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アシュリーに行われた成長抑制ならびに子宮と乳房芽の摘出を巡って、「この療法をグロテスクだと言う人がいるが、グロテスクなのは乳児並みの知的レベルしか持たない人間が成熟した女性の体に宿っていることの方だ」と言ったGeorge Dvorskyの発言が両親のブログに引用されていることは良く知られている事実です。

またDvorskyと同じトランスヒューマニストであるJames HugesもCNNに出演した際に全く同じ発言をしています。

トランスヒューマニズムと直接のつながりは確認できませんが、様々なところで主張していることを聞くと、彼らに非常に近いスタンスが感じられるNorman Fost医師(アシュリーの担当医Diekema医師の恩師に当たる人物)も、知的障害の重い大人はその精神と肉体のギャップが「気持ちが悪い」と言い、シボレーのエンジンを搭載したキャデラックのようなものだという意味の発言をしています。

あまり知られていないことのようですが、実はもう一人、上記と同じ「グロテスク発言」をした人がいたのをご存知でしょうか。

その発言が掲載されているのは1月4日のガーディアン紙の記事です。

We have also been criticized for harming Ashley’s dignity. But for us, what would be grotesque would be to allow a fully formed woman to grow up, lying helplessly and with the mentality of a three-month-old.

我々はアシュリーの尊厳を傷つけたとも非難されています。しかし、我々にとってグロテスクなのは、ちゃんと成熟した女性の体になったアシュリーに、何もできない寝たきりで生後3ヶ月のメンタリティのまま、さらに成長を続けさせることなのです。

前日3日の夜、ガーディアン紙の電話インタビューに対して答えたアシュリーの父親自身の言葉です。親のブログはDvorskyのグロテスク発言を引用しただけだと一般には考えられていますが、実際は父親はここで、「グロテスク」という言葉を自分自身の言葉としても使っているのです。

また、どのような状況下で、いつの発言を意味しているのか確認できませんが、FostがScientific Americanの記事の中で、「発達段階にふさわしい小さな体のほうがfreak(怪物)にならずにすむ」との父親の主張を支持する際に、この中のfreakという言葉についてカッコで「自分が言ったのではなく父親の言葉」との注をつけています。

         ――――――

初めて両親のブログ(書いたのは父親です)を読んだ時から、ずっと引っかかりを覚えているのですが、私自身は我が子に関して「グロテスク」という形容は、仮に他人からの引用であったとしても、まず、ありえない……と感じます。わが子を形容する言葉としてはあまりに抵抗がありすぎます。

どうしても同じような内容のことを表現しなければならない場面というものがあり得たとしても、多くの親は、わが子を形容するのであれば、恐らく別の言葉を選択するのではないでしょうか。よほどテレから露悪的になったりジョークで使う場合を除けば、Freakも同様でしょう。

同じ人の子の親として私にはとても不思議なわが子への目線なのですが、「グロテスク発言」が親のブログで引用されている他人の言葉であるだけではなく、父親自身の言葉でもあることは、大きな意味を持った事実ではないでしょうか。
2007.10.01 / Top↑
カーツワイルの「ポストヒューマン誕生」から、
本書の要旨がコンパクトにまとめられている箇所を以下に。

21世紀前半は3つの改革が同時に起きた時代であったと、いずれ語られることになるだろう。その3つとは、遺伝学(G)、ナノテクノロジー(N)、ロボット工学(R)である。これらの革命は、先に述べたエポック5、すなわち特異点singularityの黎明期を告げるものだ。現在「G(遺伝学)」革命はその初期段階にある。われわれは生命の基盤となっている情報プロセスを理解して人類の生命活動プログラムを作り直し、事実上全ての病を撲滅し、人間の可能性を飛躍的に広げ、寿命を劇的に延ばそうとしているのだ。

……(略)……

「N(ナノテクノロジー)」改革によって、この肉体と脳、そして我々と相互作用している世界を──分子ひとつひとつのレベルで──再設計・再構築できるようになり、人間は生物の限界をはるかに超越できるだろう。そして、今まさに起きようとしているもっとも力強い革命は「R(ロボット工学)」革命である。人間並みのロボットが生まれようとしており、その知能は、人間の知能をモデルとしながら、それよりはるかに優れている。知能とは全宇宙でもっとも強い「力」であるため、R革命は一番重要な変革となる。知能は発達し続けると、いずれは前途に立ちはだかるどんな障害も予知し乗り越えられるほどに、言うなれば、賢くなる。(p.252-253)

