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ここしばらく、新たに始まったことが懸念される成長抑制キャンペーンに関連して
ネットであれこれ検索することが多くなって、おかげで
別件でも面白いものを見つけたりしているのだけれど、
(例えばTruog「心臓死後臓器提供の倫理問題」講演映像は8日の補遺に)

なんと本家筋のAshley事件に関する担当医講演のビデオを発見した。
しかもDiekema医師だけでなく、故Gunther医師が同事件を解説しているのだから、
これは超レアものの“お宝”映像――。

Diekemaのぬるぬる・つるつるした能弁はもう散々見たし聴いたし
文字報道でコメントを読んでも声が聞こえてくるほどなのだけど、
Ashleyの内分泌医だったGunther医師の発言は07年1月当初に
ぱらぱらと文字報道に出てきていただけだったので、
あの論争から4年も経った昨日、この映像で初めて拝顔した。

Attenuating Growth in Children with Profound Developmental Disability
9.28.06

Commentator: Jeffrey Botkin MD, MPH, University of Utah
Seattle Children’s Case Presenters:
Doug Diekema MD, MPH, Bioethics;
Dan Gunther MD, Endocrinology


シアトル子ども病院が定期にやっている
Grand Rounds という研修プログラムの一環で行われたプレゼン。

すごく不可解なのは、日付が06年9月28日となっていること。
それでは当初のJAMAの論文発表より前に行われたことになってしまうから
そんなことは、あり得ない。

ざっと聴いてみたところ
“物議”や「メディアの注目」「ラリー・キング・ライブ」が言及されていることや
コメンテーターのBotkinが「ここ2カ月の親のブログの訪問数」と発言していることから
「ラリー・キング・ライブ」がA事件を特集した1月12日以降、2月末までのことと思われます。

だいたいの流れとしては、
まず冒頭にWilfondが出てきて、ちょっとしゃべり、流れを説明する。
その後、Diekemaが出てきて、ちょっとしゃべり、Guntherに交代。
Guntherが10分ほどAshleyケースについて簡単に解説。
その後、コメンテーターのBotkinが出てきて、延々としゃべり、
最後に会場との質疑応答。

正直、私は普通の速度でペラペラしゃべられるとお手上げになってしまうし
質疑の途中でWilfondが話を無理やり一般論に捻じ曲げたところで力尽きたので、
そこまでで部分的に聴き取れたところだけからだけど、
いくつか興味深い点を以下に。

①まず、冒頭で出てきたWilfondが、
「これからプレゼンを行うAshley事件については、
retrospectively(起きたことを事後に振り返って)に扱うのではなく
あくまでも本件が提起する倫理問題を考えるという扱い方をする」のだと
会場の皆さんに向けて念を押している。

(Ashleyケースに関しては病院内に批判があったことは明らかになっている。
もしかしたら、そういう人たちに向けた牽制だったのかもしれない)

さらに、Botkinまでがコメントの中で
「Ashleyケースそのものはretrospectivelyには検討しない。
あの症例ではすべてが問題なく行われたのだから、
我々が検討すべきは、あくまでもこの症例が提起する問題」と
わざわざ断っている。

あの論争のさなかに、Aケースではすべてがまっとうにおこなわれたと
簡単に言ってのけることには、どう考えても作為がある。

子ども病院は07年5月に行われた成長抑制シンポでも
Ashleyの個別ケースはここでは問題にしないのだと何度も牽制し
パネリストらから「そうはいかない」と反論されていたことを思い出す。

ちなみにBotkinは、「前年のGunther&Diekema論文では
すばらしい倫理分析が行われている」とも語った。

後に、医学論文らしからぬ不透明さ(opaqueness)をLantosからズバリと指摘される、
あの論理性というものが全く欠落した論文を、あの論争時に褒めたのは
これでNorman Fost(Scientific Americanのメール討論で)に続いて2人目。

なおBotkinは、去年、米国小児科学会倫理委員会が出した
水分と栄養の差し控えまたは中止ガイドラインの共著者でも。
(主著者はDiekema)

②Diekemaは「本症例が提起する多様な多くの問題」を語った際に、
一番最初に pesonhood を挙げた。

一度ならず繰り返してもいるので、
A事件でのパーソン論の役割の大きさを認識していたし、
もしくは認識させたかったのだろう、と思われる。

09年1月の成長抑制WGの“妥協点”を解説するシンポでDiekemaは
自分たちはPeter Singerのようなパーソン論の立場には立たないと明言しているけれど、

それは、あの時あの場ではそういう方が有利だとの判断で
07年当初には彼は“Ashley療法”論争のキモがパーソン論であることを認識していたし、
こういう形でさりげなく問いかけてもいた、つまり少なくとも医療の世界では
Ashley事件でのパーソン論に一定の賛同が得られると考えていたのでは……?

③Guntherはエストロゲンによる成長抑制のリスクとして、以下の3点を挙げた。

・血栓症
成人女性が避妊ピルを飲むと、飲まない人に比べて
リスクは2~3倍になると言われている。
子どもでは身体が若い分、それほどでもないはず。
ただし重症児は寝たきりなので、高くなるとも言える。

・(子宮からの)大量出血

・乳房の急激な、苦痛を伴う可能性のある発達

ということは、
今現在、子宮摘出とも乳房摘出とも切り離して提唱されている
エストロゲンの成長抑制療法は、いつ何時、
副作用の予防手段としてそれら2つの手術と繋がり、
Ashley父が望む通りの“Ashley療法”3点セットになっても不思議ではない?

④Guntherは症例解説の中で医学用語でもないbreast bud(乳房芽)を用いたが
Botkinの方は平気でmastectomy(乳房摘出)を繰り返し、
DiekemaとGuntherのミスリードの努力を台無しにしていた。

⑤Botkinは、コメントの冒頭で
Ashley事件には情緒的な反応をする人が多いと述べ、
しかし倫理学者はその情緒的な反応が起こる理由を掘り下げて考えることが仕事なのだから
そうした反応は倫理問題を考える際には重要なのだと語りつつ、

話が進むと、
「我々の本能的な嫌悪感」にはちゃんと耳を傾けなければならないとの
有名なLeon Kassの主張を取り上げて、しかし、あれはクローン人間についての話で、
成長抑制に当てはまらない、と線引きをした。

さらにPolitically incorrect enterpriseという表現を用いて、
批判している人たちは政治的な正しさを問題にしているだけだとの
間接的な批判を匂わせた。

最終的にBotkinがまとめた問題点は

・間接的な利益または将来の利益のために子どもの体に手を加えることは正当化されるか?
・在宅ケアのメリットが過大に評価されていないか?
・社会の都合や望みに応じて人の体に手を加える行為は、社会の構成員への脅威となるか?

⑥あまり意味のない、ただの印象だけど、
Guntherは、ちょっと屈折のありそうな人物ではあった。

「今日は倫理学者でもある医師が多いので、区別するために白衣を着てきた」とか、
マイクがやたら雑音を拾い始めて不調になると「ボクがやってるわけじゃないですよ」とか
「これはやっぱりボクのせい?」とか。

映像を見ながら、この人が数ヵ月後に自宅の車の中で自殺したのだと考えると
なんともいえない気分だった。
2010.12.10 / Top↑
スコットランドで否決された自殺幇助合法化法案の提出者だったMacDonald議員がScotsman紙に論考を寄せている。「そうなるだろうと予測はしていたから恨みはないけど、世論の関心を考えたら、もう何人か賛成票を投じてくれると思っていた。でも私はこれからも闘い続けるから」と。
http://news.scotsman.com/comment/Margo-MacDonald-Assisted-suicide-bill.6653825.jp

来月、米ユタ州で開催されるサンダンス映画祭で上映される作品のうち7本はオレゴン州の製作者の作品で、うち1本は同州の自殺幇助をとりあげたドキュメンタリー、”How to Die in Oregon”とのこと。
http://blog.oregonlive.com/madaboutmovies/2010/12/oregon_films_at_the_sundance_f.html

カトリック教徒の女性のプロライフ・ブログが、8日に、この度の成長抑制論文報道を取り上げているのだけど、ここでも「へースティング・センターのWGが成長抑制はOKだと判断」と事実誤認。:ったく腹立たしい。この事件は06年の当初の主治医論文から一貫して、人の認知の大まかさをあらかじめ織り込んだサブリミナルを仕組んでは誤解を次々に誘導している。Diekemaの天賦の才。
http://createdorder.blogspot.com/2010/12/ethics-of-ashley-procedure.html

