英国のシンク・タンクDEMOSの調査報告書で
自殺幇助が疑われる事件を検死官がスル―しているという
とんでもない実態が明らかになっている。
報告書は以下のDEMOSのサイトから無料でダウンロードできますが、
私はまだ読んでいません。
The Truth About Suicide
DEMOS
とり急ぎ、以下の長短2つの記事から、その衝撃の実態とは、
15人に2人の検死官が、
自殺幇助の可能性があるケースで意図的にスル―したことがある、と。
理由は多くの場合
「残された友人や家族のためにことを荒立てたくなかったから」
今回の調査対象で出てきた検死官の衝撃の発言とは、
報告書の著者らは、これらの結果は
「検死官が自殺幇助が疑われるケースに対して時に目をつぶっているとのエビデンス」だとし、
現在、英国の自殺者の1割が
慢性病または病気でターミナルな状態にある人によるものとされているが、
自殺者も、自殺幇助も実際の件数は
表に出てきているよりもはるかに多いのではないか、と分析。
上記DEMOSの当該サイトによれば、
連立政権の自殺防止に関する意見募集に呼応する形で、
自殺の本当の原因の調査・究明の必要に加えて、
地域ごとに自殺の調査や検死官の情報共有の義務付けを提言している。
Coroners ‘turning a blind eye’ to assisted suicide
The Telegraph, August 23, 2011
Coroners turn blind eye to assisted suicides, report claims
Mirror, August 25, 2011
公訴局長のガイドラインが出て以来、
英国で「近親者による自殺幇助は事実上、合法化された」という空気が広がっていることは
かねて当ブログが懸念してきた通りで、
ガイドラインは「自殺幇助事件は全て警察が捜査する。
その上で自殺幇助の証拠が揃っている場合の起訴判断については
ガイドラインのファクターを検討し、結論には公訴局長の同意が必要である」
としているものでありながら、
先月も、以下のエントリーで取り上げたように、
警察レベルで「近親者の自殺幇助だからOK」との判断が行われるという
ガイドライン違反が起こっていることを指摘したばかり。
警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15)
そして、今回、DEMOSの報告書が明らかにしているのは、
さらに、その警察以前に、検死官の段階で
「近親者による自殺幇助だからOK」との判断が
恣意的に行われているという実態――。
しかし、「どうしてもやらざるを得ない立場ならやりますが」って……
検死官って、死の真実を突きとめることが仕事なのでは?
その検死官が「真実を知りたくなかった」と言うのであれば、
自殺幇助を装った殺人だって、やりたい放題ということでは……?
いや、そもそも法改正は行われていないし
ガイドラインでも自殺幇助は今だに違法行為であると明記されているというのに?
なにやら、英国の司法制度そのものが暗黙のうちに
重病や重い障害のある人だったら、死のうが殺そうが、
みんなで目をつぶりましょう、という空気に転じているような……?
こういうことを考えるにつけ、
やはり2008年のGilderdale事件と、2年後の
「よくぞ殺した」と言わんばかりの判決、世論の狂騒は
本当に象徴的だったと、改めてつくづく痛感します。↓
【Gilderdale事件関連エントリー】
Gilderdale事件:「慈悲殺」を「自殺幇助」希望の代理決定として正当化する論理(2008/4/18)
慢性疲労症候群の娘を看護師の母親がモルヒネで殺したGilderdale事件(2010/1/19)
Gilderdale事件から、自殺幇助議論の落とし穴について(2010/1/22)
Gilderdale事件で母親に執行猶予(2010/1/26)
Gilderdale事件:こんな「無私で献身的な」母親は訴追すべきではなかった、と判事(2010/1/26)
自殺幇助が疑われる事件を検死官がスル―しているという
とんでもない実態が明らかになっている。
報告書は以下のDEMOSのサイトから無料でダウンロードできますが、
私はまだ読んでいません。
The Truth About Suicide
DEMOS
とり急ぎ、以下の長短2つの記事から、その衝撃の実態とは、
15人に2人の検死官が、
自殺幇助の可能性があるケースで意図的にスル―したことがある、と。
理由は多くの場合
「残された友人や家族のためにことを荒立てたくなかったから」
今回の調査対象で出てきた検死官の衝撃の発言とは、
疑いがあると思ったケースは沢山ありましたが、
それを詳細に調べることが特に私の仕事というわけではないし、
どうしてもやらざるを得ない立場ならやりますが、
まぁ、(真実を)知りたくなかったということですね。
絶対に間違いないというケースなら、警察に通報したでしょうね。
自殺幇助は犯罪ですから。
でもたいていは誰かがパートナーや友人に対して、
