たぶん、Bioethics誌の最新号なのだと思うのですが、Diekema医師が
Ashleyケースへの批判に反駁する論文を書いているようです。
Ashleyケースへの批判に反駁する論文を書いているようです。
タイトルは
Ashley Revisited: A Response to the Critics
Ashley Revisited: A Response to the Critics
Ashleyケースでは、
両親と医師の決定と、それを支持した病院倫理委員会に対して、
多くの人や団体から批判が起きた。
その中には、全く事実を捻じ曲げていたり、誤解に基づくものもあったが、
中には重要な懸念もあった。
この論文の目的はAshleyケースを簡単に振り返り、
指摘された問題を検討し、
Ashleyに行われた治療が非倫理的である可能性を指摘する
25の論点を取り上げる。
そして、こうした懸念は重要ではあるものの、
Ashleyに行われた介入が本人の最善の利益に反すると考えるには十分ではない。
したがって、慎重に選別した患者に将来的に同様の療法が行われてはならないとする
論拠としても十分ではない、と結論する。
両親と医師の決定と、それを支持した病院倫理委員会に対して、
多くの人や団体から批判が起きた。
その中には、全く事実を捻じ曲げていたり、誤解に基づくものもあったが、
中には重要な懸念もあった。
この論文の目的はAshleyケースを簡単に振り返り、
指摘された問題を検討し、
Ashleyに行われた治療が非倫理的である可能性を指摘する
25の論点を取り上げる。
そして、こうした懸念は重要ではあるものの、
Ashleyに行われた介入が本人の最善の利益に反すると考えるには十分ではない。
したがって、慎重に選別した患者に将来的に同様の療法が行われてはならないとする
論拠としても十分ではない、と結論する。
この論文には、広く一般からのレスポンスの応募がついています。
詳細は上記、What Sorts ブログの記事に。
詳細は上記、What Sorts ブログの記事に。
【10月6日追記】
その後、この論文のフルテキストをある方からいただいたところ、
今年4月のBioethics誌に掲載の論文であることが分かりました。
2009.10.01 / Top↑
オーストラリアの法律事務所が9月号のニュースレターで
オーストラリアでも「成長抑制を求める親の声が増えそうな話を聞くので」として、
オーストラリアでも「成長抑制を求める親の声が増えそうな話を聞くので」として、
障害児に成長抑制を行おうとする可能性のある医師に向けて法律的な分析を行い、
親からの要望を受けたら、まずその倫理性について慎重に検討すること、
仮に、成長抑制を倫理的に妥当と考えるとしても、
やりますと親に同意する前に必ずきちんとした法的な手続きを踏んで、
法的に有効な許可を得るように、とアドバイスしています。
親からの要望を受けたら、まずその倫理性について慎重に検討すること、
仮に、成長抑制を倫理的に妥当と考えるとしても、
やりますと親に同意する前に必ずきちんとした法的な手続きを踏んで、
法的に有効な許可を得るように、とアドバイスしています。
こういうものが出てくるとなると、
米国とオーストラリアでは、もう止めようがないのでしょうか。
米国とオーストラリアでは、もう止めようがないのでしょうか。
やっぱり英語圏から崩れていくのかなぁ……。
すると、たぶん、カナダも、そのうちには英国も……?
すると、たぶん、カナダも、そのうちには英国も……?
