英国でthe Society for Old Age Rational Suicide (SOARS)という
(ターミナルであるかどうかに限らず)高齢者の自殺幇助合法化活動団体の創設者。
3月1日にスイスのDignitasで自殺。
長年、関節炎に苦しんではいたが、特に重病があるわけではなかった。
去年10月にはオーストラリアで開かれた「死ぬ権利」の国際会議に出席した。
友人に宛てた手紙には
「多くの人が死ぬ前に不運にも経験する、
時に“長期に渡る衰弱期”とも呼ばれる長い下降期間」を避けたいための決断だ、と説明。
また、
「もう何年か、私の人生には喜びよりも苦痛の方が多く、
これからは月ごとに苦しみが増え喜びが減っていくでしょう。
先にどんな恐ろしいことが待っているか怯えながら
一日一日を暮らさなくてもよくなると思うと、大きな安堵を感じます」
「素晴らしい人生でした。
自分で選んだ時に死ねて幸運です」とも。
スイスでの自殺前夜には5つ星ホテルのレストランで
友人たちと3時間のディナーを楽しみ、最後の日の朝には
運転手つきリムジンで医師の診察を受けに行った。
死に臨んでも冷静で、致死薬を飲む15分前に
ツメがささくれているからといって、
やすりをかけてもらったという。
英国の合法化反対ロビーCare Not Killingは
「現行法を改正すると、家族や介護者や国家のお荷物にならないように自殺しろと
弱者に対してプレッシャーがかかる」。
また反対運動を続けている緩和ケア医のFinlay上院議員は
「これは拡大解釈です。(こんなに拡大していけば)一体どこで止めるんですか?
自殺するのではなく、生き続けたいとか介護してほしいと望む人が
利己的な人だということになってしまう危うさがある」と。
Woman kills herself to avoid old age
The Australian, April 3, 2011
British woman kills herself at Swiss suicide clinic to avoid ‘prolonged dwindling’ of old age
The Daily Mail, April 3, 2011
【英国人のDignitasでの自殺事件エントリー】
スイスDignitasで幇助自殺とげた英国人100人に(2008/10/3)
息子をDignitasで自殺させた両親、不問に(英)(2008/12/10)
「病気の夫と一緒に死にたい」健康な妻の自殺をDignitasが検討中(2009/4/2)
Dignitasに登録の英国人800人(2009/6/1)
これまでにDignitasで自殺した英国人114人の病名リスト(2009/6/22)
英国の著名指揮者夫妻がDignitasで揃って自殺(2009/7/14)
またしても著名英国人音楽家がDignitasで自殺(2009/9/20)
Dignitasの内部をGuardianが独占取材(2009/11/19)
国別・Dignitasの幇助自殺者、登録会員数一覧(2010/3/1)
また英国の著名人がDignitasで自殺:Purdyさんと同じ多発性硬化症(2010/4/1)
リッチな英女性のDignitas死に財産がらみの不審か、警察が捜査に(2010/4/14)
【Finlay議員関連エントリー】
英国医師会、自殺幇助に関する法改正支持動議を否決(2009/7/2)
BMJの副編が「生きたい障害者が死にたい病人のジャマするな」(2009/9/6)
Campbellさん率いる障害者団体連合が自殺幇助ガイドラインを批判(2009/12/22)
Warnock, Finlay, Purdy他が自殺幇助で円卓討論(2010/1/31)
「PAS合法化なら年1000人が死ぬことに」と、英シンクタンクが報告書(2010/10/26)
英国上院に自殺幇助に関する検討委員会(2010/11/30)
文末にリンクしたように当ブログも兼ねて懸念しているところですが、
Wesley Smithが「安楽死と臓器摘出」というエントリーを書いています。
Euthanasia and Organ Harvesting
Secondhand Smoke, March 31, 2011
その中に、
特に最近の米メデイァがしきりにヒーローとして描いているJack Kevorkian医師について、
これまで私は知らなかった事実が出てきており、
Savulescuらが提唱し、
ベルギーで2005年以降に実施されている安楽死後臓器提供を
Kevorkian医師が既に98年に実践していた、と。
Jack Kevorkian医師と言えば、
自作の自殺装置で100人を超える患者の自殺を幇助した医師として有名だけれど、
1991年に書いた著書 Prescription: Medicineの中で、
彼は既に自殺幇助した人からの臓器摘出を謳っていたとのこと。
