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この10年ばかり米国の教育改革に資金を提供してきたBill Gates氏が
これまでの改革が効果を上げていないことから学校小規模化から方針を転換し、今度は
生徒の成績をPC管理して、その変動で教師を評価するシステムを提言していることを
前のエントリーで紹介しましたが、

Gates氏が教育改革に新たに資金提供している部門がもう一つあることは
4月28日の補遺でも拾った通り、
ビデオ・ゲームを活用した教材開発に2000万ドルを提供すると約束。

それについての詳しいニュースが2本ありました。

Opening Education’s Gates – The Gates Foundation Invests In Innovative Education
InventorSpot.com

2000万ドル投資の目的は、
ビデオ・ゲームとSNSシステムを使った学習システムと、
アセスメントを組み込んだデジタル・カリキュラムの開発。

具体的には例えば 
・SNS学習ネットワークの開発でDigital Youth Networkに260万ドル。
・ゲーム型の指導ツールの開発で Institute of Play に250万ドル。
・数学、国語、科学を教えるための3Dマルチ・ユーザーのビデオ・ゲーム開発で
Quest Atlantis に 260万ドル。
・応用テクノロジーを通じて大学教育に備え卒業まで導く学習補助手段開発で
Next Generation Learning Challenges に1000万ドル。

これらは、42州採用の国語と数学の新スタンダード
Common Core State Standards Initiativeに沿ったものになる予定とのこと。


Foundations Join to Offer Online Courses for Schools
The NY Times, April 27, 2011

こうしたゲイツ財団の動きについてはNYTも先月27日に報じており、
そちらでは同財団が巨大教科書・教育テクノロジー企業Pearsonと提携し
ビデオ・ゲームやSNSを駆使して
数学では幼稚園から高校1年向けに
国語では幼稚園から高校3年向けに
合わせて24の講座を準備する、と。

この提携により、現在でも教科書・教材市場で優位にあるPearsonは
新スタンダードに合わせて改訂競争に晒される競合企業を突き離し、
さらなる独走態勢を固めるだろう、との予測が出ている。

ゲイツ財団の教育部門の責任者が
「これで生徒と教師のやり取りは根本的に変わりますよ」と自画自賛するのは良いとして

ブッシュ政権で教育省の官僚だった教育行政の専門家までが
「これで新たなスタンダードCommon Coreを統一テストに連動させていくことが可能になる」と。


               ------

オンラインの教材で学習し、そこでの生徒のパフォーマンスはリアルタイムで自動登録・管理され、
またはオンラインで統一テストを行い、そのパフォーマンスも自動登録・管理され、
担当する生徒たちのパフォーマンスのCommon Core達成率と向上率がはじき出されて、
それがそのまま各教師のパフォーマンスということにされていく……んでしょうね。

まるで、チェーン展開している外食産業で各店舗の営業状況がPCで一括中央管理され、
毎月どころか毎日、毎時の成績がはじき出されて数値化され可視化され、
逐次それに対して誰かが責任を問われ、尻を叩かれ、首を切られるように、

きっとPCが逐次はじき出す数値がそれぞれの教師の能力と同意となり、
その数値に対して責任を問われ、数値を上げよと尻を叩かれ、
数値を上げることができなかったり、数値に踊らされることを拒めば
ただシンプルに「無能」の烙印を押されて首を切られていくのでしょう。

そして、全米でそうした教育・教師管理システムを構築、維持管理運営するのはマイクロソフト――。


ゲイツ財団の興味関心を実現していく研究開発にまい進して株主さんになってもらえたり
同財団から資金をもらったりパートナーシップを組んでもらえる企業だけが、
それぞれのマーケットで独占的に肥大化していくのも
科学とテクノの分野や教育の分野だけではなくなっていくのかもしれない。

そして、どの分野からも多様性というものが失われて、
きっと世界はとても平板で機械的な価値観で均されていくんだろうな……という、イヤ~な予感がする。

科学とテクノの研究からは既に多様性が失われていることは
こちらのエントリーの記事が指摘している。
2011.05.02 / Top↑
長引く経済不況で、米国の公教育は予算不足が続き、
そこでEli Broad, Casey Wasserman, Bill & Melinda Gates 財団など
民間からの資金に頼ることになっているらしい。

LA Times の調査によると、
LA地域の教育行政上級職20人の給与が税金からではなく
これら民間の慈善家によって支払われることになるのだとか。

その中の一人、
LA統合スクール・ディストリクトの教育長に就任したJohn Deasy氏は
なんとゲイツ財団の元幹部職員だとのこと。

もちろんDeasy氏本人は
資金提供者の意向に関わりなく
自分が意思決定を行うと言ってはいるけれど、
果たしてそういう具合に行くものか、
教育改革を慈善家のゼニにゆだねることにリスクはないのか、と
LA Timesの社説が問題提起している。

