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山本有三の堕胎罪批判から考えたことのエントリーで
13日にもちょっと触れた以下の本。

「家族計画」への道 近代日本の生殖を巡る政治
荻野美穂 岩波書店 2008


研究者と呼ばれる方々がいかに地道にコツコツと研究を積み重ねれておられるものか
その情熱や緻密な仕事ぶりに圧倒されつつ、
知らないことだらけの内容を興味深く追いかけた。

日本でも避妊や中絶に対して多くの屈折があったことそのものが
無知な私には目からウロコで、

でも、そういえば子どもの頃の記憶として
母親が読んでいた女性雑誌には必ず綴じ込みページがあって、
そこには何やら秘密めいた匂いが閉じ込められているように
感じられたものだったし、

文字が読めるようになって斜めに覗いてみたら、
オギノ式とかペッサリーとかオーガズムとか体位という言葉などが目につくのを、
意味など分からないなりに「大人の秘め事」と受け止めたことなども、

なるほど、ちょうど、そういう情報が
日本の女性に向けてさかんに流され始めていた頃だったのだな、と
この本を読みながら納得したりもした。

本書の非常に豊富で骨太な内容を乱暴に一言でくくってしまうと、
著者が「おわりに」にまとめている以下の言葉の通り。

……人間の生殖とその管理は、個人やその家族、共同体、国家、さらには国際社会など、さまざまなレヴェルの「当事者」の利害が錯綜し、競合しあう場なのであり、その中で人々、とりわけ妊娠・出産の最も直接的な当事者である女たちは、そのときどきの時代的文脈と制約のもとで、権力や法や男による管理に対してあるときは無視や不服従で対抗し、自分たちの利益にかなうと判断したものに対しては進んで迎え入れたり自分に都合よく流用することによって、利害の調整をはかろうとしてきた。歴史は、こうしたさまざまなレヴェルでたえずくり返される利害衝突や交渉の軌跡が、幾重にも集積することを通して作られていくのである。
(p.307)




日本で子どもを産むことを巡って女性の選択権を初めて主張した人たちが
だんだんと優生思想を説くことになっていく下りを含めて、
細かい点についてもいろいろ印象的だったことはあるのだけど、
当ブログでこれまで拾った情報との関連で
1つだけ「うおぉ」と、つい身を乗り出した部分のみを、
とり急ぎ以下に。

日本は1950年代後半から60年代にかけて
高品質のコンドームの開発・製造で国際的に名をはせた。

先進国が日本のコンドームを買っては途上国に提供する……という図式があったことから
日本も国家として家族計画の国際協力に乗り出そうと考える。

そこでIPPF(国際家族計画連盟)の顧問ウイリアム・ドレーパーと
佐藤栄作首相を始め日本の官・政・財の有力者が相談のうえ、
岸本首相を会長に、家族計画国際協力財団(JOICFP)が発足した。

この時、ドレーパーと会って財団設立に5万ドルの資金を提供し、
その後もスポンサーとなったのは、日本船舶振興会会長の笹川良一であった。
(p.248)




この話、実は当ブログで去年拾った、90年代のペルーの強制不妊キャンペーンと繋がっている。

ペルー、フジモリ政権下で30万人の先住民女性に強制不妊手術(2009/4/9)


米国も国連も関与していただけでなく、
日本財団もこのキャンペーンに約200万ドルを支出していた。

その後、失脚し亡命したフジモリ元大統領を
当時の日本財団理事長だった曽野綾子氏がかくまったことは周知の事実。

元大統領と日本財団との繋がりとは、なるほど、
そういう長年の協力関係に基づいたものだったわけですね。

      ――――

それから、もう1つは、
ここ数カ月、以下のエントリーで追いかけてきた現在の動きとの関連で、

知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではない(2010/3/23):G8での避妊・家族計画論争
ゲイツ財団資金で超音波による男性の避妊法を開発、途上国向け?(2010/5/12)
ゲイツ財団がインドのビハール州政府と「革新的な家族保健」の協力覚書(2010/5/17)
2010年5月29日の補遺:G8での途上国の母子保健関連記事。ここでも「家族計画」に言及。
ゲイツ財団が途上国の「家族計画、母子保健、栄養プログラム」に更に150億ドルを約束(2010/6/8)
「途上国の女性に安価な薬で簡単中絶“革命”を」の陰には、やっぱりゲイツ財団(2010/8/3)


先進国が技術と資金の提供を通じて
途上国の「家族計画援助」という名目で生殖管理に乗り出していくという構図は、

50年代、60年代から行われ90年代のペルーのキャンペーンに繋がった一連の動きと、
現在、母子保健の名目で途上国への中絶と家族計画の推進に乗り出そうとしている
ゲイツ財団を中心としたG8などの動きとに通じてはいないのだろうか。

なお、Bill Gatesの父親はかつて米国Planned Parenthood Federationの会長だったし、
現在も同連盟にはゲイツ財団から資金が提供されているものと思われる。

そして、Bill Gatesのいう「革新的な家族保健」や
Gates財団の資金で進んでいる超音波による男性の避妊法などを考えた時に、
ペルーで起こったことが現在のテクノロジーで繰り返されようとしている……
などという恐れは、本当にないのか……?



