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前のエントリーで触れたように、
米国GA州でALS男性が「臓器提供安楽死」を希望している件で
CNNのキャスターがALSを「ターミナルな病気」と紹介したことから
去年の暮れに書いた文章をアップしてみたくなったので。


「ターミナルな病気」という新分類と、そこから透けて見えてくるもの

ここしばらくterminal という言葉にこだわっている。欧米で加速する一方の自殺幇助合法化議論(2月号当欄で紹介)を継続して追いかけていると、その中で、いつからか terminal illnessという見慣れない表現が目に付くようになった。見るたびに感じていた違和感がついにはっきりした疑問となったのは、先日、ALS患者の自殺幇助事件で「この人にはターミナルな病気があった」と書くニュースを立て続けに読んだ時──。

「ターミナルな」というのは病気を問わず、あくまで病状の段階を指す形容詞だとばかり思っていた。「ターミナルな患者(terminal patient)」や「ターミナルな病状(terminally ill)」ならともかく、「ターミナルな病気」……? ALS患者の中には適切なケアで長く生きる人があるにもかかわらず、「ターミナルな病気」というと、まるでALSの人がみんな余命わずかみたいに聞こえてしまう……と、拘泥していたら、なんと次に聞こえてきたのは「認知症はターミナルな病気」だった。

◎「認知症はターミナルな病気」

 The New England Journal of Medicine誌の10月号で米国国立衛生研究所(NIH)の研究「終末期における末期認知症ケアのための選択、姿勢、そして戦略(CASCADE)」の結果が報告されている。ボストン地域のナーシングホームで認知症が進行した患者を18ヶ月にわたって調査したところ、約6割が調査期間中に死亡。認知症が肉体的な症状を伴う病気であること、末期には合併症が起きることへの認識が十分でないために、本人の利益にならない過剰な医療が行われていることが明らかになった。そこで強調されるのが「認知症はターミナルな病気である」。その事実を医師も家族も法定代理人も、みんなでしっかり認識して、無益な医療を求めるのではなく緩和ケアを選択するように、というのが趣旨のようだ。

しかし「認知症の末期には合併症が起こることを理解しておこう」と言うことと「認知症はターミナルな病気であると認識しておこう」と言うことの間には、ずいぶん非科学的な飛躍があるのではなかろうか。
 
◎終末期プロトコルの機械的適用で脱水死

英国では9月、緩和ケアの専門医数名がthe Daily Telegraph紙に手紙を書いて、終末期医療現場での“思考停止”状態を告発した。英国医療技術評価機構(NICE)は2004年から、死にゆく患者の苦痛を軽減するために作られた看取りのプロトコル「リバプール・ケア・パスウェイ(LCP)」を推奨しているが、このLCPがターミナルと分類された患者に機械的に適用されているというのだ。まだ回復の余地のある患者までが水分と栄養、治療薬を引き上げられ、死ぬまで重鎮静にされるなど、本来は「尊厳のある死を」と作られたLCPが、手をかけずに患者を死なせる自動的な手順と化している、と。

この告発から間もない10月13日、ある裁判の和解が報じられて話題になった。2005年に癌が再発し、もはや打つ手はないと診断されてリバプールのホスピスに入ったJack Jonesさん(76)は、栄養も水分も与えられず2週間で死亡した。しかし死後になって、癌は再発しておらず死因は肺炎だったことが判明したのだ。病院側はJonesさんにLCPは適用していないと主張するが、患者が機械的に分類され、一旦ターミナルと分類されると、症状の観察も再評価もなく分類だけが一人歩きしているのでは……と、このニュースも終末期医療のあり方に大きな疑問を投げかけた。

◎緩和ケアとはアグレッシブな症状管理と支援

NEJMの10月号には、NIHの研究論文以外にも、緩和ケア専門医の論説が同時掲載されている。認知症患者の終末期ケアをグレードアップして、痛みや不快をもっと丁寧にケアすべきだと訴える内容。「アグレッシブな医療か医療なしかの2者択一ではない。緩和ケアとはアグレッシブに細やかに、症状管理に重点を置いて患者と家族をサポートすることだ」という部分は、NIHの論文への鋭い反論ではないだろうか。

ちなみにterminal illness という用語、実は英語版ウィキペディアには既に存在している。「不治で有効な治療法がなく、患者を死に至らしめることが予測される進行性で悪性の病気のこと」。なるほど、「どうせ死んでしまう病気」なのだから金も手間もかけることはない、という文脈で使われるものらしい。でも、それを言うならALSや認知症の人だけでなく、生まれてきた瞬間から人は誰もが、その悪性病にかかっているのだけど……? 



『世界の医療と介護の情報を読む』「介護保険情報」2009年12月号 p.77



【関連エントリー】
”終末期プロトコル“の機械的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
肺炎なのに終末期ケアで脱水死(英)(2009/10/14)
「認知症患者の緩和ケア向上させ、痛みと不快に対応を」と老年医学専門医(2009/10/19)
「認知症はターミナルな病気」と、NIH資金の終末期認知症ケア研究(2009/10/19)

「認知症末期患者のビデオを見せて延命治療拒否の決断を促そう」とMGHのお医者さんたち(2009/6/5)
モンタナの裁判で「どうせ死ぬんだから殺すことにはならない」(2009/9/3)
2010.08.10 / Top↑
これまで以下の2つのエントリーでとりあげてきた
GA州のALS男性の「臓器提供安楽死」希望のニュースで

GA州のALS男性が「臓器提供安楽死」を希望(2010/7/25)
やっぱりCNNが飛びついたGA州ALS患者の「臓器提供安楽死」希望(2010/7/30)