A事件お馴染みの“怪現象”。前にも確か、同じAP通信記事をコピペしたところのような気がするのだけど、ヤク中の人のリハビリ施設のサイトが、なんでこんな記事を???
http://www.drugrehabilitationspa.com/how-is-ashleys-develpmentcognitive-languageand-gender-different-than-a-normal-childs

上のサイトを開いた際に、右コラムに「子どもの問題行動の治療」という宣伝文句と共に学校らしきサイトのリンクがあったので、覗いてみたら、男女別の全寮制で診断名や問題行動別に小グループに分けて「関係療法」という実験的なメソッドをやっています、というDiscovery Academyという名の“学校”だった。定員は女子35人。男子50人。こういう学校が結構あるのかもしれない。施設はそれなりに立派で、たぶん、そこそこの富裕層向け。
http://www.discoveryacademy.com/about/

カンクンで開催中のCOP16で、京都議定書の延長を拒否する日本が非難を浴びているらしい。
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/dec/08/cancun-climate-change-summit-japan?CMP=EMCGT_091210&

ビッグ・ファーマPfizerのCEOが辞任。その理由の一つは「世界中にいる多くのstakeholders(利害関係者)の要求に応じることがしんどかった」:IHMEが最近やっているのも、グローバル・ヘルスのデータの検証や、資金の使途を含めたあり方が、もっとstakeholders主体となるべきだ、という方向性の研究。グローバル化した暴走金融資本主義世界になる以前には考えられなかったほど多様な利害関係者が関与しており、それらの利害関係がグローバル化した世界経済の中で、とても複雑かつ熾烈になっているということなんだろうな……と。でも、それを言われると、企業に対して「株主主体の経営をしろ」というのと同じことが、医薬行政やグローバルヘルスでも要求されているということ……?と思ってしまう。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210513.php

豪でもヒトゲノムとバイオ資材に特許を認める法制化?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210588.php

まーたまた妙な研究結果が出て来たよ。高校時代の成績が優秀だった人は、それ以外の人に比べて大人になってから健康度が高い……んだそうな。:私はそもそもの動機が分からないのよ。学校の成績を健康に関連するファクターとして科学研究に採用しようとする、そもそもの動機が。学校の成績って、所詮は学校の成績であって、それ以上の意味はないんじゃないのかと思うんだけど。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210648.php

出生前後に携帯電話の磁気に晒されることが子どもの問題行動につながる、という調査結果。:この説、もう廃れたのだとばかり思っていた。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210285.php

子どもたちがビデオゲームばっかりやって生活を改善する気になってくれないから、生活改善が必要だという啓蒙をするビデオゲームを作ったら、効果があったそうな。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210392.php

NYTが高齢者へのクリスマスプレゼントにWii Fitがお薦め、と。:コメント欄に、70代の人がWii Fitで病気を克服して医者に驚かれたという体験談を寄せている。こういう話になると、怪しげな健康食品ブームと同じみたいな感じが漂ってくるけど、別にいいじゃん、ただのゲームなんだから、エビデンスを求めなくても。楽しめて、身体を動かせて、なかなかよね~ということで。
http://well.blogs.nytimes.com/2010/12/01/phys-ed-why-wii-fit-is-best-for-grandparents/?ex=1307336400&en=70773f939fa5ec3e&ei=5087&WT.mc_id=NYT-E-I-NYT-E-AT-1208-L17

新生児の急性けいれんに新薬。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210435.php
2010.12.10 / Top↑
鳥取でホスピスケアを行う有床診療所「野の花診療所」を営む徳永進医師の近刊
「こんなときどうする? 臨床の中の問い」を読んだ。

付箋だらけだし、書きたいことが山のようにあるのだけど
Ashley事件の新たな動きでバタバタしてエントリーにできないでいるうちに
図書館の返却期限が迫ってきたので、

当ブログで考えてきたことの関連で、どうしてもこれだけは、ということだけ、
自分のメモの意味で抜き書き。


“本人の意思”というと、水戸黄門の印籠のようで、「これが目に入らぬか~」だが、それがどれだけのもん、と言うスタンスも必要かもしれない。
 本人の意思は、本人のわがままであっていいいのだけれど、顔族の意思、共同体の意思、他の生命体の意思、地球の意思、宇宙の意思のことを超えて、本人の意志こそが大切、とは思いにくいところがあるからだ。
……(中略)……
 本人の意思は人によってさまざま。同じ人でも状況によってさまざま。その意思を受け取る家族やわれわれ医療者の気持ちもさまざま。解決の方法はない。私たちは、共に戸惑い続けるしかない。“変わる本人の意思”に耳をすましながら。
……(中略)……
 在宅ホスピスが一番いい、と決めつけることは慎まなければならない。ホスピスで死を迎えるのが一番いい、とこちら側が決めつけることも、である。時々に人の気持ちは変わる。医療者の一言や態度の一片で、患者・家族の気持ちは変わりうる。そういうものだと思う。
(p.37-42)



……医療や看護、そして介護は、どちらかというと、生命延長や生命維持、生命危機からの脱出、生命継続などを生命尊重と考えているところがあるので、「死なして」という言葉を直接浴びせられると、生命尊重でないと直感し、どう反応したらいいのか戸惑う。そういう時、どうすればいいか。一つ言えることは背景に病状の重さ、辛さや、家族関係のトラブルがあるのだろうかと思いを馳せてみること。あるいは私たち医療者の対応の悪さはないかと考えてみること。でも、そんな言葉を発せられた場合、言いたくない人に向かっては発せられないものであり、言われたのは、選ばれてと考えてみてもいいのかも知れない。
    ……(中略)……
 「死なして」と患者さんに言われた時、どうするか。答えはない。言った人の年齢、病気、病状、言われた人の年齢、立場、声の大きさ、声のトーンなどによって、同じ言葉でも違う世界を抱えている。その言葉は、時にはユーモアさえ秘め、時には人の身動きさえ奪う。私たち臨床で働く者にできることは、聞き辛いその言葉の前で、頭を少し下げ、その言葉を否定せずただ聞き、聞きとめ、その後に続くその後の日々から逃げ出さないことを誓うことくらいだろうか。
(p.60-63)

……在宅ホスピスのよさ、医療者にとってのよさの1つは、患者さんに暮らしの場で会えることだろう。喩が適切かどうかは分からないが、動物園でゴリラに出会うか、森の中で出会うかの違いのような気がする。
(p.101)



著者は、本書の後半で、
なぜ多くの患者さんが死を目の前にしながら発狂せずにいられるのか
様々な患者さんとの出会いから、考察していく。

心の混乱や不安を表出しないで亡くなった患者さんたちで思い当たることとして
まずは高齢であったこと、次に戦争死や動物の死を経験していたこと、に続いて、

……さらにもう一つ大切なことは、身体が、死ぬよという信号を送っていることをキャッチし、それを自然なこととして受け止められるか、ということだと思う。その境地になるには、固執することから離れ、「あきらむ」という態度を取り戻すことのように思う。〈自然なことだから〉、〈友人は既に亡くなっている〉、〈自分も罪なことをしてきたし〉、などなどによって、あきらめていく。
……【中略】……
この章の患者さんたちから教えられぼくが言いたかったことは、人は〈あきらむ〉という力をひめているということ、〈身〉と〈心〉を〈宇宙〉に放る力を隠し持っているようだ、ということ。
(p.152)



……告げるか告げないかが大切なのではなく、その答えに辿り着くまでに共に苦労したのかどうかの方が、大切だろう。苦労を共にしていると、告げていても告げていなくても波はなんとか乗り越えていける。苦労を共にしていないと、正しく告げていても、正しく隠していても、波に飲まれてしまうことがある。
(p.196)



最後に、徳永医師は、生命倫理を考えるのに
以下の13の和語を原点に据えてみることを提言している。
それぞれに解説があるのだけれど、ここでは言葉のみを。

たっとぶ
いつくしむ
さする
はぐくむ
つつしむ
ひらく
わらう
とまどう
あやまる
ゆるしあう
いのる
ほろびる
ユイマール(助け合う)

