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ワシントン大学の新しい研究機関IHMEがどういうものか、
とりあえず匂いくらいを嗅いでみたところで
もう一度Lancet誌がIHMEとコラボするという話に戻って、
以下の文章を読んでみました。

The Lancet誌(2008;371:1139-1140)のコメント欄に掲載された
A new initiative and invitation for health monitoring, tracking, and evaluation というお知らせ。

著者は Lancetの編集長 Richard Horton と IHME の所長 Christopher Murray と、もう1人。

(無料の登録をすればLancetのサイトで全文が読めますが、
 登録しなくても、Gates Keepersのブログ記事で読むことができます。)

このお知らせはまず、これまでWHOやUNICEFなどの機関が行ってきた
世界の保健医療のデータについて、
今後は学問的に科学的分析を行う必要があると
IHMEのサイトで繰り返されているChristopher Murrayの持論そのままを述べた上で、

以下の2点をアナウンスするものです。

Lancet誌とワシントン大学に新しくできた研究機関IHMEとが協働すること。
その協働を中心に新たにGlobal Health Tracking というセクションを誌面に設けること。

まず第1点のコラボについて、著者らは以下のように書きます。

Given a shared mission and vision for global health monitoring, The Lancet and the Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME) are pleased to announce a collaboration that should stimulate researchers around the world to apply the best science to the challenges of monitoring global health.

地球の保健医療モニターに関して同じミッションと展望を持つもの同士として、
Lancet誌とIHMEとは協働することを表明する。
その協働によって世界中の科学者らが刺激を受けて
地球の保健医療をモニターするという大きな仕事に
この最善の科学を適用するに違いない。

(「最善の科学」というのはHealth Metrics and Evaluation のこと?
 それともIHMEの研究そのものをいうのか?
 もしやIHMEが作ったDAILY基準のこと?)

第2点の新セクションについては、

・少なくとも2ヶ月に1度はセクションを掲載。
・すべての科学者の公募とするが最終的な採用判断はLancet誌が行う。
・応募を促す手始めとして、IHMEが毎年6本以上の論文を掲載する。

つまり、このセクションの基調トーンはIHMEが作るということですね。

              ――――――

IHMEはゲイツ財団から巨額の資金提供があってできた研究機関であることから
Gates Keepers というブログがこの動きに対して、
Lancetの特集はゲイツ財団に買収されたのか?」と疑問を投げかけているのですが、

この疑問に対して、編集長のRichard Hortonがすぐに反応しています。
Gates Keepers の記事に紹介されたHortonの文章の一部を以下に。

協働が陰謀を意味するわけではない。癒着を意味するわけでもない。協働が意味するのは共通の目的である。ここでの目的は、今日の若い科学者たちが余り目を向けない分野である、地球の保健医療のデータ活用を拡大させること。また、どんな論文であれ、たとえ全ての論文を拒否することになろうとも、たとえそれがIHMEの論文であろうとも、拒絶する権利は依然としてLancet誌にある。

しかし「共通のミッションと展望」とか「共通の目的」と言うからには、
本来は様々な見解が議論を戦わせる場でもあるべき学術誌が
新セクションの編集方針はIHMEの路線でいくと
ここに表明したことになるのでは……?

私が研究者でもなんでもないから知らないだけで、
学術誌のウラ側ってのは、本当はこんなもんなんです?

(ここでは堂々と表に出てきちゃってますけど。)
2008.04.25 / Top↑
死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DAILY」のエントリーで紹介した
ワシントン大学の研究所IHMEで進んでいるプロジェクト
Global Burden of Disease(GBD 病気の世界的負担)について。

たとえばGBDの目的はと言えば、

As a whole, the study stands to significantly revise our comprehension of global health, while providing information in a way that is maximally useful for funders and policy-makers.