8月に入っても、CNNの番組がPhebus氏と娘を生出演させています。
ペンシルバニア大学の生命倫理学者 Art Caplanも出演。

Phebus氏の発言は、これまでに出てきたものとほぼ同じで、
自分はALSと診断され「死刑宣告を受けて」おり、どうせ死ぬのなら
だんだん身体が動かなくなって何もできなくなって死んでいくよりも
臓器を待っているうちに死んでいくしかない人たちを救えるのであれば
臓器が良好な状態で使ってもらえるように死にたいというだけのこと。

別に自殺を希望しているわけではないし、
自殺したいというよりも、まだ生きられる希望のある人たちへの犠牲になろうというだけ。

娘さんの方も、
寝たきりになってただ死に近づいていく(waste away)くらいなら、
そんな尊厳のない状態になるよりも、と考える父の気持ちはわかるので、
家族は父の希望を支持している、と。

それに対して、Caplanが
法的に臓器提供安楽死など無理であること、

Phebus氏の気持ちは理解できるが、
臓器移植に関与する医師が患者を死なせることは許されていないことを説明し、

途中で番組ホストの Don Lemonが
「でも、この人は、どうせ死ぬんですよ。遅いか早いかの違いしかないなら、
臓器が使えるうちに、という願いにも一理あるのでは」という意味の言葉をさしはさむ。

それに対してCaplanは、
個人の願いとしては理解できるが、それが許される社会は人々を恐怖に陥れることになる、と、
社会全体に与える影響について語っている。


Phebusさんの要望は、
簡潔な言葉でとても分かりやすい。

それに対して、
その要望がどんな複雑な法的かつ倫理的な問題を含んでおり、
それがどういう複雑かつ広範な影響をもたらすかという点は、
Phebusさんの要望のように簡潔に伝えられるものではないのだ、ということを
つくづく感じさせられる。

本当に大事なこと、
本当はみんなで真剣に時間をかけてちゃんと考えなければならないことというのは、
いつも地味で、退屈で、煮え切らず、うざったく、面白みに欠けて、ださい。

でも、ぐるぐる、どろどろすることのない
あまりにもきれいにスパッと割り切れて、明快で分かりやすいことは、
やっぱり怖いことなんじゃないんだろうか、ということも改めて感じさせられる。

その他、特に印象的だったのは2点で、

Phebus氏が、余命がどのくらいかについては聞いていない、と言ったこと。
進行の早さは人によるから分からないと言われているとのこと。

もう1つは、番組冒頭で、Lemon氏が
ALSを「ターミナルな病気」と紹介したこと。

例えばOregonやWashington州の尊厳死法で「ターミナルな状態」とは
余命6カ月以内と診断された人のことを言うことと考え合わせると、
まるでALSと診断されたら、その段階で余命6カ月以内であるかのように聞こえる。

実際には、Phebus氏の担当医が言うように
進行の速度は人によって様々だというのに。

Selfless Sacrifice…or Assisted Suicide?
CNN, August 4, 2010


「ターミナルな病気」という表現が私は去年からずいぶん気になっていて、
「介護保険情報」の連載で去年12月に書いてみました。

それを次のエントリーに。
 
2010.08.10 / Top↑
1.8月7日付で兵庫県医師会が、総合特区設置と「医療ツーリズム」導入に再考を求める宣言を出している。:この宣言文の、生体肝移植でのドナー保護が名目だけになりつつあるくだり、たいそう恐ろしい。
http://blogs.yahoo.co.jp/kitaga0798/62400510.html

ちなみに医療ツーリズムについては、 2006年にインターネットで調べて記事を書いた。06年に既に世界では恐ろしいツーリズムが進行していた。日本でも「医療ツーリズム」を、と長妻厚労相が言うのを聞いた時に、ああ、日本もついに、ああいうえげつない拝金揉み手グローバル格差医療の仲間入りをするんだな、と思った。その他、インドの生殖医療ツーリズムはこちら。パキスタンの“腎臓バザール”についてはこちら


2.スイス法務大臣が自殺幇助への法規制強化には反対と。去年、ExitやDignitasなどの自殺幇助機関の完全禁止と、規制強化の2 法案が国民に提示されたものの、いずれにも批判が強く、スイス国民の意識は現状容認か?:というよりも、11月の国民投票に向け、駆け引きがいよいよ激化している? 政治だけでなく、Dignitasの行状を取り締まろうとする警察の動きと、それを阻もうとする圧力のようなものとの駆け引きも、このところのニュースからは色濃く感じられるし。
http://www.swissinfo.ch/eng/politics/Justice_minister_rethinks_assisted-suicide_bill.html?cid=21512170

【スイスでの規制関連エントリー】
スイス議会が自殺幇助規制に向けて審議(2009/6/18)
Dignitas あちこち断られた末にお引越し(2009/6/28)
スイスで精神障害者の自殺幇助に「計画的殺人」との判断(2009/6/30)
スイス自殺幇助グループExit、当局と合意(2009/7/12)
APが「スイスは合法的自殺幇助を提供している」(2009/7/18)
チューリッヒ市が自殺幇助に“規制強化”とはいうものの……(2009/7/21)
スイス当局が自殺幇助規制でパブコメ募集(2009/10/29)
“自殺ツーリズム”防止の罰金制度、スイスで11月に住民投票(2010/1/23)


3.Harvard大学の研究者らがNatureに発表した論文で、男性500人に一人の割合で発生する知的障害(XLMR)に、あるたんぱく質の機能不全が関与している、と。胎児段階で分かれば、治療方法も開発できる、とも。:最近こういう研究がやたらと目につく。「治療が可能になる」というのは、排除目的の研究を続けるための免罪符……なんてことは?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/196820.php

