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英国の老舗・介護者支援チャリティ、The Princess Royal Trust for Carers が
60歳から94歳まで639人の介護者に調査を行ったところ、

65%が自身も健康に問題があったり、障害があると答えた。
介護している人を抱え上げられる自信があると答えたのは半数のみ。

ほぼ70%が介護者役割によって健康を害した、と答え、
49.2%は過去1年間に健康が悪化した、と答えている。

また34%の人は、介護者役割を果たすために自分の治療や手術を延期したことがある。

68.8%は精神面での健康に問題を感じており、
42.9%は過去1年間にメンタル・ヘルスが悪化したと答えた。

トラストでは、この調査結果をもとに、主として以下の3点を提言している。

① GPは年に1度、介護者の健康診断とうつ病スクリーニングを。
また、介護者役割のために外出しにくい介護者のために、
必要に応じて往診も必要。

② 介護者には介護技術の研修と、
必要に応じて、リフトなどの介護用具の提供を。

③ 介護者のレスパイトは、NHSと地方自治体が資金を出すべき。


同トラストのトップ Liz Fenton氏は

「調査から、他者の介護をすることによって
介護者自身が健康を害する可能性があることが明らかです。

調査では、多くの介護者が背骨を痛めたり関節炎、腰痛、
ガン、腎臓病、うつ病、心臓病などに大変苦しみながら、
それでも苦労して介護を続けていると語ってくれました。

当トラストは、
参加しやすく、比較的費用がかからない地方レベルでの予防サービスを、と呼びかけています。
そういうものがあれば介護者の生活は改善することが出来ますし、
それによって、より長く在宅介護を続けることができる人が増えれば
廻り回って、行政の経費も削減できるというものです」

保健省の広報官は

「政府は医療とソーシャルケアに関する自己決定権を拡大しようと考えており、
そのためには虚弱高齢者と介護者にパーソナル・バジェット(現金支給)を
広げていくことが不可欠。

現金支給によって、個々に自分が望むケアと支援を受けられるようになる。

介護者のレスパイトと、介護者の健康・福祉チェック、
また柔軟な予約制度や、退院時支援とケア・プランの改善などについては、
複数の地域で様々な方法を、予算をつけて模索しており、
その結果を今年の末までに報告することになっている」

Two thirds of older carers have ‘damaged their health’ due to strain of looking after loved ones
The Daily Mail, September 12, 2011

Trust calls for home visits and health checks for older carers
Nursing Times.net, September 13, 2011


Mailの記事に寄せられたコメントの中に、

「正直言って、介護している人って、
介護していることを言い訳に働こうとせず、
介護者手当でのうのうと暮らしているよね」

さすがに、
「あんたね、週たかが55.55ポンド程度で、
フルタイムの介護って生活、やったみたこと、ないでしょーが?」
「フルタイムで介護してて、どーやったら働けるって言うの?」

などとコテンパンにやられているけれど、
このコメントには、唸りながら先頃の暴動を思い出してしまった。

みんなが貧困層に転落していくなかで、
たった週55.55ポンド(約6600円)の手当ですら嫉妬の対象になる……。

             ――――――

The Princess Royal Trust for Carers の3つの提言については、
「ケアラー連盟」の介護者実態調査で同じような結果が出ている(↓)ことでもあり、
日本でも同じ提言が当てはまると思う。

日本のケアラー実態調査(2011/6/14)


① の、うつ病スクリーニングには、
介護役割からくる心身のストレス軽減のための実際的な支援策がなければ
単なる薬物療法への誘導になるリスクもあるような気がするけれど、

往診の必要は、
ケアラー連盟の調査報告書でも強調されている「アウトリーチ型の支援」にも通じていく点。

アウトリーチ型支援は
物理的に介護者が外出しにくいからというだけではなく、
介護者の心理からしても必要なのだという点は、私自身、
6月の「ケアラー連盟」のフォーラムでお話しさせていただいたところ ↓

ケアラー連盟設立1周年記念フォーラムに参加しました(2011/7/1)

日本では介護保険の地域包括支援体制が整備されつつあることを考えると、
そうした体制の中に介護者へのケアを組みこんでいくことも可能じゃないだろうか。

② の研修の必要については
「“身勝手な豚”の介護ガイド」(詳細は文末にリンク)でMarriotさんが
「プロの介護者なら最初にしてもらえる研修なのに」
なぜ家族介護者には誰も必要なトレーニングを提供してくれないのだ?」と
何度も繰り返して書いていたのが、とても印象的だった。

私自身は、子どもの障害を知らされてすぐに母子入園プログラムで
いろんな専門家の講義を聞き、リハビリを母親が学ぶ機会に恵まれたし、
障害児の親の場合には、子どもの成長と共に知識もノウハウも身につけていくだけの
時間的な余裕があるという面もあるのだけれど、

例えば脳卒中などの中途障害の場合だと、
介護者もある日突然に気づいたら「介護者になっていた」という事態なのだから
確かに、大変だろうな、ということにMarriotさんの本で初めて気づいた。