実際、教育に資金を提供する慈善家たちは小規模校がお好みで、
Bill Gates氏はかつて10億ドルを提供して
学校の500人規模への小規模校化を説いたことがあった。
そのため米国の都市部を中心に小規模校がトレンドとなり、
スクール・ディストリクトはこぞって小さな学校を作り、
学校の運営費用はかさんでいった。

しかしゲイツ財団がその後独自に調査を行ってみると
小規模化は生徒の成績向上に結び付いていないという結果が出てしまう。

するとゲイツ氏はとたんに小規模化プロジェクトに興味を失い、
それよりも教師の評価制度を変えようと言い始める。

その評価システムとは、
教室で授業を観察・評価するだけではなく、
生徒の成績をコンピューター管理して、それによって
教師ごとに担当生徒の成績がどれだけアップしたかを割り出して
それぞれの教師の評価に反映させるというもの。

しかし、そこには教師の評価そのものよりも
むしろ評価システムの導入に対して資金を出そうとの狙いもあるのでは?

慈善家たちは自分の出したカネが自分の思う目的に使われることを望むが、
教育官僚の仕事は彼らの意向に応えることではなく、納税者に応えることである。

教育改革のコントロールを
教育行政が安易に慈善家に渡してしまっていいのか……? と。

LAUSD: Public education and private money may prove a mixed bag
The LA Times, Editorial, May 1, 2011



この社説の疑念は、
当ブログが「ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫でかねて提起してきたものと
まったく同じ方向のものだけど、

ここでは教育のことだけが語られているために
問題の真の大きさが捉えられていないと思う。

ゲイツ財団のカネがコントロールを及ぼしているのは
米国の公教育だけではなく、

世界中の科学とテクノロジー研究、
グローバル・ヘルスの資金分配、農業政策、外交施策、そしてメディア……。

そういえば、米国の国際開発支援を担当するUSAIDのトップも元ゲイツ財団の職員。
(詳細は上記「農業政策」リンクのエントリーに)

カネを出すだけではなく、
その出したカネの使い道の意思決定を握る機関に財団の職員まで送りこむのは
財団の常とう手段なのかもしれない。

でも、それが多くの人が考えているほど単純な「慈善」ではないことは、

例えば
ワクチン大好きなゲイツ氏が実はビッグ・ファーマの株主さんだったり、

彼が最近しきりに途上国に導入させようとしている5価ワクチンの
製造販売元のメルク社のワクチン部門の責任者には
前CDCのセンター長が天下りしているという構図が、
まるでUSAIDのトップが元ゲイツ財団の職員だという事実の陰画のように思えるように

また例えば、
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪 などを考えてみれば、
なにがしかの疑問が頭に浮かんでこないだろうか。

例えば、
「慈善」と「慈善資本主義」とは、
もしかしたら似て非なるものではないのではないか……とか

もしかしたら、それは実は「慈善帝国主義」なのではないか……などの疑問が――。


【追記】
以下、同じテーマのNewsweekの記事。
非常に長い記事なので最初のページしか読んでいませんが、

Newsweekが、Center for Public Integrityと共に行った調査で
ここ数年の億万長者たちの教育への投資がさほどの効果を上げていないとの
結果を出している様子。

記事冒頭、この10年間の教育改革に資金を提供したCEOたちについて
「教育政策に特に何らバックグラウンドを持たないままやってきた富裕なCEOたち」と
書かれていることがだいたいの記事のトーンをうかがわせている。

Back to School for the Billionaires
Newsweek, May 1, 2011


Center for Public Integrity という機関があるんですね。
Public Integrity……公共の統合性。

科学とテクノの発達で世界経済と金融の構造が変わったことで
ごくわずかな人に富がドラスティックに集中し、それと同時に
各国は過酷な国際競争に投資を迫られて経済的に疲弊する中、
公共サービスを守るためには行政機関が富裕な個人や民間財団の資金に頼らざるを得ない状況が
あちらでもこちらでも――各国規模でもグローバルな規模でも――発現している。

それは国家という装置が機能不全を起こして公共としての統合性を失い、
世界のスーパーリッチの資金と思惑とに
否応なく依存・奉仕させられていく……ということでは?
2011.05.02 / Top↑
なんでもJournal of Animal Ethics という新しい学術雑誌が誕生したそうな。

その最新号の論説がすごい。

英語には動物に対して侮蔑的、差別的な表現が多く、
それらは改められるべきである、と主張する。

例えば、飼っている犬や猫などの動物を「ペット」と呼ぶのは差別的なので
「コンパニオン動物」に変えるべきだし、

飼い主を「所有者」と称するのは法的には正しいが、
動物が道徳的な保護を必要としない機械やモノと同じように感じられてしまうので
飼い主のことも「人間ケアラー」と称するべき、

