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昨年12月に遺伝子診断で障害も重病も弾くつもり?(英国)のエントリーで触れたように
英国上院でのヒト受精・胚法の改正法案の審議に伴い、
優生的な動きが懸念されていますが

その議論において
障害児はnon-person であって、人間として viableではないので中絶する方がよい」などの発言が。

non-person というのは「人間にあらざるもの」ということですね。
not viable people というのはどういう日本語にしたらいいんだろう?
「人として実効がないもの」?
「人として認められないもの」?


私は英国の政治や法律について全く無知なので
障害児の中絶に関してもニュースを読むたびに細かいところで表現が異なって
混乱している面があるのですが

この記事では、
現在の英国の中絶法では妊娠から分娩までのどの段階であっても
何らかの奇形のある子どもの中絶は認められており、
それは内反足や口蓋裂程度のささいな奇形であっても認められるとのこと。
(以前に読んだ記事では、出産中に気がついた場合でも可という説明も。)

それに対して、24週以降はそうした障害児を救う方向で
ヒト受精・胚法に対して修正案が提出され
89対22で否決されました。

以下に引用する発言はこの修正案を巡る議論で出たもののようです。

記事からそのまま抜きます。

Molly Baroness Meacher
(早産で脳性まひになった知り合いの子どもについて)

普通に生まれた子たちなのです。自分で呼吸もできません。助けがないと息ができません。話をすることは今後もありません。仰向けに寝転んで、何もできないのです。

早産で生まれた、そういう子どもたちがいますが、彼らはnot viable peopleなのです。生まれてこずに中絶されていた方が彼らの最善の利益だったでしょう。

私がお話したいのは子どもの権利ということです。The Mental Capacity Act(MCA) は子どもの能力の有無に言及しています(The Mental Capacity Act refers to the child having capacity.)。能力がない子どもであれば、専門家が最善の利益を考えてやることが重要です。

私の主張は以上。我々はこのような赤ん坊の最善の利益を考えてやることが必要なのです。

記事では
このMeacher議員の発言に対して各方面からのコメントが紹介されていますが、
the Voluntary Euthanasia Society (自発的安楽死協会?)の支持者の発言は以下。

Baroness Tong
(Baroness Meacherが言及した子どもたちというのは
「障害のある人間」ではなく、「極度に異常な人間」なのだと言い、
無脳症の子どもたちの「見た目のグロテスクさ」を上げて)

私が見た彼らの多くは、人間とはほとんど似てもいません。


このところ日本尊厳死協会についてエントリーをいくつか書いたので
およ、英国の自発的安楽死協会も支持するのは優生思想の信奉者か……
という感想もあるのですが、

それよりも気になるのは
障害児の中絶に反対している人権団体と思われる
the Society for the Protection of Unborn Children の会長が
MCAが却って障害児・者や弱者を殺すための法律として機能する懸念を述べていること。

MCAにおける「最善の利益」の定義だと
自分で決める能力のない人について
「殺されることが本人の最善の利益」と決定付けることが可能だと
当初からSPUCは指摘してきた、というのです。

英米のこうした動き。
もう手遅れなのか……。



当ブログの MCA 関連エントリーは以下。


後者ではMCAが障害児・者切捨てのアリバイ利用されるのでは、と
上記記事のSPUCと同じ懸念について書いています。
この時には「まさかね」という気持ちも多少あったのですが、
まさか、これほど素早く出てくるとは……。
2008.03.07 / Top↑
米国で初というヴァージニア州の、このプログラム、
正式名称を the Virginia Birth-Related Neurological Injury Compensation Program と。

ぶっちゃけていえば
出産時に何らかの原因で子どもが脳性まひになった場合に
医療過誤で医師や病院を訴えたりしないと約束すれば
生涯その子の医療費はタダにしてあげますよというプログラム。

プログラムができたのは
医療過誤の訴訟が相次いで産婦人科医が訴訟保険に入れないとか、
医師や病院の保険料が急騰するという事態が起こっていた1987年で、
資金源はヴァージニア州の産科医師とお産を扱う病院が拠出している。
同じ制度がフロリダ州にも存在するそうです。

日本でも似たような制度が新年度からスタートしますが、
「訴訟を起こさない代わりにお金をあげる」と表立って露骨な言い方はしないようですね。
まぁ、趣旨はまったく同じなわけですが。

そんな日本の現状を前に気になるのは、
このプログラムを取り上げている以下のWPの記事は、
財政難でプログラムが崩壊の危機に瀕しているというニュースだということ。

Free Care for Life, If Money Holds Out
Washington Post, March6, 2008

財政逼迫の要因として挙げられているのは子どもらの寿命の延びで
プログラムができた20年前には
出産時の酸素不足から脳性まひになった子どもが
5歳を超えて生きるのは珍しかったのだけれども、
現在は優に20歳を超えて生きる子どもたちが当たり前になり、
この先もまだ20年生きる可能性すらある、と。

ヴァージニア州では医師や病院に求める拠出金額を上げたり、
全科の医師と病院に広げて資金提供を求める案を検討したり、
「子どもらを見捨てるわけには行かない」と必死のようですが、
いずれ支給対象やサービスの縮小は避けられそうもない様相。

結局、医療と福祉で見聞きするのは
相対的に縮小する一方のパイを弱者が奪い合う話と、
いっそ争奪線に加わる人数を削減するために「殺そうや」という話なのですね。

今のところ前者で踏みとどまっているこのプログラムが
後者の話と繋がらないことを祈りたいものです。


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確かに私も20年前に
「脳性まひ児の6割は6歳になる前に死んでいる」
という統計を整形外科の医師から聞きました。
(6割という部分についてはウロ覚えですが。)

でも身近で6歳までに死んだ子どもは1人もいなかったから
漠然とみんなラッキーだったのかと思っていたのだけど、
なんだ、古い統計に脅かされてただけなのか。

身近に知っている重症障害のある子どもが初めて死んだ時、
その子は11歳だった。

それからは、
それまで誰も死ななかったのがウソのように、
それはもう次々に、あっちでもこっちでも死んでいったなぁ。

でもね。
あの子も死んだなぁ、あの子ももういないなと振り返る時に
やっぱり長さじゃないと思う。

みんな、まず生きたんだよね。
そして、それから死んでいったんだ。
2008.03.07 / Top↑
カナダ、オンタリオ州で
17歳の脳性まひの娘Courtney Wiseを殺したとして
母親Astrid Hueller(46)が逮捕されたのは2月27日。

Astridはシングルマザーで
Courtney Wise を含めて複数の子どもをひとりで育てていたとのこと。

ちなみに彼女が起訴されたのは

93年に同じくカナダのSaskatchewanで
重症障害のある娘Tracyを殺したRobert Latimerが
7年間の服役の後に保釈となった同じ日だったとのこと。

以下のHueller起訴のニュースが
Latimerによる娘の殺害について
「重症児の娘の慈悲殺(mercy killing)で有罪となった」と書いているのですが、

有罪となった罪名は「殺人」であるはずだと思うのに
このような不正確な表現が使われることにも、
この事件に向けるメディアの目線が伺われます。


Latimer paroled
Global and Mail, February 27, 2008
2008.03.07 / Top↑