Obama大統領が就任演説の中で
現在の米国が直面している多くの問題をあげつらっていった箇所に、
「医療が高すぎる」というのがありました。
現在の米国が直面している多くの問題をあげつらっていった箇所に、
「医療が高すぎる」というのがありました。
そして、ずっと後の方で
「テクノロジーによって医療の質を引き上げ、コストを下げる」という発言も。
「テクノロジーによって医療の質を引き上げ、コストを下げる」という発言も。
高すぎる医療をテクノロジーで改革って、実際にはどういうことよ……と、
その部分におおいに引っ掛かりを覚えていたのですが、
その部分におおいに引っ掛かりを覚えていたのですが、
その中で紹介しているのが、こちらのWall Street Journal の記事。
Obama新大統領と下院民主党プランが狙っている医療改革案の1つは
英国のNICE(The National Institute for Health and Clinical Excellence)をモデルにして
病気の治療法や医薬品をコスト効率で比較検討し、
より安価で効果的な医療のガイドラインを作ろうというものだ、と。
英国のNICE(The National Institute for Health and Clinical Excellence)をモデルにして
病気の治療法や医薬品をコスト効率で比較検討し、
より安価で効果的な医療のガイドラインを作ろうというものだ、と。
英国のNICEは
新しい治療方法や医薬品が出てきた時に
他の治療方法や医薬品とそのコスト効率を比較検討する。
患者のアクセスはその後でなければ許されない。
しかも、この記事によると1人の患者を1年間延命するのに使う金額は
最大45000ドルまでとNICEでは決めているとのこと。
(健康に過ごす1年と癌と闘病しつつの1年とでは
その1年の質は前者の方が高いとして換算される、とも)
新しい治療方法や医薬品が出てきた時に
他の治療方法や医薬品とそのコスト効率を比較検討する。
患者のアクセスはその後でなければ許されない。
しかも、この記事によると1人の患者を1年間延命するのに使う金額は
最大45000ドルまでとNICEでは決めているとのこと。
(健康に過ごす1年と癌と闘病しつつの1年とでは
その1年の質は前者の方が高いとして換算される、とも)
こういう考え方を米国でも導入しようというわけです。
それに対して指摘されている問題点として、
それに対して指摘されている問題点として、
・比較研究そのものに巨額の資金が必要となる、
安く上げようとすれば信憑性の薄い研究結果でメディケアが制限されかねない。
・本来なら民間企業や医学研究部門で行われるべきところだが、
製薬会社からの影響を排除し透明性を維持するのは難しい。
・治療が限定されると患者や病気の個別性が無視されることになる。
・英国で特にがん患者を中心に高価な医薬品を使えない不満が大きな問題となっており、
同じ問題が発生するおそれがある。
安く上げようとすれば信憑性の薄い研究結果でメディケアが制限されかねない。
・本来なら民間企業や医学研究部門で行われるべきところだが、
製薬会社からの影響を排除し透明性を維持するのは難しい。
・治療が限定されると患者や病気の個別性が無視されることになる。
・英国で特にがん患者を中心に高価な医薬品を使えない不満が大きな問題となっており、
同じ問題が発生するおそれがある。
―――――――――
もともと英国のNHSは一応受診時無料が原則の国民皆保険制度であって、
米国のように非常に限られた公的医療保険しかない国とは土台が全く違うのだから、
コスト効率によって使える治療方法と医薬品を制限する制度だけを
英国から取ってきても……とは思うものの、
米国のように非常に限られた公的医療保険しかない国とは土台が全く違うのだから、
コスト効率によって使える治療方法と医薬品を制限する制度だけを
英国から取ってきても……とは思うものの、
結局はこういう方向に向かうしかないのでしょうか。
それにしても、Obama演説にあった
「テクノロジーで医療のコストを削減する」の部分は気になります。
「テクノロジーで医療のコストを削減する」の部分は気になります。
Bush 政権の中絶に関する姿勢を Obama大統領は転換する……という側近からの情報も
昨日のCNNでは流れていました。
昨日のCNNでは流れていました。
選別的中絶や着床前遺伝子診断というテクノロジーで障害のある子どもが生まれないようにすることも、
「テクノロジーで医療費を削減」の範疇かも……?
「テクノロジーで医療費を削減」の範疇かも……?