「野生動物」の「野生」も未開だとか野蛮といったイメージを伴うために
当該動物に対して侮蔑的であり、「自由に生きている」または
「自由に行動している」動物と称するべきである、と。

その他、「狐のようにずるがしこい」「豚のように食う」などの比喩表現も
動物に対してフェアでないので改めるべきだ、とも。

著者は英 Oxford Centre for Animal Ethics のディレクターAndrew Linzeyと
米Penn 州立大学のPriscilla Cohn。

Calling animals ‘pets’ is insulting, academics claim
The Telegraph, April 28, 2011


Oxfordといえば、
世界トランスヒューマニスト協会を創設したNick Bostrumがいるし
最近とみにご活躍のJulian SavulescuもDominic Wilkinsonも――。


Oxford Centre for Animal Ethicsのサイトに行ってみたら、
この件に関するニュース・リリースが出ていました。
内容は、概ね上記の記事の内容と同じ。

またこのサイトのAnimal Ethicsというページを覗いてみると、
以下のような記述が目を引きました。

Our concern is to establish an unashamedly elite school of academics able to make an effective ethical case for animals.

我々の関心事とは、
動物のための実効ある倫理問題を論じることのできる、
臆面のないエリートの学者集団を作ること。




この unashamedly のニュアンスが、
私にはちょっと掴み切れないところがあり、
「そうした仕事をすることにゆるぎない確信を持った」という意味だと理解する方が
より自然だとは感じるのだけど、ただ文法的にはeliteを修飾しているはずなので、
それならば「臆面もないほどエリートの集団」という意味になると思え、


もしも、そうだとしたら、そこには
最初から「挑戦者のチャレンジを受けて立つチャンピオンの椅子」に勝手に座りこんでいる
Peter Singerらの「大型類人猿の権利宣言」に感じた青臭い不遜と
同じ匂いがするような気がする。

「大型類人猿の権利宣言」を読んで書いた3つのエントリーはこちら ↓
Singerらの「大型類人猿の権利宣言」って、あんがい種差別的?
Peter Singerの”ちゃぶ台返し”
SingerやTH二ストにとっては、知的障害者も精神障害者も子どもも、み~んな「頭が悪い人たち」


そして、動物を差別することにこんなにも過剰に反応する人たちが
障害者を差別することには単に鈍感というのではなく、
むしろ何かに挑戦するかのように、敢えて露骨に
知的・精神障害者を差別してみせることの不思議――。
2011.05.02 / Top↑
オーストラリアで
2009年に重症の慢性病のパートナーEva Griffith(享年78歳)を窒息させて死なせたとして
David Scott Mathers(逮捕時64歳)に2年間の執行猶予付き判決。

判決は
本人が死にたがっていたこと、大きな苦痛があったことに何度も言及し、
「彼女に対する愛から生まれた無私の行為」だと。

Euthanasia pushes past pain barrier
The Sydney Morning Herald, May 1, 2011


Sydney Morning Herald の記事そのものは
自殺幇助を合法化している米国Oregon州やオランダで
実際には耐え難い苦痛だけを理由としない安楽死が行われている実態を報じるものですが、

この記事で「重症の慢性病に苦しむGriffithさん」と表現されている病気とは、
以下の事件当時の記事によると、なんと「骨粗鬆症と過酷な腰痛」。

殺害方法は顔にポリ袋をかぶせて窒息させるというもの。

しかし起訴当時から、
弁護士は慈悲殺だと主張する戦略をとり、

こちらの記事のタイトルでも「慈悲殺とおぼしき殺害」と。

Killing of Eva Griffith an alleged mercy act, David Mathers charged
The telegraph com. Au, July 9, 2007


あの英国公訴局長の自殺幇助起訴ガイドラインですら、
慈悲殺という概念も文言も法律上は存在しないと明言していますが……。
2011.05.02 / Top↑
カナダの“無益な治療”訴訟、Maraachli事件の続報。

Joseph君の呼吸器を「無益な治療」だとして外すと言い渡した病院と、
それに抵抗し、せめて死までの時間を自宅で過ごせるように気管切開を、と求める両親が
裁判で争った末に、カナダの裁判所は病院の訴えを認め、
気管切開はされないまま呼吸器が外されることが決まったが、

その後、プロ・ライフの活動家らの支援によって
セント・ルイスの病院に転院がかない、気管切開を受けることができた……
というところまでを当ブログで追いかけてきましたが、

