Pick of the Week: The chimp they tried to turn human
Salon, July 7, 2011
プロジェクト・ニムは、70年代に
動物が人間の言語を習得できる可能性を模索するため、
知能の高いチンパンジーの子どもニムを人間の子どもと同じように養育し、
手話を教え込もうとしたコロンビア大学の心理学者 Herbert Terraceの実験。
手話を教えたのは、
チンパンジーが人間の言語を話すための筋肉を欠いているため。
当時、言語学者ノーム・チョムスキーが
言語は人間にしか習得できないものだという説を唱えており、
実験が彼の説にチャレンジするものであったことから、
ニムは“ニム・チンプスキー”とも渾名された。
しかしTerraceの結論は
ニムは125語程度の手話の習得に留まり、
目先の目標を達成するための原始的な合図を超えたレベルに達することがなかった、
というもので、当時、論議を呼んだ。
しかし、今こうして実験の詳細やニムの生涯を振り返ると、そこに見えてくるのは、
70年代の米国のアカデミズムを背景に、チンパンジーに投影された、
ありとあらゆる種類の人間の欲望とイデオロギーであり、
チンパンジーと言語の問題よりも、むしろ人間の傲慢。
実験はまず、ニムの母親を麻酔銃で撃ち、捕まえてきた生後2週間の赤ん坊を
Terraceの元恋人でチャンパンジーに関する知識など皆無である女性Stephanie LaFargeに
引き渡すことから始まった。
LaFargeの家はマンハッタンの混沌の中で何世帯もが共同生活をしており、
もともと多くの子どもが野放図に暮らしている家庭だったので、
そこに動物が一匹加わったからといって大勢に影響がなかったのだという。
フロイド心理学を学んだ元大学院生であったLaFargeは
言語習得のみを念頭に置いたTerraceの単純素朴な実験意図にも関わらず、
ニムに母乳を飲ませ、自分の身体を触らせ、自慰行為を観察するなど、
勝手に独自の実験を行った。酒を飲ませ、マリファナも吸わせた。
やりたい放題に甘やかされたニムが
嫉妬深くてわがままな、愛情も豊かだけれど性欲にも暴力にも抑えが利かなくなると
Terraceは、ニムを大学の施設内に移し、
今度はその時点での恋人であった、学部学生の Laura-Ann Petittoに託す。
少なくとも2人の関係が終わるまで、ニムはPetittoに託され、
その後はまた別の学部学生 Joyce Butlerに預けられた。
5年間の実験の間、ニムは3人の代理母の間を転々とした。
こんなことが人間の子どもで起こったら、大きな問題のある生育環境のはず。
ニムは、実験の間、そうした無秩序で一貫性のない状況に置かれたのである。
テラスはニムを単に実験の道具としかみなさず、
実験が失敗に終わると、ニムが生まれたオクラホマ州の霊長類研究所に送り返してしまう。
コーヒーの味を覚え、皿を洗い、人間のトイレを使っているチンパンジーを
沢山のサルが詰め込まれたキタナイ研究施設に送り返したのだ。
彼がその施設にニムを訪ねたのは、
1797年に本を出版した際にプロモのためにカメラマンを連れていった1度きり。
後にその研究所が、ニムを含め所有していたサルの多くを
霊長類でワクチン実験をしていたNY大学の実験室に売り払った際にも、
テラスは全く興味を示さなかった。
彼の現在のHPにも
70年代のニムに関する仕事は一切記載されていないとのこと。
しかしニムはオクラホマで、その後、彼の親友となる大学院生と出会っていた。
その大学院生Bob Ingersollが弁護士や他の研究者らと一緒にメディアに訴え、
ついに動物の権利擁護活動家Cleveland Amoryの関心を引いた。そして、
ニムは仲間のチンパンジーたちと共に過ごせる環境で生涯を終えることができた。
Ingersollの言葉がとても印象的で、
彼は言語を習得できるかどうかという議論には全く興味がないが、
ニムが独自に考案したものも含めた手話と、非言語コミュニケーションを通じて
彼自身はニムとちゃんとコミュニケーションが取れた。
それは、しかし、動物と一緒に暮らしたことのある人ならみんな知っていることで、
動物だって知恵もあれば知能も高いけれど、だからといって
動物を人間のように仕立てようとするのは間違いだ、というのは常識。
テラスの実験は、その常識から外れ、その常識をまっこうから否定するものだった、と。
映画「プロジェクト・ニム」は、
ニムは果たして言語を習得したのか、あるいは習得の可能性はあったのか、との問いには
答えを出していない。
記事の最後のセンテンスが示唆的で、
It does suggest that only by treating other species with dignity and respect can we respect our own unique status, and that’s a lesson we keep forgetting.