平仮名に開いただけで、和語? と思うものも多いけど、
著者が言いたいことは伝わってくる。

私も去年、「納棺夫日記」と吉村昭の最期のエントリーで
以下のような言葉を並べたことがある。

ほどく、ほどける
ゆるめる、ゆるむ
解く、解ける
離す、離れる
開く、開ける
ばらく、ばらける
広げる、広がる
ほぐす、ほぐれる、

放す
任せる
預ける
ゆだねる

内に向かって硬く固まった、ゆるぎない言葉で、一筋に主張し、
己に執着し、欲望を満たすことに執着するのではなく、
かといって、逃げたり投げたりするのでもなく、
様々な人やモノや環境や世界に取り巻かれて在る自分の人生の一回性の中で
どろどろ・ぐるぐるしながら生きる自分を受け入れること。
どろどろ、ぐるぐるしつつ生きることを引き受けながら、
願わくば、それにとらわれずにいること――。

人がそんなふうに生きて、やがて〈身〉と〈心〉を〈宇宙〉に放ることを、
目の前の患者さんの人生の一回性から逃げることなく、支えていくこと――。

それは、たぶん、共にぐるぐる、どろどろしながら、
小さくて地味で、数え切れないほど次々に出てくる、それぞれ、それなりにぎりぎりだったりもする選択を
静かに淡々と引き受け続けることじゃないのかなぁ。

そして、それは日本の多くの地域で、
徳永医師に限らず、「森の中のゴリラ」を知っている多くの医師が
実際にやっていることでもあるんじゃないのかなぁ……。


逆に、現在、野火のような勢いで世界中に広がっていこうとしている
「死の自己決定権」議論や自殺幇助合法化の主張の先に見え隠れするのは、
そういう姿勢を放棄し、死にゆく人や病んで苦しむ人の人生の一回性から敵前逃亡して、
機械的に人を死へのベルトコンベアーに乗せていく、思考停止の医療なのではないか、と
改めて考えながら、読んだ。

こういう本が英訳されて、英語圏の生命倫理の議論の中に投げ込まれたらいいのに。

てか、日本の生命倫理学者さんたち、
欧米の議論を紹介しては日本の狭いアカデミアでシコシコ業績を作るばっかりじゃなくて
日本の医療人のこういう深い人間洞察を世界に発信し、問題提起してくれればいいのに。


【関連エントリー】
「どろどろ」と「ぎりぎり」にこそ意味がある(2008/5/14)
なだいなだの「こころ医者」から「心の磁場」とか「尊厳」とか(2010/6/3)
「医師の姿勢で薬の効き方違う」と非科学的なことを言う、緩和ケアの「こころ医者」(2010/6/3)
(タイトルの緩和ケアの「こころ医者」とは徳永医師のこと)
2010.12.10 / Top↑
Wesley Smithがブログで11月30日の成長抑制に関する報道を取り上げているのだけど、Smithまでがきれいにだまされて、へースティング・センターが組織した委員会が検討した結果「倫理的にOK」と結論したのだと誤解している。:4年前にちょっと情報を追いかけたし発言もしたけど、その後すっかり放置していて、また目の前にニュースが出てきたから、そういえば……と、またぞろ論争に出張ってくる人には、この複雑怪奇な事件をちゃんと理解することは無理なんじゃないかと思う。
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2010/12/06/ashleys-treatmentbioethicists-decide-ethically-permissible-to-stunt-growth-of-disabled-children/comment-page-1/#comment-19155

Monatanaの州議会に、来年、死刑廃止法案と並んで自殺幇助合法化法案(対象はターミナルな人)が提出されるそうだ。
http://missoulian.com/news/state-and-regional/article_20b12836-0291-11e0-8492-001cc4c03286.html

C&Cがカリフォルニア州で活発な動きを見せているらしい。次の自殺幇助のフロントラインはCA州か。ただ、今回の戦術はキタナイ手口のようで、緩和ケアの不十分に過失を問う裁判を起こしたとか。
http://www.aul.org/2010/12/california-the-next-assisted-suicide-frontier/

南カリフォルニアのラジオ番組が組んだ討論のテーマが「慈悲殺:認知症のある人を殺すのは道徳的に正当化できるだろうか?」ここにもヘーステイング・センターが絡んできている。こういうのも上記のC&Cの働きによるものなのかもしれない。
http://www.scpr.org/programs/patt-morrison/2010/12/07/mercy-killing-is-it-morally-justifiable-to-murder-/

成長抑制がらみでゴソゴソしていたら、去年8月にRobert Truogがシアトルこども病院で講演したビデオを見つけた。テーマが Ethical Issues in Organ Donation After Cardiac Death.「心臓死後臓器提供の倫理問題」:必見だと思うのだけど、今はとりあえず時間、エネルギー、気力が不足。
http://www.seattlechildrens.org/health-care-professionals/education/grand-rounds-online/ethical-issues-in-organ-donation-after-cardiac-death/

同じく、シアトルこども病院での講演ビデオで、「進行性神経難病の子どもにおける水分と栄養の差し控え」。こちらは08年6月。この1年後、米国小児科学会のDiekema率いる倫理委が差し控えを道徳的とするガイドラインを出した。障害児に対する差別コテコテの内容。
http://www.seattlechildrens.org/videos/withholding-fluid-nutrition-children-progressive-neurological-deterioration/

FDAがヤセ薬 Contraveを認可。13対7の投票結果で、利益がリスクを上回ると判断したんだと。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/08/AR2010120800140.html?wpisrc=nl_cuzhead

これまで当ブログが拾ったヤセ薬関連エントリはこちら ↓
NHS新たにヤセ薬を解禁(2008/7/9)
6月解禁のヤセ薬、精神障害起こすと早くも販売中止(英)(2008/10/25)
EUがヤセ薬を解禁、「誰の最善の利益?」(2009/1/31)

娘が幼い頃に何年も購読した米国の障害児の親向けの雑誌”Exceptional Parents”。どうやら今では“Ability”という成人障害者を対象とする雑誌に生まれ変わったみたい。そこのサイトに米国の障害者関連のリソース・リンク一覧があった。いろいろあります。
http://www.abilitymagazine.com/links.html

来年5月2,3日に豪メルボルンで、National Disability & Care Congress 開催。
http://national.carersaustralia.com.au/?/national/article/view/2000

米国の医療制度改革に関連して、製薬会社がこれまで格安で子ども病院に下ろしてきた患者数の少ない病気の治療薬の割引を廃止する、と通告。
http://www.nytimes.com/2010/12/08/health/policy/08health.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=a23

オーストラリアで増え過ぎたために殺処分にしたカンガルーを、ライオンの餌に、という話が出ている。:あー、なんか、そういう割り切り方には理屈じゃない抵抗感を覚えるんだけど、それも合理的な解決策? それに、最近読んだ「捕食者なき世界」が予想に反して、とても面白かったのだけど、カンガルーが増え過ぎたのだって、人間が頂点捕食者を絶滅させて生態系を壊してきたからなんですよね……? ちなみに、この本の書評はこことかに。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/stanhope-considers-tossing-kangaroo-carcasses-to-lions/2019539.aspx?src=enews

人さまのブログから、日弁連から障害者自立支援法改正についての会長談話。
http://blogs.yahoo.co.jp/e999jp/61384431.html

富裕層の優遇税制を温存することを決めたObama大統領に民主党が反発。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/07/AR2010120707230.html?wpisrc=nl_cuzhead

DCの議会、福祉カットには賛成、増税は反対。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/07/AR2010120707009.html?wpisrc=nl_cuzhead
2010.12.10 / Top↑
シアトルこども病院のWilfond医師を主著者に、
成長抑制ワーキング・グループが書いたことになっているHCRの論文
Navigating Growth Attenuation in Children with Profound Disabilities
Children’s Interests, Family Decision-Making, and Community Concerns
について、前にこちらのエントリーでざっと要点だけ拾っていますが、

今回、せっかく論文全文を読んだ以上はまとめなければ……とは思いつつ、
ぜーんっぜん、そういう気分にならない……。

というのは、読むまでもなく、想像通りの展開で、
相も変らぬ大ウソ八百と詭弁の羅列。

全体に繰り返されているのは
グループの中で出た懸念・批判の声を1つ1つ挙げ、
それに理解を示すフリをしつつ提示した後に、
However,(しかしながら……)と逆の立場に転じて論駁し、
結局は前者の懸念をねじ伏せる、または却下する……というパターン。

全文、ひたすら、その繰り返し。

もちろん、全体としての正当化の論理は、
これまでDiekemaやFostらが展開してきたものと全く同一。
(その内容は、文末にリンクした2つの論文に関するエントリーに)

例えば、

グループの中には、身体の統合性を侵すから成長抑制はダメだという人もいた。
However, しかしながら、身体の統合性そのものが、
この治療は自然か否かと問うに等しい曖昧な概念でしかない。

セーフガードは重要だとWGは考えたし、
やはり法定代理人(guardian ad litem)や裁判官の判断が必要だという声もあった。
However, しかしながら、裁判所は当該家族とは関わりがないので判断できないし、
これまでの生命維持の差し控えを巡る判断でも偏っていた(ここはFostのホンネがちらり)、
それよりも多様な立場の人がいる倫理委員会の方が適任。

……などなど。

ね、いちいち、まとめなくても、あとは簡単に想像がつきますよね?