ちなみに、IPPF(International Planned Parenthood Federation)については日本語でこちらに。
2010.08.17 / Top↑
英国の自殺幇助合法化運動の広告塔Debbie Purdyさんの得意な殺し文句は
「米国の一部の州やヨーロッパのいくつかの国では法制化されて、ちゃんと運用されているのに、
英国で合法化できないというのは英国人を信頼しないというのか」だし、

日本でも、去年12月に
日本尊厳死協会の井形理事長が同様の発言をされましたが、

Oregon州で自殺幇助に抵抗活動を続けている
Oregon Right to Lifeからの転載記事によると、
オレゴンの「尊厳死」法で、セーフガードは機能していない、と。

Oregon’s Assisted Suicide Experience: Safeguards Do Not Work
Web One Directory Review,  reproduced from Oregon Right to Life


その証拠として挙げられている4つのケースの概要を以下に。

・第一例(ウツ病患者)

20年間乳癌と闘ってきた80代半ばの女性。
主治医は致死薬の処方を拒否。
2人目の医師は女性をウツ病であると診断し、
やはり自殺幇助を拒否。

そこで女性は自殺幇助アドボケイトの手を借りて
協力してくれる医師を紹介してもらう。

その医師は女性と知り合って2週間半後に処方した。

つまり、Oregonの尊厳死法適用の第一例はウツ病患者だった。


・Mathenyケース

43歳のPatrick Matheny氏はALS患者。
薬を手に入れたのは宅配便で。

手に入れた後で、飲む決断をするまでに病状が進行し、
自分で飲み込めなくなっていたため、義理の弟(兄?)が手伝った。

尊厳死法では、自殺の行為そのものを手伝ってはいけないことになっているため、
裁判所の判断が求められたが、裁判では
尊厳死法は自分で飲めない人を差別している、と判断した。

自力で飲みこみの出来ない患者が
自殺幇助の限界ラインを医師による致死薬の注射まで広げた。


・Cheneyケース

認知症の初期の高齢女性Kate Cheneyさんを、
娘が自殺させようとそそのかし、医師をとっ換えひっかえした挙句に実現したケース。

複数の医師が本人の認知症と娘からの誘導を理由に拒否。
本人は拒絶を受け入れたが娘が腹を立ててセカンドオピニオンを求め、
最終的に致死薬が処方された。


・Freelandケース

2004年5月、米国精神医学会で報告されたケース。

癌患者のMichael Freeland(63)は死が差し迫っていると診断され、
尊厳死法で致死薬を処方された後、2年近くも生きた。

処方した医師は、Freelandの精神科の診察の必要を認めなかったが、
当時から症状としての自殺念慮があったと言われていた。

その後、当局によって意思決定能力が否定されたが
しかし、致死薬は回収されないままだった。

Physicians for Compassionate Careが介入し、痛みと精神科ケアを提供。
Freeland氏はその後、致死薬によらない自然死をとげた。

--------

ちなみにOregon州のメディケアは
1998年に自殺幇助を給付対象として州民の税金で負担することとした。
一方、適切な痛みのコントロール、障害者への適切な生活支援、
また延命治療の一部は給付対象となっていない。



なお、最近行われたベルギーでの安楽死の実態調査でも、
以下のようにセーフガードが機能していないことが明らかになっています。

ベルギーでは2002年の合法化以来2700人が幇助自殺
(2009/4/4)
幇助自殺が急増し全死者数の2%にも(ベルギー)(2009/9/11)
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
2010.08.17 / Top↑
去年、DPPのガイドライン策定以降初の逮捕者として騒がれ、
以下のエントリーでとりあげた事件の続報。

MSの教育学者がヘリウム自殺、協力者を逮捕(英)(2009/6/26)
英国で自殺幇助容疑で元GP逮捕へ(2009/9/28)


MS患者の学者Caroline Loderさん(48)の自殺に関連して
幇助容疑で逮捕された3人はいずれも不起訴になったとのこと。

一人はFriends at the End(FATE)という自殺幇助アドボケイトの幹部で
元GPのLibby Wilson(84)。

それからそれぞれ70代と50代の男性が2人。

男性の1人には十分な証拠がなく、
他の2人については、起訴は公益にならない、との理由で不起訴に。

Wilson医師が主張するところでは、
LoderさんはFATEに電話をかけた時点で
既にヘリウム自殺の指南書とヘリウムと頭にかぶる袋を手に入れており、
ただ手順の確認のための電話に過ぎなかった、と。

(じゃぁ、なんでボランティアが2人も手伝いに駆け付けたんでしょう?)

この人は、とても気になる発言をしており、

「ヨーロッパ人権条約では、
合法的な行為を行いたいと望む人には
それを効果的に遂行できるようにする可能な限りすべての情報を
手に入れる権利があるとされている」と。

だから、DPPのガイドラインでは明確化が不足している、と
同医師は主張するのですが、

しかし、自殺は違法行為でないというだけで、それが即座に
情報を与えられるべき合法的な行為と読み替えられるというものでもないと思うし、

そもそも英国では、DPPのガイドライン以降、誰も起訴されていない。

無罪放免とされたケースはそれぞれに多様で(詳細は文末にリンク)、
その多様さを振り返ると、ガイドラインは事実上の合法化ではないか、と思ってしまう。

No charges against three arrested over academic’s suicide
The Guardian, August 16, 2010




DPPガイドライン後に不起訴となった事件は、以下。

英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴(2010/3/26)
英国で、介護者による自殺幇助を事実上合法化する不起訴判断(2010/5/25)
自殺幇助の元GPに英国公訴局長「証拠はそろっているけど、公益にならないから不起訴」(2010/6/26)
2010.08.17 / Top↑