ゲイツ財団とビル・ゲイツの年次報告書や今後の方針が相次いで発表され、
同時に財団やゲイツ氏のポートフォリオが公開されて
あちこちで話題になっていた。
私は経済に全く疎いので、
読んでもさっぱり分からないことの方が多いのだけれど、
そうした記事の中に、いくつか興味を引かれた個所があった。
まず、以下の記事で書かれていることとして、
「Bill Gatesといえば、マイクロソフト創設で富を得て資産を増やしてきた人というイメージだが、
実際には彼はCascadeという投資会社をもつ投資家であり、その投資を通じて資産を増やしてきたのだ」
A peek inside billionaire portfolios
The Globe and Mail, March 3, 2011
実はその数日前の夕食時に、以下の記事から、
私はこんなことを話題にしていた。
「ねー、ゲイツ財団が去年コカコーラとマクドナルドの株をごっそり買ったんだってさぁ。
なんで今さらコークとマックなんだろうね。コークなんか飲んでいる人、今そんなにいる?」
もちろん夫婦のいずれも経済オンチなので、話はそれだけで終わった。
Bill & Melinda Gates Foundation Buys FMS, KO, ECL, FDX, MCD, WM, XOM, WMT, TV; Sells GS, DVN, COG, RRC
Gurufocus.com, February 15, 2011
そうしたら、不思議なもので、
たまたま今ちょっとずつ読んでいる本の中から、
全くの偶然に、その疑問の答えが飛び出してきた。
生きていると、時々こんなふうに、
誰かが空の上で見ているのかしらん……と思いたくなるような、
「あたかも仕組まれたかのような偶然、まるで必然のような偶然」が
どこからか降って落ちてくるから不思議――。
で、その本とは、これ ↓
The Body Hunters: Testing New Drugs on the World’s Poorest Patients
Sonia Shah
The New Press, 2006
ごく大雑把な内容は、
欧米先進国で製薬会社に対する不信が高まり、
募っても治験に参加してくれる人がいなくなった。
それでも新薬への期待もマーケットも大きい。
そこでビッグ・ファーマがこぞって貧しい途上国に治験の場を移し、
医療アクセスの不備と貧困とで治療を受けられない病人の弱みに付け込んで、
世界で最も貧しい人たちをモルモット代わりに使っている。
先進国でならあり得ないような非人道的なやり方で。
そのための各種規制緩和がどのように行われたか、
推進サイドと批判サイドから、それぞれどのような声が出ているか、
ここ数年の医学論文のデータや議論を丁寧に引きながら、
その実態を克明に描いている。
いちいち驚愕の内容だけど、私はまだ最初の方しか読んでいない。
もちろんゲイツ財団やゲイツ氏について書かれたものではないし、今のところ言及すらもない。
そんな本の中で、
たまたま上記のようなポートフォリオ情報に触れた直後だった私を
いきなり金縛りにあわせた個所とは、以下のくだり。
Just as health care systems are being dismantled, multinational tobacco, soft drink, and fast-food companies have rushed into the emerging markets of the developing world, eased by international trade agreements forged throughout the 1990s……(略)………Coca-Cola aimed to become the number one beverage on the planet, buying up water licenses in poor countries where they could sell their nutritionally valueless drink for less than the price of a glass of clean water. McDonald’s spread its inexpensive, fatty, high-calorie foods across the globe, with four of its five new restaurants opened daily outside the United States.