4.英国の乳がん発生率が東アフリカの4倍にも。要因は生活様式だと。
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2010/aug/09/breast-cancer-variation

5.機能不全家庭から子どもを施設に保護する裁判所の決定が1年以上の待ち状態。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/09/family-court-delays-children-barnardos

6.英国には5歳以下の子供に無料で牛乳を提供するプログラムがあるらしいのだけど、それが実際に子どもたちの健康の役に立っていない、カネがかかりすぎる、という話が出ているみたい。
Cameron rules out scrapping free milk for under-five
The Times, August 9, 2010

7.イランの投石処刑の件で、亡命した弁護士の妻、釈放。
Wife of stoning woman’s lawyer is freed
The Times, August 9, 2010
2010.08.10 / Top↑
ナースと称する女性が医療機関の一室と見える場所で、
Ashley事件の概要を解説し、

我々ナースとしては家族が共に暮らそうとする思いに寄り添い、
例え物議をかもしている療法であったとしても家族の要望にはオープンな姿勢で臨もう、と説く動画が
7日、YouTubeに投稿されました。

Ethical Dilemma Growth Attenuation
YouTube, 2010年8月7日


早口に原稿を読んでいるので、聞き取りに苦しんで、
細部まで確信を持って内容を紹介できないのですが、

冒頭で、なによりもまず“Pillow Angel”という重症児の呼称を解説しているところ、
今なお倫理委のメンバーを40人の他職種だったと事実誤認をそのまま通しているところから、
誰の意図を受けた呼びかけかということは明らかでしょう。

(当初より倫理委のメンバーが40人というのはAshley父の誤解に基づく誤情報でした。

大きな倫理委だったという誤情報を正当化に利用したかったらしい病院サイドは、
その誤解がメディアで独り歩きするに任せて長く訂正しませんでしたが、
今年1月のAJOBの論文でDiekema医師が19人だったと、やっと明かしています)

子宮摘出がワシントン州法違反だったことは認めているものの
”Ashley療法”の意図や利益については非常に偏った説明になっているようにも思われます。

たいへん気がかりな動きです。
2010.08.10 / Top↑
オーストラリアのDr. DeathことDr. Nitschkeが、苦しまず効果的に自殺する方法を解説した電子版ハンドブックの第6章を改定して、車の中で二酸化炭素を発生させる方法を追加するらしい。:まさか日本の練炭自殺を参考にした?
http://peacefulpill.blogspot.com/2010/08/using-carbon-monoxide-for-peaceful.html

最初の数行しかまだ読めていないので詳細は分からないのだけど、Georgetown大学で、乳がんの遺伝子研究での不正だか重大な過誤だかがあって、FDAが調査に入り、とりあえずラボの活動は停止中。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/05/AR2010080507048.html?wpisrc=nl_cuzhead

上訴裁判所が警察が容疑者のトラッキングに長期間に渡ってGPSを使うのはプライバシー権の侵害である、と。:そーなのよ。米国のプライバシー権について知れば知るほど、不思議になるのは、個人が国家権力の介入を受けずに思うようにしてもいい権利としてのプライバシー権が、しきりに持ち出されるんだけど、一方で、現在どんどん先鋭化するテクノロジーによる個人情報の国家権力による掌握・管理については、感覚が鈍いような気がすること。「テロの脅威があるから仕方がない」から?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/06/AR2010080604946.html?wpisrc=nl_cuzhead

UAEが、先週ペルシャ湾で日本のタンカーを攻撃したのはアルカイダだ、と。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/06/AR2010080605936.html?wpisrc=nl_cuzhead

アルツハイマー病の治療にDBS。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/196857.php

イランの投石処刑ケースを担当した弁護士が亡命し、クライアントだった女性と投獄されている妻を救うために国際世論の圧力を、と。弁護士の亡命で、女性の運命が不透明になったという記事タイトルもどこかで見かけた。気になる。
Save my wife, says lawyer who fled Iran over stoning case
The Times, August 6, 2010

NHS改革で11000人をリストラ。その後、さらなるリストラの可能性も。
NHS sheds 11,000 jobs, with many more at risk,
The Times, August 6, 2010

全然読んでいないけど、広島の平和記念式典へのルース大使出席の件に関するNY Times記事。
http://www.nytimes.com/2010/08/07/world/asia/07japan.html?_r=1&th&emc=th
2010.08.09 / Top↑
豪。夫婦でExit Internationalの活発な会員だったRijin夫妻の内、妻の方の死に関連して、Nitschke医師の事務所に家宅捜査。
http://news.smh.com.au/breaking-news-national/no-need-for-suicide-case-raids-nitschke-20100805-11kn0.html

スイスのチューリッヒ湖に大量の骨壷が投棄されていた問題で、スイスの警察がDignitasの捜査を断念。結局、誰が投棄したのかを突き止めることができなかったためだとか。:ふ~ん……。スイスでDignitasをなんとか取り締まろうとしている人たちがいるのは事実なんだけど、どうも、そういう人たちの努力が、見えない厚い壁みたいなものにことごとく阻まれているような不思議な感じがニュースから漂ってくる。
http://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5h86M1b3EZHQjlC1PkKe-qjGr0w7gD9HCNIUG1

サンフランシスコで連邦判事がカリフォルニア州の住民投票による同性婚禁止を否認。最終的には最高裁に。
http://www.nytimes.com/2010/08/05/us/05prop.html?_r=1&th&emc=th

上記決定の理由として、結婚は憲法で認められた自由の権利。修正14条。でも話は根深そうで、結局のところ例のGriswald事件から続いている論争ということになりそう。
http://www.nytimes.com/2010/08/05/opinion/05thu1.html?th&emc=th