一方、この記事は、
障害児・者の尊厳に影響する医療決定を巡るオーストラリアの法律的な考え方とか
制度が分かりやすく説明されていて、たいそう興味深いものとなっています。
障害児・者の尊厳に影響する医療決定を巡るオーストラリアの法律的な考え方とか
制度が分かりやすく説明されていて、たいそう興味深いものとなっています。
コモン・ロー的には、子どもが自分で判断できない年齢の場合には
親が子どもの医療に同意することが出来るとされるものの、
親が子どもの医療に同意することが出来るとされるものの、
その範囲に含まれず、裁判所の同意を必要とする「特殊なケース」があり、
それには、
1992年に14歳の知的障害のある女児Marionさんの不妊手術の判例が
1つのスタンダードとなっているようです。
1992年に14歳の知的障害のある女児Marionさんの不妊手術の判例が
1つのスタンダードとなっているようです。
この判例が設定した「特殊なケース」として裁判所の同意が必要なものとする基準は以下の2点で
・子どもの同意能力または同意できない子どもの最善の利益に関して
誤った判断がされる重大なリスクがある。
誤った判断がされる重大なリスクがある。
・誤った判断がされた場合に重大な結果を招く。
具体的には、不妊手術のほかに、性転換手術、骨髄提供、ホルモン治療、妊娠中絶など。
この法律事務所の分析では、
成長抑制も不可逆であり、子どもに重大で永続的な影響を及ぼすので、
これら裁判所の同意を必要とする「特殊なケース」に含まれる、と判断します。
成長抑制も不可逆であり、子どもに重大で永続的な影響を及ぼすので、
これら裁判所の同意を必要とする「特殊なケース」に含まれる、と判断します。
ちょっと面白いのは、New South Wales(NSW)の子どもの権利擁護には
2つの法律があることで、
2つの法律があることで、
1つは1975年のthe Family Low Act。
子どもの福祉に関わる命令を出す一般的な権限が家庭裁判所に付与されており、
Marion判例に基づいて親の同意が有効でないとされるケースでの医療判断にも
この権限が及ぶと理解されています。
子どもの福祉に関わる命令を出す一般的な権限が家庭裁判所に付与されており、
Marion判例に基づいて親の同意が有効でないとされるケースでの医療判断にも
この権限が及ぶと理解されています。
一方、1998年のthe Children and Young Persons (Care and Protection)Actでは
まずNSWガーディアンシップ委員会の同意を得た上でなければ
16歳以下の子どもの「特別な医療」を行ってはならないとされています。
(ただし緊急の場合は除く)
まずNSWガーディアンシップ委員会の同意を得た上でなければ
16歳以下の子どもの「特別な医療」を行ってはならないとされています。
(ただし緊急の場合は除く)
ここで「特別な医療」とされるものは、
・子どもを永久に不妊とする意図で行われる、または結果的に永続的に不妊とするもの。
(命に関わる病気の治療、または治療の結果そう望んだわけではなく不妊となったものを除く)
・避妊や生理のコントロールのために長期間にわたってホルモン注射を行うこと。
・精管切除または卵管閉鎖。
・中毒性のある薬の使用。
・実験的な処置を含む、ある種の治療。
・入所施設における、子どもの行動制御目的での精神病薬の使用。
(命に関わる病気の治療、または治療の結果そう望んだわけではなく不妊となったものを除く)
・避妊や生理のコントロールのために長期間にわたってホルモン注射を行うこと。
・精管切除または卵管閉鎖。
・中毒性のある薬の使用。
・実験的な処置を含む、ある種の治療。
・入所施設における、子どもの行動制御目的での精神病薬の使用。
ガーディアンシップ委員会の同意を必要とする条件は
「子どもの最善の利益」よりも制約度が高いとの指摘が興味深いところです。
「子どもの最善の利益」よりも制約度が高いとの指摘が興味深いところです。
しかし、この2つの制度が並立していることは、
医師が自分のやりたい治療によって許可を得やすい方を選んで申請することも
可能になる、との指摘もあります。
医師が自分のやりたい治療によって許可を得やすい方を選んで申請することも
可能になる、との指摘もあります。
この記事の分析によると、
成長抑制は98年法の定める「特殊な医療」の範疇には入らないので、
ガーディアンシップ委員会の同意を取り付ける必要は法的にはないものの、
Marion判例で規定される原理では裁判所の同意を必要としていることになります。
成長抑制は98年法の定める「特殊な医療」の範疇には入らないので、
ガーディアンシップ委員会の同意を取り付ける必要は法的にはないものの、
Marion判例で規定される原理では裁判所の同意を必要としていることになります。
―――――――
16歳以下の子どもの骨髄提供が
ガーディアンシップ委員会の同意を必要とする「特殊な医療」に含まれていること。
ガーディアンシップ委員会の同意を必要とする「特殊な医療」に含まれていること。
これは、ちょっと小説の方で
アナに法的後見人がつけられたことや、その後の裁判官の判断を考えさせます。
