2ntブログ
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10月3日には、英国で過去5年間に生まれた新生児の半数が100歳まで生きる、という研究、
12日には、先進国で生まれている半数以上が100歳まで生きるという研究が出てきたのは、
それぞれ当ブログの補遺でも拾っていますが、

そういう子どもたちが、その100歳までを50歳以降もアクティブに生きるために、
関節、皮膚、血管、心臓弁、その他の人体パーツがくたびれてきた時に
簡単にお取替えが可能となるよう

英国最大のバイオ工学の研究ユニットがあり、
人工関節置換術では世界のリーダーであるLeeds大学を中心にした
バイオテクノロジーの研究プロジェクトに、

全英の各種研究団体、チャリティ、企業から
総額で5000万ポンドの資金が集まった、とのこと。

研究の要点は、置き換えの際に拒絶反応をいかに抑えるか、という点。



高齢者人口の増加が社会保障費を押し上げているのが大きな社会問題だから
高齢者は病気になったらコストのかかる医療も介護も求めず、
自己決定によって、手も金もかからない死を自己選択するように……というプレッシャーが
どんどん強くなっている一方で、

こういうトランスヒューマニスティック(TH)な科学とテクノが
長生き、長生き、と不老不死に血道を上げていることに矛盾したものを感じて、
ずっと頭をひねっていたのだけど、

最近、ようやく分かってきた。

「みんなで、もっと健康に、もっと頭がよくなって、もっと長生きしようぜ」という
THな夢のメッセージは、全面的に元気な病気・障害フリーの高齢者しか念頭においていない。

「みんなで、150歳まで長生きしようぜ」というTHニストたちのお誘いは
病気・障害のない、または科学とテクノで修正可能な病気と障害のある人にだけ向けられている。

(あ、たぶん、修正不能でも、科学とテクノ研究に寄与できる病気と障害は別)

そういうメッセージが誘っている未来社会というのは、
この先もみんなと一緒に生きていく資格の基準を
「自己責任で健康と自立・自律を維持していること」に置く、
病気と障害に対するゼロ・トラレンスの社会なのだということが。
2009.10.21 / Top↑
18日の以下のエントリーで取り上げた認知症患者の終末期ケアについての論文を
NY Timesが取り上げているのだけど、



ここでもまた認知症は”a progressive, terminal disease“だと表現されているから驚く。

「進行性で、やがて死に至る病気」というつもりなのかもしれないけれど、
「ターミナルな病気」というと、まるで、認知症になったとたんに既にターミナルな状態にあるみたいだ。

こういう表現が本当に適切なんだろうか。

いつのまにメディアは、こんな用語を
こんなにもお気楽に使いまわすようになったんだろう。

記事の冒頭では
「どこの病院でも集中治療室に行ってみたら、認知症末期の患者さんたちが
人工透析をやりながら呼吸器につながれているとか、
予防医療だとして腸の内視鏡検査をやられたり
骨粗しょう症やコレステロールを下げる薬を飲まされている」という話が紹介され、

認知症が認知・精神の病気だと思い込まれて
身体症状も進行するのだということが家族に理解されていないために
こんな本人のためにならない過剰な医療が行われているのだから、

Lancetに発表されたDr. Mitchellの論文が主張するように
みんなで認知症はターミナルな病気なのだとちゃんと理解して、
家族は罪悪感を持たずに無益な医療は拒みましょう、という展開。

しかし認知症の末期で寝たきりになった患者さんに
腸の内視鏡検査をやったり、骨粗しょう症やコレステロールの薬を飲ませているなら
それは認知症の終末期ケアの問題というよりも医療サイドの良識の問題であり、

患者家族が認知症の身体症状を理解していないというよりも、
病院側、医師側が理解していない、または理解していないフリをして
ゼニ儲けのために物言えぬ患者と医療に疎い家族を搾取しているだけ。
そんなの、論外のケースなんじゃないでしょうか。

逆に、そこにこそ、
医療費を増大させているは本当に高齢者の終末期ケアそのものなのか、という疑問を
私はまた感じてしまうのだけど。


この記事の唯一の慰めは、もう一本のSachs医師の論説にも後半で触れてあること。

特に最後に引用されているSachs医師の言葉は印象的で、

アグレッシブな医療か医療を全然しないかの2者択一の話ではないのです。

緩和ケアはアグレッシブに、細やかに、症状管理に重点を置いて、
患者と家族のサポートをします。

良質なケアを減らすことが緩和ケアではありません。


──それ、Mitchell医師やNIHに向かって、大きな声で言ってあげてください。



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Mitchell論文を巡る、こうしたメディアの論調に、
共和党系のサイトが「ほら、高齢者、障害者、重病人は無益な治療を拒んで死ねと言われるぞ」と
民主党の医療保険制度改革の陰謀のように書いている。

ここを重ねられると、背景の知識を欠いた私には話がよく分からなくなるのだけど、

確かにObama政権が医療費削減の方途として重視している科学とテクノの価値観に
そうした功利主義が潜んでいるような懸念は私自身にもある一方で、

価値観全体としては、共和党の価値観の方が
本質的には弱者切捨ての自己責任論に傾斜しているように思えるし。

いずれにしても、
「無益な治療」概念やDALYやQALYというのはObama大統領になってから出てきたわけじゃなくて、
もう何年も前から、大きな流れができつつあって、その勢いがどんどん加速しているだけだとも思う。

じゃぁ、誰がやらせているのかといえば、
やっぱり、この流れと勢い、もう国家がどうこうできるようなナマやさしい勢力じゃないということ──?


‘Experts’ offer chilling future
The Republican American, October 20, 2009
2009.10.21 / Top↑