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この記事によると、ご本人はテレビで告白した後、
「これが殺人だとは私は思わない」と語ったらしいですけど、

その番組が放送された当日月曜日の晩、
Ray Gosling氏は警察に逮捕されたそうです。

現在、警察で事情を聴いているところだとか。


NYTimesも、この事件を取り上げています。
http://www.nytimes.com/2010/02/18/world/europe/18britain.html


「恋人を枕で窒息させて殺しました」とテレビで堂々と「告白」して
それで警察が来なかったら、そっちの方が、よほど、おかしい。

それとも、ここのところの「愛情から殺す慈悲殺はOKにしろ!」騒ぎ
英国人にとって法律なんて意味がなくなってしまっているのでしょうか。

まぁ、慢性疲労症候群で寝たきりの娘の血管に
致死量を超えるモルヒネと空気を送り込んで殺しても、
裁判で「自殺幇助であっても、愛からしたこと。殺人だとは思いません」と主張した母親は、
見事に無罪放免されたばかりか、

「こんなにも愛と献身に満ちた母親を起訴するなんて」と
裁判官が公訴局まで叱ってくれたのだから(Gilderdale事件

もう慈悲殺は英国ではOKなんだぁ……と、
うっかり勘違いする人が出てきたって、ちっとも不思議ではない空気ですけど。

私としては、その時に席をはずして、
帰った時に「死にました」と言われて殺人を黙認した医師にも
ついでに探し出して、事情を聴いてほしいと思う。
2010.02.17 / Top↑
Dr. Landosのコメンタリーに続き、
AJOBのDiekema&Fost論文に対するAdrienne Asch のコメンタリーを読みました。

批判の論点は主に、

・Diekema & Fost が用いている功利主義的な検討(利益vs リスク/害)では不十分だが、
彼らの功利主義的な検討そのものも不正確である。

・2人は、成長抑制を行うか、または成長したら施設に入れるかの
2者択一しかAshleyにはないかのように論じているが、それは偽り。
ALSのような重症者を含めた多くの障害者が地域で暮らしている現実を考えれば、
社会資源さえ十分であれば、成長抑制を必要とする親の懸念は払しょくできる。

・Diekema&Fostのもう一つの誤りは、Ashleyの認知機能の低さを正当化に使い、
自己意識がある人にしてはならないことでも、自己意識のない人にはしてもよいとの
線引きを行っていること。

ここには2つの誤りがある。
1つは、道徳的に許されない行為は、相手がどんな人であれしてはいけない行為である。
レイプが何かを分からない人に対するレイプは犯罪であり、これは判例がある。

また、Ashleyの認知程度は医師らが考えているよりも高い可能性がある。

Growth Attenuation: Good Intentions, Bad Decision
Adrienne Asch, Yeshiva University
Anna Stubblefield, Rutgers University-Newark
AJOB, January 2010


論点は、これまで多くの人が指摘してきた点とだいたい同じです。

実は成長抑制は身体障害からくる介護負担軽減を目的にした行為でありながら
知的能力の低さをアリバイにして障害者の中に巧妙な線引きをしている点、

そして、世間の人や障害学や障害者のアドボケイトの中にも、
無意識にそういう線引きがあるからこそ、それがまかり通ってきたのだという点は
当ブログでも以下のエントリーなどで指摘してきました。



ちょっと驕った言い方になって申し訳ないですが
Aschよりも私の方がよほど理路整然と切り込んでるじゃん……と
歯がゆさを感じるほど、このコメンタリーは、ぬるい。

でも、この生ぬるさには、ちゃんとワケがあるわけで……。

私はAschのコメンタリーには、ずっと、
一方ならぬ関心を持って心待ちにしていたのですが、

それは、Aschが
シアトルこども病院、Truman Katz 生命倫理センターが作った
成長抑制ワーキング・グループのメンバーの1人だったから。

09年1月のシンポ
成長抑制には倫理的に問題はなく、重症児に絞って一般化しよう、
それについては特に裁判所の命令など必要ではない……という
「妥協点」を発表した、あのWGです。

私は、このAschのコメンタリーの意味は
その内容よりも、むしろ最初のページの脚注にこそ、あるんだろうな、と思う。

One of us, Adrienne Asch, is a member of the Seattle Growth Attenuation and EthicsWorking Group that recently concluded work on a statement on the Ashley X case entitled “Evaluating Growth Attenuation in Children with Profound Disabilities” (Diekema and Fost are alsomembers of that group). Asch signed the group’s statement in support of the process through which the statement was produced,although she does not support all the conclusions drawn in the statement, as is evident from the following commentary.

WGのメンバーとして、
成長抑制は一般化に値すると評価する結論にAschも署名をしたが、
それは、そのstatementが作られたプロセスを認めて署名しただけであって、
このコメンタリーで明らかなように、その結論を支持しているからではないのだ、と。

んな、バカな――。

内容を支持できないのに、
プロセスは支持するから署名するなんて、筋が通らない。
署名というのは、どんな言い訳をしようと、内容を了承する行為です。

なんて醜い言い訳をするんだろう。

コメンタリーのタイトルでも、冒頭の部分でも、わざわざ
「間違っていたのは決定と、その過程であって、意図じゃない。意図はよかったんだ」と断って
自分の批判の対象から、“Ashley療法”の意図(つまり親の意図)を切り離しています。

そのタイトルは全く内容と合っていないし……。

やっぱり、Aschは、私が睨んだ通り「知っている」のだと思う。

知っていながら、知ってしまったからこそ、追随せざるを得ない状況に
あのWGのメンバーの何人かは置かれたのだろうと推測していました。

あれは、メンバーの大半をワシントン大学の職員で組織した、
最初から「結論ありき」のWGだったのだから。
(04年5月の「特別倫理委」と同じように)

障害当事者で、しかも障害学の権威とまで言われて、
世の中の障害者に対する差別とずっと闘ってきた人なのだから、
WGの中でも、この人が闘わなかったはずはない……とは思う。

それでも署名せざるを得なかっただけの事情があった。
それは、よほどのことだったのでしょう。

07年の論争当時にCNNがAshleyの父親が誰かを知りながら沈黙したのが
よほどの事情であるように。

でも、いまさら、
わざわざ誰かに向けて「あなたの気持まで批判するつもりはないんですよ」と
お断りをしつつ、こんな、ぬるいコメンタリーを書いて
脚注で、こんなに醜い言い訳をして見せるくらいなら、

(それとも、自分はハメられたのだと、暗に訴えているのかしら?)

