著者のRobert Fortnerという人物は元マイクロソフトの社員で
こちらのエントリーで紹介した記事を書いた去年の夏には
Bill Gatesが科学研究にかける熱意がいかにすばらしいかについて本を執筆中で、
こちらのエントリーで紹介した記事を書いた去年の夏には
Bill Gatesが科学研究にかける熱意がいかにすばらしいかについて本を執筆中で、
記事のトーンもまるで
「世界の帝王たるGates様はこんなにも世界のみんなの健康を案じてくださっているぞ」だった。
「世界の帝王たるGates様はこんなにも世界のみんなの健康を案じてくださっているぞ」だった。
今回見つけた上記記事の著者紹介によると、
あの本は書き上げて無事に出版したらしい。
あの本は書き上げて無事に出版したらしい。
そのFortner氏がIHMEの研究結果について
前のエントリーで読んだWashington大学の記事とはまた別のトーンで書いているのが、
もう、ぞくぞくするほど面白い。
前のエントリーで読んだWashington大学の記事とはまた別のトーンで書いているのが、
もう、ぞくぞくするほど面白い。
まず、前の時もそうだったけど、
FortnerはIHMEがゲイツ財団の私的研究機関だという事実をまるで隠そうとしない。
というか、IHMEの存在そのものがゲイツ財団の中に位置づけられていて
Fortner自身はGates氏に自己同視して文章を書いているので
IHMEだろうが所長のMurrayだろうがLancet だろうが、みんな上から目線。
ここが、なんとも楽しい記事なのですね。
FortnerはIHMEがゲイツ財団の私的研究機関だという事実をまるで隠そうとしない。
というか、IHMEの存在そのものがゲイツ財団の中に位置づけられていて
Fortner自身はGates氏に自己同視して文章を書いているので
IHMEだろうが所長のMurrayだろうがLancet だろうが、みんな上から目線。
ここが、なんとも楽しい記事なのですね。
そのFortner氏が上から目線で分析するところによると、
5月にLancetが「ゲイツ財団はグローバル・ヘルスのために何をしたのか」と問うた、
その答えが今回のIHMEの研究報告である。
5月にLancetが「ゲイツ財団はグローバル・ヘルスのために何をしたのか」と問うた、
その答えが今回のIHMEの研究報告である。
何をしたかって、
ゲイツ財団が呼びかけて、自らも多くを拠出したからこそ
(ピークは2007年の12億5000万ドル)
途上国への医療援助は10年間で4倍にもなったのである。
ゲイツ財団が呼びかけて、自らも多くを拠出したからこそ
(ピークは2007年の12億5000万ドル)
途上国への医療援助は10年間で4倍にもなったのである。
しかし、その弊害として
The Global Vaccine Access Initiative(GAVI)と
The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malariaという
2大・超金持ち組織が出現してしまった。
The Global Vaccine Access Initiative(GAVI)と
The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malariaという
2大・超金持ち組織が出現してしまった。
それまで世界の医療を牛耳ってきたWHO、UNICEFや世界銀行も
一応そこに理事としてゲイツ財団と一緒に名前は連ねているけれども、投票権はないし
この2つは基本的にWHOなどの国際機関からの影響力を排除した組織である。
一応そこに理事としてゲイツ財団と一緒に名前は連ねているけれども、投票権はないし
この2つは基本的にWHOなどの国際機関からの影響力を排除した組織である。
今やWHOもUNICEFも「資金をくだせぇ」と頭を下げては
援助の対象たる途上国を相手に、資金を奪い合わなければならない事態となっている。
昔、有力政府とつるんでブイブイ言わしたガバナンス能力など、もう残っちゃいない。
援助の対象たる途上国を相手に、資金を奪い合わなければならない事態となっている。
昔、有力政府とつるんでブイブイ言わしたガバナンス能力など、もう残っちゃいない。
そこで今こそ脚光を浴びるのがIHMEなのだ。
