この回、前のエントリーの続きです。
この記事の4日後に、ProPublicaは
不整脈会場で取材した参加者らの反応や、上記記事へのブログでの医師らの反応を調べ、
取りまとめた記事を掲載している。
一番典型的なのは以下のような反応で
「いつも腹立たしく感じるのは、医師でもない人たちに
ワイロや癒着に影響されてるんだろうと考われることですね。
製品に関する知識の多くは、それを売っている人から得るのが当然。
どこかで身につけなければならない知識なんだから」
「バスの腹に企業名があったからといって、
それで目の前の患者に入れる機器が決まるなんてことはない」
多くの医師は彼のように
金銭関係が自分の医師としての決定や学会の意思決定を左右することはないと答える。
一方、全く影響しないとも言えないのでは、と考える医師もいる。
不整脈学会への関連企業からの寄付金が歳入に占める割合は
2006年の37.5%から去年はほとんど半分に増えている。
ある医師は、これを、企業がそれなりに調査した上で投資している結果だろう、と見る。
もしも全く医師らに影響しないなら、企業がわざわざ学会に出張ってくるわけも
広告に莫大なカネを投じるわけもないだろう、と。
また、学会が企業のプロモ合戦の場となってしまっているために
カネをつぎ込んで存在を主張しておかないと医師に弱体化した印象を与える、との懸念が
企業の側にあるからではないか、と読む医師もいる。
医師と企業の共同研究の重要性や、知識を得る場としての学会の意義を強調する医師もいる。
医療の経済事情が苦しくなってきたために、
医療界や企業との間のカネの動きに向けられる目が厳しくなってきたのだ
と指摘する医師もある。
今回の学会で開かれた役員会では、企業との関係に関する方針が話し合われた。
このままでは誇り高い若い医師や科学者が企業との共同研究から腰が引けてしまう、
学会は患者のケアが向上するような企業との協働重視の姿勢を示さねば、と
次期会長。
役員が企業との関係をより細かくディスクロ―ズすることを含め、
いくつかの新たな方針を打ち出した。
Heart Docs Reject Claims Of Bias From Industry Money
ProPublica, May 9, 2011
前の記事へのコメントにもProPublicaの報道は偏っていると
批判に対して感情的に反発する医師の声は相変わらず多いけど、なんか、もう
個々の医師の倫理感とか、個々の医師の判断への影響とかいった次元の問題では済まないような……。
医療費高騰の原因としてあげつらわれているのは
主として人口の高齢化と医療の高度化ですが、
(でもって、なぜか前者ばかりが
「こぉんなにかかっている!」と具体的な試算の的にされては
あたかも極悪非道な単独犯のように言われ続けているわけですが)
私はそこに、さらに3つ目の要因として
熾烈な科学とテクノ研究国際競争が本当は加わっているんだけど、ただそこでは
各種助成金とか経済産業施策とかロビー活動を迂回してカネが回っているために
直接的な医療費の増大要因として見えにくくなっているだけなんじゃないかなぁ……と
「医師でもない人々」のゲスの勘ぐりをしている。
HPVワクチン一つとってみても、
もちろん開発研究にだってお金はかかるだろうけど、
顰蹙もので逆効果になってしまったメルク社の露骨なロビー活動にだって
一体どれだけの資金が注ぎ込まれたことか。
CDCセンター長に天下ってもらうのだって
決してカネを惜しんでできることじゃないでしょう。
そして、それらの資金は最終的には
メルク社のワクチンや薬の値段に振り分けられて回収されるわけですよね。
それは、たぶん、不整脈学会に、コーヒーカップやルームキーの広告権料として
製薬会社や医療機器会社が支払ったカネにも言えることだろうし、
開発競争とマーケティング競争に湯水のようにカネを注ぎこまないと
もう誰も生き残れない業界のサイクルが出来上がってしまって、
誰もそこから抜けられないまま競争だけが加速していくから、
本当はとっくに製品の価格に振り分けるくらいではとうてい追いつかなくなって、
だから余計に、相手の命がどうなろうと弱みに付け込む卑劣な手口だろうと