アナに法的後見人がつけられたことや、その後の裁判官の判断を考えさせます。
英米では子宮摘出よりも侵襲度が低い選択肢とされるホルモン注射が
慎重とすべき特殊な医療に含まれていることも。
慎重とすべき特殊な医療に含まれていることも。
2009.10.01 / Top↑
Ashley事件を追いかけながら、
いつからか気がついていたネット上の奇妙な現象について
今年の2月に以下のエントリーで書いたのですが、
いつからか気がついていたネット上の奇妙な現象について
今年の2月に以下のエントリーで書いたのですが、
“A療法“批判が出るとネット上で起こること(2009/2/13)
今朝、また、同じことが起こっているのを発見。
The Seattle 10 といって、
例えば「シアトルで一番おいしいメキシコ料理の店」とか
「足に出来た魚の目を取ってもらうとしたら、シアトルで一番腕のいい外科医は」など
シアトルに関する“なんでもランキング10位”サイト。
例えば「シアトルで一番おいしいメキシコ料理の店」とか
「足に出来た魚の目を取ってもらうとしたら、シアトルで一番腕のいい外科医は」など
シアトルに関する“なんでもランキング10位”サイト。
なんで、こんなところに……?と、不思議なのだけど、突然、ここに、
「Ashleyの成長は正常な子どもとどのように違うのか」という上記の記事がアップされた。
「Ashleyの成長は正常な子どもとどのように違うのか」という上記の記事がアップされた。
コメントが2009年9月30日となっているので、
おそらく昨日アップされたものでしょう。
おそらく昨日アップされたものでしょう。
しかし、内容は、2007年の論争当初のAP記事が
そのままコピペされているだけなのです。
そのままコピペされているだけなのです。
あ、実は1行だけ、冒頭のところで追加されている。
さりげなく「この事件を論じよう。一家のブログを読もう」とね。
さりげなく「この事件を論じよう。一家のブログを読もう」とね。
まるで、サブリミナル効果を狙っているかのような、さりげなさでね──。
そして、最初に入っているコメントは
親が彼女をケアするのが簡単になって、
それだけAshleyも親に愛してもらい関わってもらえるならOKだと思うわ。
だって、どうせ正常な生活が出来る子じゃないんだし。
Ashleyを一番愛しているのは親で、
実際に介護しているのも親なんだから
そういう親のすることをあれこれ言う資格は我々にはないでしょ?
それだけAshleyも親に愛してもらい関わってもらえるならOKだと思うわ。
だって、どうせ正常な生活が出来る子じゃないんだし。
Ashleyを一番愛しているのは親で、
実際に介護しているのも親なんだから
そういう親のすることをあれこれ言う資格は我々にはないでしょ?
今朝、一番でこれを発見した時には、
あ、これは近々、Ashley関連で、なにかの動きがあるな……と思った。
あ、これは近々、Ashley関連で、なにかの動きがあるな……と思った。
……と思っていたら、なんと、ありましたよ、もっと、ずいぶんと大きいのが。
それも1つではなく、2つも。
それも1つではなく、2つも。
それについては、この後でエントリー2つ書きましたので、
これに続けて一気にアップします。
これに続けて一気にアップします。
このエントリーで確認しておきたいのは、
こんなふうに、A事件で何らかの動きが生じる前後には、
インターネット上に、何の脈絡もなく、こんな古い記事がコピペされて出てくること。
こんなふうに、A事件で何らかの動きが生じる前後には、
インターネット上に、何の脈絡もなく、こんな古い記事がコピペされて出てくること。
まるで、
表舞台に直接顔を出せないことがもどかしくてならない自意識過剰の脚本家が
盛り上がる場面になると、大道具さんに化けて舞台の端っこに一瞬だけ顔を出して
「書いたのはボクなんだからね」とこっそり自分を指差して見せているみたいに──。
表舞台に直接顔を出せないことがもどかしくてならない自意識過剰の脚本家が
盛り上がる場面になると、大道具さんに化けて舞台の端っこに一瞬だけ顔を出して
「書いたのはボクなんだからね」とこっそり自分を指差して見せているみたいに──。
2009.10.01 / Top↑
英国医事委員会GMCから
守秘義務に関する新たなガイドラインが出され、
守秘義務に関する新たなガイドラインが出され、
たとえ患者本人が拒んだとしても、
その患者の親族を守るためであれば
個人情報である患者の遺伝子情報を明かしてもかまわない、と。
その患者の親族を守るためであれば
個人情報である患者の遺伝子情報を明かしてもかまわない、と。
例えば、遺伝性の癌になった患者の場合に、
その人の家族に対して、その癌が遺伝する可能性を伝えてもよい。
その人の家族に対して、その癌が遺伝する可能性を伝えてもよい。
ガイダンスの原文はこちら。
これ読んで、ものすごく素朴な疑問がわいてきた。
いろんな病気を引き起こす原因に関与しているとされる遺伝子の変異が同定されてきている中で、
ここで言われている「遺伝性の癌」というのは、
これまで言われていた「遺伝性の病気」というのとは、
ちょっと違う……んじゃないのかな。