NY Timesが、英国NHSの抜本改革の大幅自由化で、貧困層へのセーフガードを心配している。
http://www.nytimes.com/2010/08/05/opinion/05thu2.html?th&emc=th

億万長者さんたちに財産の半分を寄付しましょうというキャンペーンで、Bloomberg氏とルーカス監督他がサインしたとか。:で、この人たちは使い道に口を出したり、自分で選別したり、そのゼニをチラつかせて、よその国に手出ししに出張っていくってことは、しないのかな。
Billionaires pledge to give away half their fortunes
Michael Bloomberg and George Lucas are among tycoons who signed up to the campaign
The Times, August 5, 2010

堤未果の「ルポ貧困大陸アメリカ Ⅱ」を読んでいたら、刑務所が民営化されて、NYの刑務所では入る際に手数料と、積立金を請求されるという話。さらに刑務所内で働いた賃金は時給40セントなのに、部屋代と医療費で1日2ドル請求された囚人の話が紹介されている。貧困ゆえに犯罪を犯して捕まり、服役して借金を背負って出てくる……。とことん救いのない話。
2010.08.05 / Top↑
シアトルこども病院トルーマン・カッツ生命倫理センターの
今年の生命倫理カンファ

先日、第一日目のJohn Lantos講演を聞き、
その一部についてエントリーにまとめましたが、

今度はLantos医師を含む第一日目午前のスピーカーによるパネルを聞いてみました。

Lantos医師とFost医師以外の4人は顔も名前も分からない状態で聞いたので、
どうかな、と思っていたら、そんなのは全く関係なかったです。
それどころか、Lantos医師さえ、ほとんど、どーでもよくなるくらい、
つまりは、やっぱり Norman Fost医師が、ぶっちぎりで過激だったのでした。

実はFost医師はこの日、Lantos医師の前に、
プログラムのトップバッターとして講演しています。

タイトルは、
“Whatever Happened to Baby Doe? The Transformation from Under-treatment to Over-treatment.”

1982年レーガン大統領が障害新生児の救命を義務付けた「ベビー・ドゥ規則」に関する内容と想像されます。

2007年のカンファでの講演とパネルとで、Fost医師は

「障害児への“無益な治療”はするな。裁判所など無視しろ。
米国で医師がライアビリティを問われたことはない。
安心して法律を無視し、医療のことは医師が決めろ。
せいぜい地域の人を2人も入れて生命倫理委員会の手続きを踏んでいれば
モンクはないはずだ」


会場の小児科医らに向かって、檄を飛ばしていましたから、
(詳細エントリーは文末にリンク)

今年も「ベビー・ドゥ規則」批判で
大筋では3年前と同じ主張を繰り返したものと想像されます。

「想像される」というのは、
他のすべて人の講演はWebcastで聴けるようになっているのに
Fost医師のこの講演だけはWebcastが存在しないからです。

2007年にも クリスチャン・サイエンスを攻撃したらしいFost講演だけはWebcast不在でしたが
もともと差別的・挑戦的なものの言い方の多い人なので、
今回も記録として残すことがはばかられるような発言が
あったのではないかと想像されます。

パネルでの発言も相当なもので、
他のスピーカーたちもいろいろ発言したというのに、
聞き終えて、頭の中に反響しているのは、Fost発言のみ……。

会場からのQと、AとしてのFost医師の発言内容をかいつまんで、以下に。

(私は聞き取り能力が非常に低いので、言葉通りではありません。
こまかいところで聞き間違いもあるかもしれませんが、あしからず)

Q:倫理委は訴訟リスクと、訴訟の際の敗訴リスクを減らすと言っていたが、エビデンスは?

A:倫理委で検討したという事実があれば、決定が慎重に行われたという証拠になる。州判事向けの本の中にも、倫理委の検討は適切なプロセスを踏んだ証拠として扱われている。倫理委を開いていれば、少なくとも怠慢を問われることはない。

(その倫理委に政治的ぜい弱性があることを証明しているのがAshley事件だし、
Lantos医師も不透明性や手続きの基準と説明責任の不在を指摘しています)

Q:トリソミー13でBSD(心臓疾患。比較的簡単な手術を要する)があるケースで、実際にはどう考えているのか、とのLantos医師向けの問いから、スピーカーらの議論になったところで、Fost医師が発言して、

A:それはコストの問題。みんながやってほしいという医療を全部できれば、それに越したことはないわけだが、そんなことをしていたら医療費がGNPのどれほどの割合まで行くと思うのか。必要で効果のある治療ならともかく、そうでないものは、親がやりたがろうと医師がやりたがろうと、成人患者や家族がやりたがろうと、そろそろNoと言わなければ。
(会場から拍手)

Q:Fost医師は講演で、裁判所を恐れる必要はないと言っていたが、それほど話は単純ではない。司法の介入で「これを差し控えるなら殺人とみなす」と言われたら、やらざるを得ない。「救命さえすれば安全」と聞いたこともある。

(などの質問や、スピーカーの間での議論から、これ以降のFost医師の発言趣旨を以下にまとめると)

A:確かに、脅威は大きいが、最終的には恐れるに当たらない。米国で医師が治療をしなかったからといって、有罪になることはありえない。証拠がほしいかね。じゃぁ、Kevorkian医師を考えてみるがいい。自殺装置を作って何百人も殺したというのに、問題視されるたびに不起訴になったじゃないか。検察は「別に。 We don’t care」と言い続けたんだよ。彼は起訴されたいあまり、患者を殺すところを自らビデオに撮ることまでした。医師が起訴されるためには、それほど壮絶な努力を要するのだ。