当初は科学者らから「ゲイツは自前のWHOを作るつもりか」と批判されたし
Murrayの医療経済学理論(これがDALY)も以前はあちこちで冷や飯を食わされてきたが
国際機関がガバナンスを失った現在、
ゲイツ財団が資金を出してIHMEを設立しMurrayを所長に招いて
科学的に医療援助のコストパフォーマンスを点検し
アカウンタビリティを追求しようとしていることは
Murrayの医療経済学理論(これがDALY)も以前はあちこちで冷や飯を食わされてきたが
国際機関がガバナンスを失った現在、
ゲイツ財団が資金を出してIHMEを設立しMurrayを所長に招いて
科学的に医療援助のコストパフォーマンスを点検し
アカウンタビリティを追求しようとしていることは
まさに、先見の明による偉業でなくしてなんだろう(とは、さすがに書いていないけど)。
そればかりか、この不況の折だというのに、
ゲイツ様は自らの痛みも省みず、さらなる増額にまで踏み切られたのだぞ。
ゲイツ様は自らの痛みも省みず、さらなる増額にまで踏み切られたのだぞ。
なんと、すばらしい我らが将軍さま……。
(いや、実際にそう書いてるわけじゃないですけどね、本当に、こんなトーンなんですってば)
(いや、実際にそう書いてるわけじゃないですけどね、本当に、こんなトーンなんですってば)
でね、私、思うに、
トランスヒューマニズムが実は米国政府の夢であったり、
予防医学という名前の科学とテクノ万歳文化の洗脳が起こっていたり、
欧米を中心に無益な治療概念がじわじわ広がっていたり、
自殺幇助の合法化も着実に実現されていっていたり、
科学とテクノと無益な治療法と尊厳死とあらゆるものが
障害児・者を産まないこと、切り捨てることに繋がっていたり、
予防医学という名前の科学とテクノ万歳文化の洗脳が起こっていたり、
欧米を中心に無益な治療概念がじわじわ広がっていたり、
自殺幇助の合法化も着実に実現されていっていたり、
科学とテクノと無益な治療法と尊厳死とあらゆるものが
障害児・者を産まないこと、切り捨てることに繋がっていたり、
もっといえば、
日本で臓器移植法改正 A案があっさり可決されてしまったり、ということも、
日本で臓器移植法改正 A案があっさり可決されてしまったり、ということも、
実はみ~んな、
この慈善ネオリベ・医療グローバリズムとでもいうべき
広くて大きな傘の中で起こっているんじゃないのかなぁ……と。
この慈善ネオリベ・医療グローバリズムとでもいうべき
広くて大きな傘の中で起こっているんじゃないのかなぁ……と。
グローバル経済で起こったことをグローバル・ヘルスが後追いする形で――。
2009.06.20 / Top↑
当ブログがゲイツ財団の私的研究機関だと捉えているWashington大学のIHMEが
例によってGlobal Health Network のパートナーである Lancetに発表した
新たな研究によると、
例によってGlobal Health Network のパートナーである Lancetに発表した
新たな研究によると、
民間からの史上初めての援助資金の増大を受けて
開発途上国への保健医療の援助資金の総額は1990年の56億ドルから
2007年の218億ドルへと、10年間で4倍に膨らんだ。
開発途上国への保健医療の援助資金の総額は1990年の56億ドルから
2007年の218億ドルへと、10年間で4倍に膨らんだ。
しかし、
必ずしも最も貧しく最も病気が多発している国に最も多く届いているわけではなく、
既に経済大国となったインドと中国にまで援助が行われている。
必ずしも最も貧しく最も病気が多発している国に最も多く届いているわけではなく、
既に経済大国となったインドと中国にまで援助が行われている。
またエイズ対策に多くの資金が流れている一方で、
結核とマラリア対策にはその3分の2しか回っていないなど、
説明のつかない不均衡が見られ、配分がうまくいっているとはいえない。
結核とマラリア対策にはその3分の2しか回っていないなど、
説明のつかない不均衡が見られ、配分がうまくいっているとはいえない。
これは、グローバル・ヘルス資金が増大しているにも関わらず
民間からの慈善によって集められた資金であるために
誰もきちんとトラッキングを行ってこなかったことによるものであり、
民間からの慈善によって集められた資金であるために