映画が描いて見せるのは、
尊厳と敬意を持って他の種の動物を扱うことによってのみ
我々人間だけが人間であるということに敬意を払うことができる。
しかし我々人間は、その教訓をいつも忘れてしまう……というメッセージ。
この問題、
以下の2つのエントリー・シリーズで考えてきたことに通じていくような気がします。
閻魔堂論議「なぜ人間が特別なのか?」シリーズ
「なぜ人間は動物と違って特別なのか?」種差別批判からの問い 1(2010/10/7)
「なぜ人間は動物と違って特別なのか?」種差別批判からの問い 2(2010/10/7)
「なぜ人間は動物と違って特別なのか?」種差別批判からの問い 3(2010/10/7)
P.シンガー「大型累次年の権利宣言」シリーズ
①Singerらの「大型類人猿の権利宣言」って、あんがい種差別的?
②Peter Singerの”ちゃぶ台返し”
③SingerやTH二ストにとっては、知的障害者も精神障害者も子どもも、み~んな「頭が悪い人たち」?
BuffettがGates財団に15億ドル。06年から順次、資産の99%を拠出すると公にしている計画の一環として。他にも報道が多々あって、どうやら15億相当の株式を提供したということみたい。:この2人、どんどん距離を縮めていく感じなのだけど、共同経営者として「グローバル世界慈善資本主義帝国」という企業に出資している……みたいな……?
http://www.reuters.com/article/2011/07/07/buffett-gates-idUSN1E7661WL20110707
世界で初めて、幹細胞から作られた人造臓器(気管)の移植手術。
http://www.guardian.co.uk/science/2011/jul/08/cancer-patient-synthetic-organ-transplant?CMP=EMCGT_080711&
NYTのオピニオン欄に、抗ウツ薬の効果を擁護する記事。
In Defense of Antidepressants: It’s all the rage to question their effectiveness. But critics don’t understand the research.
NYTによれば、ついに、精神科のカウンセリングまでウェブ上で、という会社がぞろぞろと出ているらしい。
The Therapist Will See You Now, via the Web:Psychiatry thorough a video connection was pioneered several decades ago. Today, start-up companies are trying to popularize therapy over the Internet.
