結局意見の一致を見ることができなかったために、結論ではなく、
あくまでも、「ほとんどのメンバー」の“妥協点”として、強引にとりまとめた(とされる)
論文が、Hastings Center Reportの11-12月号に掲載されたのは
もう一か月近く前のことになりますが、
なぜか昨日11月30日になって、一斉にあちこちのメディアが取り上げています。
といっても、現段階で私の目についた限りでは、サイトの数だけはあるものの、
実際には以下のように、ネットの科学系サイトが同じ文章をコピペ掲載しているだけ。
Recommendations issued on controversial ‘Ashley’ procedure for disabled children
Science News, November 30, 2010
The Hastings Center Release: Recommendations Issued on Controversial “Ashley” Procedure for Disabled Children
BioSpace, November 30, 2010
一般では、Seattle Post-Intelligencerが独自記事を書いている。
これも、なぜか11月30日の記事。
Stunting disabled children’s growth is ‘morally permissible,’ group says
The Seattle Post-Intelligencer, November 30, 2010
まず、上記の記事から
WGの論文の内容その他について書かれている要点をメモしておくと、
・コンセンサスに至ることができなかったWGが
「大半のメンバー」の意見が到達した「妥協点」と称しているのは、
成長抑制は対象者を限定して十分なセーフガードを設けて行えば
「道徳的に許容できる」「倫理的に許容できる決定」とする立場。
・「大半のメンバー」が成長抑制が倫理的に許容されると考える対象者は
全介助で、IQが25以下で、その他の永続的で重度の障害を重複している子ども。
しかし、重症知的障害児ではIQは単純に測定不能だと思うし、
Kittayさんも著書の中で娘のサーシャさんについて「IQは測定不能」と書いている。
論文はまだ読めないでいるのですが、そこら辺がどう書かれているのだろう。
これ、事実上、重症知的障害があって測定不能なら、みんな25以下と判断されるということなのでは?
・米国では対象となる子どもが毎年4000人生まれている。
・医師は親に対して成長抑制の予想される利益とリスクについて、
また子どもを家族の活動に含めるための他の選択肢について
情報を提供しなければならない。また、
重症発達障害のある子どもが成長するとはどういうことかについて
神話や想像だけで済ませないよう、他の重症児の親と話をする機会を
親は与えられなければならない。
しかし、利益もリスクも、全く不明なのが本当のところなのに、
一体どういう“情報”を提供できるというのだろう?
・子ども病院のWilfond医師がSeattle Post-Inteligencerの取材を受けて
「論文はこれらの問題を明確にしようとの試みから生まれたもの。
それぞれの病院や他のグループがこの論文をどう扱うかは、病院やグループ次第。
我々の論文が、小児科生命倫理についてだけでなく、重症障害児についても
議論が起こることに貢献できれば、と思っている。
シアトルこども病院の症例についての論文ではないし、
同病院の見解を代表するものでもない。
ただWGとしては、医療職に向けて何らかのプラクティカルな指針を作りたかったのだ」
「問題を明確にして議論の端緒を創りたかっただけ」と言いつつ
「医療職への指針を作りたかった」と言うのは、ぜんぜん筋が通らない。
どう考えたって「前者のフリをしつつ、事実上、後者をやってしまいたかった」がホンネ。
これは、昨年1月にWGの存在が明らかになった時から
私は言い続けていることだけど、
そもそも未だ十分に正当化されていない症例を抱える病院が
身内をごっそり投入して手前勝手に組織したWGに中立性があるわけはないし、
障害当事者ばかりでなく医師らや倫理学者・法学者らからも痛烈な批判を受けて
いまだ十分にディフェンスを終えていないはずのDiekemaやWilfondに
なんだって「審判」として振る舞う資格があるというのか。
それにしても、
なぜ、今頃になって、しかも一斉に……? これが第一の不思議――。
次に、これまで怪現象を起こしてきたような科学とテクノ系列のサイトが
こぞって(同じ日に同じ文面で)とりあげていることの不思議――。
さらに、そのうちのひとつ(上のリンクの2つ目BioSpace)では
WGの論文がHCRに掲載されたというよりも
Hastings Centerが「成長抑制は妥当」との“勧告”を出したと読める
紛らわしいタイトルをつけていることの不思議――。
まぁ、頭に浮かんでくるのは、やはり
あの怪奇現象を起こし続けてきたお方の意思が
この30日一斉の動きの背景にも働いているのだろうなぁ、ということ。
いずれの記事でも、
親が介護をたやすくしたかったとか、
エストロゲンの出血防止のための子宮摘出だったとか、
遺伝性の乳房の病気の予防だったとか、
Ashleyケースについて書かれた部分は、
これまでDiekemaら主治医側の正当化で使われてきたマヤカシ路線の
大ウソがここでも繰り返されている。
さらに、Ashleyケースですさまじい非難の嵐が巻き起こったのは
「主に障害者の権利団体の間で」だったと、どちらの記事も強調している。
へぇ、じゃぁ、CaplanやLantosやQuelletteって、
生命倫理学者でも法学者でもなくて障害者の権利運動の活動家だったのね。