(p.13)
先進国のビッグ・ファーマが治験の舞台を途上国に求めたことは
現地の医療制度を崩壊させているのだけれど、その一方で起こっていることは
1990年代に相次いだ規制緩和の国際貿易合意によって
新興マーケットと目されることになった途上国への
タバコ、ソフトドリンク、ファスト・フード多国籍企業の急速な進出。
コカコーラは貧困国の水の権利を買い占め、
コークを水よりも安く売ることで世界一の飲料に仕立てようと目論んでいる。
マクドナルドも世界中に店舗を日々続々と新規オープンしては
高脂肪・高カロリー食品を世界中にばらまいている。
今や日々オープンする新規店舗の5件に4件は米国外だという。
まさに「これぞグローバル強欲ひとでなし金融資本主義の真実!」というような話なんだけれども、
それだからこそ、
去年、コカコーラとマクドナルドに投資しようと考えた人が、
こうした企業のこうした戦略を知らないわけはない。
その戦略を知り「これは間違いなく儲かる」と踏むことから
その人の投資行動は生まれているはずだ。
先進国では子どもの肥満が社会問題となり、
その対策がしきりに取られている。
いかに肥満が各種病気を引き起こしているか、
研究データは毎日のように繰り出されてくる。
その反肥満キャンペーンの過激さは、
子どもの肥満に問題意識がない親が親権をはく奪される事件が起こるほどだ。
「科学とテクノで簡単解決文化」の背後の利権は、ここでもすばしこく、
ヤセ薬も次々に解禁されていく。
それほどの“不健康の代名詞”であるはずの肥満を途上国にばらまき、
貧しい人たちの健康をさらに害して利益を上げることに血道を上げる多国籍企業に、
その儲けを当て込んで投資する同じ人が、
一方では、
途上国の医療と栄養の不足という問題への対処を表看板に高く掲げて
貧しい人たちを救うために世界中の金持ちにゼニを出せ、とキャンペーンを張っている――。
彼はまた、自分がワクチンで救おうと呼びかけている途上国の人たちに
非人道的な新薬実験を行っているビッグ・ファーマの株主であったりもするらしい。
(HPVワクチンのメルク社の株主だという話をどこかで読みましたが、
この情報は、私自身はまだ直接に確認できてはいません)
――そんなふうに、ぐるりと金が回って繋がるカラクリのことを「慈善資本主義」と呼ぶ。
が、多くの場合、人はこのカラクリにまでは目が届かず、
そのため「資本主義」の部分が抜け、「慈善」だけで彼をたたえ、ほめそやす――。
そして、
そんなふうに高く見上げて手を叩いているうちに、
いつのまにか、ぐるぐる回って増えた彼のゼニは
世界中の研究機関に、メディアに、外交ルートに回り
人体を巡る血液のように世界の隅々にくまなく浸透していって
国家や国際機関に匹敵もしくはそれすら凌ぐほどの発言権、影響力を
一人の個人にもたらす結果を生み出している――。
それって、とても危険なことではないのでしょうか?
「愛と善意の人」という不動のイメージの陰に
一緒に潜んでいる人たちがいないわけもないと思うのだけれど。
カナダ「オタワ健康調査研究所」の
「高齢患者の長期経管栄養の意思決定支援ガイドライン」を探してみました。
Making Choices: Long Term Feeding Tube Placement in Elderly Patients
Division of Geriatric Medicine
Clinical Epidemiology Program
Ottawa Hospital – Civic Campus
Ottawa Health Research Institute
以下、今朝の新聞から、ざざざっと頭に浮かんだ雑駁な感想に過ぎませんが、
ざっと目を通してみて、
確かに丁寧に作られたもののようには思えるし、
聖路加看護大学助教の野田有美子氏は、これをもとに
日本の実情に合わせた改良版を作っているとのことなので、
カナダのものをそのまま持ってくるというわけでもないのだけど、
このブログを通じて、
カナダという国の医療が「無益な治療」論では最先端にあり、
医療文化そのものが「QOLの低い生は生きるに値しない」という価値意識を
たいへん濃厚にしていると思われる国だけに、
(詳細は「無益な治療」書庫に)
ここでもまた「先進国のモデルにならって」という
情報の使われ方がされることに、ちょっと抵抗がある。
そもそも日本の医療では、
ICの理念すら今だに徹底しておらず形式優先で
実はまだまだパターナリズム……という傾向が根強いと私は感じていて、
「家族の代理決定」を云々するよりはるか手前のところで、その土台となるべき
治療の実施や選択についての「自己決定」すらが確立されていないのに、
なぜか死ぬ話や治療停止や臓器提供の話でだけ
家族の代理決定のガイドラインが持ち出されてくるというのは、
ものすごく倒錯しているような印象を受ける。
すごく素朴に疑問に思うのは、
例えば、
癌治療の選択肢を前にした患者さんの意思決定支援ガイドラインとか、
脳卒中後にリハビリを打ち切られた患者さんの
非常に限られているかもしれないけど選択肢を巡る意思決定支援ガイドラインとか、
脳性マヒと診断されたばかりの子どもを持つ親への
療育や支援サービス利用選択肢を巡る意思決定支援ガイドラインとか、
ALSで在宅生活を希望している人への
その実現に向けた医療や介護の選択肢を巡る意思決定支援ガイドラインとか、
なにしろ「医療を受ける」「医療を選択する」ための
意思決定支援ガイドラインの整備の方が先のはずでは……?