この研究全体としての狙いは世界の保健医療についてのわれわれの認識を大きく改変し、
資金提供者と施策立案者が最大限に利用できるような情報提供を行うことである。

そのために彼らは
エビデンスに基づいた科学的な方法でこれまでの保健医療データに体系的かつ包括的な見直しを行い、
病気、怪我そしてリスク・ファクターの世界的負担を新たに推計する、と。

burden assessment, burden estimates , burden staticticsなど
キーワードのように繰り返されているのは「負担」の数値化のことでしょう。

保健医療施策と資源における「負担」である病気・障害と、
さらにそのリスク・ファクターを数値化し、それを施策と資金の配分に生かすという話。

研究の中心となるのは
Washington, Harvard, Queensland, Johns Hopkinsの各大学とWHOの研究者。

GBDプロジェクトが出す数値の正確さと、意思決定ツールとしての有効性の根拠として
以下の4点があげられています。

権利擁護と疫学を切り離し、すべての病気と障害に体系的で客観的な分析、つまりエビデンスに基づいた評価をおこなう。

・年齢尚早の死、病気、障害の原因情報を統合して、うつ病やマヒなど、これまでの統計に見えにくい病気のデータも拾う。これまで予測もできなかった形へと世界の様々な保健医療の認識を変える

コスト効率を分析する。世界中のどこの人の命も平等に重んじて保健医療介入の利益とコストの意思決定が行われるよう、同一の通貨単位を創設する。

・インターネットを介した教育、研修、透明性に重点を置き、それによって研究者、専門家、施策立案者などグローバルなコミュニティの参加を促す。

つまり、これは、
死に至る重病だけではなく、世界中のありとあらゆる病気と障害について
保健医療プログラムのコスト・パフォーマンスという視点からのみ数値化します、

その際に、世界の地域ごとの社会的、環境的その他諸々のファクターは一切カウントしません、
権利擁護の視点も一切カウント外になります

……という話ですね。

どんな政情とどんな環境のどんな国のどんな地域であれ、
世界中の人の病気と障害を同一の物差しで計るなどという乱暴な話が
どうして「すべての命を平等に重んじる」ことになるんだ?????

それに、

彼らのいう「保健医療」にも、それを巡る研究にも意思決定にも、
患者・障害者当人の視点は全く一切入っていない。

きっと、これはもう医療ですらなくて、ただの功利主義なんですね。

限りある資源は、最大多数の最大幸福のために――。
2008.04.25 / Top↑
去年5月、Ashleyの子宮摘出の違法性を病院が認めた翌週、
ワシントン大学がこの問題を巡ってシンポジウムを開き、
その模様がWebcastで世界中にリアルタイムで公開されました。

その後、シンポのWebcastはシアトル子ども病院のHPにアップされています。

リアルタイムで見たときには無線LANが不安定で
それでなくても不十分な聴き取り能力に水を差してくれたので、
ここで一度落ち着いて聞いてみなければ……と思いながら
まだ果たせてないのですが、

当ブログでは何度もこのシンポに触れているのに
資料を挙げていないことに気づいたので、

(もう一度ちゃんと見る、という自分の目標設定としても)

これらWebcastが見られるシアトル子ども病院の当該サイトを以下に。


なお、既にいくつかのエントリーで触れましたが、
シンポ当日、直接会場で聴かれて発言もされたオレゴン州在住の小山エミさんが
詳細な報告を書いておられます。


ここで報告されている倫理委委員長Woodrum医師の「自分は両親の味方である」という発言や
「倫理委には障害者コミュニティの代表が既に入っている」という発言など、
当時は見過ごしていたけれど、今にして振り返ると
改めて大きな示唆を含んで立ち上がってくる箇所がいくつもあります。

(倫理委に障害者コミュニティの代表が入っているというのがハッタリでなく事実だとすると、
 それは1週間前のWPASとの合意によって加えられた人と思われます。それ以前には
 病院常設の倫理委には「他の医療機関の代表」と「地域の代表」しかいないし、
 ましてAshleyケースを検討したのは、その倫理委ですらなく、
 外部の人間をシャットアウトして行った「特別倫理委員会」でした。) 

また、小山さんはとても貴重な場面を目撃されており、
上記報告後編の終わり部分には、当日、Ashleyの父親が会場にいたことが書かれています。

そしてDiekema医師は自分のパネルが終わった後で父親のところに行って
「あなたの娘の件についての報告はあれで良かったですよね」と話しかけた、と。

この詳細な報告を初めて読んだ時に私が一番興奮したのはここでした。

Ashleyの両親と医師らの力関係が
どうも通常とは逆転していると感じられる不思議は
「親と医師の関係性の不思議」の書庫で指摘しています。
2008.04.25 / Top↑