誰もきちんとトラッキングを行ってこなかったことによるものであり、
「これまで数えた人のない金をきちんと系統的に数えてみようとする今回のような試みによって、
保健医療の資源は透明度を増し、より有効活用されるようになると思います」と
IHMEの所長 Dr. Christopher Murray。
保健医療の資源は透明度を増し、より有効活用されるようになると思います」と
IHMEの所長 Dr. Christopher Murray。
ちなみに、この研究によると
最も大きな額の資金提供をしているのは米国政府と米国拠点の民間チャリティで
2007年全体の医療開発援助の半分以上を拠出。
最も大きな額の資金提供をしているのは米国政府と米国拠点の民間チャリティで
2007年全体の医療開発援助の半分以上を拠出。
歳入に占める割合でいくと
スウェーデン、ルクセンブルグ、ノルウェイ、アイルランドに続いて米国が5位。
(結構小さな国が上位を占めているといるのに胸を打たれた……)
スウェーデン、ルクセンブルグ、ノルウェイ、アイルランドに続いて米国が5位。
(結構小さな国が上位を占めているといるのに胸を打たれた……)
ゲイツ財団からの資金はもちろん民間財団としてはトップで
全体のほとんど4%に達している。
全体のほとんど4%に達している。
Global health funding soars, boosted by unprecedented private giving
University of Washington – Health Science/UW News, Community Relations & Marketing, June 18, 2009
University of Washington – Health Science/UW News, Community Relations & Marketing, June 18, 2009
ただし、これは、当のWashington大学のサイトからの情報であることに注意。
でね、
その世界中のグローバル・ヘルスの財布の管理を
なんでゲイツ財団の私的研究機関に等しいIHMEが
勝手に担ってしまおう……という話になるのかなぁ……。
その世界中のグローバル・ヘルスの財布の管理を
なんでゲイツ財団の私的研究機関に等しいIHMEが
勝手に担ってしまおう……という話になるのかなぁ……。
もう1つ、ちょっと分からないなぁ、と思うのは
ゲイツ財団から直接的に開発途上国への医療支援に流れていくお金は
医療支援全体の4%かもしれないけど、
ゲイツ財団から直接的に開発途上国への医療支援に流れていくお金は
医療支援全体の4%かもしれないけど、
このIHMEの研究資金やシアトル子ども病院の死産・早産撲滅運動その他キャンペーンはもちろん、
マラリア治療の研究機関やAIDSの研究機関や、その他、
もう世界中の科学・医学研究のネットワークに
人体にくまなく届けられていく血液のように浸透しているわけですね。
マラリア治療の研究機関やAIDSの研究機関や、その他、
もう世界中の科学・医学研究のネットワークに
人体にくまなく届けられていく血液のように浸透しているわけですね。
世界中の科学・医学研究に費やされる資金の総額なんて
どこかで分かるのかどうか知らないけど、
その中に占めるゲイツ財団の資金もなかなかバカにならないはず。
どこかで分かるのかどうか知らないけど、
その中に占めるゲイツ財団の資金もなかなかバカにならないはず。
というか、実際の金額や資金の割合そのものよりも、
一慈善家が世界中の医療施策にここまで直接的に間接的に影響できる事態が
既にできてしまっていることそのものが、
一慈善家が世界中の医療施策にここまで直接的に間接的に影響できる事態が
既にできてしまっていることそのものが、
いいの、本当に、そういうので──?
慈善だから、愛があってやることだから、いいの──?
思いやりにあふれた立派な行いだから、いいの──?
思いやりにあふれた立派な行いだから、いいの──?
なんだか、この世の中、
愛や思いやりが、どんどん怖いものになっていく気がするんだけど。
愛や思いやりが、どんどん怖いものになっていく気がするんだけど。
2009.06.20 / Top↑
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