苦痛や苦悩を終わらせたいと頼んだケースです。
そういう話を、死んだ人の親族から聞かされれば
その人たちに対して、本人がその時に自殺するのを知っていたかどうかまで
突っ込んで聞いたりはしないようにしています。
報告書の著者らは、これらの結果は
「検死官が自殺幇助が疑われるケースに対して時に目をつぶっているとのエビデンス」だとし、
現在、英国の自殺者の1割が
慢性病または病気でターミナルな状態にある人によるものとされているが、
自殺者も、自殺幇助も実際の件数は
表に出てきているよりもはるかに多いのではないか、と分析。
上記DEMOSの当該サイトによれば、
連立政権の自殺防止に関する意見募集に呼応する形で、
自殺の本当の原因の調査・究明の必要に加えて、
地域ごとに自殺の調査や検死官の情報共有の義務付けを提言している。
Coroners ‘turning a blind eye’ to assisted suicide
The Telegraph, August 23, 2011
Coroners turn blind eye to assisted suicides, report claims
Mirror, August 25, 2011
公訴局長のガイドラインが出て以来、
英国で「近親者による自殺幇助は事実上、合法化された」という空気が広がっていることは
かねて当ブログが懸念してきた通りで、
ガイドラインは「自殺幇助事件は全て警察が捜査する。
その上で自殺幇助の証拠が揃っている場合の起訴判断については
ガイドラインのファクターを検討し、結論には公訴局長の同意が必要である」
としているものでありながら、
先月も、以下のエントリーで取り上げたように、
警察レベルで「近親者の自殺幇助だからOK」との判断が行われるという
ガイドライン違反が起こっていることを指摘したばかり。
警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15)
そして、今回、DEMOSの報告書が明らかにしているのは、
さらに、その警察以前に、検死官の段階で
「近親者による自殺幇助だからOK」との判断が
恣意的に行われているという実態――。
しかし、「どうしてもやらざるを得ない立場ならやりますが」って……
検死官って、死の真実を突きとめることが仕事なのでは?
その検死官が「真実を知りたくなかった」と言うのであれば、
自殺幇助を装った殺人だって、やりたい放題ということでは……?
いや、そもそも法改正は行われていないし
ガイドラインでも自殺幇助は今だに違法行為であると明記されているというのに?
なにやら、英国の司法制度そのものが暗黙のうちに
重病や重い障害のある人だったら、死のうが殺そうが、
みんなで目をつぶりましょう、という空気に転じているような……?
こういうことを考えるにつけ、
やはり2008年のGilderdale事件と、2年後の
「よくぞ殺した」と言わんばかりの判決、世論の狂騒は
本当に象徴的だったと、改めてつくづく痛感します。↓
【Gilderdale事件関連エントリー】
Gilderdale事件:「慈悲殺」を「自殺幇助」希望の代理決定として正当化する論理(2008/4/18)
慢性疲労症候群の娘を看護師の母親がモルヒネで殺したGilderdale事件(2010/1/19)
Gilderdale事件から、自殺幇助議論の落とし穴について(2010/1/22)
Gilderdale事件で母親に執行猶予(2010/1/26)
Gilderdale事件:こんな「無私で献身的な」母親は訴追すべきではなかった、と判事(2010/1/26)
2011.08.25 / Top↑
24日の補遺で簡単に拾った
MA州での自殺幇助合法化に向けた動きの詳細。
来年の住民投票に向けて
署名集めの文言に対して州検察局の許可を求めているのは
The Massachusetts Death with Dignity Coalition。
以下の記事を読む限り、
余命6カ月と診断されたターミナルな人が対象、
障害と年齢によって一定の規制がかけられる、
うつ病など精神障害が疑われる場合には精神科に紹介する、
2人の医師による説明、意思確認と、
15日間の間を置いた本人の明示的な意思表示など、
合法化案の内容や手続きは OR州、WA州の尊厳死法とほぼ同じものと思われます。
Coalitionでは、検察局からの許可が下り次第、
住民投票に向けて必要な数の署名集めに入り、
来年の住民投票の実現を目指す、とのこと。
この動きとは別に、民主党議員のLouis Kafka氏が
議会に合法化法案を提出する予定。
これらに対して出ている批判と懸念も
これまでと同じで、
緩和ケアの専門家からは
医療職は支援し、苦痛を取り除く方向で終末期の患者に対するべきであり、
痛みを取り除く技術も向上している。
また宗教界からも、
医療が死を早めることに手を染めることへの懸念の声。
Mass. Petition aims to OK doctor-assisted suicide