ベビー・ドゥ規則だって、レーガン大統領は別に障害児の命を守ろうとして作ったわけじゃない。政治的な配慮という奴だ。医療の倫理は政治とは別物。「良い倫理」は「良い事実」と共にあるのだよ。ダウン症の子どものQOLについては、家族と共に暮らす美談神話が邪魔して、こういう子どもたちが家族にとってどんな悲惨となるかが見えなくなっている。そういう事実もちゃんと含めた倫理カウンセリングができれば、医療における「良い倫理」になる。

(な~にが「良い事実」なんだか。Ashley事件で大嘘八百ならべたくせに。
 それにしても、ダウン症の子どもは家族にとって”悲惨”でしかないのか? 
 あんた、それでも小児科医なのかよッ。)
 



それにつけても、去年、Fostの弟子のDiekema医師が書いた
小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」ガイドラインが
ベビー・ドゥ規則にのっとって作られた児童虐待防止法を堂々と否定していたことが、
改めて、重い意味を持って、思い返されます……。

Norman Fost という生命倫理学者は日本ではノーマークのようですが、

当ブログではAshley事件の陰の立役者であるとにらんでいるのみならず、
科学とテクノのイデオロギー装置としての生命倫理を先導する
危険極まりない人物として重要視し、追いかけてきました。

特に障害新生児関連では、最強の”無益な治療”論者。
障害児に対する差別意識も、Ashley事件に見られるように、ダントツの最強です。

Fostに関しては、大まかなところはこちらのエントリーあたりから入ってもらうと、
そこから、あれこれへ行けると思います。


2007年のFost講演については

生命倫理カンファレンス(Fost講演 2)(2007/8/25)
Fostのゴーマン全開 13日午前のパネル(2007/9/12)





【Kevorkian医師関連エントリー】
自殺幇助のKevorkian医師、下院出馬の意向(2008/3/14)
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN, Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
2010.08.05 / Top↑
67歳の母親、Stephenia Wolfさんが就寝中に突然死した後で、24時間介護を要する29歳の娘Samが餓死。周囲の人やソーシャル・サービスからの援助の申し出を母親は断り続けていたとのこと。:抱え込みはやっぱり悲劇。抱え込まなくても済む社会の意識変革を。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/03/mother-disabled-daughter-deaths

次はアイダホと狙いを定めるC&Cが「州ごとに自殺幇助を売り歩く」というタイトルの記事で、IdahoのNot Dead Yet の代表者がコメントしている。まだちゃんと読めていないけど、このコメントはStephen Drakeやその他あちこちが言及している。
http://www.ncregister.com/register_exclusives/selling-assisted-suicide-state-by-state#When:04:32:19Z

Obama政権の医療制度改革で国民に医療保険への加入を義務付けるのは憲法違反なのではないかとVirginia州のCommonwealthが連邦政府を提訴。:プライバシー権をちょっと舐めてみたところなので、ちょっと興味を引かれる。
http://www.nytimes.com/2010/08/03/us/03virginia.html?_r=1&th&emc=th

Missouri州では住民投票(?)、Obamaの医療制度改革での医療保険加入義務付けを認めない最初の州に。
http://www.nytimes.com/2010/08/04/us/politics/04midwest.html?th&emc=th

米国内科学会誌でボストン子供病院の研究者らが、製薬会社の資金提供を受けて行われる治験は、良い結果が論文として報告される確率が高い、との調査結果を報告し、より厳格なディスクロージャーを進める必要を説いている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/196640.php

英国でクローン牛の子孫の肉が去年から市場に出回っていたことが明らかに。食品関連法規違反が初めて認定された。:日本で安全宣言が出された時に「表記さえしっかりしてもらえば、あとは自己選択でいい」と言った人たちがいたけど、その標記すら、しょっぱなで危うい。
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/aug/03/clone-cows-meat-food-standards

こちらのエントリーで学校でのコンドーム配布問題からプライバシー権を考えてみた時に、この問題に触れたばかり。英国政府のゲノム監視団体から、個人のゲノム解析企業で親が子供のDNA検査をすると、子どもの権利の侵害となる可能性が指摘された模様。:Timesが有料になり読めないので、キーワード検索を試みたけど、ヒットできなかった。
DNA tests may threaten your child’s rights
Parents should not test their children’s DNA using personal genomics companies, the Government’s genomics watchdog will recommend today.
Times, August 4, 2010

Lancetに発表された論文で、女性にはどこでどのような方法で出産するかを選択する権利はあるが、自宅出産で子どもの命をリスクにさらす権利はない、と。病院以外での出産希望が増えている実態を踏まえての論文。自宅での出産のメリットもあるが、子どものアウトカムは病院出産の方がいい。死亡率は半分だし、その中から遺伝的欠損の死亡数を除くと3倍にも。理由としては呼吸障害と、助産師の蘇生術の未熟や病院機器が使えないこと。:日本でも、こういう方向のプレッシャーがかかろうとしている気配はそこはかとなく感じるけど、ちょっと問題がすりかえられているような気がしないでもない。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/196576.php

ハイチ地震の後、米国政府はビザ要件を緩和してハイチからの国際養子縁組を積極的に進めたが、その中で子どもを守るセーフガードはなおざりになった。養子にもらわれるはずのなかった子どもたちが国外に連れ出されている。
http://www.nytimes.com/2010/08/04/world/americas/04adoption.html?_r=1&th&emc=th
2010.08.04 / Top↑
今年5月22日の補遺でこの話題を拾った際、
私は、以下のように書きました。

米国小児科学会が女性器切除をある程度許容するガイドラインを出したことで、批判を浴びている。
当該委員会の委員長はDiekema医師。

現場の医師としては、親に言ってこられた際に断固はねつけたのでは信頼関係が作れない、
もともとそういう文化の母親たちなのだから、
断ったら、却って少女たちは海外へ連れて行かれて
不衛生な手術や、もっと侵襲度の高い手術を受けさせることになる、

最近の切除は形だけのものが多くなっている、
男児の割礼と同じく衛生上のメリットが全然ないわけでもない・・・・・・などなど。

:それで、人権意識は、どこに?