ど~こが「反対する立場への理解を深めてミドル・グラウンドを模索」なんだか。

WG内の成長抑制反対の立場なるものには「一応耳は傾けたフリはするけど採用せず却下」が
最初から既定路線だったくせに。


ただ、冒頭、06年のGunther&Diekema論文について書かれた部分に
どうにも腹にすえかねる大ウソが並んでいるので
そこのところの3つのウソだけ、とりあえず指摘しておきたい。

① 06年のあの論文が
「成長抑制の倫理的なジャスティフィケーションを提示した」そうな。

これはウソです。
そんなものは提示されていません。

「重症児が背が低くなることから受ける害を想像できるだろうか」と
利益vs害の誠実な比較考量の必要すら切って捨て、
歴史が求める慎重も「過去に虐待があったからといって
利益のありそうな新しい療法を模索してはならない理由にはならない」と
切って捨てただけでした。

② 「論文著者らは、アシュリーの最終成人身長が予測される5フィート4インチではなく
だいたい4フィート6インチに抑制されるだろうと予測した」というのも、
郵便ポストだって山の紅葉だって恥じ入るわい! くらいに真っ赤っかな大ウソ。

John LantosがAJOBのコメンタリーで指摘しているように、
「2006年論文以降、身長を抑制する目的を謳いながら
肝心のAshleyの身長についてパーセンタイルが挙げているだけで
実際の身長、骨年齢のデータが挙げられていない、
最終身長がいくらになると見込んでいたのかの予測データも出てこない」のが真実。

③ さらに、07年に立ち上げられた親のブログが
「障害者の権利と家族支援の団体から強い批判を浴びた」。

この点は11月30日からネットを含むメディアで始まったと思われる
成長抑制キャンペーンでも繰り返されているウソですが、

批判は障害者運動の側からだけでなく、
医師や生命倫理学者、法学者、宗教関係者からの批判も多数出ました。

障害当事者らがこの事件の政治的利用をもくろんでいるだけだというのは
Ashley父やDiekemaらが当初から盛んに描いて世間に提示してきた
偽りの構図に過ぎません。

しかし、ここで再燃する“論争”では、
またぞろ世の中の人たちは、そういう誘導にひっかかるのだろうなぁ……。

やっぱりメディアを動員する権力を持っている人には誰も抵抗できない――?


【Pediatrics誌のDiekema&Fost論文(2009)に関するエントリー】
Diekema とFostが成長抑制療法で新たな論文(2009/6/6)
成長抑制WGの作業のウラで論文が書かれていたことの怪(2009/6/6)
成長抑制論文にWhat Sorts ブログが反応(2009/6/7)
私がDr.Fostをマスターマインドではないかと考える訳(2009/6/13)
Diekema&Fostの成長抑制論文を読んでみた(2009/6/14)
Diekema&Fost論文の「重症の認知障害」が実は身体障害であることの怪(2009/6/15)
病院の公式合意を一医師が論文で否定できることの怪(2009/6/15)

【AJOBのDiekema&Fost論文(2010)に関するエントリー】
Diekema医師が今更のようにAshley論文書いて批判に反駁(2009/10/1)
Diekema&Fost論文を読む 1:倫理委に関する新事実(2009/11/1)
Diekema&Fost論文を読む 2:ホルモン療法の期間を修正(2009/11/1)
Diekema&Fost論文を読む 3:政治的判断を否定(2009/11/1)
Diekema&Fost論文を読む 4:窮鼠の反撃? 証明責任の転嫁(2009/11/2)

(エントリーは、コメンタリー募集のため9年4月に公開された論文を元に書いています)
2010.12.08 / Top↑
6日のエントリーで指摘したように、
シアトルこども病院成長抑制ワーキング・グループからは、WPASの弁護士Carlson氏が抜けているので、
その他メンバーは19人ということになります。

この19人の内訳を、以前からずっと取りまとめておきたいと思いつつ果たせていなかったので
ここできちんと書いておきたいと思います。

まず、19人のうち10人は、シアトルこども病院またはワシントン大学の職員です。
(Jane Bogleは論文ではシアトルの人だとしか書いてありませんが、
08年1月の病院サイトの情報によると、子ども病院の元職員)

その他のうち、一人がWisconsin大学のNorman Fostで、
もう一人、去年の成長抑制論文の主著者だったAllen医師は
Fostと同じくWisconsin大学でFostと同じくホルモン療法の専門家。
つまり、どう考えてもFostの子分。

また06年に小児科学会誌にGunther&Diekema論文が掲載された折に、
批判的な論説を書いた編集委員のBrosco医師が入っていますが、
彼は07年の成長抑制シンポで基調講演に招かれて以来、
驚くことにシアトルこども病院のセミナーやその他イベントの講師に何度も招かれて
いつのまにやら、すっかり同病院のオトモダチ。
権力者が反対者を懐柔する典型的な手段に
すっかりやられてしまった人という風情があります。

次にParensは、
Hastings Centerの上級研究者ということになっているから
いかにも中立の立場の人のように見えますが、なに、彼は
09年1-2月号のHastings Center Reportで
Ashley療法を擁護する論文を書いています。
WGに招かれたのが、この論文を投稿する前なのか後なのかは知りませんが、
いずれ無関係のはずもないでしょう。つまり最初から賛成の立場。

そして、重症児の親2人の内の1人は
当然のこととして賛成の立場のWalkerさん。

ここまでカウントすると、既に19人の内の15人は
身内か、あらかじめ身内側に取り込まれた人物、それから
最初から賛同スタンスの人だったことになります。

残りは4人ですが、
そのうちの一人、哲学者のHilde Lindermanは
もともと、育てる負担を背負う母親に障害児中絶の決定権があると主張している
親の決定権論者なので、

そうなると実質的には、最初から16対3。

論文が言う「グループのほとんどが“妥協”に合意した」は
議論をするまでもなく成り立ってしまうメンバーが
あらかじめセットアップされたWGだったわけです。

結局、
障害当事者で障害学の学者Ash, 重症児の親で哲学者のKittay, 
Walkerさんの相方として重症児の親のSwensonさんの3人と、
ついでに身内の側から障害当事者のMiller(10月に死去)も含めて、
「障害当事者や家族など、反対の立場の声にも十分に耳を傾けたのだ」という
アリバイ作りのために利用されたのではないでしょうか。

もっとも、Adrienne AshはAJOBのDiekema&Fost論文に
コメンタリーで反撃を試みているし(ついでに注で、署名したことへの言い訳も)、

Washington大学職員でありながら、そのために気を使いつつではあるけれど、
哲学者のSara GoeringもAJOBのコメンタリーで
社会モデルに対する理解が足りないと、やんわり牽制してもいますが。

しかし、このように中立性などカケラもないWGが
11月30日以降、あちこちのメディアの記事では
さも中立な専門家が議論した場であるかのように書かれ、
ワケのわからない「妥協点」なるものの内容が
あたかも中立な専門家が出した「決定」や「ガイドライン」であるかのように
喧伝されて行きつつあるのです。

やっぱりメディアを動員できる権力を持っている人たちには誰も勝てない――?


