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障害児・者切捨ての話ばかりが目に付く中、
そうした傾向に歯止めをかけようとの動きを知ると、つかのま心が慰められます。

障害胎児・新生児の親への情報提供と支援を謳う法案が米国上院に提出され、
2月末に保健・教育・労働・年金委員会での可決にこぎつけています。

法案の名称は
The Prenatally and Postnatally Diagnosed Conditions Awareness Act。

妊娠中と出産後1年以内にダウン症をはじめとする病気・障害が明らかになった場合に、
母親に対して、
その病気・障害に関する情報ならびに支援に関する情報の提供と
支援機関や支援サービスへの紹介を保障すると同時に、

そうした周産期に判明する障害を巡って親子を支援する情報集約機関の充実、
ピア・サポートプログラムのさらなる充実、
周産期に病気・障害が診断された子どもを養子に迎えようという家族の登録制度の創設
を謳うもの。

現在米国では妊娠中にダウン症と診断された場合は9割が中絶されています。

この法案を提出したスポンサーである
共和党のSam Brownbackと民主党のEdward Kennedy上院議員は
去年7月18日の法案提出時に記者会見にて趣旨を説明。
その際には米国ダウン症協会やダウン症児を持つ親のスピーチもあって、
ダウン症児は何も出来ないとか自立した成人になれないという神話を解体する必要が訴えられたとのこと。

その際のプレス・リリースはこちら。



関連報道の一部を以下に。



Disposing of the Disabled
By Ken Conner
Townhall.com, March 29, 2008

          ――――――

これまで当ブログでも、
「ダウン症児だから選別的中絶」のコワさ
選ばないことを選んだ夫婦の記録
などのエントリーにおいて、
それぞれの障害像の実際や、子育ての現実には目が向けられないまま、
「障害児はお荷物」、「どうせ何も出来ない」、「生きるに値しない」などと
スティグマに満ちたイメージ先行によって
功利主義的な切り捨てが推進されているのではないかとの懸念を提示してきました。

この法案の「情報提供」も提供者のスタンスによっては
むしろ中絶に向けての誘導ツールとなりかねないし、
「ちゃんと説明を受けたうえで、個人の決定権によって中絶が選択された」という
選別的中絶への手続き上のアリバイ整備に終わらないかという懸念がないでもありません。

また、情報提供や養子縁組の制度を充実させようとするならば、
もう一歩進んで生活そのものを支える支援サービスの充実こそが不可欠だし、
肝心なところが抜け落ちていると思わないでもないのですが、

それでも、すさまじい速度で功利主義がアメリカの医療を席巻していく現状を思えば
その中でもこうした視点を持って政治が動こうとしていることだけでも
救いのように思えてくるような……。


当ブログのその他の関連エントリー

2008.04.01 / Top↑
米国マサチューセッツ州での調査において、
遺伝子診断の導入以降、嚢胞性線維症患者の数が半減したとの結果が
the New England Journal of Medicineに。

こうした調査はマ州のものが初めてなので、
同様の減少傾向は全米で起こっているものとみられ、

また新たな病気の遺伝子が発見されるにつれて、
このような傾向は広がりを見せるとも。

一方、医学の進歩によって嚢胞性線維症の患者の平均寿命はここ数年で倍に伸び、
現在では37歳とのこと。

以下の記事は「遺伝子スクリーニングが難しい倫理問題を引き起こしている」と
その倫理面に疑問を呈しています。

Genetic screening raises tough ethical issues
The Star-Ledger, March 10, 2008

ここにも、当ブログで何度も発言を取り上げている
ペンシルバニア大学の倫理学者Arthur Caplanが登場。

「遺伝子検査は選択と情報に関わる問題であって、
その選択の結果とは無関係だというフリをする傾向があるけれども、
我々が遺伝子検査にお金を払うのは
嚢胞性線維症を減らすことに繋がる生殖上の決定を行う人があることを知っているからだ」

またCaplanは
「今後、ホモセクシュアルの遺伝子が検査できるとなったら?
背が低い遺伝子の検査が可能となったら?」
と、今後遺伝子検査が広がるに伴い、
こうした倫理上の問題はより複雑化すると懸念。

ちなみに英国では
着床前診断で嚢胞性線維症をはじめ障害・病気の遺伝子を持つ胚を
そうした遺伝子を持たない胚よりも優先して選んではならないとする法案が現在審議されていますが、


【追記】
米国でナース・プラクティショナーを目指しておられる方のブログで、
遺伝学の授業で嚢胞性線維症の患者さんの話を聞かれたという記事がありましたので、
TBさせていただきました。

20代の患者さんが病気を日常の一部として受け入れ、
仕事をしながら元気に暮らしておられる姿と

遺伝子検査を全否定するのではなく、
「早くから治療できる可能性」と前向きに捉えておられる言葉に
胸を衝かれます。

授業の中にこういう機会を設けられる遺伝学の先生が素晴らしいと思う。

病気や障害がただの統計数字やスティグマに満ちた悲惨なイメージとして否定的に捉えられないように、
障害や病気と共に生きている人の実像や、治療や支援の可能性にも目を向けたうえで、
遺伝子検査の意味をもっと広く深く考える機会が
医療職はもちろんのこと、
親になろうとする前の世代の人たちも含めて
広く様々な立場の人にあるといいのですが。
2008.04.01 / Top↑