この時に拾ったCNNの記事はこちら

この記事によると、米国内での女性器切除は違法行為。
しかし、移民によって米国内に持ち込まれる女性器切除の文化は根強く、
秘密裏に行われる切除が後を絶たない。実態も把握しにくい。

米国内で22万8000人もの女性が切除されたりリスクに直面しているとの研究も。

そこで4月に規制が強化され、
娘を強制的に海外に連れ出して切除を行う親を犯罪者として取り締まることに。

そこへ登場したのが米国小児科学会の方針で、
移民コミュニティで臨床を行う医師には“文化的な要請に応えるために”
女児のクリトリス表皮をわずかに切除する(prick or nick)ことを認める内容のもの。

(以下のLantos講演では、nickされるのはクリトリスではなくラビアの一部とされています。
指針からの引用が読み上げられているので、こちらが正しいのでは、と思います)

当時ものすごい数が出ていた報道では、
怒涛のような非難の中、委員長であるDiekema医師は
「認めなければ少女たちは生まれた国に連れて行かれて、
もっとひどい目に遭うことになる」とか
「現実問題として対処すべき」と抗弁していました。

上記CNNの記事では、NYのアフリカ女性のための人権擁護団体から
「一人の人に、してもいいと認めることによって
女性器切除を止めようと行われている教育とアドボカシー活動が損なわれてしまいます」と
はるかに説得力のあるコメント。

小児科学会のサイトには「あんたら、気は確かか?」という小児科医からのコメントもあったとか。

その後、この問題がどうなったのか、フォローできずにいたのですが、

先月行われたシアトルこども病院Truman Katz生命倫理センターの
今年の生命倫理カンファにおいて(つまりDiekema本人の本拠地まっただなかで)
この方針を取り上げ、痛烈に批判しまくった人がいました。

今年1月にAJOBでAshley事件の大デタラメを指摘したJack Lantos医師

Webcastはこちら

あくまで私が聞き取れた範囲(おぼつかないのです。スミマセン)でのことになりますが、
Lanton講演によると、

米国小児科学会はこれまで女性器切除を
mutilation(野蛮な身体の切除)と捉えていたとのこと。

それが今回、突然、
ただのritual nick(形式的に、ちょん、とカットすること)に過ぎないと認識を転換し、
男児の包皮切除や、こともあろうにピアスと変わらない、とまで。

米国の医師が拒んだら生まれた国に連れて行かれ、もっとひどい事態になるのだから、
米国でritual nickを受けることは本人の最善の利益なのだ、とか
親の文化的な価値観を認めることは医師と親との信頼関係に資する、
などなどと、いかにもDiekemaの得意な詭弁を並べていたらしい。

ここで、やっぱり私の頭によぎるのは、
アフリカを中心に途上国に薬とワクチンとテクノロジーで乗り出していき
母子保健とエイズ対策で強引に介入しようとしているGates財団のこと。

Gates財団とシアトルこどもの病院の繋がり。
Ashley父とDiekema医師の繋がり。

そこのところにこそ、
米国の医師と、そうした途上国の親たちとの信頼関係を築いておきたい人たちがいる。
その人たちは男児の包皮切除を安上がりなエイズ予防手段として推進していたりする。

そんなことを、私は個人的に、勝手な連想として、考える。


ともあれ、
5月に嵐のような批判を浴びていたDiekema著・小児科学会の方針は
その後、撤回されたとのこと。

小児科学会のサイトでは、現在この方針のページは
何故か「機能していない」そうな。

Lantos医師の口調は冷静ながら、
方針からの引用部分を読みあげる声には「ふざけるな」という憤りが滲み、
ここから先、批判の舌鋒を鋭くして畳みかけていきます。

な~にが「文化的価値観」か、
文化的な相対性を超えた、uncompromising moral commitmentsというものがある。

道徳的な正当性を議論することそのものが道徳的でないと感じられるほどに
基本的、根本的で、議論の余地のない、
文化を超えてユニバーサルな、道徳的スタンダード(norm)というものがあるのだ。

夫に先立たれた妻を焼き殺すことに賛成する人はいますか?
カニバリズムに賛成の人は?
子どもを性労働者として売買することは?
クリトリス切除は?

少なくとも生命倫理の問題に興味を持とうかという人たちの中には
これらに賛成する人はいない。

小児科学会倫理委が言う“ritual nick”に反対する人は、
その行為が、ただ間違っていると考えるのではなく、
絶対に動かしがたく、根本的に、犯罪的なほど間違った行為だと確信しているのであり、

問題になっているのは行為そのものですらない。

その行為が象徴している、
女性をそのように虐げる文化的宗教的経済的なシステムを問題にしているのである。

したがって、この論争で問題になるのは
本当は女性器切除が許されるかどうかではない。

問題は、誰もが白と黒しか見ないところに、
文化的相対性を持ち込んだりして灰色を見ようとする一部の人たちがいることの方だ。

そして、灰色ゾーンが動かされていくこと。

社会的経済的政治的要因が諸々絡まり合うと、
本来なら存在しない灰色ゾーンが作られていくことこそが問題なのだ。

……という具合に、Lantos医師はコトの本質を鋭く突いています。

その言わんとするところは、
当ブログでもずっと考えてきた「尊厳」の問題とも繋がって、

当ブログが「尊厳」についてこだわるきっかけになったのが
去年のDiekema医師のAshleyケース正当化論文での
「尊厳は定義なしに使っても無益な概念」発言だったことは
いかにも象徴的に思われます。(このあたりの詳細は文末のリンクに)