【追記】
このメンバーの中で、特に気になる人物として
WA大学の法学と医療倫理学の教授 Rebecca Dresserがいます。

彼女は以下のエントリーで紹介した論文で何度も引用・言及されていますが、

憲法が保障する“基本的権利”をパーソン論で否定する“Ashley療法”論文(2009/10/8)
憲法が保障する“基本的権利”をパーソン論で否定する“Ashley療法”論文(後半)(2009/10/8)

重症障害児は我々とは別の世界に住んでいるのだとして、
重症障害児には通常の最善の利益の考え方とは別の
「改定最善の利益」基準を設けるべきだと主張している人物です。
2010.12.08 / Top↑
スイスで妙な判決が出ている。自殺幇助と消極的安楽死が認められるが積極的安楽死は違法であるスイスで、足の動きだけで本人意思を確認して致死薬を投与したという医師に対して無罪判決。:気がかりなのは、このニュースによると「本件では医師には法律を破る医学上また道徳上の義務があった」というのが判決の理由。裁判所が「法律を破る道徳上の義務」を認めるってな、一体どういうこと????
http://www.swissinfo.ch/eng/swiss_news/Doctor_cleared_over_assisted_suicide.html?cid=28964994

WikiLeaks のアサンジ氏、ロンドンで逮捕。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-11937110

毎日アスピリンを飲むとガンで死ぬ確率が下がるって。:アスピリンで病気予防って、まだやっていたんだぁ。もうブームは終わったのかとばかり……。やっぱりスタチンとアスピリンとビタミンDには、まだまだ儲け代があるのかな?
http://www.bbc.co.uk/news/health-11930988

上記は、科学とテクノのニュースが大好きBBCだからこそかと思ったら、このアスピリンのニュース、NYTにも。:たしかアスピリンを毎日飲むことには消化管からの出血リスクがあることが指摘されていた記憶があるのだけど、あー、だから「毎日ちょびっとだけ」という話になっているのか。
http://www.nytimes.com/2010/12/07/us/07aspirin.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=a23

去年ひろった「40過ぎたら毎日アスピリン飲んで、がん予防を」記事はこちら ↓
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51811322.html

ProPublicaがビッグファーマ特集で、またやってくれました。ビッグファーマがゴーストライターに論文や論説を書かせ、学者に名前だけ借りていた実態を調査報道。:これ、エントリー立てたいのだけど、今はちょっと無理か……。
http://www.propublica.org/blog/item/drug-company-used-ghostwriters-to-write-work-bylined-by-academics-documents

Obama大統領、共和党からの圧力に屈して富裕層への減税を延長。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/06/barack-obama-bush-tax-cuts?CMP=EMCGT_071210&

オックスフォード大学とケンブリッジ大学(あわせてオックスブリッジっていうんだそうな)の20以上のカレッジが去年、黒人学生をほとんど入学させていなかったことが判明。そのうちの1校では、過去5年間に渡って黒人学生を一人も入学させていない。:いくらなんでも、ひどくない、これ?
http://www.guardian.co.uk/education/2010/dec/06/oxford-colleges-no-black-students?CMP=EMCGT_071210&

こちらも英国の黒人差別。AFC Bournemouthというサッカーチームの黒人選手5人が、ピザハットに行ってオーダーしたら店のマネージャーがやってきて「先にお金払ってもらえます?」「それって、この店の方針なの?」「いえ、違いますけど」「じゃぁ、なんで?」「お宅らが、そんな感じに見えるから」。で、彼らの直後に白人の若い子らがやってきて、普通にオーダーして普通にピザが出てきたのだとか。ピザハットは今日、その件で謝罪したものの、でも、あれは人種差別ではない、と、まだ言っているらしい。:これも、いくらなんでも、ひどくない? 
http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/06/pizza-hut-bournemouth-footballers?CMP=EMCGT_071210&

同性愛の子どもたちは学校でも警察官によっても罰せられる確率がそうでない子どもたちよりも高い。:こちらは米国。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/06/AR2010120600035.html?wpisrc=nl_cuzhead

国連のエイズ対策(UNAIDS)責任者が「エイズ感染の増加を止めた」と国際会議で発言して、Lancetの論説で叩かれている。:ただでさえ世界的不況でグローバル・ヘルスに資金が流れてこないというのに、安心させるようなことを言うんじゃない、って。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210342.php

パキスタンで、イスラムを冒とくした罪で女性が死刑宣告を受けた。家族にも罪が及ぶため、夫は5人の子どもを連れて逃げ続けている。
http://www.bbc.co.uk/news/world-south-asia-11930849
2010.12.08 / Top↑
Norman FostがHastings Center Reportに書いた
Offence to Third Parties?

感情論だと非難しているようで気になっていたのですが、読んでみると、
やはり当初の推測の通りタイトルの意味は「第三者が気に入らないからやめろだとぉ?」だったようです。

論旨はだいたい、こんな感じ。

ワーキング・グループが「妥協点」に達したことは良いとするが、
自分に言わせれば、その妥協点すら第三者の言うことを尊重しすぎている。

個々の家族が医師と相談して成長抑制が良かろうと言っているのに、
直接関係のない第三者がそこに自分たちの利益や選考を加味しろと主張するなんて論外。

Ashleyのような重症児に成長抑制が行われたからといって
彼ら第三者に感染の害が及ぶわけでもなければ
重症児以外の障害者が殺されるわけでも危害が及ぶわけでもない。
それで彼らの税金や保険料が上がるわけですらない。

そもそも例のWPASとかいうグループがAshley療法に腹を立てて(offended)
裁判所の命令なしにやらせないと病院に圧力をかけた(pressuring)のからして
感情的な反応に過ぎない。



で、最後に、

If those who object to growth attenuation in patients like Ashley claim that their rationale is not simply their own moral distress but a belief that a medical intervention (or withholding of medical intervention in the case of “natural” short stature) is contrary to the child’s interest, then they should work through the long-established system of adjudicating questions of abuse or neglect of children – namely, by making a report to the county or state child protection service.

もしAshleyのような子どもの成長抑制に反対する者たちが、その反対を自分たちの勝手な道徳上の不快によるものではなく、成長抑制という介入(または “自然に”背が低い場合に介入を差し控えること)が子どもの利益に反するとの信念によるのだというのであれば、子どもの虐待とネグレクトの問題を提起する制度はもう長く確立しているのだから、虐待のケースとして郡か州の児童保護局に通報すればよかろう。



と書いた後で、
虐待と認められないなら、医療に第三者の口出しは無用と結論。


しかし、このFostの論理が成長抑制で通ってしまったら
医療は「親の決定権」を盾に、やりたい放題が可能になりますね。

やはり、こちらのエントリーで書いたように、
Fostの狙う本丸は、重症障害児への「無益な治療」論の一般化なのか――?
2010.12.08 / Top↑
12月5日のシアトル地域のQ13FOXテレビ。

Now, four years later, a Seattle based group studying the ethics surrounding "Ashley's procedure" has decided it is "morally permissible" and has written a report on the subject. (中略)
Curt Decker of the National Disability Rights Network spoke out then. "The majority of the disability community is clear. That this kind of procedure is not acceptable at this time in our country's history.
But times have changed and so have opinions. The Seattle-based group of doctors, ethicists and parents including Sandy looked at and studied the case determining growth-stunting procedures should be "morally permissible" under certain circumstances.

(“Ashley療法”論争をざっと誤情報だらけで解説したのち)
4年経ち、このほど“Ashley療法”を巡る倫理問題を研究してきたシアトル拠点のグループが成長抑制は“道徳的に許容できる”として、その問題について報告書を書いた。

(Sandy Walkerと娘、子ども病院のWilfond医師を取材したビデオをはさんで)
4年前の当時、NDRNのCurt Decker氏は「障害者コミュニティの大多数の意見ははっきりしている。我が国の歴史において、現在このような医療は許容できない」と語った。

しかし時代は変わり意見も変わった。医師、倫理学者、そしてSandyのような親によるシアトル拠点のグループはアシュリー症例を検討・研究し、成長抑制療法は一定の状況下で“道徳的に許容される”べきであると決定した。



Growth Stunting Procedure For Disabled Children Is “Morally Permissible”
A look at parents rights and their children’s care
Q13FOX.com, December 5, 2010


なお、Sandy Walkerさんはビデオの中で、
もの言えぬ子どものアドボケイトとしての親の決定権を強調しています。

もちろん、あのWGは決して記事が匂わせているような中立な専門家の集まりでもなければ
あの論文も「決定」でもありませんし、

障害者コミュニティの意見が「時代によって変わった」わけでもありませんが、

この放送ビデオを見ると、
いよいよ、本格的な「成長抑制キャンペーン」の幕が切って落とされたぞ……という感じ――。

問題は、レジスタンスの側に
4年前と同じ憤りや興味を持続している人が余り残っていないこと。

ほんと、みんな、いなくなっちゃった……。



その他、ここ数日で目に付いた関連記事を以下に。

Ethics group says stunting disabled kids’ growth is “morally permissible”
MYNorthwest.com, December 2, 1010


Disabled children: Is it Ethical to Restrict???
Barash’s Bioethics Blog, December 6, 2010
2010.12.08 / Top↑
Falconer議員率いる英国上院の自殺幇助検討委員会の中立性が疑問視されている。:当たり前だ。
http://www.mercatornet.com/careful/view/8388

自殺幇助合法化法案否決を、スコットランドのカトリック教会大司教が歓迎。
http://www.indcatholicnews.com/news.php?viewStory=17262