Joseph君はその後、自宅に戻り、
人工呼吸器なしで自力で呼吸し、穏やかに過ごしているとのこと。

時どき眼を開けると、身体を動かしたり、
父親が指をさし出すと握ったりもする。

セント・ルイスの病院が明らかにしたところでは
Josephくんの病気はレイ病。

(07年のテキサスの「無益な治療」事件でGonzales君もレイ病でした)

父親は、息子がいつまで生きるか分からないが、
こうして穏やかな家族の時間が過ごせていることそのものが
もともとのカナダの病院の判断が間違っていた証拠であり、

勝ったと感じている、しかし、

なぜ気管切開をしてもらうために
わざわざセントルイスまで行かなければならなかったのか、
そのわけを知りたい、と。

‘I feel victorious,’ says Baby Joseph’s father
The Vancouver Sun, April 25, 2011


記事へのコメントの議論は
「わずかな延命のための資源の無駄遣いである」かどうか、が論点になっている様子。

中に「みんな見逃しているけど、この子は苦しんでいるという事実がある。
気管切開で、その苦しみを人工的に伸ばしているだけ」と書いている人がいる。

記事の写真を見てほしいのだけど、
眠っているJosephの顔は苦しんでいる子どものそれではないと思う。

「重い障害がある状態で生きているのは常時痛苦に耐えなければならないこと」と思い込むのは
以下のエントリーを始め「ステレオタイプという壁」の書庫で書いているように単なるステレオタイプ。

「重い障害」の“外見”が見せる「存在しない痛み」(2009/6/2)


【Maraachli事件関連エントリー】
1歳児の「無益な治療」で両親が敗訴(カナダ)(2011/2/24)
2011年3月1日の補遺(2011/3/1)
2011年3月5日の補遺(2011/3/5)
呼吸器外し命じられたカナダのJoseph君、セントルイスの病院へ(2011/3/15)
A事件繋がりのRebecca DresserがMaraachli事件で「コスト懸念で類似の訴訟はこれから増える」(2011/3/17)
Peter SingerがMaraachli事件で「同じゼニ出すなら、途上国の多数を救え」(2011/3/22)
2011.05.02 / Top↑
英国で Compassion in Dying というチャリティが「可能な限り患者の選択とコントロールを増やす」ことを目的にした無料の電話相談を計画中とのことで、ターミナルな患者や重病者を死に導くつもりか、と批判を浴びている。同チャリティは Dignity in Dying の下部組織。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1381321/Euthanasia-charity-launches-die-helpline.html

ビル・ゲイツがゲームタイプの学習プログラムの開発に、2000万ドルの支援を約束。
http://www.geekwire.com/2011/bill-gates-supports-gamebased-learning-20m-grants

……と同時に、ゲイツ財団は巨大教科書教材会社と提携し、オンラインで国語と数学を学べるシステムを作ると発表。ここ数カ月で相次いで40州が採用した新たな学校教育のスタンダードに沿ったもの。多彩なメデイァを使った授業を展開する。英語は幼稚園から高3まで。数学は幼稚園から高1まで。教材会社の間で新たなスタンダードに応じた改訂が急がれている中、Gates-Pearsonのパートナーが群を抜くことは間違いない、と。:なるほど~。ここしばらくゲイツ氏がしきりに米国の教育改革に口を出していたのは、こういうことだったのか……。
http://www.nytimes.com/2011/04/28/education/28gates.html?_r=1&partner=rss&emc=rss

Northwest特別教育学校で、キャンディを投げたり無断でカフェテリアを出たなどの些細な違反を理由にスタッフが生徒に抑制を行っていたとして、ライセンス停止処分を検討中とワシントンDCの当局が発表。
http://www.washingtonpost.com/local/education/district_moves_to_close_special_ed_school/2011/04/27/AFtcJ90E_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

1月に頭を銃で撃たれて重傷を負った米国アリゾナ州のGabrielle Giffords議員が、夫のシャトル打ち上げに立ち会うためにフロリダに。全米の人が死んだと思い、生きていると分かっても助からないだろうと考えた人が、少しずつ回復していることが米国中の人を驚かせている。:それが、米国で進む「無益な治療」論や安易な「終末期医療」・尊厳死の議論を振り返るきっかけになってくれれば。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/apr/27/gabrielle-giffords-shooting-brain-recovery?CMP=EMCGT_280411&

ヴァージニア工科大が、07年の銃乱射事件の対応がまずくて多数の死者を出したとして連邦政府から55000ドルの罰金を課せられ、頭にきて抵抗すべく声明を出した。
http://www.washingtonpost.com/local/education/va_tech_will_appeal_55000_fine_over_handling_of_2007_shooting_spree/2011/04/27/AFWyguyE_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
2011.05.02 / Top↑