これら技術が障害者にもたらす恩恵として本書に書かれているのは、

①人工海馬(現在はラットでの実験段階)。
海馬の働きを数学的情報に置き換えてモデル化、
それをチップの上にプログラムした(することが可能になるのでは、と実験されている)もの。

最終的には、この取り組みは、脳卒中やてんかん、アルツハイマー病などで障害を負った患者の海馬を代替するのに利用できるだろう。チップは脳の内部にではなく、患者の頭蓋の上に置かれ、2本の電極を損傷を受けた海馬の部分の両端につなぎ、それを通じて脳と通信する。電極線の1本は、脳の他の部分から入る電気的活動を記録し、もう1本は、必要な指令を脳に送り出す。 (p.226-227)

②人工オリーブ小脳回路。
平衡感覚と四肢の運動協調をつかさどるオリーブ小脳をモデル化した
人工の代替物を作ろうという研究。

身体が麻痺した患者について考えましょう。水の入ったコップを持ったり、服を着たり、脱いだり、車椅子に乗り込んだりといった、いろいろななんでもない動作を補助ロボットにやってもらえたら、患者の自立が進むのではないでしょうか。(p.226-227)

と、本書ではこの研究に携わっている国際的なチームのメンバーである
神経学者の言葉が引用されているのですが、同時に、
同グループが目指しているのは
「人工オリーブ小脳回路を、軍事ロボットや身体障害者を補助するロボットに利用することだ」
とも書かれています。

この数ページ先には、
「すでに国防高等研究計画局(DARPA)が、年間2400万ドルを投じて、
脳とコンピュータを直接連結する研究を行っている(p.235)」との記述も。

そして彼は現に、
科学調査の優先事項について合衆国陸軍に進言する団体、
陸軍科学顧問団(ASAG)の5人のメンバーの1人(p.430)なのです。

カーツワイルはこの後、
倫理基準や法的基準を整備することが緊急の課題であると主張するのですが、
それがどういう方向での整備を言っているかというと、

……現在の環境では、遺伝子治療試験で死亡事故でも起きれば、研究はひじょうに厳しく制約されるおそれがある。もちろんバイオ医療の研究を可能な限り安全に行うことは正当な要請だが、それにしてもリスクバランス(異種のリスク間の比較)は完全にずれている。遺伝子治療やバイオテクノロジーによるブレークスルーを切望している数百万の人々は、折にふれ喧伝される、こうした開発の過程で不可避だった少数の死亡者に比べて、政治的な重みをほとんどもっていない。(P.565)

つまり、多数の利益になるのだから、少々の人間はそのために死んだって仕方がない、
コラテラル・ダメージとして受け入れろ……というのが、
彼の意味する「倫理基準も法的基準も整備」であり、

特異点に早く達して、早く超人類が実現し、みんながハッピーになるためには、
個々の人間など捨て石と切り捨てようということなのですね。

つい先日アメリカの遺伝子治療試験で死者が出たのは当ブログでも紹介しましたが、
その事件から透けて見えるのは、

参加者を集めるプロセスでいかに安全へのセーフガードが無視されているかということでした。

参加者の安全よりも研究の進行のほうが優先されている実態は、
カーツワイルのコラテラルダメージ感覚にそのまま重なります。
(その後、彼女の死と治験との間に因果関係が実証できなかった、という続報も出ていますが、
それがまたコワイ話かも……?)

こうしたことを考え合わせつつ、上記の障害者のための研究を振り返ると、
どうも素直に受け取れない。

特に、軍事利用と障害者のための技術利用が平行して語られる文脈がひっかかります。
障害された能力を補う科学研究とは、
実はその先にある人間の通常の能力を強化する研究(例えば、より戦闘能力の高い兵士とか)の、
いわば“パイロットスタディ”にもなるんじゃないのか……と。

「ポストヒューマンの未来は障害者にとってもバラ色」的に恩着せがましく言われても、
障害者を対象にした研究成果がその後の軍事利用やマジョリティの利益に繋がる領域にしか、
しょせん資金は集まらないでしょう。

いや、それどころか、
知能偏重の価値観を持つ彼らにとって
Peter Singerが主張するように知的障害者には犬や猫以下の価値しかないのだとすると、
真っ先に都合のよいコラテラルダメージ候補とされるのでは……。
2007.10.01 / Top↑