手段を選ばず、ひたすら次々に売りまくる以外になくなった自転車操業の狂騒状態――。
医療費を高騰させているのは
本当に「人口の高齢化」と「医療の高度化」と「熾烈な国際競争」の3つだけなのかなぁ……と、
こういう記事とか、去年11月に同じくProPublicaが書いた以下の記事に出ている
プロモ医師軍団に回った金額のバカでかさを見ると、どうしたって考えてしまう。
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)
それに、その自転車操業の狂騒状態の背景で暴利をむさぼりつつ煽っているのは
もちろんグローバルなネオリベの金融資本主義であり、
最近とみに露骨になってきた慈善資本(帝国?)主義……。
この記事の4日後に、ProPublicaは
不整脈会場で取材した参加者らの反応や、上記記事へのブログでの医師らの反応を調べ、
取りまとめた記事を掲載している。
一番典型的なのは以下のような反応で
「いつも腹立たしく感じるのは、医師でもない人たちに
ワイロや癒着に影響されてるんだろうと考われることですね。
製品に関する知識の多くは、それを売っている人から得るのが当然。
どこかで身につけなければならない知識なんだから」
「バスの腹に企業名があったからといって、
それで目の前の患者に入れる機器が決まるなんてことはない」
多くの医師は彼のように
金銭関係が自分の医師としての決定や学会の意思決定を左右することはないと答える。
一方、全く影響しないとも言えないのでは、と考える医師もいる。
不整脈学会への関連企業からの寄付金が歳入に占める割合は
2006年の37.5%から去年はほとんど半分に増えている。
ある医師は、これを、企業がそれなりに調査した上で投資している結果だろう、と見る。
もしも全く医師らに影響しないなら、企業がわざわざ学会に出張ってくるわけも
広告に莫大なカネを投じるわけもないだろう、と。
また、学会が企業のプロモ合戦の場となってしまっているために
カネをつぎ込んで存在を主張しておかないと医師に弱体化した印象を与える、との懸念が
企業の側にあるからではないか、と読む医師もいる。
医師と企業の共同研究の重要性や、知識を得る場としての学会の意義を強調する医師もいる。
医療の経済事情が苦しくなってきたために、
医療界や企業との間のカネの動きに向けられる目が厳しくなってきたのだ
と指摘する医師もある。
今回の学会で開かれた役員会では、企業との関係に関する方針が話し合われた。
このままでは誇り高い若い医師や科学者が企業との共同研究から腰が引けてしまう、
学会は患者のケアが向上するような企業との協働重視の姿勢を示さねば、と
次期会長。
役員が企業との関係をより細かくディスクロ―ズすることを含め、
いくつかの新たな方針を打ち出した。
Heart Docs Reject Claims Of Bias From Industry Money
ProPublica, May 9, 2011
前の記事へのコメントにもProPublicaの報道は偏っていると
批判に対して感情的に反発する医師の声は相変わらず多いけど、なんか、もう
個々の医師の倫理感とか、個々の医師の判断への影響とかいった次元の問題では済まないような……。
医療費高騰の原因としてあげつらわれているのは
主として人口の高齢化と医療の高度化ですが、
(でもって、なぜか前者ばかりが
「こぉんなにかかっている!」と具体的な試算の的にされては
あたかも極悪非道な単独犯のように言われ続けているわけですが)
私はそこに、さらに3つ目の要因として
熾烈な科学とテクノ研究国際競争が本当は加わっているんだけど、ただそこでは
各種助成金とか経済産業施策とかロビー活動を迂回してカネが回っているために
直接的な医療費の増大要因として見えにくくなっているだけなんじゃないかなぁ……と
「医師でもない人々」のゲスの勘ぐりをしている。
HPVワクチン一つとってみても、
もちろん開発研究にだってお金はかかるだろうけど、
顰蹙もので逆効果になってしまったメルク社の露骨なロビー活動にだって
一体どれだけの資金が注ぎ込まれたことか。
CDCセンター長に天下ってもらうのだって