Lantos講演の内容は
AshleyケースについてNaomi Tanが書いていた
「医師の道徳的な義務とは自身に対して負うもの」
人類のヒューマニティを損なわないために、自分のヒューマニティも損なってはならず、
だからやってはならないのだ、という主張にも通じていくような気がします。
(このあたりの詳細も、文末のリンクに)

なお、女性器切除に関する小児科学会の方針は
意図的に動かされ、作られる「灰色ゾーン」の1例として挙げられたもので、

Lantos講演の本来の趣旨は、
直前に講演したFostらが推し進めていこうとしている
QOLやコスト効率による功利主義的差別・切り捨て医療への批判と思われます。

それをいうなら、同じくDiekemaの手による
小児科学会倫理委の「栄養と水分の差し控え」に関するガイドライン
同じくらい酷い代物でしたが……。


こちらの、より大きな問題については、
もう1つ、Lantos医師、Fost医師が並んだシンポのWebcastを見てから
また改めてエントリーを立てたいと考えています。



【関連エントリー】

「尊厳は定義なしに使っても無益な概念」を、ぐるぐる考えてみる(2009/6/29)
大統領生命倫理評議会の「人間の尊厳と生命倫理」と「おくりびと」(2009/6/30)
MN州の公式謝罪から「尊厳は無益な概念」を、また考えてみる(2010/6/17)

「いのちの選択」から「どうせ」を考える(2010/5/21): Tan論文再考
「科学とテクノ」と「法」と「倫理」そして「問題の偽装」(2010/5/24)
2010.08.04 / Top↑
ゲイツ財団が最近、途上国の母子保健に力を入れている。

去年の5月に
早産・死産撲滅に、シアトルこども病院がゲイツ財団、ユニセフ、WHOと乗り出すというニュースから
予防のための研究を進めると言いながら、それと並行して実際には、
こういうことに向かっていくのでは……という予感がしたのだけれど、

その後のニュースをたどると、以下のように

知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではない(2010/3/23):G8での避妊・家族計画論争
ゲイツ財団資金で超音波による男性の避妊法を開発、途上国向け?(2010/5/12)
ゲイツ財団がインドのビハール州政府と「革新的な家族保健」の協力覚書(2010/5/17)
2010年5月29日の補遺:G8での途上国の母子保健関連記事。ここでも「家族計画」に言及。
ゲイツ財団が途上国の「家族計画、母子保健、栄養プログラム」に更に150億ドルを約束(2010/6/8)


「途上国の早産・死産・妊産婦の死亡数を減らすために」という大義名分で、
「そうでなければ命を落とす可能性の高い女性や子ども」にとって“最善の利益”だとして
貧困国の貧困女性には、先進国の女性とは別の基準が適用され、手が打たれていくのでは……という
懸念が私の中で、どんどん色濃くなってきていたところ、

NY TimesコラムニストのNicholas Kristofが書いたOp-Edが目につきました。

Another Pill That Could Cause a Revolution
The NY Times, July 31, 2010


1ドルにも満たない錠剤が
「世界中で、特に途上国で、中絶を革命的に変えつつある」とKristofは言う。

世界中の中絶の5分の4は途上国で行われていて、
消毒の不十分や手技の未熟から年間7万人もが中絶の合併症で命を落としている。

そこで安全で安価で政府が取り締まりにくい選択肢として一躍脚光を浴びているのが
元々は胃潰瘍の薬である misoprostol。

経口中絶薬mifepristone(RU-486)を飲み、その数日後にmisoprostol を飲む堕胎方法は、
欧米で「薬による中絶medical abortion」と呼ばれ、
スコットランドの中絶の7割がこの方法によるとされる。

妊娠初期なら95%の確率で流産する。

前者は中絶目的でしか使われないので手に入りにくい地域が多いが、
後者は胃潰瘍の治療薬なので、禁止されておらず、どこでも手に入る。

最近の研究で
misoprostolだけでも80%から85%の割合で中絶ができることが分かってきて、

その他の選択肢が限られている途上国で、
女性の性と生殖に関する健康(sexual and reproductive health: SRH)にとって大きな光明だ、
というのが、この記事の主旨。

ただし妊娠の後期に入るとどのくらいの効果があるかは未知数。

記事に書かれているリスクとしては
うまく中絶できなかった場合に胎児に障害が発生する可能性があること以外には
「自然発生する流産と同じ」とされているが、

米国では法律によって
mifepristone は、クリニックで(入院して?)飲むことになっているため
中絶の8件に1件しか使われていない。
使用が認められるのは妊娠9週まで。

英国では入院しての使用なら24週まで認められている。

ブラジル他、中絶目的でのmisoprostolを規制しようとする国もあるが、
Kristofは「misoprostolの使用を禁じると、出血多量で死ぬ女性が増えるだけだ」、

「どうせ薬による中絶の禁止なんて実施困難。
だってインドの製薬会社がこの2つの薬を大量に作っては
5ドル以下で世界中のどこにでも発送しているのだから」

更に記事の最後には
「世界中の女性に噂が広がっている以上、
この産科医療改革を政治家が止められるとも思えない」とも。


          -------


この記事で言及されている生殖保健関連のテクノロジー開発NPOで
「すべての人に医学とテクノロジーの発展の果実へのアクセスを」を理念とする
Gynuity Health Projectのサイトを覗いてみると、

やっぱり思った通り、資金提供者リストのトップはMelinda and Gates 財団。

リストにはそのほか、Rockfeller財団の名前もあるし、
最近私が気になっている Planned Parenthood Federationも
Society for Family Planningもあります。