でも、私が知らないだけかもしれないけど、
「受ける」「選ぶ」ための「自己決定」や「代理決定」の支援ガイドラインは
あんまり目につかなくて、
せっせと作られて出てくるのは、
医療を「やめる」「死ぬ」「死なせる」ための、
または、その方向の議論が主流となった医療に関する、
自己決定や代理決定の支援ガイドラインばっかり……。
それって、やっぱり倒錯してません?
日本の厚生労働省医薬品局は平成19年3月から
「ワクチン産業ビジョン推進委員会」なるものを開催しており、
第6回の委員会は明後日10日に開催される。
これ知って、最初に頭に浮かんだ疑問は
なんで“ワクチン・ビジョン”じゃなくて“ワクチン産業ビジョン”なんだろう?
諸々の資料は第1回目に配られていて、こちらから読める。
で、その中から「ワクチン産業ビジョンの要点」という文書を読んでみると、
「3. 感染症対策を支え、社会的期待に応える産業としていくうえでの課題」の中に
3つの課題が挙げられていて、あとの2つに目が引かれた。
(2)現在のワクチン市場は小さくても、ワクチン市場の将来性を見通しつつ、
戦略的に新開発に投資できる体力のある産業への構造転換を図ること。
(3)国民の理解を得て、ワクチン市場を安定した成長の見込めるものとしていくことを通じた
国内製造体制の確保。
官僚語で書かれているので、
それを我々の日常の日本語に翻訳してみると、
(2)現在の日本ではワクチンを打つ人はそれほど多くないが、
これからは「ワクチンの10年」と言われ
国際的にワクチン市場はオイシイことになっているので
日本も乗り遅れないよう、早くからちゃんと新開発に投資して
長期に渡って利益を上げ続けられるワクチン産業を創出しないと。
(3)そのためには、ワクチンが大切、ワクチンで病気予防をしなければならないと
徹底的なキャンペーンを行って国民をその気にさせ、接種する人をどんどん増やし
日本国内でのワクチン市場を継続的に拡大していく必要がある。
だってマーケットが広がってこその、製造体制確保だし、
打ってくれる人あっての産業創出なんだから。
さらに「7.ワクチンの普及啓発」のところには、
次のように書かれている。
ワクチンの意義や重要性についての正確で分かりやすい情報が、
国民に広く提供されるなどの普及啓発活動に加え、
有用性を総合的に評価する医療経済学的な調査分析を推進し、
国民がワクチンの意義を理解する上で活用できるよう関係者が協力。
わわわっと、頭に疑問が浮かぶのだけど、
・「ワクチンの意義や重要性」というのは、
あくまでも個々のワクチンについてのみ云々できるものでは?
・ワクチンの「有用性」を「医療経済学的な調査分析」って、
これもまた大事なのは、個々のワクチンの「有用性」についての「医学的調査分析」では?
・個別ではなくワクチン一般の「有用性」を「総合的に評価」って、
その「総合的に」というのは、いったいどういう意味?
その「総合」の中には、例えば具体的に何が入るの?