日本語。中絶胎児1700体放置 神奈川歯大元教授ら「実習用」
http://www.asahi.com/national/update/1206/TKY201012060142.html

日本語。東京都の成年健全育成条例改正案に関して、都知事「子どもだけじゃなくて、テレビなんかにも同性愛者が平気で出てるでしょ」。
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20101204ddlk13010267000c.html

英国保健相の若年介護者(young carer)の定義。1995年。「通常は大人が担う、多大な介護仕事を行っていたり、他の人への一定レベルの責任を負っている18歳未満の子どもまたは若年者」
http://www.youngcarer.com/showPage.php?file=1111523736.htm

英国の主要介護者支援チャリティ The Princess Royal Trust for Carersが設けている若年介護者支援サイト。MSの家族を介護している子どもが多いのかもしれない。トップページにMS介護負担に限定したページへの入り口がある。
http://www.youngcarers.net/

IHMEがグローバル・ヘルスの資金について報告書で分析。これまでのDAH(保健開発援助)の評価方法と違う独自のやり方をしている。その1つは、各国政府からの資金によるものと、その他さまざまなチャンネルを通して流れている資金の出所によって別個に分析していることらしい。:例えばゲイツ氏が、どこかの国際会議で各国政府はもっとゼニを出すべきだ、と発言する時などにも、民間慈善団体の資金の貢献度が数値になっていれば説得力があるだろうし。
http://www.karengrepin.com/2010/12/development-assistance-for-health-has.html

生まれた後に母親から子どもにHIV感染を起こさないための乳児ワクチンの治験開始。:さしたる根拠があって考えることではないけど、これからはワクチン黄金時代だと盛り上がる製薬業界と、そこに向けて資金を投入していく慈善資本主義とが、何が起こっているかが国際社会から見えにくく、それぞれの国でワクチン接種に規制が及びにくい事情を抱えた途上国の乳幼児を、実は食い物にしている……なんてことは本当にないのか……?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210221.php
2010.12.06 / Top↑
Hastings Center Reportの11―12月号に掲載された
シアトルこども病院成長抑制ワーキンググループの論文を手に入れてくださった方があり、
読むことができました。

論文の内容はまた改めてとりまとめますが、
WGのメンバーに関して極めて不可解なことが起こっているので、
まずは、それについて。


08年12月に発表されたWGのメンバーは、以下の20人でした。
http://www.seattlechildrens.org/research/initiatives/bioethics/working-group/

今回、Wilfond医師を主著者として
ワーキング・グループの「妥協点」を著したとされる論文でも
「20人のメンバーからなるWG」と書かれているのですが、

実際に論文に掲載されたメンバーの一覧表には19人の名前しかありません。

いったい誰の名前が消えたのか――?

09年1月に発表されたWGのメンバー・リストから名前が消えたのは、
非常に興味深いことに、WPASのCarlson弁護士――。

(もう一人、Carolyn Newcomという人の名前がなくなっていますが
代わりに Carolyn Korfiatis という人が、職名は違っても
同じくTrueman Katz生命倫理センター職員として入っているので、
これは同一人物の姓が変わったものと思われます。)


「成長抑制は一定の条件を満たす重症児に限定すれば
裁判所の命令なしに実施しても良い」とするWGの“妥協点”は
成長抑制は裁判所の命令なしにやらないとの子ども病院とWPASとの合意に反しており、

したがってWPASの報告書を書いたCarlson弁護士はWGのメンバーである以上、
そこの矛盾を説明する義務がある、と私は去年のシンポの際に
以下のエントリーで書きました。

「裁判所の命令なしに成長抑制しない」との約束はここにある(2009/1/31)

しかし、上記リンクにあるように
Carlson氏の名前が含まれたメンバーリストが発表されたのは08年12月。
その段階ではWGの作業はすでに終了しています。

もしも作業の最中ずっとメンバーに名前を連ねながら
作業が終了した後、論文が発表されるまでに脱落しなければならないと
Carlson弁護士が考えるに至る事情があったのだとしたら
一体それはどういう事情だったのか。

Carlson氏はその経緯についても
説明する責任があるのではないか、と思う。


もともとWAPSの調査報告書には本来、報告すべきことが書かれておらず、
WPASは病院側の真実の隠ぺいに結果的に加担したことになった、と私は考えています。

WPASが当時、それが今後のセーフガードを担保するための取引として
有効だと考えたのだろうことは想像ができないわけでもありませんが、
これまでの経緯から、その配慮は明らかに裏目に出たのだから、

それならWPAS、Carlson氏には
説明すべきことが山のようにあるはずだ、と思う。


ちなみに、この「妥協点」については、
Eva Kittayは、「同意していないしサインもしていない」と言っていたし、
Adrienne Asheは「内容に同意したという意味のサインではない」と
醜い言い訳をしていました。


【WPASは子ども病院と取引したのではないかとの疑惑に関するエントリー】
WPASの調査報告書 要注意点(2007/6/5)
WPASの調査報告書に関する疑問(2007/6/6)
WPASと病院のやり取りを巡る疑問(2007/12/7)
子ども病院はWPASとの合意を覆していた?(2009/3/18)
シアトルこども病院は、5年の合意期限が切れるのを待っている?(2010/11/8)
2010.12.06 / Top↑
【HCRの成長抑制特集関連】
なぜか11月30日になって突然あちこちが取り上げた。その余波。

12月2日に、早速、トランスヒューマニストのGeorge Dvorskyが「成長抑制は“倫理的に妥当”」とツイッターでS-Piの記事を流している。Dvorskyは「中身が赤ん坊なのに体だけ成人というのはグロテスク」と06年にブログで書き、Ashley父のブログに引用された人物。
http://twitter.com/GeorgeDvorsky/statuses/10545937394958336

発達障害関連のニュースサイトが「成長抑制は一部の子どもには“道徳的に許容される”」と取り上げている。
http://www.disabilityscoop.com/2010/12/02/stunting-growth/11471/

上記サイトの記事を受けて、障害児関連のブログが独自記事で取り上げているのだけれど、かなり好意的な書き方。「どうやら、この治療を行った病院はこの間ずっと、その状況の倫理性と格闘してきたようだ」。:それは違うと思うよ。
http://specialchildren.about.com/b/2010/12/02/group-debates-growth-stunting-calls-it-ethically-acceptable.htm

MYNorthwest.com 独自記事。07年に医師会本部前で抗議する障害当事者の写真。特にHCRの重症児の親で賛成の立場で書いたWalkerの文章に焦点を当てている。
http://www.mynorthwest.com/category/local_news_articles/20101202/Ethics-group-says-stunting-disabled-kids%27-growth-is-%22morally-permissible%22/

ついでに、今日4日付けでeBay Worldという妙なサイトに、例の07年のAP記事のコピペ(「家族のブログを読もう」というメッセージのあるやつ)がまたぞろ掲載されてる怪現象。ただ、文章があちこち妙な具合に破綻している。コピペの段階でテクニカルなミスでもあったのかもしれない。ここぞとばかりに、はしゃぎまくっている人がいるのだろうと推察する。
http://ebayworlds.com/how-is-ashleys-develpmentcognitive-languageand-gender-different-than-a-normal-childs.html


【その他一般】

Terry Shiavoさんが生きていたら12月3日で47歳だったそうだ。シャイボ事件を改めて総括するNorth Country Gazetteの記事「テリー・シャイボをしのぶ」。
http://www.northcountrygazette.org/2010/12/01/remembering-terri-schiavo/

ビル・ゲイツの趣味のターゲットは、グローバル・ヘルスの次には米国の教育改革に向かっているらしい。米国の学校システムの人事部局刷新に3億3500万ドル、ゲイツ財団から。教師の評価システムを改善し、生徒のパフォーマンスに対して教師にアカウンタビリティを持たせるのが狙い。:いくらゼニがあるか知らないけど、なぜ一国の教育施策に一個人がこんなふうにゼニと口を出すことが許容されるのか理解できない。だいたい、なんだよ、その生徒のパフォーマンスに対するアカウンタビリティってのは? 教育も医療も、ビジネス業界の競争原理やコスト効率で割り切れるもんじゃないんだよっ。
http://www.nytimes.com/2010/12/04/education/04teacher.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=a23

この前、化けの皮がはげていたと思ったのに、まだ高齢者はビタミンDを取りましょう、という勧告が米国科学アカデミーから出ている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210032.php

前にもあった気がかりなニュース。ナーシングホームでMRSAが広がっている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210051.php