あなたには他に、勇気を持って語るべきことがあるのではないのか……と思う。
2010.02.17 / Top↑
AJOBの1月号に掲載されたDikema&FostのAshley論文と、
それに対するコメンタリーの一部を手に入れてくださった方があり、

今、個人的に一番注目しているLantos医師のコメンタリーを、まず読んでみました。

It’s Not the Growth Attenuation, It’s the Sterilization!
John Lantos, Children’s Mercy Hospital
AJOB, January 2010

要旨は、というと、

「子宮摘出に、非公開で透明性も公正性もない倫理委の検討で済ますなど、もってのほか。
そもそもAshleyケースに関する手続きもデタラメなら
Diekema医師らの論文も大デタラメ以外の何でもないっ」
ということを、もう少し上品に論理的に突っ込んでいるもの。

批判の論点は、ほぼ当ブログが指摘してきた通りで、

①2003年にDiekema自身が知的障害児への不妊手術について書いた慎重な条件が
Ashley事件ではことごとく無視されている。
Diekema医師の2003年論文は彼自身が裁判所の命令の必要を知っていた証拠。
そのDiekemaが委員長を務めた倫理委で何故こんなことができるのか。

この点に関する詳細は以下のエントリーに。


②現在の論文でDiekemaもFostも
道徳的に問題はないのだから裁判所の検討など無用だと主張するが、
問題はないと確信しているのならばこそ、堂々と裁判所で審理に臨めばどうか。
そうすればまっとうな前例となったものを、
間違ったプロセスで、間違った前例ができてしまった。

(これをこそ、私は2007年の論争当時から、ずっと一貫して言ってきたのです。
 Ashley事件は「前例」にしてはならない、あまりにも「例外」的な事件だ、と)

③これまでDiekemaらが書いた論文での隠ぺいとマヤカシの多さも
例えば the bizarre opaqueness of a supposedly scientific paper と表現。
(科学論文であるはずのもので、なんとも奇怪な曖昧さ)

ここで指摘されているマヤカシは
2007年の論争当初から当ブログがずっと指摘し続けてきたことですが、
Lantos医師の指摘の中には、これまで当ブログが見落としていたものも含まれており、

・2006年論文以降、身長を抑制する目的を謳いながら
肝心のAshleyの身長についてパーセンタイルを挙げてはいるだけで
実際の身長、骨年齢のデータが挙げられていない、
最終身長がいくらになると見込んでいたのかの予測データも出てこない。

(この点はSobsey氏も指摘していたような気がします)

・2010のDiekema&Fost論文でも
「中立の内分泌医が最終身長の抑制効果を認めている」と書き、
誰がどのようなアセスメントをしたのか、具体的なデータはない。

・乳房切除が男児に行われていた事例を挙げるが、
一方、女児についてのデータはない。
大きな乳房が不快だからと思春期の女児から切除された症例は1例もない。


ただし、Lantos医師のコメンタリーには事実誤認が2つあります。

Diekema医師はAshleyケースを検討した倫理委の委員長ではありませんでした。

これは当ブログの2007年6月のエントリーで確認済み。

もっとも彼はAshleyケースの担当倫理学者だったし
問題の倫理委にも出席しているのだから
Lantos医師の批判そのものは有効だし、

そもそも論争当時
メディアに「委員長だった」と思わせるようなミスリードを行ったのはDiekema自身。

倫理委については、
「Diekema医師が委員長だった」
「倫理委ではなく施設内審査委員会だった」
「倫理委のメンバーは40人もいた」
「倫理委には外部の人間も含まれていた」
など、事実と違う情報が多々流されました。

少なくとも論争当時、自分がインタビューを受けた記事や番組では
誤情報を訂正する機会はいくらもあったはずですが、
Diekema医師はそれを一切やらず、
誤解が独り歩きするに任せました。

その方が、
「まっとうで信頼に足りる、大きな委員会が承認したのだから正しい」
「Diekema医師は当該ケースの担当者というよりも中立な委員長として
正しいと判断してしゃべっている」と
世論が誘導されてくれると望んだからでしょう。

(実際に2007年の論争当時には、彼が望んだ通りに世論が誘導されました)

シアトルこども病院はWPASとの合意を守っていると誤解している。

こちらの事実誤認はQuellette論文Koll論文にも共通していますが、
極めて重大です。

Lantos医師のコメンタリーの末尾は
「病院は、自分の病院の倫理学者の議論にもかかわらず、
正しいアプローチを行っている」。

――いいえ。行っていません。

シアトルこども病院がWPASとの合意を実行しているかどうか
その後、いっさい確認されていません。

病院が作ったのは不妊手術へのセーフガードのみ。
成長抑制のセーフガードは恐らく最終的に成立していないと私は考えています。

……それとも、これは、Lantos医師からシアトルこども病院への謎かけなのかな。
落とし所を作ってやったから、そろそろ介入しろ……みたいな?



詳細は、以下のエントリーに。



2010.02.17 / Top↑