・こういうものを読むと、
ああ、あのHPVワクチンを巡るすさまじいほどのキャンペーンは、
なるほど、こういうところと直結して繰り出されていたのかぁ……と得心もするけれど、
その一方、この前コメントで教えてもらった感染症の専門家のブログ記事で
こんなことが指摘されていたのを思い出した ↓
接種記録をどうするか、前後の疫学データ収集をどうするか、という
各国が念入りに準備をして導入にそなえたことは、
考えついていないか無視の状況。
このワクチンの効果評価は長期においかけるコホートデータになるので、
接種前からの登録・長期間のフォローアップが必要なんですが。
Registration Programがないですよ!
接種した人達が誰か、分母がわからないと、そもそも効果評価できないですよ!
つまり、これ、
HPVワクチンを一人でも多くの子どもに打たせることには極めて熱心だけど、
その一方で、HPVワクチンの「有用性」について「医学的に」調査分析するつもりは
まるっきり、ないってことでは……?
個々のワクチンの「有用性」を「医学的に」調査分析するつもりはないんだけど、
ワクチンというもの一般の「有用性」を「総合的に評価」するための
「医療経済学的な」調査分析を「推進して」、その結果を「活用」して
「国民にワクチンの意義を理解」させようって、
ものすごく、ヘンな話じゃないです、それ――?
結局、やっぱり、こういう話なんじゃないのかなぁ…… ↓
「健康ギャップ」なくても「ワクチン・ギャップ」埋めないと「世界に恥じ」る……と説くワクチン論文(2010/3/5)
つい数日前に、この論文の著者で、医療経済学者の川添孝一氏が
フジテレビの朝の番組に出て、規制仕分けについて解説しておられたような……。
(最後だけ見たので名前は確認していません。顔から「おや?」と思っただけ)
管総理の肝いり「医療産業創出」の話も出ており、
そこには医療ツーリズムだけじゃなくて
もちろんワクチン産業も含まれているのだろうなぁ……と
私は思ったものでしたが。
先月「現代思想」で“バイオ化”について読んでから漠然と頭の中をぐるぐるしていたことが、
その後のmghさんとのやりとりを経て、だんだんと形を成してきて、
さらに、その直後のmyuさんとのやり取りで、やっと言葉になったので、
その辺りのことを抜粋・整理・補足して、以下に。
ここ数十年の世界経済や金融での大きく急速な構造変化が起きていること、それが、
製薬業界・医療機器業界を中心にした科学とテクノロジーの分野の諸々を
否応なく経済と金融の領域の問題にしてしまっていることなどが、
ずっと医療の中にいて、すべてを医療の中の問題、医療の専決事項として眺め考えてきた
現場の医師の多くには、捉えきれていない……という面があるんじゃないんでしょうか。
そこに、myuさんが言われる「感情的なもの」が影響して、
外部から指摘されても反発が先立つために、
個々の事実を冷静に確認する必要に目が向きにくい、
ということもあるだろうし。
そこに政治的な動きがある気配は察しても、
もはや「薬屋さんとのお付き合いは昔から難しい」といった
個々の医師のモラルの次元をはるかに超えた事態が出来している、
その事態の深刻さまで見えている人が、案外に少ないんじゃないのかな。
その政治的な動きの背景には製薬会社だけでなく、その株主、
グローバル金融資本主義でどんどん強欲になっていく
スーパーリッチたちの思惑までが繋がっているのだと考えれば、
すでに医師に提供されるエビデンスそのものに関わる問題に
なっている可能性だって、ないとも言いきれない。
ビーダーマン・スキャンダルが警告しているのも、
結局はそういう医療のエビデンスまで金融資本主義に巻き込まれてしまっている
構造的な問題なのではないかと私は考えるので、
臨床のエビデンスが揺らぐとなれば
本当は臨床現場のお医者さんたちが一番怒ってもいいはずなのに……と、
いつも思うんですよね。
その点で、 臨床現場のお医者さんたちの性善説というか、楽天性というか、
そこのところにmyuさんの言われる「感情的に心地よいゾーン」が
働いているような気がしたり。
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