Obama大統領の財政赤字委員会が社会保障費の削減を提言。医療制度改革にも影響大に。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/02/AR2010120200613.html?wpisrc=nl_cuzhead

来年メディケアがカットされたら、今でもプライマリ・ケアの医師を見つけられないでいる高齢者が多いというのに、10人に1人の家庭医はクリニックを維持できなくなる。高齢者はどこで医療を受けられるというのか、という問題提起。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210126.php

米国でも社会保障のカットの方針が出されたことで、貧困層の高齢者をめぐる危機感。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/210152.php

在宅介護は新たな市民権だ、とのNPR記事。
http://www.npr.org/2010/12/02/131751461/care-at-home-a-new-civil-right

米国で被用者医療保険の保険料が03年から09年で41%もアップしていることが分かった。収入の伸び率の約3倍。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/02/AR2010120200613.html?wpisrc=nl_cuzhead

ジョージ・ワシントン大学が、学生寮の男女分けを廃止し、学生は性別を問わず誰とルールメイトになってもいい、と。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/12/03/AR2010120306648.html?wpisrc=nl_cuzhead
2010.12.05 / Top↑
日本に関する英語情報。エイザイが不眠治療薬SEP-190の認可を厚労省に申請。:日本の自殺対策はなぜメンタルヘルスに傾斜しているのか、という問題提起が、今日、某所であった。米国のビッグ・ファーマと医師らの癒着スキャンダルが最も悪質なのが、その領域であることが、どうしても頭に浮かぶ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/209753.php

Biedermanスキャンダルのおかげで、オーストラリアのADHD治療ガイドラインは今だに混乱しているみたい。
http://www.abc.net.au/unleashed/41768.html

オーストラリアの深刻な医療崩壊はもう何年も前から言われているけど、81歳の脳卒中患者が救急に運ばれてアセスメントを受けるまで2日も待たされたという。:脳卒中って、たしか発症から3時間以内の対応がカギだったんでは……? まさか患者の年齢が病院の対応に影響したとか? そういえば性別も影響するとの調査報告もあった。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/stroke-victim-left-waiting-two-days-for-assessment/2014415.aspx?src=enews

米FDAが、胃のバンディング手術の対象要件の肥満度を下げることに同意。手術に使われる機器の製薬会社の求めに応じて。記事タイトル「肥満手術はもっと多くの人の選択肢になるかも~」
http://www.nytimes.com/2010/12/02/business/02obese.html?nl=todaysheadlines&emc=a25

ホルモン療法と乳がんの関係性は否定されたという話をこの前どこか日本語の記事で読んで、え?と思ったんだけど、新たにホルモン療法の減少が乳がんの減少につながっているとの調査結果が出ている。
http://www.news-medical.net/news/20101201/Study-shows-link-between-reduced-hormone-therapy-and-decline-in-breast-cancer.aspx

ゲイツ財団から、気管支炎と肺炎予防(RSV)ワクチンの開発で製薬会社に600万ドル。:では、HPVの次のトレンドは、RSVで決まりかな~?
http://www.news-medical.net/news/20101201/Bill-Melinda-Gates-Foundation-awards-246M-grant-to-NanoBio-to-develop-intranasal-vaccine-for-RSV.aspx

ハリケーン・カトリーナ襲来直後の混乱の中で、丸腰の黒人男性を射殺したニューオリンズの白人警察官の裁判が進行中。:一時は災害現場での活躍でヒーロー扱いだったけど、実は前から苦情の多い警察官だったらしい。
http://www.propublica.org/nola/story/nopd-officer-with-history-of-complaints-against-him-testifies-in-post-katri/

カトリックの聖職者に100回以上の性的虐待を受けたとする男性の訴えに、Delaware州の陪審員は3000万ドルの賠償金を認めた。
http://www.nytimes.com/2010/12/02/us/02church.html?nl=todaysheadlines&emc=a23

英国人の写真家が東京の地下鉄のラッシュアワーの写真集を出した。記事には3枚。:私は田舎に住んでいるので想像ができないけど、と殺場に運ばれていく豚だって、もうちょっとマシな状態で運搬してもらえるような……。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/01/tokyo-underground-trains-crowding?CMP=EMCGT_021210&

韓国の諜報部が「北朝鮮はまた攻撃してくる」と。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/01/north-korea-attack-likely-warns-south-korea?CMP=EMCGT_021210&
2010.12.03 / Top↑
2007年にAshley療法論争が英国に飛び火したKatie Thorpe事件については
当ブログでも詳しく追いかけましたが(詳細は「英国Katieのケース」の書庫に)

当時、英国では9歳の重症児Oliviaの母親Kim Walkerさんも
リバプールのAlder Hey 子ども病院に子宮摘出の要望を出していたとのこと。

以下の記事によると、
病院のスポークスパーソンが
その子宮摘出を行う予定はない、
そうした手術は子どもの福祉をあらゆる方面から検討し
すべての選択肢を試みた後でなければ行わない、と語っているので、

要望は却下されたものと思われます。

Give my child a hysterectomy
ECHO, October 9, 2007


これまで全く知らなかった、この事件について分かったのは、

今回のHCRの成長抑制論文を機に、
07年10月当時、Katie Thorpe事件と合わせて批判したエントリーを再掲してくれた
英国の障害当事者の方のブログから。↓

Never Neverland
BENEFIT SCROUNGING SCUM, December 1, 2010


冒頭、
Ashley事件とKatie事件を分かったのは司法の関与だったとの分析が印象的。

私も昨日のエントリーを書きながら
Wilfond医師が「我々の論文をどう扱うかは病院や団体次第」とか
「医療職に向けプラクティカルな指針を作りたかった」などと述べているのを読み、
策を弄してテキトーな表向きの理屈さえ取り繕えば、あとは「やったもん勝ち」になってしまう
米国の医療の恐ろしさを、つくづく感じたところだった。

だからこそ、これまで障害者に対して医療が行って来た非道に照らして、
法によるセーフガードは必要なのだと改めて考えるのだけれど、

また、逆に言えば、それだからこそ、
あらたな“科学とテクノによる簡単解決”文化の勢いに後押しされて
法の束縛から自由になろうとしているFostら一部の生命倫理学者らは
Ashley事件と成長抑制の一般化を、医療を司法から独立させる一里塚と捉えているのでは?

もちろんAshleyケースでの真実の隠ぺいや父親の意図への追随の必要は彼らにあるのだとしても、
ここまできたら、それとは別に、Fostら自身の目的もそこには潜んでいるがゆえに、
実際は大病院の医師らが熱を入れて提唱するほど大した“医療”とも思えない
“成長抑制”の一般化にこれほどまでに熱心なのかも?

では、重症児への成長抑制一般化は、
これまでの法の束縛から医療現場を開放し、「QOLの維持向上」を錦の御旗に
“科学とテクノの簡単解決”文化で障害児・者に手を加えて行くべく
「重症障害児・者は別」というところに、まず線引きをするための、
米国生命倫理の最初の突破口なのか――?

でも、その線は、いったん引かれてしまったら、動く。動き続ける。ゼッタイに――。




当ブログがA事件の筋書きを書いた人物ではないかと目しているNorman Fostの
「医療に司法の介入は無用」との持論については、以下のエントリーなどに。

生命倫理カンファレンス(Fost講演 2)(2007/8/25)
Fostのゴーマン全開 13日午前のパネル(2007/9/12)
「Kevorkianだってすんなり起訴されなかったんだから医師は安全。障害新生児に“無益な治療”はするな」と説くFost(2010/8/5)


もしかしたら、重症児の成長抑制で地ならしをして、
Fostの”本丸”は、障害のある新生児の「無益な治療」論一般化なのか――?
2010.12.03 / Top↑
12月1日に行われたスコットランド議会の党議拘束なしの自由投票で、
16歳以上のターミナルな病状で生きるのが苦痛だと感じている人を対象にした
自殺幇助合法化法案が否決された。

賛成16 vs 反対85。棄権2。

Margo MacDonald議員には2度目の敗北。

Assisted suicide law bid defeated
The Press Association, December 1, 2010

Assisted suicide bill defeated at Holyrood
STV News, December 1, 2010


いや~。よかったぁ。

当初含まれていた「自立生活できない身障者で生きるのが苦痛と感じている人」は
今回の報道でも全く言及されていないところをみても、
対象者要件から削除された様子ですが、それでも