これまで言われていた「遺伝性の病気」というのとは、
ちょっと違う……んじゃないのかな。
今まで言われていた「遺伝病」というのは、
かなりの高率で遺伝するもの、というイメージだったのだけど、
かなりの高率で遺伝するもの、というイメージだったのだけど、
今、次々に遺伝子の変異が同定されているのは
「この変異があると、今後何十年もの間に、この病気になる確率が、低いにせよ、ある」
というものまで含まれているような気がするのですが。
「この変異があると、今後何十年もの間に、この病気になる確率が、低いにせよ、ある」
というものまで含まれているような気がするのですが。
それとも、今までの「遺伝病」と、
話のタチそのものは変わらないんだけど、遺伝子が解明されるにしたがって
「遺伝病」の範囲がどんどん広がっているだけ、ということなのか……。
話のタチそのものは変わらないんだけど、遺伝子が解明されるにしたがって
「遺伝病」の範囲がどんどん広がっているだけ、ということなのか……。
私に分からないのは、例えば、
Googleの創設者が遺伝子を調べてみたら当該変異が出てきたというパーキンソン病は
発病率は20~80%で、発病しない可能性もあるというのだけど、
じゃぁ、パーキンソン病も、もう「遺伝病」なんでしょうか……というようなこと。
Googleの創設者が遺伝子を調べてみたら当該変異が出てきたというパーキンソン病は
発病率は20~80%で、発病しない可能性もあるというのだけど、
じゃぁ、パーキンソン病も、もう「遺伝病」なんでしょうか……というようなこと。
この人の親族にも
「パーキンソン病に関与している遺伝子の変異が出てきましたから、
あなたにも可能性がありますよ」と伝えてあげることが
「親族を守る」行為ということになるのかな。
「パーキンソン病に関与している遺伝子の変異が出てきましたから、
あなたにも可能性がありますよ」と伝えてあげることが
「親族を守る」行為ということになるのかな。
でも、パーキンソン病を発症する確率が、
どの程度か分からないし、発症しないかもしれないけど、ある、と分かったところで、
その病気の予防方法も治療方法も定かには分かっていないのだとしたら、
その情報伝達は、一体どういう意味を持つのだろう。
どの程度か分からないし、発症しないかもしれないけど、ある、と分かったところで、
その病気の予防方法も治療方法も定かには分かっていないのだとしたら、
その情報伝達は、一体どういう意味を持つのだろう。
それから、「親族を守るためなら患者の遺伝子情報を明かしてもいい」という中の、
「親族を守る」というのは、今の“予防医学”のどこまでを射程に言っているんだろう。
「親族を守る」というのは、今の“予防医学”のどこまでを射程に言っているんだろう。
例えば、乳がんの患者さんで、BRCA1とかBRCA2といった遺伝子があったとして、
その人に娘がいたら、娘にそれを伝えるのが、「娘さんを守る」ことになるのか。
その人に娘がいたら、娘にそれを伝えるのが、「娘さんを守る」ことになるのか。
じゃぁ、その「守る」というのは、
だから、ちゃんと定期健診を受けなさいよ、ということなのか、
だから、あなたも遺伝子を調べてみなさい、ということなのか、
だから、ちゃんと定期健診を受けなさいよ、ということなのか、
だから、あなたも遺伝子を調べてみなさい、ということなのか、
まさか、遺伝子を調べて、BRCA1とか2があったら、
予防的乳房切除を検討しなさいよ……なんて──?
予防的乳房切除を検討しなさいよ……なんて──?
あ……それとも、ここで想定されているのは、実は、
ずっと後になって、その娘の方が乳がんになった時に、
「あの時に母親の遺伝子情報を教えてくれていたら、
私はもっと検診も受けたし、遺伝子診断だって受けたし、
こんなことになるくらいなら予防的に乳房切除していたのに」と言って
母親の主治医を訴える可能性とか、そういうこと……?
「あの時に母親の遺伝子情報を教えてくれていたら、
私はもっと検診も受けたし、遺伝子診断だって受けたし、
こんなことになるくらいなら予防的に乳房切除していたのに」と言って
母親の主治医を訴える可能性とか、そういうこと……?
つまり、医師自身を守る方策として患者の親族を守るために
患者の個人情報である遺伝子情報を明かすことは
医師としての守秘義務から外しましたよ、という
免罪符としてのガイドライン……?
患者の個人情報である遺伝子情報を明かすことは
医師としての守秘義務から外しましたよ、という
免罪符としてのガイドライン……?
―――――――
と、上までを書いてアップしようと思って、
ふと数日前のエントリーを思い出してチェックしてみたら、
ふと数日前のエントリーを思い出してチェックしてみたら、
……ということは、乳がんは英国では既に
「生まれる前から排除しなければならない重大な遺伝病」なのでした。
「生まれる前から排除しなければならない重大な遺伝病」なのでした。
そういえば、英国では去年、”乳がん遺伝子ゼロ保障”つきの赤ちゃんが生まれてたっけ。
(詳細は以下のリンクに)
(詳細は以下のリンクに)
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