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私は自閉症に特別な関心があるわけではないのですが、
このところ、自閉症関係の気がかりな記事が目に付いて、またその書き方には
密かに自閉症に対するネガティブ・キャンペーンでも進行しているだろうかと、
勘ぐってみたくなるほどの違和感のあるものもあって……。

前のエントリーで紹介した「自閉症の父親であるということ」も
「なんだか、なぁ……」と違和感を覚えながら読んでいたのですが、
思わず「あっ」と声を上げたのは、Hotez博士の肩書きが並べられている箇所。

The Sabin Vaccince Instituteの所長で
George Washington大学マイクロバイオロジー・免疫学・熱帯医学学部長
そして、
”放置されている病気と闘うワクチンを開発しているゲイツ財団のコンサルタント”でもある。

そういえば、Hotez氏は妻に向かって、
メディアは根拠のない不安を垂れ流すくせに、
世界中の貧しい人たちの病気が放置されていることについては注意を払わない」と
激しく批判を繰り広げ、いくつかの統計を並べてみせています。

広く世界中の人の命を救えるワクチンが既にあるし、これからも開発できるというのに
立証されてもいない自閉症と水銀の相関関係などでメディアが不安を煽って、
ワクチンを拒否する親が増えていることに対する苛立ちが
そのように数値を並べるHotez氏の口調には伺えます。

ちなみに、以前やはり気になる記事として紹介した
親は自閉症の隠れた犠牲者」記事を書いたのは
シアトルの大手地元紙で、いわばゲイツ財団の御用新聞のような(と私には思える)ところ。

また、その中で
障害の中で自閉症が一番大変だという得体の知れない研究結果の出所とされていたのはワシントン大学でした。
ゲイツ財団の巨額資金により4月にIHMEを新設した、あのUWです。

マラリアがGDPに与える損失を計算して、
ワクチン普及によりマラリアを撲滅する運動は意義があると判断する
ゲイツ財団の価値基準はIHMEの理念にも通じていると思われます。

そして、「ワクチンと自閉症」のエントリーで触れたように、
ワシントン大学医学部と多くのスタッフが役職を兼務しているシアトル子ども病院は
2005年に始めた生命倫理カンファレンスの第2回目に
「子どもへのワクチン接種における倫理問題」というテーマを掲げていました。

自閉症に対するネガティブなメディアの動きを追ってみると、情報が
なんだかAshley事件で事実関係を調べていた頃のデジャ・ヴのような繋がり方をしていく……。

気のせいか――?

2008.07.08 / Top↑
前のエントリーで紹介した自閉症関連重要事項年表は
実はこちらの長い記事のオマケとしてくっついていたものでした。

Fathering Autism
A Scientist Wrestles With the Realities of His Daughter’s Illness
The Washington Post, July 1, 2008

タイトルは「自閉症の父親であるということ
副題は「科学者、娘の病気の現実と格闘する

「ワクチンに含まれていた水銀が自閉症を引き起こしたのは事実なのに
製薬会社と癒着していたり接種率が下がると困るなどの事情で
医師も政府も隠している」といった故のない非難が世の中に隠然と尾を引いており、

自閉症児である娘のRachel(15)の存在ゆえに
米国有数のワクチン博士であるPeter Hotez氏が
そのことに対して抱く葛藤が
まず記事のテーマの1つ。

これについては、Rachelの幼少期に妻の不安に応えるために
自分で文献を詳細に調べたHotez博士は日本の水俣病の資料を発見します。
そして水俣の被害者の病態との比較から
自閉症は毒物によって引き起こされたものではなく、
神経発達全体に及ぶ遺伝的なものだと結論付けた、といいます。

しかし、この記事が訴えようとしていることはワクチンの安全性よりも
自閉症児を育てること、自閉症児と暮らすことの過酷さであり、
それが2つ目の、恐らくは1つ目よりも大きなテーマのようです。

