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なぜかNorman Fostには著書がないのですが、
論文の中にはamazon.comで電子版として購入できるものがあります。

amazonの概要から分かる範囲で以下に、
     
Organs from anencephalic infants: an idea whose time has not yet come: An article from: The Hastings Center Report (October 1, 1988)

移植を待っている多くの子どもたちを救えるとして
無脳症児からの臓器摘出を提唱するものですが、
死が確実に差し迫っていて「おそらくは」痛みも不快も分からないのだから、
臓器を摘出しても無脳症児の利益を冒すことにはならないとか
無脳症児の親こそ、このような臓器移植が自分たちの利益にかなうと考えている、と
いかにもFostらしい強弁を展開している様子。



事故で脳死になった女性が妊娠していたことから
胎児が充分な大きさに育つまで生命維持装置に繋いで出産させたという
実際にあったケースについて論じたもの。

どういう論調なのかはamazonの概要からはうかがうことはできませんが、つい頭に浮かぶのは、
植物状態の女性の身体をクローン胚のブリーディング・タンクとして利用しようというSF小説の話や、
意識がない患者の身体を摘出臓器の保存庫として使おうという話が現に倫理学者の間から出ている事実。
(詳細は脳死の次は植物状態死?のエントリーに)



これは書評で、とりあげているのは、
同年1月にペンシルバニア大学の生命倫理学者 Arthor Caplan が出した
Am I My Brother’s Keeper? : The Ethical Frontiers of Biomedicineという本。

Caplanはこの中で最先端医療を巡る生命倫理のジレンマについては、
集団として検討し合意する必要があると主張している模様で、
それをFostは揶揄または扱き下ろしているものと思われます。

ちなみに“Ashley療法”論争においては
Caplanは批判の、Fostは擁護のそれぞれ最先鋒でした。



遺伝子工学について、具体的には
デザイナー・ベイビー、クローニング、遺伝子テクノロジーで作る薬物の利用、
そして、これぞTHニストの本領発揮、遺伝子操作によって人間の形質を強化することについて。
(もちろん、正当化しているはず。)
     


遺伝子工学の定義と解説。(解説に偏りがないとは思えませんが。)
2008.05.17 / Top↑
(このエントリーは前回の続きになっています。)

最相葉月の「いのち 生命倫理に言葉があるか」には
98年11月5日の国際生命倫理サミットでJulian Savulescuが物議を醸した翌6日、
世界で初めてヒトの受精卵からES細胞を取り出し増殖に成功したとの
大ニュースが飛び込んできた衝撃が書かれています。(P.93)

成功させたのは周知のようにウィスコンシン大学のThomson教授チーム。
その後10年間に渡って世界中に倫理論争を巻き起こしたヒトES細胞研究のスタートでした。

去年、京都大学の山中教授チームがiPS細胞を作って
万能細胞はヒト胚を破壊しなくても作れることを証明し
倫理上の論争は一応の収束を見ましたが、

その直後に同様の万能細胞を作ったと発表したのも、
現在、山中教授チームをものすごい勢いで追いかけている、
もしかしたら既に追い越しているかもしれないといわれるのも
やはりウィスコンシン大学のThomson教授チーム。

日本ではNorman Fostの名前はほとんど知られていないようですが、
実はウィスコンシン大学の小児科医であると同時に生命倫理学者であるFostは
これらのニュースに大きなかかわりを持っています。

サルのES細胞を取り出すことに成功した段階で、
ヒト胚で試みることの倫理性に疑問を抱いていたThomsonは
直接Fostに相談を持ちかけ、ヒト胚からES細胞を作ることについて
世論の受け止め方などを2人で検討したというのです。
Thomson自身がこのエピソードを去年NY Timesのインタビューで語っています。

世界で初めてヒト胚から研究目的でES細胞を作るという行為の背中を押した倫理学者は、
ほかならぬNorman Fostだったのです。

Fost は数々の生命倫理関連の賞を受賞しており、
現在はFDAの小児科研究倫理検討委員会委員長でもあります。

今年のシアトル子ども病院生命倫理カンファのサイトのプロフィールから
遺伝子診断に関連した役職を拾ってみても、

・米国科学アカデミーのメンバーとして報告書「遺伝スクリーニング(1975)」、「遺伝リスク評価(94)」に関与。
・技術評価局の嚢胞性線維症(CF)のスクリーニング委員会・委員長(91)
・米国ヒト遺伝学会保険問題委員会・副委員長(92)
・同学会・CF患者スクリーニング委員会メンバー(92)
・NIHのCFへテロ接合体スクリーニング研究班メンバー(92)
・Marshfield個別医療研究プロジェクトの倫理・安全advisory board 委員長(現在)
・ウィスコンシン発症前CF治療・新生児スクリーニング研究に参加(不明)

去年のシアトル子ども病院生命倫理カンファレンスにおいて
「障害新生児? 治療を停止して何が悪い?
 無脳症児なんて、QOLの価値すら理解できないじゃないか」
と冷笑を浮かべて言い放ったFost――。

彼の数々の発言には、会場から批判的な受け止めも感じられたものの、
批判的な意見を提示する人があくまで低姿勢だったのは
やはりFostがそれだけ小児科の医療倫理の分野において
権力者だからではないでしょうか。

Norman Fostが94年には
Clinton大統領のHealth Care Task Forceにも参加していたことを考えると
宗教右派への配慮で保守的になっているBush政権の下で冷や飯を食っているだけなのかもしれず、

(あまりに言うことが極端なので
 ついていけない人が多いためなら、それが何よりなのですが。)

いずれにせよ、ウィスコンシン大学にNorman Fostあり。
日本でももう少し注目しておいた方がよいかも……?


