Hughesはその著書 “Citizen Cyborg”において、
近未来の民主的サイボーグ社会は、
生命のタイプ別に与えられる権利を規定するとしています。
生命のタイプ別に与えられる権利を規定するとしています。
彼の分類では生命のタイプは4つ。
まず、最も上のランク。
①完全な市民権(自己決定、投票と契約を結ぶ権利)を与えられるのは、
①完全な市民権(自己決定、投票と契約を結ぶ権利)を与えられるのは、
「理性ある成熟した人格」という意識状態にある
「強化されている・いないを問わず大人の人間と、認知能力がそれに匹敵するもの」。
「強化されている・いないを問わず大人の人間と、認知能力がそれに匹敵するもの」。
②障害市民権(生命と、完全な自己決定を行うための補助への権利)が与えられるのが、
人間の子ども
認知症と精神(知的の意?)障害のある人間の大人
Great Apes
認知症と精神(知的の意?)障害のある人間の大人
Great Apes
彼らの意識状態は「人格(自己意識)」。
③「感覚のある財産」というステイタスで
(不要な苦しみを味わわない権利)を与えられるのが、
(不要な苦しみを味わわない権利)を与えられるのが、
ほとんどの動物
胎児
植物状態の人間
胎児
植物状態の人間
意識状態は「Sentience感覚がある(快と痛)」
④権利を持たない「財産」と規定されるのは、
脳死の人間
胚
植物
物品
胚
植物
物品
彼らの意識状態は「Not Sentient 感覚がない」。
―――――
ところで、
この表の次の225ページで、
Hugesはロックト・イン症候群について次のようなことを書いています。
Hugesはロックト・イン症候群について次のようなことを書いています。
ロックト・イン症候群にかかっている人がアメリカでは25000人もいて、
彼らは徐々に体の機能を奪われてコミュニケートできなくなっていく。
耳も聞こえ目も見えるし、
体の内部では意識もあり覚醒しているのだが、まぶたさえ動かせない。
このような恐ろしい状態に陥りつつある患者は、
自分で命を断ちますか、それとも命を維持する手段を差し控えますか、
と尋ねられる場合が多いが、
脳に埋め込んだチップによって、無線信号を使って筋肉を動かしたり、
幹細胞で痛んだ神経の修復する、といった現在行われている研究が進めば、
彼らのように全身が麻痺した患者も失った機能を回復することができる。
(太字部分を除き、要約。)
彼らは徐々に体の機能を奪われてコミュニケートできなくなっていく。
耳も聞こえ目も見えるし、
体の内部では意識もあり覚醒しているのだが、まぶたさえ動かせない。
このような恐ろしい状態に陥りつつある患者は、
自分で命を断ちますか、それとも命を維持する手段を差し控えますか、
と尋ねられる場合が多いが、
脳に埋め込んだチップによって、無線信号を使って筋肉を動かしたり、
幹細胞で痛んだ神経の修復する、といった現在行われている研究が進めば、
彼らのように全身が麻痺した患者も失った機能を回復することができる。
(太字部分を除き、要約。)
私に理解できないのは、
・どんな患者に対してであれ、
「自分で命を断ちますか」と医療者が問うことはありえないでしょう。
・ロックト・イン症候群の患者がどうやって「自分で命を断つ」ことができるのか?
まず不可能でしょう。その意味でも、こんな問いはありえません。
・仮に可能であるとして、問うた人は、では目の前で患者に自殺させるのでしょうか?
それとも幇助でも? それは犯罪では?
・自分で死ぬか、生命維持をやめるかと問われて、
それに、どんな手段であれ返答ができるのであれば、
その人は工夫次第でコミュニケーションが取れるということでは?
(いよいよ瞬きもできなくなった患者の肛門に指を突っ込んで
コミュニケーションをとったという医師の話を読んだこともあります。)
・ロックト・イン症候群が、すなわちターミナルだというわけではなく、
生命維持を取りやめることは違法な殺人行為なのでは?
「自分で命を断ちますか」と医療者が問うことはありえないでしょう。
・ロックト・イン症候群の患者がどうやって「自分で命を断つ」ことができるのか?
まず不可能でしょう。その意味でも、こんな問いはありえません。
・仮に可能であるとして、問うた人は、では目の前で患者に自殺させるのでしょうか?
それとも幇助でも? それは犯罪では?
・自分で死ぬか、生命維持をやめるかと問われて、
それに、どんな手段であれ返答ができるのであれば、
その人は工夫次第でコミュニケーションが取れるということでは?
(いよいよ瞬きもできなくなった患者の肛門に指を突っ込んで
コミュニケーションをとったという医師の話を読んだこともあります。)
・ロックト・イン症候群が、すなわちターミナルだというわけではなく、
生命維持を取りやめることは違法な殺人行為なのでは?
……と考えると、太字部分の記述は明らかに事実に反してるのはないでしょうか。
そもそも彼自身の分類によると、
ロックト・インの患者は①の完全な市民権を与えられる「人間の大人」のはずですが、
なぜか「安楽死や生命維持の差し控えの対象となる患者」と捉えられており、
ロックト・インの患者は①の完全な市民権を与えられる「人間の大人」のはずですが、
なぜか「安楽死や生命維持の差し控えの対象となる患者」と捉えられており、
Hughesはロックト・インの患者を、どこか植物状態と混同しています。
「重い障害」 = 「すぐに安楽死させていいほど悲惨な状態」
という短絡的な等式が彼の無意識の中に出来上がっているのではないでしょうか。
という短絡的な等式が彼の無意識の中に出来上がっているのではないでしょうか。
そして、それは自分が作った分類すら超越するほど強烈に刷り込まれているのでは?
それとも、これは意図的にやっていることなのか──?
Ashley療法論争の時にも、
擁護するためにメディアに登場した人たちの発言には
これと同様の混同が見られました。
擁護するためにメディアに登場した人たちの発言には
これと同様の混同が見られました。
AshleyはHughesの分類でいけば②に当たるはずなのですが、
その分類に従えばAshleyに与えられるはずの
「完全な自己決定を行うための補助を受ける権利」によって、
英国でKatieのケースで行われることになったように、
Ashley自身の利益を代弁する代理人をつけて然るべき代理決定の手続きを……
という考え方を採らず、
「完全な自己決定を行うための補助を受ける権利」によって、
英国でKatieのケースで行われることになったように、
Ashley自身の利益を代弁する代理人をつけて然るべき代理決定の手続きを……
という考え方を採らず、
Ashleyを②ではなく③と捉えていました。
Hughesのみならず、上記のHughesの分類に影響を与えたと思われるSingerも同様。
ロックト・イン症候群と同じく重い知的障害も植物状態と混同して、
「自ら命を断ちますか? それとも生命維持を差し控えますか?」と
問われてもおかしくないほど悲惨な状態だと考えていたわけです。
「自ら命を断ちますか? それとも生命維持を差し控えますか?」と
問われてもおかしくないほど悲惨な状態だと考えていたわけです。
「これが新時代の民主主義」だとの触れこみで、
このような分類を提示しておきながら、
このような分類を提示しておきながら、
彼らの主観や勝手な思い込みで
①や②に当たるはずの人がいつのまにか
ターミナルな状態や植物状態とすりかえられてしまうのであれば、
①や②に当たるはずの人がいつのまにか
ターミナルな状態や植物状態とすりかえられてしまうのであれば、
それは、なんと恐ろしい民主主義であることか。
2007.11.23 / Top↑
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