Boston Herald, August 24, 2011
この記事で触れられていない重要な論点として、
余命6カ月以内のターミナルな人のみとか精神障害者は専門家に紹介するなど、
自殺幇助を合法化した国や州で規定されているセーフガードが
実際には機能していないという問題があります。
去年から今年にかけて明らかになっている実態については、
以下の「介護保険情報」での連載記事と、
当ブログエントリーなどに取りまとめています。
「セーフガード崩れる尊厳死法の実態が明らかに」
「介護保険情報」2010年10月号 「世界の介護と医療の情報を読む」
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
英国の医療教育機関が自殺幇助合法化反対を確認(2010/7/7):ベルギーの実態調査情報あり
オランダで安楽死が増加し保健省が調査。緩和ケアの崩壊も(2010/6/21)
幇助自殺者が毎年1割ずつ増えるオランダで「安楽死クリニック」求める声(2010/8/12)
オレゴン州の尊厳死法、セーフガードは機能せず(2010/8/17)
「抗がん剤も放射線もダメだけど自殺幇助はOK」というOR州メディケアのガイドライン(2011/1/17)
WA州の尊厳死法、殺人の可能性あっても「問わず語らず」で(2010/9/16)
WA尊厳死法の「すべり坂」、エビデンスがまた1つ(2010/11/2)
スイスで精神障害者への自殺幇助容認議論(2011/3/1)
なお、法改正ではなく公訴局のガイドラインで
医師ではなく近親者の自殺幇助を事実上合法化し、独自の道をいくと見える英国からも
検死官が自殺幇助を黙認しているとの気になるニュースが出てきており、
これについては次のエントリーで紹介するつもりです。
MA州での自殺幇助合法化に向けた動きの詳細。
来年の住民投票に向けて
署名集めの文言に対して州検察局の許可を求めているのは
The Massachusetts Death with Dignity Coalition。
以下の記事を読む限り、
余命6カ月と診断されたターミナルな人が対象、
障害と年齢によって一定の規制がかけられる、
うつ病など精神障害が疑われる場合には精神科に紹介する、
2人の医師による説明、意思確認と、
15日間の間を置いた本人の明示的な意思表示など、
合法化案の内容や手続きは OR州、WA州の尊厳死法とほぼ同じものと思われます。
Coalitionでは、検察局からの許可が下り次第、
住民投票に向けて必要な数の署名集めに入り、
来年の住民投票の実現を目指す、とのこと。
この動きとは別に、民主党議員のLouis Kafka氏が
議会に合法化法案を提出する予定。
これらに対して出ている批判と懸念も
これまでと同じで、
緩和ケアの専門家からは
医療職は支援し、苦痛を取り除く方向で終末期の患者に対するべきであり、
痛みを取り除く技術も向上している。
また宗教界からも、
医療が死を早めることに手を染めることへの懸念の声。
Mass. Petition aims to OK doctor-assisted suicide
Boston Herald, August 24, 2011
この記事で触れられていない重要な論点として、
余命6カ月以内のターミナルな人のみとか精神障害者は専門家に紹介するなど、
自殺幇助を合法化した国や州で規定されているセーフガードが
実際には機能していないという問題があります。
去年から今年にかけて明らかになっている実態については、
以下の「介護保険情報」での連載記事と、
当ブログエントリーなどに取りまとめています。
「セーフガード崩れる尊厳死法の実態が明らかに」
「介護保険情報」2010年10月号 「世界の介護と医療の情報を読む」
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
英国の医療教育機関が自殺幇助合法化反対を確認(2010/7/7):ベルギーの実態調査情報あり
オランダで安楽死が増加し保健省が調査。緩和ケアの崩壊も(2010/6/21)
幇助自殺者が毎年1割ずつ増えるオランダで「安楽死クリニック」求める声(2010/8/12)
オレゴン州の尊厳死法、セーフガードは機能せず(2010/8/17)
「抗がん剤も放射線もダメだけど自殺幇助はOK」というOR州メディケアのガイドライン(2011/1/17)
WA州の尊厳死法、殺人の可能性あっても「問わず語らず」で(2010/9/16)
WA尊厳死法の「すべり坂」、エビデンスがまた1つ(2010/11/2)
スイスで精神障害者への自殺幇助容認議論(2011/3/1)
なお、法改正ではなく公訴局のガイドラインで
医師ではなく近親者の自殺幇助を事実上合法化し、独自の道をいくと見える英国からも
検死官が自殺幇助を黙認しているとの気になるニュースが出てきており、
これについては次のエントリーで紹介するつもりです。
2011.08.25 / Top↑
| Home |