万が一、ここがコケたら、その後はドミノになるんじゃないかと
去年から、ものすごく心配だった。

もっとも、ドイツ男性から欧州人権裁判所への提訴とか
英国上院での検討委員会とか、まだまだ目は離せません。


【関連エントリー】
スコットランドでも自殺幇助合法化法案か(2009/2/20)
スコットランドでも「死の自己決定権」アドボケイトの医師が高齢障害者の餓死を幇助(2009/3/11)
スコットランドの自殺幇助合法化法案に倫理団体から批判(2009/4/22)
スコットランド議会で自殺幇助合法化案、提出へ(2009/4/25)
自殺幇助希望のスコットランドの女性、腎臓透析やめるよう医師に”命じ“る(2009/6/14)
英国看護学会、スコットランドの自殺幇助法案提出議員と会談へ(2009/7/28)
スコットランドの世論調査で3分の2以上が自殺幇助合法化を支持(2009/11/8)
「自立生活できない身障者も可」スコットランド自殺幇助合法化法案(2010/1/22)
ローマ法王がスコットランドの自殺幇助合法化法案を批判(2010/2/6)
スコットランド自殺幇助合法化法案を「死の自己決定権」アドボケイトが批判(2010/2/9)
スコットランドのパブコメは、87%が自殺幇助合法化法案に反対(2010/6/20)
スコットランド、加・ケベック州で自殺幇助について意見聴取(2010/9/8)
スコットランド自殺幇助合法化法案から「自立できない障害者」要件は外される見通しに(2010/9/22)
2010.12.02 / Top↑
スコットランドの自殺幇助合法化法案は1日夕刻の投票で否決されるだろうとの見通しが現地時間の朝7時時点で出ている。:まずは良い兆し。なにしろ、ここがコケたら影響が大きそうだから去年から気になりっぱなし。
http://www.hebdenbridgetimes.co.uk/news/bid_to_legalise_assisted_suicide_1_2809341

英国の大学学費値上げに対する学生たちのデモ3日目。
http://www.guardian.co.uk/education/2010/dec/01/student-protests-day-three?CMP=EMCGT_011210&

リバプールで開催される障害者の芸術祭DaDaFestが連立政府の予算縮減で存続の危機。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/nov/30/dadafest-spending-cuts-threaten-festival?CMP=EMCGT_011210&

Timesに続き、Telegraphもオンラインのコンテンツ有料化を検討中。Timesのように全面的に、ということではないというものの……。
http://www.guardian.co.uk/media/2010/nov/30/telegraph-online-charging?CMP=EMCGT_011210&

男児の性器形成不全の遺伝子が分かったって。:これもまた遺伝子決定説で? 
http://www.medicalnewstoday.com/articles/209522.php

NYTでNicholas Kristofが米国内での性奴隷の存在を指摘している。:この人だったか、NYTの別のコラムニストだったか、同じ問題が前にも指摘されていた記憶がある。
http://www.nytimes.com/2010/11/28/opinion/28kristof.html?src=twrhp

イランで、愛人の妻を殺した罪で9年間収監されていた女性に絞首刑。裁判ではずっと否認しており、実際に問題とされたのは姦淫であり、殺人の自白は強要されたものだとして、国際アムネスティや人権擁護団体が赦免を求めていたがかなわなかった。:タイトルを見た時には例の投石処刑の件かと思ったけど、別だった。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/dec/01/shahla-jahed-executed-iran?CMP=EMCGT_011210&
2010.12.02 / Top↑
シアトルこども病院が組織した成長抑制ワーキンググループが
結局意見の一致を見ることができなかったために、結論ではなく、
あくまでも、「ほとんどのメンバー」の“妥協点”として、強引にとりまとめた(とされる)
論文が、Hastings Center Reportの11-12月号に掲載されたのは
もう一か月近く前のことになりますが、

なぜか昨日11月30日になって、一斉にあちこちのメディアが取り上げています。

といっても、現段階で私の目についた限りでは、サイトの数だけはあるものの、
実際には以下のように、ネットの科学系サイトが同じ文章をコピペ掲載しているだけ。

Recommendations issued on controversial ‘Ashley’ procedure for disabled children
Science News, November 30, 2010

The Hastings Center Release: Recommendations Issued on Controversial “Ashley” Procedure for Disabled Children
BioSpace, November 30, 2010

一般では、Seattle Post-Intelligencerが独自記事を書いている。
これも、なぜか11月30日の記事。

Stunting disabled children’s growth is ‘morally permissible,’ group says

The Seattle Post-Intelligencer, November 30, 2010


まず、上記の記事から
WGの論文の内容その他について書かれている要点をメモしておくと、

・コンセンサスに至ることができなかったWGが
「大半のメンバー」の意見が到達した「妥協点」と称しているのは、
成長抑制は対象者を限定して十分なセーフガードを設けて行えば
「道徳的に許容できる」「倫理的に許容できる決定」とする立場。

・「大半のメンバー」が成長抑制が倫理的に許容されると考える対象者は
全介助で、IQが25以下で、その他の永続的で重度の障害を重複している子ども。

しかし、重症知的障害児ではIQは単純に測定不能だと思うし、
Kittayさんも著書の中で娘のサーシャさんについて「IQは測定不能」と書いている。
論文はまだ読めないでいるのですが、そこら辺がどう書かれているのだろう。

これ、事実上、重症知的障害があって測定不能なら、みんな25以下と判断されるということなのでは?

・米国では対象となる子どもが毎年4000人生まれている。

・医師は親に対して成長抑制の予想される利益とリスクについて、
また子どもを家族の活動に含めるための他の選択肢について
情報を提供しなければならない。また、
重症発達障害のある子どもが成長するとはどういうことかについて
神話や想像だけで済ませないよう、他の重症児の親と話をする機会を
親は与えられなければならない。

しかし、利益もリスクも、全く不明なのが本当のところなのに、
一体どういう“情報”を提供できるというのだろう?

・子ども病院のWilfond医師がSeattle Post-Inteligencerの取材を受けて
「論文はこれらの問題を明確にしようとの試みから生まれたもの。
それぞれの病院や他のグループがこの論文をどう扱うかは、病院やグループ次第。
我々の論文が、小児科生命倫理についてだけでなく、重症障害児についても
議論が起こることに貢献できれば、と思っている。
シアトルこども病院の症例についての論文ではないし、
同病院の見解を代表するものでもない。
ただWGとしては、医療職に向けて何らかのプラクティカルな指針を作りたかったのだ」

「問題を明確にして議論の端緒を創りたかっただけ」と言いつつ
「医療職への指針を作りたかった」と言うのは、ぜんぜん筋が通らない。
どう考えたって「前者のフリをしつつ、事実上、後者をやってしまいたかった」がホンネ。



これは、昨年1月にWGの存在が明らかになった時から
私は言い続けていることだけど、

そもそも未だ十分に正当化されていない症例を抱える病院が
身内をごっそり投入して手前勝手に組織したWGに中立性があるわけはないし、
障害当事者ばかりでなく医師らや倫理学者・法学者らからも痛烈な批判を受けて
いまだ十分にディフェンスを終えていないはずのDiekemaやWilfondに
なんだって「審判」として振る舞う資格があるというのか。


それにしても、
なぜ、今頃になって、しかも一斉に……? これが第一の不思議――。

次に、これまで怪現象を起こしてきたような科学とテクノ系列のサイトが
こぞって(同じ日に同じ文面で)とりあげていることの不思議――。

さらに、そのうちのひとつ(上のリンクの2つ目BioSpace)では
WGの論文がHCRに掲載されたというよりも
Hastings Centerが「成長抑制は妥当」との“勧告”を出したと読める
紛らわしいタイトルをつけていることの不思議――。

まぁ、頭に浮かんでくるのは、やはり
あの怪奇現象を起こし続けてきたお方の意思が
この30日一斉の動きの背景にも働いているのだろうなぁ、ということ。

いずれの記事でも、
親が介護をたやすくしたかったとか、
エストロゲンの出血防止のための子宮摘出だったとか、
遺伝性の乳房の病気の予防だったとか、
Ashleyケースについて書かれた部分は、
これまでDiekemaら主治医側の正当化で使われてきたマヤカシ路線の
大ウソがここでも繰り返されている。

さらに、Ashleyケースですさまじい非難の嵐が巻き起こったのは
「主に障害者の権利団体の間で」だったと、どちらの記事も強調している。

へぇ、じゃぁ、CaplanやLantosやQuelletteって、
生命倫理学者でも法学者でもなくて障害者の権利運動の活動家だったのね。
2010.12.01 / Top↑