【1月22日追記】
上記のブログと記事をLifeNews.comが取り上げて、
「Obama政権は英国型の尊厳死肯定医療を検討中」と懸念しています。
「Obama政権は英国型の尊厳死肯定医療を検討中」と懸念しています。
Obama Administration Considers Pro-Euthanasia British-Style Health Care
LifeNews.com, January 21, 2009
LifeNews.com, January 21, 2009
昨日、上の記事を読んだ時に私も同じことが頭によぎりました。
しかし、なにも「英国型」などと言わずとも、
既に米国でも自殺幇助を合法化したOregon州のメディケイドでは
「高額ながん治療は認められないが自殺幇助なら支給しますよ」という話が出てきているし
Washington州でも事務的に自殺幇助を受け付ける準備が進められているし。
既に米国でも自殺幇助を合法化したOregon州のメディケイドでは
「高額ながん治療は認められないが自殺幇助なら支給しますよ」という話が出てきているし
Washington州でも事務的に自殺幇助を受け付ける準備が進められているし。
これらはいずれも、公的医療保険制度がほとんどない国で
無保険になったために、ごく基本的な医療すら受けられない国民が
山ほどいる状態が放置された一方で起こりつつあること。
無保険になったために、ごく基本的な医療すら受けられない国民が
山ほどいる状態が放置された一方で起こりつつあること。
それを都合よく忘れて「英国型の安楽死肯定医療」などと決め付けるのは
ここ数年は予算も投入してNHS改革に取り組んできた英国に対して失礼かもしれない。
ここ数年は予算も投入してNHS改革に取り組んできた英国に対して失礼かもしれない。
確かに英国が急速に全体主義的、功利主義的になりつつあることには
別途、大きな懸念は感じるとしても。
別途、大きな懸念は感じるとしても。
2009.01.21 / Top↑
ウルフ・ブリッツァといえば
去年の大統領選挙の特番シリーズも指揮していたCNNの超大物アンカーで、
去年の大統領選挙の特番シリーズも指揮していたCNNの超大物アンカーで、
だからキャスター総動員の就任式当日の長時間生放送で、
いよいよ就任式が近づいてきた時に
中心になってしゃべっていたのも彼だったのだけれど、
いよいよ就任式が近づいてきた時に
中心になってしゃべっていたのも彼だったのだけれど、
そのブリッツァがちょっとした失言をした。
オバマ大統領の就任にはまったく関係ないものの、
私にはとても印象的な失言だった。
私にはとても印象的な失言だった。
歴代大統領が登場に備えて待機場所まで廊下を歩いてくる姿を
屋内のカメラが追っていた場面――。
屋内のカメラが追っていた場面――。
父親の方のW・H・ブッシュ元大統領が妻のバーバラさんと姿を見せた。
元大統領は杖を突き、ちょっと難しそうに歩いていた。
元大統領は杖を突き、ちょっと難しそうに歩いていた。
(バーバラさんが、そんな夫のことなどちっともお構いなしで
自分だけ先にさっさと歩いていったのも印象的だったけど)
自分だけ先にさっさと歩いていったのも印象的だったけど)
それを見たブリッツァ氏、
「ブッシュ元大統領は杖を突いて歩きにくそうですね。ちょっと痛そうです」とコメント。
「ブッシュ元大統領は杖を突いて歩きにくそうですね。ちょっと痛そうです」とコメント。
しかし、その後、放送席に正しい情報が届けられたようで、
いよいよブッシュ元大統領がアナウンスとともに登場する数分前になって、
「腰の手術をして後、杖は使っているが、痛みは全然ないのだそうです」と訂正。
いよいよブッシュ元大統領がアナウンスとともに登場する数分前になって、
「腰の手術をして後、杖は使っているが、痛みは全然ないのだそうです」と訂正。
情報の正しさには神経を使うはずのベテラン・キャスターでも、
こういう間違いというか、思い込みをするんだなぁ……と強烈に印象に残って、
その後のセレモニーの間ずっと考え続けてしまった。
こういう間違いというか、思い込みをするんだなぁ……と強烈に印象に残って、
その後のセレモニーの間ずっと考え続けてしまった。
「体が不自由」という図は、ただそれだけで、
なんと、たやすく「苦痛」を連想させてしまうことか……。
なんと、たやすく「苦痛」を連想させてしまうことか……。
人は誰かの体が自由にならない場面を見ると、
こんなにも無邪気に、なんの疑いもなく、
その人が苦痛を感じているはずだと自動的に思い込んでしまう。
こんなにも無邪気に、なんの疑いもなく、
その人が苦痛を感じているはずだと自動的に思い込んでしまう。
それならば、
「こんなに重い障害を負ったまま生きるなんて本人にとって苦痛なのだから、
死なせてあげるのが本人の利益」だというのも
それと同じことではないという保証もないのでは?
「こんなに重い障害を負ったまま生きるなんて本人にとって苦痛なのだから、
死なせてあげるのが本人の利益」だというのも
それと同じことではないという保証もないのでは?
ただ、そういう人の場合には元大統領とは違って、
アナウンス席まで「この人は痛みなどまったく感じていない」と
正しい情報を届けてくれる人がいないだけで。
アナウンス席まで「この人は痛みなどまったく感じていない」と
正しい情報を届けてくれる人がいないだけで。
2009.01.21 / Top↑
Wesley SmithのブログSecondhand Smokeに
去年11月に住民投票で自殺幇助を合法化することが決まったWashington州での
合法化に向けた法的整備の準備について書かれており、
(実際の法整備検討書類へのリンクもあります)
去年11月に住民投票で自殺幇助を合法化することが決まったWashington州での
合法化に向けた法的整備の準備について書かれており、
(実際の法整備検討書類へのリンクもあります)
自殺幇助を希望する患者から州の保健局への提出が求められることになる
申請書の案が掲載されています。
申請書の案が掲載されています。
自己責任を非常に明確にしたものです。
(……というよりも、自己責任が形式さえ整えばいいといわんばかり?)