【関連エントリー】
Norman Fostについては非常に多くのエントリーがあるので
途中で一度まとめています

Norman Fostという人物のエントリーから辿ってください。

それ以降に書いた Fost 関連エントリーは

2008.05.17 / Top↑
最相葉月の「いのち 生命科学に言葉はあるか」(文春新書)を読んで、
ものすごく密度の濃い本で面白かったし勉強になったし、
考えたことも言いたいこともいっぱいあるのだけれど、
ありすぎて、すぐには整理がつかないところもあるので
そちらは置いておくとして、

この本を読んでいる途中で
「えっ?」と思わず声を出し、ガバと起き上がってしまった箇所があるのです。

まさか、こんなところでその名前を見るなんて思ってもいなかった……。
Ashley療法に関する資料を追いかけて当ブログで何度かとりあげた、あのJulian Savulescu。

この本によると1998年11月5日、
新宿・市谷で日本が議長国となって行われた国際生命倫理サミットに彼は来ていたのですね。
しかも挑発的な発言で会場を騒然とさせたとのこと。

以下の2つのケースを提示して、いずれも
「自分の細胞なのだからクローン技術を利用する権利がある」と主張したといいます。

①白血病患者が自分の皮膚細胞から骨髄細胞を作る
②損傷を受けた脳機能を再生するために受精後19週以内の自分のクローン胎児を中絶し、その脳を自分の脳に移植する

そして会場から強い批判が起こると、
「理性的な反論ならいいが、道徳的に問題だという感情的な反論は受け入れられない」と
突っぱねたとのこと。

(この時のことを誰か他の方が何か書いておられるかと検索してみたのですが、
最相氏が書かれたもの以外にはヒットしませんでした。)

いかにも攻撃型のSavulescuらしいエピソードです。
この本によると98年当時のSavulescuは
オーストラリア王立小児病院マードック研究所に所属していたようです。

現在はOxfordに行って、かの地にthe Oxford Uehiro Centre of Practical Ethicsを創設し、
そのディレクターになっています。
またthe Melbourne-Oxford Stem Cell Collaborationのディレクター。
2005年10月10日のthe Guardianのインタビューでは
既にOxford’s leading ethicistと紹介されおり、
98年当時に日本で披露したトランスヒューマニスティックな価値観を世界のスタンダードにすべく
現在も着々と活躍中です。

当ブログがSavulescuに行き当たったのは
明らかにトランスヒューマニストと思われる人物を含む2人との共著で
Hastings Center ReportにAshley療法擁護の論文を書いていたことからでした。
擁護しているのは成長抑制の部分のみですが、
その論文にチラついているTHニズムの匂いが気になったので調べてみたら、
Savulescuは自分ではそう名乗ってはいませんがコテコテのTHニスト。
そう呼んで悪ければ、たいそう急進的な生命倫理の論客。

これまで当ブログで触れてきた彼の主張の詳細は
末尾の【関連エントリー】を参照してほしいのですが、簡単にいえば
「薬物やテクノロジーを駆使して人間のライフを強化しよう」。

だから彼にとっては
着床前遺伝子診断で病気や障害を持った胚を排除するのは
子どもをいい学校に入れたり栄養に気をつけて食事をさせるのと同じことであって
何も悪くない、親としては当たり前の望みであり、子どもに対する責任ですらある。
自己選択なのだからナチスの優生思想とは違う。

(このような主張に対しては、
ナチスの精神障害者安楽死も法律上は自己選択の形をとっていたと
小松美彦氏他が指摘しておられるようです。)

またスポーツ選手が能力増強のために薬物を使うのもSavulescuらに言わせれば
ハイテク水着を開発したり、ハイテクを駆使してトレーニングするのと同じで、
自己選択で行うことなのだから、かまわない。

ともともトランスヒューマニストの考え方の基本には
自分の身体は自分の所有物でどうしようと自己選択・自己責任だという認識があり、
それは以前紹介した世界トランスヒューマニスト協会のAnne Cowinのエッセイ
「体と中身が釣り合っていなければならないというA療法擁護の主張はTHニズムに反する。
自分は猫の身体になりたいといって猫の身体になるのはTHニズムでは自由だったはず」
という部分がそれを端的に表しています。

98年の日本でのSavulescu発言も「自分の細胞なのだから」というところが
彼にすれば自己決定権を盾に取った発言だったのでしょう。

人を小バカにした挑発的な口調で極論を“教示”して
批判に対しては即座に高圧的に撥ね付ける……。
最相氏が書く国際生命倫理サミットでのSavulescuの姿は
当ブログがずっと注目してきたNorman Fostとそっくりなのですが、

実はSavulescuとFostとは揃ってスポーツでの薬物解禁論者として有名です。
今年1月にNYで行われたドーピングを巡るディベートにも
解禁派の3人の内の2人として顔をそろえています。

そして、非常に興味深いことに、
この本の中にはNorman Fostの名前は直接的には出てこないものの、
Savulescuの発言が紹介されているページ(P.92、93)は
実はそのままNorman Fostに繋がっていくのです。

これについては、長くなるので次回のエントリーで。

【関連エントリー】

2008.05.17 / Top↑