そして、私が気になるのは、この記事にもまた、
以前紹介した「親は自閉症の隠れた犠牲者」に通じる
妙にネガティブなトーンが感じられること。

そもそも記事のタイトルが引っかかる。
自閉症という病気の父親になる人などいないのだから
「自閉症の父親であること」なんてバカな話はない。
「自閉症の子どもの父親であること」とするべきでしょう。
しかし、娘がそのまま自閉症という病気と同一視されているタイトルが
実に象徴的だと思える内容なのでもあり……。

「……隠れた犠牲者」では親自身に被害者意識があったかどうかは明らかでなく、
書いた記者がそうしたトーンを紛れ込ませていたという印象の記事でしたが、
こちらの記事では記者だけでなくHotez氏の言葉の端々に
娘を病気と同一視しているかのような妙に酷薄なニュアンスが浮かんでいます。

Hotez氏が娘や娘との暮らしについて語る言葉。

It is an ever-increasing snowball of horror – one disappointment after another. You recognize the gravity now as she has become a difficult and impossible teenager.
Rachelを育てるのは、恐怖の雪だるまがどんどん膨らんでいくようなものですよ。がっかりすることばかりが次々と起きて。しかも今では扱いにくくて手に負えないティーンエジャーですから、それが如何におおごとか。

Rachel was more work than all the other kids combined. ……We didn’t go out to dinner for a decade.
他の子どもたち全員の分を合わせても、まだRachelの方が手がかかりましたよ。……私たちは10年もの間、食事のための外出すらしませんでした。

We all wish things were different. We hoped there would be a day when the girl comes out of Rachel.
私たち家族みんな、我が家の状況がこうじゃなければよいのに、と思っています。かつてはRachelの中から(この難しい自閉症の)少女が出てきてくれる日が来るのでは、と夢見たこともありましたがね。

最後の発言は、もしかしたら逆に
自分たちの娘である(障害のない)少女が
自閉症でやっかいなRachelの中から逃げ出してくる、という
イメージなのかもしれませんが、いずれにせよ、
ここには、記事タイトルに見られるように
現在目の前にいる娘を受容せず、
むしろ娘が自閉症そのものであるかのように捉え忌避する感覚が
色濃く滲んでいるように感じます。

さらに私には大変気になることとして、
Hotez一家は取材に訪れた記者に対してRachel本人に会うことを
最後まで許可しないのです。

「研究者・医師としてのHotez氏は自閉症と淡々と向かい合うことが出来るけれど、
父親としてのHotez氏は客にRachelを見られることに耐えられない」のだとか。
「Rachelは最近攻撃行動が続いて3歳児相当のメンタルレベルにまで落ちてしまったから。」

Rachelは学校にも通っているし、言語能力は高いと書かれているのですが、
これではまるで一昔前に日本にもあった、
障害のある家族を恥じて座敷牢に閉じ込めたという話のようでは?

記者の手による地の文から気になる表現を以下に。

she seems more connected to the tube’s ghostly embrace than to her own father, mother, brothers and sister.
彼女は自身の父、母、兄弟と心を通わせるよりも、テレビの世界にうす気味悪いほど一心にのめりこみ、心を奪われているように見える。

Having a child like Rachel ……is debilitating, dispiriting, demoralizing.
Rachelのような子どもを持つとは、ほとほと参って元気をなくし意気を阻喪するものなのである。

the devastation autism can cause a family.
自閉症が一家に引き起こすことのある悲惨
(自閉症は一家をめちゃくちゃにしてしまう)

Rachel was placing an extraordinary strain on everyone.
Rachelは家族みんなに大変なストレスを課していた。

Dealing with Rachel was like having to tread water all day: It was exhausting.
Rachelの世話をすることは一日中水車を踏むことを強いられるようなものだった。疲れ果てるのだ。

この最後の引用部分で、Hotez氏も
政府がレスパイト・サービスを拡充することと教育現場での細やかな対応の必要を訴えてはいますが、
記事全体からすれば「ほんの申し訳程度」という観をぬぐえず、