(……というよりも、自己責任が形式さえ整えばいいといわんばかり?)
それぞれの文言が適切かどうかは、あまり吟味していませんが、
ざっと訳してみたものを以下に。
ざっと訳してみたものを以下に。
人道的で尊厳のある方法で私の命を終わらせるための投薬要望書
私(ここにサイン)は精神の健全な成人です。
私は(ここに病名を記入)を患っており、主治医はこの病気が不治で不可逆的な終末期であると診断しています。このことは、コンサルタントの医師によっても医学的に確認されています。
私は自分の診断、予後、この申請によって処方される薬の性格とその薬に伴うリスク、期待される結果についても、また緩和ケア、ホスピスケア、傷みのコントロールも含め実現可能な選択肢についても十分な説明を受けました。
私は主治医が薬を処方し直接出してくれるか、処方したうえで出してくれるよう薬局に電話をかけてくれることを求めます。その薬は私が自分で飲み、人道的で尊厳のある方法で私の命を終わらせます。
(次の中から1つを選ぶ)
私は私の決断を家族に知らせ、家族の意見を考慮しました。
私は私の決断を家族には知らせないことに決めました。
私には私の決断を知らせるべき家族はありません。
この要望はいつでも取り下げることができることを私は理解しています。私はこの要望の意味するところを十分に理解しており、処方される薬を飲めば死ぬことも分かっています。たいていの場合、死は3時間以内に起こるものの、私の場合にはそれ以上にかかる可能性があることを理解しています。その可能性については主治医からカウンセリングを受けました。
私は自分の意思によってこの要望を行うものであり、ためらいはありません。また私の行いの道徳的責任は全面的に私にあります。
署名、住居している郡、日付
私(ここにサイン)は精神の健全な成人です。
私は(ここに病名を記入)を患っており、主治医はこの病気が不治で不可逆的な終末期であると診断しています。このことは、コンサルタントの医師によっても医学的に確認されています。
私は自分の診断、予後、この申請によって処方される薬の性格とその薬に伴うリスク、期待される結果についても、また緩和ケア、ホスピスケア、傷みのコントロールも含め実現可能な選択肢についても十分な説明を受けました。
私は主治医が薬を処方し直接出してくれるか、処方したうえで出してくれるよう薬局に電話をかけてくれることを求めます。その薬は私が自分で飲み、人道的で尊厳のある方法で私の命を終わらせます。
(次の中から1つを選ぶ)
私は私の決断を家族に知らせ、家族の意見を考慮しました。
私は私の決断を家族には知らせないことに決めました。
私には私の決断を知らせるべき家族はありません。
この要望はいつでも取り下げることができることを私は理解しています。私はこの要望の意味するところを十分に理解しており、処方される薬を飲めば死ぬことも分かっています。たいていの場合、死は3時間以内に起こるものの、私の場合にはそれ以上にかかる可能性があることを理解しています。その可能性については主治医からカウンセリングを受けました。
私は自分の意思によってこの要望を行うものであり、ためらいはありません。また私の行いの道徳的責任は全面的に私にあります。
署名、住居している郡、日付
The Death Bureaucracy Begins in Washington State
Secondhand Smoke: Your 24/7 Seminar on Bioethics and the Importance of Being Human
January 16, 2009/01/20
Secondhand Smoke: Your 24/7 Seminar on Bioethics and the Importance of Being Human
January 16, 2009/01/20
標題の「死の事務手続き」とは
Smith氏のブログエントリーのタイトルをそのままもらったものですが
原語のbureaucracyには「官僚主義的な」というニュアンスがあります。
Smith氏のブログエントリーのタイトルをそのままもらったものですが
原語のbureaucracyには「官僚主義的な」というニュアンスがあります。
この申請書を読むと、まさにぴったりの表現なので
つい、そのままパクらせてもらいました。
つい、そのままパクらせてもらいました。
ごめんなさい、Smithさん。
【関連エントリー】
WA州、自殺幇助でOregonに続くか?(2008/6/28)
WA州の安楽死法案11月投票でCM合戦(2008/10/7)
WA州、自殺幇助合法化決定:Oregonに続き米国で2番目(2008/11/7)
WA州、自殺幇助でOregonに続くか?(2008/6/28)
WA州の安楽死法案11月投票でCM合戦(2008/10/7)
WA州、自殺幇助合法化決定:Oregonに続き米国で2番目(2008/11/7)
その他、米国Oregon州や、
スイスのDignitasクリニックでの自殺幇助などに関するエントリーは
「尊厳死」の書庫に。
スイスのDignitasクリニックでの自殺幇助などに関するエントリーは
「尊厳死」の書庫に。
2009.01.21 / Top↑
| Home |