決してカネを惜しんでできることじゃないでしょう。
そして、それらの資金は最終的には
メルク社のワクチンや薬の値段に振り分けられて回収されるわけですよね。
それは、たぶん、不整脈学会に、コーヒーカップやルームキーの広告権料として
製薬会社や医療機器会社が支払ったカネにも言えることだろうし、
開発競争とマーケティング競争に湯水のようにカネを注ぎこまないと
もう誰も生き残れない業界のサイクルが出来上がってしまって、
誰もそこから抜けられないまま競争だけが加速していくから、
本当はとっくに製品の価格に振り分けるくらいではとうてい追いつかなくなって、
だから余計に、相手の命がどうなろうと弱みに付け込む卑劣な手口だろうと
手段を選ばず、ひたすら次々に売りまくる以外になくなった自転車操業の狂騒状態――。
医療費を高騰させているのは
本当に「人口の高齢化」と「医療の高度化」と「熾烈な国際競争」の3つだけなのかなぁ……と、
こういう記事とか、去年11月に同じくProPublicaが書いた以下の記事に出ている
プロモ医師軍団に回った金額のバカでかさを見ると、どうしたって考えてしまう。
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)
それに、その自転車操業の狂騒状態の背景で暴利をむさぼりつつ煽っているのは
もちろんグローバルなネオリベの金融資本主義であり、
最近とみに露骨になってきた慈善資本(帝国?)主義……。
2011.05.11 / Top↑
無料飲料水ボトル: 1万ドル
無料給水ステーション: 1万2000~2万ドル
コーヒー・カップにかぶせる紙製取っ手(スリーブ): 1万~4万5000ドル。
ホテル客室のキーカード: 4万5000~7万ドル。
展示ホールのカーペット: 2000ドル
パンフ用ビニール袋: 1万5000ドル
シャトル・バス: 5万ドル
シャトル・バスの座席ヘッドレスト・カバー: 1万2500ドル
さて、このリスト、いったい何の価格表でしょう?
ちょっとだけ、ヒントです。
無料飲料水ボトル1万ドル也の宣伝文句は
「無料飲料水は毎日、展示ホールで休憩時間に配られます」
キーカード4万5000~7万ドル也の宣伝文句は
「あなたのマーケッティング成功のカギはこれ! 」
ルーム・キーは4日間7000人以上の参加者と行動を共にするのです」
バスのヘッド・レストのカバー1万2500ドル也の宣伝文句は
「閉鎖空間でくつろぐ出席者に製品広告のまたとないチャンス」
もう、お分かりですね。
はい。これらの品物に広告をのっける権利のお値段でした。
で、こうして広告の権利を”販売”したのは、なんと米国不整脈学会。
セールスのマーケティング対象はもちろん製薬会社と医療機器会社。
先週4日間に渡って開催された米国不整脈学会の年次大会の期間中、
会場となったサンフランシスコは空港から街角からホテル客室ベッドサイドまで
それらの広告で埋め尽くされたわけですが、
こんなマネまではやらなかった去年の学会でも
展示ブース使用権と共催イベント費用を含めて
米国不整脈学会には関連企業から500万ドル以上が入ったとか。
除細動機業界に君臨する Medtronic が今年、ブース使用に支払う金額は54万3000ドル。
その他、カンファレンス会場のあちこちの広告とグラントを出すのと合わせて
Medtronicは総額160万ドルを学会に支払った。それ以外にも
学会18人の理事の内8人に講演料や顧問料を支払っている。
同学会が去年、外部から集めた1600万ドルの約半分の出所は
製薬会社とカテーテルや除細動機など医療機器会社だった。
もっとも、不整脈学会はこうして歳入の内訳をウェブで公開しているだけ良心的で
そんなことは一切やっていない学会の方がはるかに多い。
それに、もっとえげつないことをやっている学会もある。
先月開催された米国心臓学会では、
参加者に配られたIDバッジにトレーサーが仕込まれていた。
どんな肩書のどういう医師がどのブースを覗き、どれだけの時間そこにいたかが
リアルタイムで各展示ブースに知らされていた、というわけ。
(まるで自分のところの会員を、学会が企業に売ったみたいだ……と