これは、医療サイドでも、
患者教育と支援いう面だけではなくて、
介護者教育や支援にも目を向けてもらう必要がある、ということだろうし
ガン医療では少しずつ始まっているようでもある。

③ は、これは、もう、
Marriotさんが書いていた通り、

Break or you break.
(休むか、介護者の方が壊れるか)

レスパイトをやらない、という選択はないものと心掛けよ、との
Marriotさんのアドバイスは、とても正しい、と思う。

だから、在宅で頑張れ、というなら
十分なレスパイトを保障することが大前提――。



これまで当ブログが介護者支援について書いてきたエントリーは相当数に上ったため、
以下のエントリーに一度リンクを取りまとめています ↓
「クローズアップ現代」が英国の介護者支援を紹介(2010/10/14)

介護者支援について「介護保険情報」の連載で書いたものはこちらに ↓
介護者支援シリーズ 1: 英国の介護者支援
介護者支援シリーズ 2: 英国の介護者週間
介護者支援シリーズ 3: 英国のNHS憲章草案と新・全国介護者戦略
介護者支援シリーズ 4: 米国 家族介護者月間
介護者支援シリーズ 5: 障害のある子どもを殺す母親たち
介護者支援シリーズ 6: NHSの介護者支援サイト Carers Direct

【Marriotさんの著書に関するエントリー】
「“身勝手な豚”の介護ガイド」1: セックスもウンコも“殺してやりたい”も(2011/7/22)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」2: あなた自身をもう一人の“子豚”に(2011/7/22)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」3: “専門家の世界”に心が折れないために(2011/7/22)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」3のオマケ: だって、Spitibaraも黙っていられない(2011/7/22)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」4: 「階段から突き落としてしまいたい」で止まるために(2011/7/23)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」5: ウンコよりキタナイものがある(2011/7/23)
「“身勝手な豚”の介護ガイド」6: セックスを語ると“子豚”への愛が見えてくる“ケアラー哲学”(2011/7/24)
2011.09.16 / Top↑
意思決定能力のある患者本人も家族も知らない内にDNR(蘇生無用)指定にされ、
本人が「自分は蘇生を望む」と意思表示をしたものの
再びDNR指定がカルテに復活。

家族が病院側に抗議している間に亡くなってしまった
英国のJanet Traceyさんのケースについて、

前に補遺で拾って気になりながら、そのままになっていたのですが
我らがSavuちゃんの「“無益な治療”論はマヤカシだから配給制に」発言を機に、
ちゃんと読んでみました。

Traceyさんの事件の詳細は以下の法律事務所のサイトにあります。

Leigh Day serve judicial review and human rights challenge to use of Do Not Resuscitate Orders
Leigh Day & Co. Solicitors, August 30, 2011

Leigh Day事務所は、夫から依頼されて
Traceyさんが入院した病院を管轄するNHSトラストと保健相に向け、
法的調査と人権侵害の訴えを起こし、

トラストのDNR指定のやり方は違法であるとの宣言と同時に、
現在はトラストごとにバラつきのあるDNR指定について
全国一律のガイダンスを専門職向けにではなく患者と家族向けに出すよう
求めているとのこと。


Janet Traceyさんは
今年2月初頭に肺がんと診断され、化学療法を受けることになった。

ところが治療が始まる数日前の2月19日、
交通事故に遭い、Addenbrooke’s 病院に搬送される。

この間、Janetさんは一貫して自己決定能力を有していたのだけれど、
2月27日にJanetさんのカルテにはDNR指定が書きこまれた。

それに気づいたJanetさんと娘の一人が病院のスタッフに対して
それは本人の意思に反する、まだ生きられると考え蘇生を望んでいる、と申し入れをした。
翌日、夫も別の娘と一緒に病院の相談支援室を訪れ、
妻のDNR指定について懸念を話した。

ところが3月5日、Janetさんのカルテには
2度目のDNR指定が書きこまれる。

Janetさんは7日に死去。

弁護士事務所では、本人も家族も知らない内にDNR指定が行われたことは
1998年の人権法で保護されたJanetさんの人権侵害であると考えている。

現在の英国の方針は非常にあいまいで、
一方で患者の権利を「絶対」視しながら
最終決定は医師が行うものとしており、
共通のガイドラインが存在しないために、
同じ症状でも病院によって対応がばらついている。

保健相もDNRに関する方針はトラストごとの判断で、とのスタンス。

そのため、患者や家族には
DNR指定について基本的な方針や情報すら提供されていないのが現状だという。



【関連エントリー】
“終末期”プロトコルの機械的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
肺炎の脳性まひ男性に、家族に知らせずDNR指定(英)(2011/8/3)

上記の8月3日の記事には
「英国では病院側がDNR指定をする際に家族への通知は無用」と書かれています。
これが上記の「トラストによって方針にバラつきがある」ということでしょうか。

また同様の事件として、
カナダでは、Annie Farlow事件がありました。
2011.09.16 / Top↑