もう1つ、この記事で言及されているのはMarie Stopes Internationalで、
こちらも世界43カ国で家族計画と安全な中絶、母子保健とHIV対策を行う
性と生殖に関する保健(SRH)のNPO。

Aboutを読んで、私が個人的にたいそう興味深いと思ったのは
わざわざ「男児の包皮切除を含むHIV対策」と書かれていること。

先月、ウィーンでのエイズ会議でBill Gatesは
安価なHIV対策として男児の包皮切除でHIV感染率を60%削減できると説きました。

こちらも上記Gynuityと同系列の活動団体と考えていいのではないでしょうか。

ゲイツ財団の周辺では、母子保健と並行して、世界の人口抑制策も動いています。

ビル・ゲイツの音頭で米国の長者たちが各国政府の頭越しに世界人口抑制に取り組もうと合意(2010/6/9)
“優生主義者”ビル・ゲイツ、世界エリートの“陰のサミット”ビルダーバーグ会議に(2010/6/9)


この2つの動きが、実は1つである……ということは本当にあり得ないのか???


内情・実態が国際社会から見えにくい途上国で、
最も弱い立場にある貧困層の女性たちに
一体どういうやり方で経口中絶薬が届けられ、飲まされていくのか……。

そもそもKristofの文章の趣旨そのものが、
2剤併用で「薬による中絶」が行われているけど、
どこでも手に入って政府が規制しにくい片方だけでも
95%の成功率が80%程度まで落ちるるにしても、中絶できないわけじゃないと分かってきたから、
途上国の場合は、単剤で成功率80%でも、いいんじゃない? という話。

統計の問題としてだけ考えれば、
元々死亡率が高い女性のグループが対象だから
リスクが大きくなっても、その増大幅も、死亡率の高さに吸収されるかのように錯覚するけど、

特定の薬のリスクはあくまでもその薬のリスクとして検討されるべきものであり、
Kristofの論理に潜んでいる上記のような錯覚が共有されるとしたら、それは
途上国の女性の命を値引きしているからに他ならないのでは?


ちなみに、日本では経口中絶薬は未承認ですが、
個人輸入する人があることから、2004年に厚労省から警告が出されており、

以下のような記述があります。

欧米では、医師のみが処方できる医薬品とされています。腟からの出血や重大な感染症等の可能性が知られており、医師による投与後の経過観察や、緊急時には医療機関を受診できることが必要とされています。欧米でも医師の処方せんなしで薬局で購入することはできません。




ろくに医療が受けられないために妊産婦の死亡率が高い途上国で、

この「革命的な」経口中絶薬が
医師が診断しインフォームとコンセントを取った上で
妊娠初期の妊婦さんにのみ慎重に処方され、
医師による経過観察がちゃんと行われ、
緊急時の受診体制も整えられた環境下で
女性たちが飲むことになる……とは、

私にはどうしても思えない。
2010.08.03 / Top↑
アンデルセングループが介護食「らくらく食パン」を開発。:試してみたいけど、送料が高い。
http://www.takaki-healthcare.co.jp/rakuraku/index.html

日本語。「知的障害の小6女児、裸にされ水かけられるいじめ」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100731-00000525-san-soci

また例のAshley療法AP記事のコピペ・ブログ出現。いつもと全く同じパターン。これを見るたびに、Ashley事件はまだまだ終わっていない、断固として終わらせるつもりがない人の存在を強く感じる。
http://homeremedyqueen.com/how-will-the-following-hender-the-normal-development-of-ashley.html

このブログは6月にも「アシュリー療法どう思う?」という記事をアップしていて、コメントがある程度寄せられている。07年ころに比べると冷静なコメが多いけれど、相変わらず主流派パーソン論と負担者決定権論か?
http://homeremedyqueen.com/your-thoughts-on-ashleys-treatment.html

人間の人生は多様で複雑で、これなら万全というセーフガードなどあり得ないから、自殺幇助は合法化すべきではないと、Onora O’Neillno コラム。英。
http://worldbbnews.com/2010/07/real-life-is-too-complex-onora-oneill/

元最高裁判事のScalia氏(74)がモンタナ州を訪れて講演し、憲法の規定と精神は不動だったはずなのに、最高裁が政治利用されて道徳的な調整役に堕してしまっている、と批判。
http://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5hNFItEBac9tbcNX_F25_c7LPMVYQD9H9GULO0

「製薬業界と精神科医療、1つの財布で合体した双子」。言わんとしていることは分かるけど、タイトルの比喩は不快。
http://www.opednews.com/articles/Pharmaceutical-Industry-an-by-K-L-Carlson-100727-454.html

Bush政権の遺産で移民取り締まり行政の不備から、知的障害のある不法移民への人権侵害が起きている。
http://www.nytimes.com/2010/07/31/opinion/31sat3.html?_r=1&th&emc=th

母親が働いていることは特に子どもの発達に影響するわけではない。:まだこういう研究が行われているということに驚く。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/30/AR2010073003762.html?wpisrc=nl_cuzhead

NHSの年間収入の上限制限が撤廃されて、成績の良いトラストは国内外から自費の患者の受け入れに躍起に。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/aug/01/nhs-trusts-private-patients

イランで姦通の罪で投石死刑を宣告されていた女性に、ブラジルが亡命受け入れを表明。今週中にも釈放される可能性。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/01/iran-stoning-woman-brazil
Brazil offers asylum home for mother facing stoning
The Times, August 2, 2010

パキスタンの洪水で死者1100人に。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/01/pakistan-floods-death-toll-rises

MI6とダウニング街への爆弾小包テロ容疑で2人逮捕。
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/aug/01/men-held-mi6-parcel-bombs
2010.08.02 / Top↑