2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
10月4日のニューヨークタイムズに、「Mom Jobって本当に必要?」Is the Mom Job Really Necessary? という記事があるのですが、

Mom Jobは、Mommy Makeoverとも称され、妊娠・出産・子育てで崩れた女性の体を美容形成で “造り替え”することなのだとか。具体的には、垂れ下がってきた乳房の引き上げ、お腹の引き締め、脂肪吸引。そういう”ママ改造”が流行っているが、いかがなものか……と。

Mommy Makeoverのホームページはこちら。(ちなみにMakeoverとはそっくり最初から作り直すこと。)


このサイトを運営している形成外科医の一人は、垂れ下がってきた乳房の引き上げに、Stevens Laser Bra(スティーブンス先生のレーザー・ブラ)なる新たなテクニックを開発したのだそうで、そのホームページはこちら。


ここのキャッチは the Stevens Laser Bra for Breast Lift, Breast Reduction, Breast Enlargement。おっぱいを引き上げるのも小さくするのも大きくするのも、スティーブンス・レーザー・ブラならお好みのままなのですね。(じゃぁ、アシュリーに6歳のうちから外科手術なんか必要なかったじゃないか……って、そういう問題ではないのですが。)

レーザーを当てると皮膚が縮む原理を利用してしわ取りが行われていることからStevens先生が思いついたのが、乳房の皮膚を同じように縮ませれば引き締めになり、それにつれて垂れ下がったおっぱいも引き上げられるじゃないか……おお、これは内蔵型ブラジャーとも呼べる新技術だ……てなことだったようです。年月を経た後に思わぬトラブルなど起きなければいいですが。

驚いたのは、ここでもまた外見を強化(enhance)するという表現が使われていること。トランスヒューマニズム系の人の言うことを読んだり聞いたりしていると、食傷するほど目に耳にする言葉なのですが、こんなのまでenhanceになるとは。

さらに、レーザー・ブラを考案したStevens先生の相棒Stoker先生が“ママ改造“を正当化する言葉に漂う、どこかでお馴染みの胡散臭さ。

The severe physical trauma of pregnancy, childbirth and breast-feeding can have profound negative effects that cause women to lose their hourglass figures.

妊娠、出産、そして授乳がもたらす重症の肉体的外傷は女性に重篤な悪影響を及ぼし、砂時計のような体形を失わせる原因となります。

たかが、おっぱいがしぼんだり垂れ下がったり、お腹の皮がたるむくらいのことが「重症の肉体的外傷」で、砂時計のような体形を失うのが「重篤な悪影響」??????? 

ニューヨークタイムズは、

多くの女性は老化と妊娠が体に及ぼす影響と闘っている。しかし、ママ改造のマーケッティングは、妊娠と出産という悪病には奇形をもたらす後遺症があり、それがメスとチューブで修正可能であるかのように言いなして、出産後の体を病的な状態だと思わせようとしている。

と批判しています。


知的障害のある女性が「砂時計のような体形(アシュリーの父親の言うfully formed womanですね)」を持つことが「異常なこと」視されるのと、出産後の女性が「砂時計のような体形」を失うことが「異常なこと」視されることとの間には、全く同じ、なにかとんでもなくコトの軽重を誤った価値観が存在するのではないでしょうか。

それとも同じなのは、巧みに言葉を操って間違った価値観へと誘導しようとする論理の摩り替えの方……? 

例えばDeikemaや両親の弁護士がアシュリーの子宮と乳房芽の切除を「医療上の必要」と称したような?
2007.10.06 / Top↑
カーツワイルの「ポスト・ヒューマン誕生」の中でHughesやBostromらと同じく引用されている人物に、Ramez Naamという人がいます。やはりthe Institute for Ethics and Emerging Technologies(IEET) のディレクターの一人で、同じく世界トランスヒューマニスト協会(WTA)のメンバー。

「神を演ずること」は人間性のもっとも高度な表現である。われわれ自身を改良し、周囲の環境に打ち勝ち、子孫に最善の将来を用意しようとする衝動は、人間の歴史を突き動かす力の源であり続けている。このような「神を演ずる」という衝動がなければ、今日あるような世界は存在しなかったろう。いまだにわずか数百万の人間がサバンナや森林に暮らし、狩猟と採集によってかろうじて生計を立てていたはずだ。書物や歴史や数学はなく、自分たちの属する宇宙や自身の内なる働きといった複雑な事柄を理解することもなかっただろう。
                        ラーミズ・ナム   (P.382)

上記はカーツワイルの著書に引用されている箇所ですが、Naamも2005年に著書を出版しており、その著書More than Human: Embracing the Promise of Biological Enhancementによるトランスヒューマニズムへの貢献に対して、WTAから表彰されています。(TWAのキャッチはBetter Than Well ですが、この本のタイトルは More Than Human。「もっと」というのが大好きな人たちなのです。)


私がこの本を読んだのは、アシュリー事件の背景にある事情が見えてきた、確か3月ごろだったと思います。両親のブログに引用されていたDvorsky → DvorskyとHughesの繋がり → 世界トランスヒューマニズム協会……とたどっていった先で出てきたのがこの本。実はガザニガよりもカーツワイルよりも先に読んだ本で、トランスヒューマニズム系ではこの本が初めてでした。まだトランスヒューマニズムが一体どういう思想なのか全貌が見えていない状態で読み、いわば私にとっては入門書になったものです。そのためか、Naamの論理は“アシュリー療法”論争で耳にしたリーズニングと非常に近似しているのではないかと、読み始めてすぐに、ほとんど驚愕する思いでした。(その後もう一度読み返してみると、トランスヒューマニズム系の本はどれもこれも同じことを無個性に繰り返しているだけのように感じられ、退屈ですらあるのですが。)

書かれている内容については、ちょっと先になりますがエントリーを改めて書きたいと思っています。ここで取り急ぎ触れておきたいのは著者Ramez Naam のプロフィール。訳書の帯から。

科学技術者。世界中で活用されているマイクロソフトのInternet ExploreとOutlookの開発者のひとり。バイオテクノロジーやナノテクノロジーなどの最先端技術と近未来社会について洞察する若きリーダー。ナノテク企業のCEOを務め、また現在、マイクロソフトのインターネット検索テクノロジーのプログラム・マネージャーとしても活躍している。
2007.10.06 / Top↑