誰かが記事の中でコメントしていたと思ったんだけど、見つからないので
私が読みながら自分自身の声を幻の活字で見たのかもしれない。)
高血圧治療薬を4種類作っている第一三共は米国血圧学会と仲良しで、
09年には330万ドルを同学会に提供。これは同学会の企業からの寄付総額の7割を占める額だという。
2年前に、米国血圧学会は第一三共とタグを組んで、
製薬会社のセールス担当者を対象とした研修プログラムを作った。
参加費は一人1990ドルで、第一の社員1200人が受講、終了した。
プログラム修了者は名刺に学会公認終了証を入れることができる。
元の学会長の一人は
「いやらしいと思いますね。診療に影響しますよ。患者に向かって
『私は第一三共のセールス・マンですけど、アドバイスさせていただきますね。
大丈夫、米国高血圧学会のお墨付きですから』と言っているようなものでしょう」
この人は2006年に企業からの影響問題で対立して学会長を辞めたという。
現会長は、研修プログラムは科学的に作られているし特定の薬を取り上げるわけでもない、
それにセールスするには知識が必要だ、と言っている。
なお20009年度に第一が同学会に寄付した額は330万ドルで
同学会が企業から得た寄付総額の7割を占める。
もっとも、これは自発的に公開された情報ではなく、
Biedermanスキャンダルを暴いた、例のGrassley議員の調査で出てきたもの。
Grassley議員の調査から出てきたものについては
当ブログでもいくらか追いかけてきていますが、
議員の調査で医療界と企業との金銭関係が社会問題化するにつれ、
大学や研究機関では情報公開や規制強化の動きが進んできたものの
各種学会の対応は遅れている。
しかし、治療ガイドラインを作り、議会へのロビー活動や一般への啓発を担う学会が
関連企業の働きかけのターゲットになるのは当たり前で、
例えば不整脈学会のウェブでの情報公開では、
理事18人の内12人が関連企業から講演料または顧問料を受け取っており、一人は株を所有。
高血圧学会がGrassley議員の求めによって提出した情報では
同学会理事14人の内12人に企業との金銭関係がある。
そういう金銭関係はプロとしての医師の判断に影響しないと関係者は口をそろえるが
Grassley議員は「信じがたい。近親相姦的な関係が多々見られ、気に食わない」
心臓機器メーカー間の競争はとみに激化しているらしく、
製品の使用とマーケティングは本当に適正なのかという疑惑も出ている。
1月に米国医学会誌に発表された調査では
5人に1人以上の患者が科学的な基準にそぐわない心臓除細動装置をつけられていた。
不整脈学会に多くの資金を提供してきた3つの企業には、
自社製品の使用に対して不当なキックバックを医師に払っていた疑いが浮上したり、
患者にメディケアを請求させ会社から返金していた疑いでも法務省の調査が行われている。
Financial Ties Bind Medical Societies to Drug and Device Makers
ProPublica, May 5, 2011
ProPublicaはこの4日後に続編記事を書いています。
次のエントリーに。
【Grassley議員の調査など関連エントリー】
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
今度はラジオの人気ドクターにスキャンダル(2008/11/23)
FDAの科学者ら「認可審査あまりにも杜撰」と内部告発(2009/1/15)
製薬会社がゴーストライターに書かせた論文でエビデンス作り(2009/8/8)
【いわゆる“Biedermanスキャンダル”関連エントリー】
著名小児精神科医にスキャンダル(2008/6/8)
著名精神科医ら製薬会社からのコンサル料を過少報告(2008/10/6)
Biederman医師にさらなる製薬会社との癒着スキャンダル(2008/11/25)
Biederman医師、製薬業界資金の研究から身を引くことに(2009/1/1)
2011.05.11 / Top↑
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