英国の大衆紙Sun の日曜版the News of the World の電話盗聴事件に関する日本語記事。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110709-00000097-san-int
この事件で出したリリースで墓穴を掘り、メディア王マードックにも投獄の可能性が。
http://www.canberratimes.com.au/news/world/world/general/murdoch-may-face-jail/2220198.aspx?src=enews
死刑に使われるチオペンタールが不足してペントバルビタールに切り替える州が相次いでいる問題で、Hospira以外の会社がペントバルビタールについても治療に使う医療機関を優先することを表明。さらに不足が深刻に。
http://www.chron.com/disp/story.mpl/metropolitan/7646392.html
「介護保険情報」誌7月号の連載で書いた記事を――。
英国NHSの介護者支援サイトCares Direct
先月7日、介護者の権利擁護を進める「ケアラー連盟」が日本で誕生した。これまで介護者が「人権」という文脈に乗せられることは日本では少なかったが、ついに「介護者の人権」を求める声が上がった。英語圏の介護者支援については、これまでも何度か紹介してきたが、これを機に、今回は英国のNHS(国民医療サービス)がウェブ上に開設している介護者支援サービスCarers Directを覗いてみたい。
Carers Directのトップページは「ケアホーム情報」「介護を始めたばかりの人」「お金と法律」「介護ガイド」「若年介護者」「介護者の福祉」「仕事・勉強との両立」「介護者の体験談」「介護者手当て」「介護者アセスメント」の10テーマに分かれている。また地域ごとにサービス情報を検索する機能、関連サイトへのリンクも用意されている。
初めてこのサイトを訪れた人や介護を始めたばかりの人にお勧めなのは、ページ右下にある「誰かの介護をしていますか?」と題したQ&Aコーナーだろう。
以下の6つの質問に順次答えていくと、その人に応じたアドバイスと共に、サイト内のどの情報が参考になるか、どんな支援が使えるかを教えてくれる。6つの質問からはNHSの介護者支援が何を重視しているかが伺えて、たいへん興味深い。
①介護者として必要な情報が手元にあり、必要な情報をどこで手に入れたらよいか知っていますか。
②介護ができにくい身体的不調がありますか。
③介護のために夜眠れなかったり、孤独を感じたり、自分には無理だと感じることがありますか。
④何があれば介護がしやすくなりますか。(経済的サポートや住宅改造、移動支援など6つのチェックリスト)
⑤介護から離れて介護者役割を休む時間はとれていますか。
⑥介護以外のところで生活上の困難を感じていますか。(通学、仕事、健康、自分の時間など6つのチェックリスト)
また個々の相談を受ける「ヘルプライン」も用意されている。直通電話相談は月曜日から金曜日は午前8時から午後9時まで、週末は午前11時から午後4時までで、英国内なら設置電話からでも携帯電話からでも無料。電話の他にもメールや手紙での相談も受け付ける。
相談窓口なので直接の支援を行う訳ではないが、相談者のニーズに応じた情報を提供したり、サービス受給に問題が生じている場合には不服申し立ての手続きを手ほどきしたり、自治体やNHSの担当者に繋ぐこともある。また、必要に応じて各種専門家も紹介する。
外国人、障害者向け電話通訳・翻訳サービス
この介護者相談電話、特に目を引かれるのは、外国語にも聴覚・言語障害者にも対応ができていることだ。もっとも、ヘルプラインが独自に用意したものではなく、既に普及・定着した民間サービスが、民間企業はもちろんのことNHSを始めとする官による行政サービスにも導入されているということのようだ。
Language Lineのサービスでは、加入すると通訳を入れ3方向の会話が可能となる。対応言語は170以上。25年も前から各種機関の行政サービスと契約しているというから驚く。
聴覚・言語障害者向け電話通訳・翻訳サービスは、80年代に王立全国聴覚障害者協会が始めた取り組み。その後、同協会と英国の通信大手ブリティッシュ・テレコムがそれぞれ提供していたサービスが去年3月に統合されてTextRelayとなった。通常の電話番号の前に専用番号を入力するとオペレーターが介入し、キーボードのついた文字電話(現在はPCの転用も可)と通常の電話の間で、文字から音声へ、音声から文字へと通訳する。あらかじめの手続きも予約も不要。無料サービスで、通訳により通常よりもかかった時間分の料金も払い戻しを受けられる。
こうしたサービスが介護者相談電話で当たり前に使えるとは……。人の多様性を認め尊重する英国社会の人権意識の歴史の厚みを、改めて見せつけられる気がした。もっとも、これを機に検索してみたところ日本にも電話通訳サービス企業はある。代理電話サービスや、手話による電話通訳も始まっているようだ。
そして、ここにまた、日本の人権意識においても介護者支援においても着実な一歩――。
ケアラー連盟設立、おめでとうございます。
ケアラーズ・ダイレクトのサイトはこちら ↓
http://www.nhs.uk/carersdirect/Pages/CarersDirectHome.aspx
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日本のケアラー実態調査(2011/6/14)
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