それだけではなく、98年には
脊髄損傷で寝たきりになった元警察官Jaoseph Tushknowkiの自殺を幇助した際に、
その腎臓を無造作に切り採り、弁護士と臨んだ記者会見で、
移植用にほしい人はいないかと募った。
「早い者勝ちですよ」と言って。
さすがに誰も手を上げなかった。
しかも、その腎臓の摘出方法たるや、
死んだ人のセーターをたくし上げただけで、無造作に切り開いて採った後、
血管を適当に結び合わせてあったという。
この事件についてもSmithは当時、メディアに投稿している ↓
The Serial Killer as Folk Hero
Weekly Standard. Com, July 6, 1998
こちらの記事の中でSmithは、
障害者の臓器は障害者その人よりも価値があり、したがって、
障害者は生きているよりも死ぬ方が世の中に貢献できることになり、だから
絶望している障害者や病者は殺してあげるのが世のためということになる、
さらに言えば、Kevorkianは彼らが生きている間から
生体実験に使えるようにすればよいとまで考えている、と指摘。
患者の苦しみを取り除いてやるために自殺を幇助するなんて
大ウソだと暴いている。
そして、昨日のエントリーでは、Savulescuらが提唱しているように
安楽死させるチームと、臓器摘出のチームを分けたからといって
そんなことはセーフガードとして役に立ちはしない、と言い、
次のように書いている。
Once a society decides that some of its members have a life of such low quality that it is acceptable for doctors to kill them, and once these patients―many of whom already feel like burdens―learn that they can save lives by their suicides, the seductive pull of asking for euthanasia/organ harvesting could reach gravitational strength. We have entered exceedingly dangerous territory, made the more treacherous by doctors and bioethicists validating the ideas that dead is better than disabled and approvingly recounting how patients can be viewed as a natural resource.
QOLが低いとされる患者たちはもともと自分たちをお荷物だと感じているので
そういう人は医師が殺してもよいと認められてしまった社会で
死ねば誰かの命を救えるのだと説かれると、彼らは
安楽死臓器提供に向かって強く背中を押されてしまう。
我々の社会は極めて危険な領域に足を踏み入れてしまった。
さらに医師と生命倫理学者とが
障害を負うよりも死んだ方がマシだという考えを裏付けては
患者って、ほら、こんなすばらしい自然資源でもあるのだから、と
説いて回っては、人々をたぶらかしている。
【安楽死後臓器提供・臓器提供安楽死関連エントリー】
ベルギーで2年前にロックトインの女性、「安楽死後臓器提供」(2010/5/9)
ベルギーの医師らが「安楽死後臓器提供」を学会発表、既にプロトコルまで(2011/1/26)
ベルギーの「安楽死後臓器提供」、やっぱり「無益な治療」論がチラついている?(2011/2/7)
「生きた状態で臓器摘出する安楽死を」とSavulescuがBioethics誌で(2010/5/8)
Savulescuの「臓器提供安楽死」を読んでみた(2010/7/5)
「腎臓ペア交換」と「臓器提供安楽死」について書きました(2010/10/19)
Savulescuらが、今度はICUにおける一方的な「無益な治療」停止の正当化(2011/2/9)
「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」とSavulescuの相方が(2011/3/2)
【Kevorkian医師関連エントリー】
自殺幇助のKevorkian医師、下院出馬の意向(2008/3/14)
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN、Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
Kevorkian医師の半生記映画、主演のパチーノ共、エミー賞を受賞(2010/8/30)