いったい、この記事は何を意図して書かれたものなのか、
Hotez氏はいったい何を言いたくてこんなところに出てきたのか……。

不思議。

 
2008.07.08 / Top↑
6日(日)の朝日新聞にあった「アメリカの毒を食らう人たち」の書評に、
自閉症の原因はワクチンだと断定している箇所があり、
「え? それって、実証されていないんでは……?」と、びっくりして
思わず眉にツバをつけた。

このところ書こう、書きたいと思いながら、
またも、なんとも微妙なトーンの記事なので、
この1週間ずっと机の上に置いては眺め暮らしている
2本立ての自閉症関連の記事があって、
それが実はワクチンがらみの内容。

その2本のうち、いわば“オマケ”の方の記事が
「自閉症の歴史 重要事項年表」という簡単な年表になっていて、
その中にワクチンとの関連も触れられているので、
まず先にこちらの方を。

Some Key Dates in Autism History
The Washington Post, July 1, 2008


この年表によると、1943年に自閉症が特定されて以来、
統合失調症の1種だと考えられたり(1967)
冷たい母親が原因だとされたり(1971)を経て
DSM-Ⅲで統合失調症とは異なる発達障害として分類され(1980)
アスペルガー症候群が進行性の発達障害としてDSM-Ⅳに公式に追加される(1994)中、

問題のワクチンについては

2000年
政府の懸念を受けてワクチンのメーカーが
子どものワクチンから水銀を含んだ防腐剤thimerosalを除去。
この防腐剤が自閉症と関連しているとの不安が一般に広まった。

2001年
自閉症の子どもはNIHの発表で250人に1人。

2004年
米国医学院がthimerosalと自閉症との関連には、なんら確かなエビデンスはないと発表。

2007年
CDCの報告で自閉症の子どもは150人に1人。
病気そのものが増えているのではなく、
発見率の向上、診断基準の拡大、一般に周知されてきたことによる
というのが専門家の見解。

         ―――――


ところで2006年のシアトル子ども病院生命倫理カンファレンスのテーマは
Ethical Issues Related to Vaccination of Children
子どもへのワクチン接種に関する倫理問題

Johns Hopkins病院ワクチン安全研究所のNeal A. Halsey医師が
Thimerosol and Vaccine Risks(thimerosolとワクチンのリスク)
と題する講演を行っています。

Halsey講演の資料はこちら

またこのカンファの5ヵ月後にAshley事件で一躍有名になるDiekema医師の講演は
The Case of Vaccine Refusal:Parent Conviction, Child Best-interests, and Community Good
(ワクチン拒否ケース:親の信念、子どもの最善の利益、そしてコミュニティの益)

Diekema講演の資料はこちら

その他2006年カンファレンスの詳細はこちら


このカンファレンスに関するSeattle Timesの記事として、
More parents resisting vaccines for kids
The Seattle Times, July 16, 2006

thimerosalと自閉症の関連が立証されておらず
実際のワクチンから既に除去されているにもかかわらず、
やはり自閉症との関連を懸念する親がいることが
子どものワクチン接種を拒否する親が増えている理由の1つとして触れられており、
いまだに大きな影響が残っていることが伺われます。


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このエントリーのテーマには直接関係ありませんが、

2005年から始まったシアトル子ども病院生命倫理カンファレンスが
第2回目の2006年にワクチンの問題をテーマに取り上げて
アフリカをはじめとする発展途上国でのワクチン問題まで論じているわけです。

普通に考えたら、ワクチンの問題というのは
第2回目という若い回に急いで取り上げるべき大きな生命倫理上の問題だとは思えませんが、

ゲイツ財団が世界にワクチンを広めていく運動に力を入れていること、
ゲイツ財団とワシントン大学・シアトル子ども病院との近しい関係を考えると
これもまた大変興味深い事実ではあります。

(ゲイツ財団とワシントン大学との関係については
「ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫を参照してください。)
2008.07.08 / Top↑